「脳の老化度」の簡単な判定法が続々、認知症や死亡リスクに大差

脳の老化速度を測定することで、症状が現れる前から疾患を予測し、予防できるようになる可能性が、2つの画期的な研究で示された。(ILLUSTRATION BY OSAKAWAYNE STUDIOS, GETTY IMAGES)

[画像のクリックで拡大表示]

 生きているかぎり誰もが老いていくものだが、老化のスピードや、老年になったときに健康でいられるかどうかには大きな個人差がある。では、自分の脳はどれだけ速く老化しているのだろうか。最近発表された2つの画期的な研究で、それが今までになく簡単に判定できるようになるかもしれない。

 7月9日付けで医学誌「Nature Medicine」に掲載された米スタンフォード大学の研究では、血液に含まれるタンパク質を調べる検査によって、臓器ごとの「生物学的年齢」を推定している。

「臓器の生物学的年齢とは、特定の臓器がどの程度よく機能しているか、どの程度衰えているか、どの程度病気になりやすいかを評価して、その健康や状態を示したものです」と、この研究の最終著者で同大学の神経学教授であるトニー・ワイス・コレイ氏は説明する。

 分析の結果、臓器の生物学的年齢が高いと病気になるリスクが高くなる傾向は、とりわけ脳で著しかった。脳の生物学的年齢が高い人は、17年の追跡期間で通常の人に比べてアルツハイマー病のリスクが3.1倍、死亡リスクも2.8倍になると明らかになった。

 また、7月1日付けで医学誌「Nature Aging」に掲載された米デューク大学とニュージーランド、オタゴ大学の研究では、すでに広く利用されているMRIスキャンを1回行うだけで、脳の老化を驚くほど正確に予測できることが示された。

 どちらの研究も、慢性疾患の予測と予防に革命を起こす可能性がある。

「私たちは、これまでとはまったく違った方法で医療に取り組みたいのです」と、デューク/オタゴ研究の論文の共著者で、デューク大学医学部心理学・神経科学教授であるテリー・モフィット氏は言う。「人々が年をとり、加齢に関連した病気になってから1つずつ治療していくのではなく、まだ若く、病気を発症していないうちに介入したいのです」

あなたの生物学的年齢は実年齢より進んでいるかも

 デューク/オタゴ研究の最終著者でデューク大学の心理学・神経科学教授であるアフマド・ハリリ氏は、実年齢(暦年齢)とは別に生物学的年齢を考える必要がある理由を、「同じ年式の車でも、走行距離が多いと、エンジンの状態が悪くなっていたりするでしょう」と説明する。

 さらに、1台の車の中でも部品ごとに消耗具合が違っているように、1人の人間の臓器でも、老化の具合にはばらつきがある。各臓器の寿命は、遺伝、生活様式、ストレス、病歴、環境などの組み合わせによって決まるからだ。

 生物学的年齢を特定するために、科学者たちはさまざまなバイオマーカー(DNAメチル化や遺伝子発現など、細胞レベルや全身レベルの生物学的な機能を示す指標)を用いた「老化時計」を開発してきた。(参考記事:「顔と目と舌の写真で「体の年齢」を判定、病気のリスクまでわかる」

 老化時計をうまく設計すれば、特定の臓器が早く老化する原因を明らかにしたり、その臓器を若く保つことで寿命を延ばし、生活の質を高める方法を示したりすることができる。(参考記事:「【解説】老化は44歳と60歳で急に進むと判明、何がどう変わる?」

次ページ:「臓器の年齢」と病気のリスク

関連記事: