アングル:替えがきかないテスラの顔、マスク氏後継者探しは至難の業か

5月1日、 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が、米電気自動車(EV)大手テスラの取締役会がイーロン・マスク最高経営責任者(写真)の後任候補を探していたと伝えた翌日、取締役会はマスク氏への高い信頼は変わらないと強調し、あわてて火消しに動いた。ホワイトハウスで3月撮影(2025年 ロイター/Carlos Barria)

[1日 ロイター] - 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が、米電気自動車(EV)大手テスラ(TSLA.O), opens new tabの取締役会がイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の後任候補を探していたと伝えた翌日の5月1日、取締役会はマスク氏への高い信頼は変わらないと強調し、あわてて火消しに動いた。

背景には、トランプ政権の「政府効率化省」を率いるマスク氏がテスラの社業に割く時間が乏しくなり、右派を支持する政治活動にも勤しむ一方、テスラの販売台数と利益が急激に落ち込んでいることに対する投資家の不安感が強まっていることがある。

テスラのロビン・デンホルム会長はWSJの報道を全面的に否定した。ただデンホルム氏自身も、高額の報酬やマスク氏に株主への説明責任を果たさせることができなかった点で強い批判を浴びている。

今回の騒動は、テスラ取締役会がマスク氏の処遇を巡って抱える独特のジレンマを浮き彫りにした。つまりマスク氏がほかに5つの企業を監督し、最近ではトランプ政権の政策に首を突っ込んで、政治的にはリベラル色が強いテスラの顧客層にそっぽを向かれているという問題だ。

それでもロイターが株主やアナリスト、テスラ経営陣の間で交わされるマスク氏の扱いに関する意見交換の内容を知る3人の関係者らに取材したところ、テスラの命運はCEOとしてのマスク氏個人のキャラクターに握られている部分が極めて大きく、CEOの交代構想が浮上するだけでも同社にとって多大なリスクを生むことが分かった。

現在の収益力を大きく超えるテスラの時価総額のおよそ4分の3は、マスク氏が約束しながら何年も事業を本格的に立ち上げられていない自動運転技術と人型ロボットに由来する、というのが多くのアナリストの見立てだ。

テスラに対して強気の見方をする人々は、これらの分野では特に中国メーカーとの国際的な競争が激化しているにもかかわらず、唯一無二の天才マスク氏なら成果を出してくれると考えている。

しかしそうした成長を十分な速さで実現できそうにはない。テスラ本業の自動車部門の業績が悪化を続けているからだ。とりわけマスク氏とトランプ氏の政治的行動が大きな弊害だと証明された欧州で、EV販売が急激に減少している。

2人の関係者はロイターに、テスラ内部の人々は何年も前からマスク氏に、同氏の代わりに日々の業務をこなす経営トップを採用し、自身は名目上のリーダーとして社に残るようさまざまな形で提案してきたと明かした。

これはマスク氏が率いる他の企業の経営方式で、特に宇宙企業スペースXではグイン・ショットウェル氏が社長兼最高執行責任者(COO)として活躍している。

ところがマスク氏は、テスラも同じ方式に変更するのを一貫して拒絶してきたという。

テスラの株主でもあるザック・インベストメント・マネジメントの顧客ポートフォリオマネジャー、ブライアン・マルベリー氏は、テスラのCEO交代ということになれば、マスク氏が抱えてきた膨大な仕事量や財務面の穴を埋め、EV事業の収益力を何とか維持しながらロボタクシー(自動運転タクシー)のネットワーク構築に向けた取り組みを続けるという非常に厳しい試練が取締役会に降りかかると指摘。マスク氏の影を感じさせない、独自の個性を備えた人物の登場が必要になると付け加えた。

やはりテスラに投資しているディープウォーター・アセット・マネジメントのマネジングパートナー、ジーン・ミュンスター氏は、マスク氏を別の人物に替えるのは実質的に不可能とまで言い切る。

ミュンスター氏は「マスク氏はテスラよりも大きな存在かと聞かれれば、答えはその通りだ」と述べた。

<ウェルチ氏との対比>

後継者が誰であっても、マスク氏を取締役の1人として、また筆頭株主として厚遇しなければならないかもしれない。現在テスラにおけるマスク氏の持ち分は13%だ。

一方、マスク氏がテスラの軸足を長年目指してきた巨大EV企業からロボタクシー、ロボット、人工知能(AI)に移行させた過去1年で、取締役の数が減っている。

3人の関係者の話では、去って行った経営幹部の中には、中核の自動車部門をそれほど無理やり重視しなくなることに抵抗してきた人々も含まれている。

そうした面々の一部は取締役会に懸念を訴えたものの、取締役会はマスク氏の味方をしたという。

テスラ株主のフューチャー・ファンドでマネジングパートナーを務めるゲーリー・ブラック氏はXに、テスラにはマスク氏に代わり得る生え抜きの経営幹部が見当たらないと投稿。「(テスラ)内部で技術、戦略、実務面での幅広い能力を備えた向きは誰もいない」と述べた。

テスラに投資しているジェームズ・マクリッチー氏は、そもそもテスラの幹部人事や高額報酬にはマスク氏が影響力を及ぼしている以上、取締役会がマスク氏の意に反した行動を取れるかどうかは疑わしいと話す。

マクリッチー氏は、マスク氏をCEOから退任させることのリスクもあると認め、マスク氏はかつて投資家から「神様」とまであがめられたゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ元CEOに似ているとの見方を示した。

「ウェルチ氏が去ったGEは砂上の楼閣になった。テスラの場合も恐らく同じになると思う」と予想している。

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Rachael Levy is a Pulitzer Prize-winning enterprise correspondent covering Tesla. Her past investigative work has focused on Wall Street, Elon Musk's companies, American health care and national security. She earlier reported for the Wall Street Journal and other outlets. She can be reached at 202-967-6233. If it's sensitive, use the encrypted app Signal on a non-work device. Her Signal username is rachlevy.99. https://www.pulitzer.org/winners/staff-reuters

Isla Binnie reports on how company directors and executives manage stakeholder and shareholder interests, with a focus on compensation, corporate crises, dealmaking and succession. She also covers how politics, regulation, environmental issues and the broader economy affect boardroom discussions. Isla previously covered business, politics and general news in Spain and Italy. She trained with Reuters in London and covered emerging markets debt for the International Financing Review (IFR).

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