『ドラゴンクエストX』好きの建築家が「セレドの町」の集落と建築について本気で考察してみた
現実、仮想を問わず建造物という存在は空間を構成する大きな要素となっている。たとえば現実における「駅」や「ビル」はランドマークともなり、そこを起点とした人々の営みなども生じ、都市空間を彩ってくれる。ゲームやアニメ、映画でも建築物がストーリーを語るうえで、あるいはプレイヤーが没入するのになくてはならない要素となる。現役建築家が現実、仮想の建造物や都市空間について語っていく本連載。今回も『ドラゴンクエストX』の建築物や世界を解き明かしていこう。
今回はバージョン1をクリアして訪れることのできる「レンダーシア大陸」に位置する「セレドの町」を紹介する。「セレドの町」は「セレドット山道」が通る大陸の山中にある。
五大陸とは異なり、人間の暮らす「レンダーシア大陸」には大陸横断鉄道は走っていない。北西には、ドラゴンクエストでお馴染みの「ダーマ神殿」が配置されているが、なぜこんな小さな町に「ダーマ神殿」が配置されているのかは謎である。「ダーマ神殿」を訪れるたくさんの旅人で賑わっていてもおかしくないのだが、特に観光する施設などもなく、静かな谷底の町である。
山々に囲まれた谷底に位置する「セレドの町」の中央には「光の河」が流れている。立派な組積造の橋と吊り橋の2本の橋が「光の河」を跨いでいる。高低差のある街並みが広がり、奥に向かってパースのかかった美しい街並みを望め、どこかスイスやオーストリアの集落風景を思い起こす。
街並みを飾るのは天然石を薄く刻んだスレートで葺いた屋根だ。エメラルドグリーンは天然のものなのか、屋根剤を保護する塗料の色なのかはわからないが、苔むした岩並みに調和している。屋根裏部屋があるのか、屋根を持ち上げたような意匠の庇の下には花を咲かせた鮮やかなプランターが設けられている。どこの家屋にもプランターが設けられ、街並みに彩りを添えているが、この町の文化なのだろう。
比較的大きな商店などは組積造の上に木造の小屋組をのせた形式だが、住宅家屋に関してはすべて木造のようだ。複雑な曲線の屋根形状も「セレドの町」の文化なのだろう。道路側と裏側では勾配の異なる屋根の作りは雪国に多くみられるつくりだが、冬には積雪するのかもしれない。
町の酒場に入ってみると、高低差の地形に沿ったつくりになっていることがわかる。エントランスホールは入り口から階段を降りた場所にあり、劇場的な演出にひと役買っている。さらにメインの客席はさらに下がった場所にあり、落ち着いた空間になっている。
プクリポだと高さが足りないが、エントランスホールから酒場の様子全体を見渡せる空間の構成も賑わいが感じられて良い。
酒場には「光の河」と山並みを望めるテラス席が設けられており、季節の良い時期にここで飲むお酒は格別だろう。
町の北東には倒壊した教会が解体されずに残っている。また、北西には墓地があり、ここで悲しい出来事があったことが分かる。この真相については、アストルティアでの冒険で確認してほしい。
町の北西に位置するピンク色の屋根の豪邸は町長の家だ。内部に入ってみると床組が露出しているのが分かる。天井は張っていないのだろうか。1階は立派なホールになっているが、木造にしてはちょっと横架材や床組のスパンが飛び過ぎのような……柱がないので荷重で床が歪んでしまわないか心配である。
町の北側には「ダーマの神殿」に向かう長くて大きな階段がある。かなりの段数なので足腰を鍛えるのに最適かと思われる。この階段の先に「ダーマの神殿」があるのだが、やはり旅人の姿は見られない。もう少し賑わっていてもいいはずなのだけど......。
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1981年兵庫県神戸市生まれ。福岡県福岡市の能古島育ち、水谷元建築都市設計室を主宰。著書に『現在知 Vol.1 郊外その危機と再生』(共著:NHK出版)などがある。日本建築学会2018年-2019年建築雑誌編集委員、九州大学工学部建築学科2020年前期非常勤講師。父は神戸ポートアイランドを設計したことでも知られる建築家、都市計画家の水谷頴介。