トランプ氏に五つの代替手段-広範な関税に最高裁が違憲判断の場合

トランプ米大統領が1977年国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、日本を含む広範な貿易相手国・地域に輸入関税を賦課したのは権限を逸脱し違憲かどうかが争われている訴訟で、連邦最高裁は5日に口頭弁論を行う。

  争われている措置には、トランプ氏が「解放の日」と呼ぶ4月2日に発表した関税が含まれ、合成麻薬フェンタニルの米国への流入を理由に中国とカナダ、メキシコに課された関税も対象となる。米国際貿易裁判所はトランプ氏の関税措置を違法と判断し、連邦特別行政高裁もこの判断を支持している。

  これらの判断は別々の訴訟で下されたもので、そのうち一つは12州の民主党系司法長官と中小企業のグループによる提訴、もう一つは家族経営の玩具メーカー2社による提訴だった。 

  IEEPAに基づく関税は訴訟手続きが続く中でも引き続き適用されている。連邦最高裁がこれらの関税を違法と判断すれば、トランプ氏が政権2期目でこれまで課してきた関税の大部分が無効となり、政府は多額の払い戻しを余儀なくされる可能性がある。

  ただ、関税措置を継続できる別の手段も存在する。米国憲法は税金や関税の賦課権限を議会に与えているが、議会は複数の法律を通じてその一部を行政府に委譲している。これらの法律により、トランプ氏には異なる仕組みで関税を課す少なくとも五つの代替手段が残されている。

  これらの代替手段には一般的に、一段と多くの制約や手続き上の要件が伴うため、トランプ氏が即座に関税を発動し、自由に税率を設定できる余地は小さくなる。

  法律事務所シドリー・オースティンの国際仲裁・通商・アドボカシー部門共同代表、テッド・マーフィー氏は「違いは必要とされる手続きの多さにある」と指摘。さらに「彼らがIEEPAを選んだ理由の一つは、恐らく手続きが全く求められないからだと思う。大統領自身の判断で決定できる。公聴会も報告書も何も必要ない」と語った。

1962年通商拡大法232条

何が認められているか:

  通商拡大法232条は、大統領に国家安全保障上の理由から輸入品に関税を課し、輸入を規制する権限を与えている。関税率や適用期間に上限は設けられていない。

制約:

  この関税は即時に発動することはできず、商務省の調査で当該製品の輸入が国家安全保障を損なう恐れがあると判断された場合にのみ、大統領が賦課することができる。調査が開始されると、商務長官は270日以内に調査結果を大統領に報告しなければならない。

  トランプ氏がIEEPAを根拠に課した包括的な関税とは異なり、通商拡大法232条は国全体ではなく、特定の産業分野の輸入に対して適用されるよう設計されている。

現行の適用例:

  トランプ氏は政権1期目3の2018年に、通商拡大法232条を根拠として鉄鋼とアルミニウムの輸入に関税を課した。ホワイトハウス返り咲き後も鉄鋼、アルミにフォーカスし、18年の調査結果を踏まえて50%の関税を発動した。また、19年に完了した232条調査の結論に基づき、自動車・部品の輸入にも課税を導入した。

  トランプ氏は今年、銅の半製品・派生銅製品のほか、木材や木製家具などにも232条に基づく関税を適用している。商務省では複数の調査が進行中で、今後さらに多くの産業分野がこうした課税の対象となる可能性がある。

1974年通商法201条

何が認められているか:

  通商法201条は、輸入の増加が米国の製造業者に深刻な損害を与えているか、その恐れがあると判断される場合に、大統領が関税を課すことを認めている。

制約:

  通商法201条に基づく関税も、即時に発動することはできない。米国際貿易委員会( ITC )がまず調査を実施し、申し立てから180日以内に大統領に報告書を提出する必要がある。232条による調査と異なり、ITCは公聴会の開催や一般からの意見募集を義務づけられている。201条もまた、貿易相手国全体に対する包括的な課税ではなく、特定産業を対象としている。

  関税率は既存の税率を最大50%上回る水準までに制限される。発動期間は当初4年とされ、最長で8年まで延長可能だ。課税が1年超続く場合は、一定の間隔で段階的に引き下げなければならない。

現行の適用例:

  トランプ氏は2018年、通商法201条を根拠に太陽電池セルとモジュール、家庭用洗濯機の輸入に関税を課した。太陽電池関連の関税はバイデン前大統領によって延長・修正されたが、洗濯機の関税は23年に失効した。

1974年通商法301条

何が認められているか:

  通商法301条は、大統領の指示の下で米通商代表部(USTR)が、外国の通商措置が米企業に対して差別的であるか、国際貿易協定に基づく米国の権利を侵害していると判断した場合に、報復関税を発動する権限を認めている。導入できる関税率に上限はない。

制約:

  この条項でも、即座に関税を発動することはできない。USTRはまず調査を実施する必要があり、調査対象国の政府に協議を要請し、一般から意見を募ることが義務づけられている。これにより公聴会が開かれる場合もある。

  関税は原則4年で自動的に失効するが、USTRに継続要請があれば延長が可能だ。

  通商法301条の調査は基本的に特定の1カ国を対象とするが、複数国に共通する問題については並行して審査を行うこともできる。トランプ政権1期目ではこの仕組みを用い、フランスや英国を含む11の国・地域のデジタルサービス税を調査した。

現行の適用例:

  トランプ政権は1期目の2018年、中国の技術移転、知的財産権、イノベーションに関する政策を調査した結果を受け、通商法301条を適用して数千億ドル規模の中国産品に関税を課した。中国に対するこれらの関税は現在も有効で、一部は法的争いの対象となっている。バイデン前政権も在任中に、中国からの電気自動車(EV)など特定製品への関税を引き上げた。

  USTRは今年7月、ブラジルを対象に通商・知的財産政策、森林破壊対策、エタノール市場へのアクセスを調査する301条調査を開始した。この調査が進む中、トランプ氏は8月6日から、IEEPAを根拠にブラジルからの多くの輸入品に50%の関税を課した。

1974年通商法122条

何が認められているか:

  通商法122条は、大統領に「国際収支の根本的な問題」に対処するため関税を課す権限を与えている。この場合、大統領は関税を発動する前に連邦機関による調査を待つ必要がない。

制約:

  通商法122条の発動要件は、米国の「大規模かつ深刻な」国際収支赤字の是正、国際収支の不均衡の改善、または「差し迫った重大な」ドル下落を防ぐことにある。

  関税率は最大15%に制限され、適用期間は最長150日までとなっている。これを超えて継続するには、議会の承認が必要だ。

現行の適用例:

  通商法122条はこれまで一度も適用されたことがない。トランプ氏がIEEPAを根拠に関税を課したことに対する訴訟の一つ(中小企業経営者5人と12州の司法長官が提訴)で、国際貿易裁判所は、トランプ氏が貿易赤字の是正を目的に関税を発動したのであれば、それはIEEPAではなく通商法122条の適用範囲に該当すると指摘した。

1930年スムート・ホーリー関税法338条:

何が認められているか: 

  大恐慌時代に制定されたこの条項は、他国が米国の通商に対して不当な料金や制限を課しているか、差別的な行為をしていると大統領が「事実として認定した場合」に、その国からの輸入品に関税を課す権限を与えている。

  大統領が関税を発動するに当たり、連邦機関による事前調査は必要とされていない。

制約:

  スムート・ホーリー関税法338条に基づく関税率は、最大50%に制限されている。

現行の適用例:

  スムート・ホーリー関税法338条は、これまで関税発動の根拠として使用されたことがない。トランプ氏がこの条項を根拠に関税を課す場合、前例のない措置となり、法的な異議申し立てを招く可能性がある。

  トランプ氏が338条を活用する可能性に対しては、米下院の一部民主党議員が懸念を示しており、5人の議員が今年3月、この法律の同条項を撤廃する決議案を提出した。

原題:Trump’s Options If Supreme Court Says His Tariffs Are Illegal(抜粋)

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