「気温上昇は18世紀から始まっていた」 英研究者らが新データを分析
潮位の上昇により一部が海につかっている枯れたマングローブ=8月、フィリピン・ハゴノイ/Ezra Acayan/Getty Images
(CNN) 地球温暖化の度合いは長年、人間活動で変動する前の「正常だった」と思われる気温を起点に測られてきた。だが、この起点はそもそもどの年に設定するべきか。産業革命前からの気温上昇幅は通常、1850~1900年を基準としているのに対し、18世紀後半からすでに上昇が始まっていたとする新たな研究結果が発表された。
英気象庁ハドリー・センターの研究者、コリン・モリス氏は「1850年という起点は元来、入手可能な情報に基づき、実用本位で選ばれたにすぎない」「産業革命の始まりが1850年でなかったことは確かだ」と話す。
同氏が率いる英国の研究者16人のチームは専門誌「アース・システム・サイエンス・データ(ESSD)」に、「GloSAT(グローサット)」と称する画期的なデータセットを発表した。それによると、1700年代後半から1849年までの地球は、1850~1900年よりもかなり気温が低かった。
ただし、この間の気温上昇がすべて人間活動の影響とは言い切れない。
ほかにも複数の要因があるなかで、特に1800年代初頭に起きた巨大な火山噴火は、地球に著しい寒冷化をもたらした。噴煙が成層圏まで達し、日光を遮断した。
チームに参加した英国立大気科学センターの研究者、エド・ホーキンス氏は「1815年にインドネシアのタンボラ山が噴火した影響が詳しく記録されている」と話す。「1808年の噴火もほぼ同規模だったが、どこで起きたのかは分かっていない」
19世紀末までに起きた気温上昇の一部は、こうした噴火による寒冷化が自然に回復した現象だが、それがすべてではないだろう。
気候変動問題に取り組む主要機関「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は2021年、人間活動による気温上昇は恐らく1750~1850年にも起きていて、その幅は0~0.2度だったとの見解を示していた。
GloSATに基づく研究で示されたのは、そのちょうど中間の値だ。
モリス氏らは新たなデータセットと気候モデルを使い、1750~1850年に人間活動がもたらした気温上昇を分析する研究にも参加。この結果を、英エディンバラ大学のアンドリュー・バリンジャー氏らが専門誌「エンバイロメンタル・リサーチ・レターズ」に発表した。それによると、1800年代初頭の大規模噴火による影響の名残などを除外した人為起源の気温上昇幅は、0.09度と推定される。
英リーズ大学のピアーズ・フォースター氏も昨年、全く異なるアプローチで同様の数値をはじき出していた。同氏は気温と大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の強い相関関係に基づき、CO2濃度が上がり始めたごく初期に0.1~0.2度の気温上昇があったと結論づけた。
古い温度計と船舶の記録
300年前に世界的な気温の変化を追っていた者はだれもいないが、各地で多くの人々が温度の変化を記録していた。それを集約することは、世界規模の現象を把握する助けになる。
初期の観測記録は17世紀にさかのぼる。最も長い歴史を持つ英イングランド中部の「セントラル・イングランド・テンパラチャー」は1659年から続いている。スウェーデン中部ウプサラでは1722年に気温測定が始まった。
GloSATの分析には、このような古い記録が採り入れられた。中には気温が大幅に上昇していた地域もあった。
独南部バイエルンアルプスのふもとにあるホーエンパイセンベルクでは、カトリックの聖職者らが1781年から気温を測定し、世界初の国際的な気象観測ネットワーク「パラチナ気象学会」に報告していた。このネットワークはドイツを拠点とし、遠くはロシアのサンクトペテルブルクまで及んでいた。
その後、観測拠点となった修道院はどこもナポレオン戦争で解散に追い込まれたが、ホーエンパイセンベルクの観測所は幸運にも生き延び、記録が現代まで途切れずに残った。
その記録は、最近10年間の気温が1781~1849年より3度近く上昇したことを示している。
GloSATではさらに、地球の表面積の7割を占める海上の気温データも新たに追加された。
貿易船や捕鯨船の上では18世紀から気温が測定されていた。GloSATには、これらの記録がすべて盛り込まれた。
チームによれば、時をさかのぼるにつれてデータはまばらになり、1781~1800年の気温を記した地図には多くの空白がある。当時の世界の気温を推定した値は信頼性が低いものの、それ以降より低かったことは確かだと、専門家らは指摘する。
研究結果は何を意味するか
温暖化が通説より早くから始まっていたとすると、それは私たちが地球の現状を理解するうえで何を意味するのだろうか。
研究チームの論文を査読したアイルランド・メイヌース大学のピーター・ソーン氏は、「人間がさらに大きな温暖化を引き起こしたことになるのは確かだが、だからといって将来の影響が急に早まるわけではない」と話す。
とはいえ、人間活動が地球に与える影響全体を測るうえで、新たに判明した古い気温上昇を無視するわけにはいかない。これもまた、私たちが温暖化の影響に対する懸念をさらに強めるべきだという全体像の一部分だと、ソーン氏は指摘した。