趣味は「影の船団」タンカーの追跡、シンガポール在住の営業マンに話を聞く

シンガポールに住むレミー・オスマン氏の屋上からの眺め。オスマン氏はここで、制裁対象の石油運搬船が海峡を通過する様子を追跡している/Remy Osman

(CNN) 自由時間にネットフリックスで映画を楽しむ人がいるように、レミー・オスマン氏(32)の趣味は、シンガポール海峡を通るさびた違法な石油タンカーを追いかけることだ。

オスマン氏は食品、飲料の営業マンとして働く英国人。シンガポールにある自宅のコンドミニアムから、「影の船団」と呼ばれる制裁違反の船を撮影し、インターネットに投稿している。

影の船団、別名「幽霊船団」あるいは「闇の船団」は、欧米諸国の制裁などに違反してロシアやイラン、ベネズエラ産の原油を運ぶ。所有者不詳の老朽化したタンカーがもたらす収入は、ロシアによるウクライナ侵攻に欠かせない財源となっている。

米国は最近、ベネズエラと同国のマドゥロ大統領に対する圧力の一環として、制裁違反のタンカー5隻を拿捕(だほ)した。

今月7日に米欧州軍が投稿した写真。この石油タンカーは当初「ベラ1号」と呼ばれていたが、後に「マリネラ号」に改名された/US European Command

そんな地下産業が、シンガポール沖では白日の下にさらされる。

シンガポール海峡はインド洋と南シナ海を結ぶ海上輸送の要衝。毎年約10万隻の船舶が通過し、その貨物は世界の貿易品全体の約3分の1を占める。

影の船団がロシアやイラン、ベネズエラの原油を、違反原油の世界最大級の輸入国である中国まで運ぶ際、中心に位置するのが、この海峡だ。

オスマン氏は最前列の席でそれを目の当たりにすることができる。

「シンガポールはおそらく、(影の船団を)見るのに世界一の場所だ」

国際法上、一定以上の大きさの船舶は船舶自動識別装置(AIS)のスイッチを入れておくことが義務づけられている。影の船団は当局の目を逃れようとスイッチを切っていることもあるが、シンガポール海峡は非常に幅が狭く、装置を動作させずに安全に通過することは事実上、不可能だ。

そのうえ同海峡はシンガポールの街のすぐ近くに位置しているため、オスマン氏には通過する船が見え、iPhone(アイフォーン)で写真や動画も撮影できる。

急成長した影の船団

ロシアのウクライナ侵攻を受けて欧米諸国がロシア産原油に制裁を科してから、世界の影の船団は急成長した。欧州の調査会社ケプラーの推計によると、昨年12月の時点で約3300隻の規模に達し、世界の原油輸送の約6~7%を占めていた。

所有者を不明確にし、船籍を目まぐるしく変更し、位置情報を改ざんし、夜間に監視の緩い海域で貨物を積み替えるなどの手口で活動を続けている。

ケプラーによれば、昨年1年間で1000億ドル(約15.9兆円)相当を超える原油が、制裁違反の船団によって輸送されたという。

オスマン氏の風変わりな趣味は、コロナ禍の最中、シンガポールへの引っ越し直後に義務づけられた2週間の隔離生活にさかのぼる。ホテルの部屋のバルコニーから船が見えたので、通過する画像をネットに載せ始めた。

影の船団に目を向けたのは1年ほど前、投稿を見る人々が船団に興味を持っていると気づいてからだ。ここ数カ月、影の船団がニュースをにぎわすようになってから、ページの閲覧は爆発的に増えたという。

昨年8月に投稿したインスタグラムの動画は、閲覧数が200万回を超えた。

オスマン氏によると、船が違法な石油を運んでいることを示すサインはいくつかある。

同氏は追跡アプリから、船齢20~25年の古い船で、アフリカのギニア、コモロ、ガンビア、モザンビークなど規制の緩い国に船籍を置いている例を探す。中には、あからさまにイランやロシアの旗を掲げているケースもあるという。

ある1隻に目をつけたら、識別番号を調べ、制裁対象リストと照らし合わせる。

自宅コンドミニアムの屋上からシンガポール海峡に浮かぶ影のタンカーを探すレミー・オスマン氏/Remy Osman

船がどれだけ水面下に沈んでいるかも手がかりになる。水面に浮いていれば原油をあまり積んでいないが、沈んでいる場合は原油を大量に輸送している可能性が高い。

東アジアから中東への最短ルート

豪シンクタンク、ローウィー研究所の客員研究員で元海軍将校のジェニファー・パーカー氏は、影の船団がシンガポール海峡を通過することが多いのは「純粋に地理的な理由」からだと指摘する。同海峡は東アジアと中東の間を結ぶ最短ルートだ。

同氏によれば、制裁対象の産油国と中国にとって、同海峡は理想的な中継点にもなっている。

シンガポール、マレーシア、インドネシア沖は、船舶同士が洋上で違法な石油を積み替える「瀬取り」の多発海域とされる。

だがパーカー氏によると、シンガポール海峡は国際海峡と位置づけられているため、シンガポールの管轄下にはなく、当局が介入できる選択肢は限られている。

シンガポールの高層ビル2棟の間に見えるシンガポール海峡の貨物船=2025年4月14日/Annice Lyn/Getty Images

シンガポール海事港湾庁もCNNへの声明で、国際法上の権限に制約があることを認めた。

オスマン氏はCNNとのインタビュー当日、シンガポールの高層団地越しに遠く海峡を望む映像を自撮りし、「屋上に来て影の船団のタンカーを見つけようとしている」と話した。「名前はサハラ。現在、ギニアの旗を掲げている。制裁違反の船だ」

船舶追跡サイト「マリントラフィック」のデータによると、サハラは14日にシンガポール海峡を通過した。ロシアとのつながりを理由に、米英、カナダ、ウクライナから制裁を科されている。

オスマン氏は「世界情勢で起きていることと、この目で外に見えることをつなぎ合わせるのはとても興味深い」と話した。

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