まるで「化石の水族館」、6220万年前の魚の化石を大量に発見
- 記事を印刷する
- メールで送る
- リンクをコピーする
- note
- X(旧Twitter)
- はてなブックマーク
- Bluesky
エジプトで6220万年前の地層を発掘していた古生物学者たちが、少なくとも21のグループにわたる条鰭類(じょうきるい、現生の魚類の大半が属する)を含む約500点の魚類化石を発見した。「化石の水族館」と言えるほどのこの大量の化石は、小惑星の衝突による白亜紀末の大量絶滅の影響から海洋生物が回復してきた過程を解明する貴重な手がかりとなるはずだ。研究の成果は2026年6月3日付けの学術誌「Science Advances」に発表された。
「発掘現場に到着し、堆積層から保存状態の良い魚の標本が見つかりはじめたとき、これが途方もない発見であることを直感しました」と、論文の筆頭著者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探究者)であるサナー・エル・サイード氏は語る。
地層の年代測定によると、この魚たちが生息していた時代は、恐竜時代の終焉から約400万年後、暁新世(約6600万〜5600万年前)の幕開けに近い時期だ。古生物学者たちは、小惑星の衝突による猛火が鎮火し、地球規模の「衝突の冬」がおさまった後、生命がどのように回復してきたのかを解き明かそうと、数十年にわたり研究を重ねてきた。
陸上では、絶滅イベントから約10万年後にシダ植物が爆発的に繁茂した。米国コロラド州のコーラル・ブラフスなどの化石産地は、小惑星の衝突から約100万年後に哺乳類や爬虫類や植物がどのようにして新たな森林を形成したかを記録した場所として知られている。
しかし、地球の海の生命がどのように回復してきたかについては、はるかに謎が多い。このほどエジプトのクレイヤ3遺跡から発見された魚類化石は、海ではどの生物が幸運をつかみ、以後長きにわたって海を席巻することになったかを示している。
「クレイヤ3は、現代の海洋生態系がどのように生じてきたのかについて、これまでで最も明確な知見の1つをもたらしました」と、論文の最終著者で、エル・サイード氏と同じくマンスーラ大学の古生物学者のヘシャム・サラム氏は語る。
最初の発掘では、この遺跡に保存されている化石全体のごく一部しか発見されていないが、それでもこの遺跡は「恐竜の絶滅からわずか400万年後にはすでに、今日の海の主要なメンバーである多くの魚類グループがいたことを明らかにしています」と氏は言う。氏もナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーだ。
クレイヤ3は、古生物学者が「ラーガーシュテッテ(化石の貯蔵庫)」と呼ぶタイプの、化石が細部まで良好な状態で保存されている遺跡だ。おかげでエル・サイード氏らは、クレイヤ3の魚類化石の多くを同定できた。彼らは9つの目(もく)にまたがる、少なくとも21種類の条鰭類を発見した。中でも最も多かったのが、スズキ系魚類(Percomorpha)だった(編注:系は目の上位の階級)。
白亜紀末の大量絶滅が起こるまでの海では、スズキ系の魚は比較的まれだった。今日、スズキ系魚類は1万7000種以上にのぼり、マグロやタツノオトシゴからパーチ、アンコウまで多岐にわたる。
「スズキ系は大量絶滅前から存在していました」とエル・サイード氏は言う。「けれども大量絶滅後に劇的に多様化したようです」
大量絶滅によって壊滅的な打撃を受けた海洋食物網は、スズキ系に、新しい形態へと急速に進化する絶好の機会を与えた。その結果、スズキ系は、針のような歯を持つウナギのような捕食者からサンゴ礁に潜む小魚まで、多様な形態を持つようになった。
エル・サイード氏は、マグロやサバの古代の近縁種にあたる捕食性のスズキ系魚類の化石を発見できたことに特に興奮したという。氏によると、これほど古いマグロの近縁種が発見されたのは初めてで、標本の特徴的な歯が決め手となったという。
「このプロジェクトで最も感動的な瞬間の1つでした」とエル・サイード氏は語る。「なぜならそこには、後に現代の海の主な構成要素となる系統の初期の歴史が捉えられていたからです」
氏はまた、この発見は、化石記録における1000万年の空白を埋めると言う。
エル・サイード氏らは、2023年にこの空白を「パターソン・ギャップ」と名付けた。白亜紀末の大量絶滅と暁新世の初期を記録する地層に硬骨魚類の化石がほとんどないように見えることを指摘した、英国の古生物学者コリン・パターソン氏にちなんだ呼び名だ。
「暁新世の地層に保存されている魚類化石が非常に少ないせいで、白亜紀末の大量絶滅後の魚類進化の時期や構造を正確に解明するのは非常に困難でした」と、米ウッズホール海洋研究所の古生物学者であるエリザベス・シーバート氏は言う。クレイヤ3の化石がその空白を埋めることとなった。
シーバート氏は今回の研究には関与していない。だが、この発見によって明らかになった魚類の多様性に興奮を覚えたと語る。「この発見は、きわめて重要な時期における魚類群集の化石証拠を提供します」
エル・サイード氏が発見したスズキ系の急増は、絶滅イベント後に陸上で見られた現象に匹敵するものだった。私たちの祖先を含む小型の有胎盤類やくちばしをもつ鳥類は、小惑星の衝突前から地球上にいたものの、大量絶滅後に急速な進化を遂げ、より多様な種や形態へと放散していった。同じことがスズキ系魚類にも起こったのだ。
しかし、世界のあらゆる海域で同じことが起きていたわけではないと研究者たちは指摘する。エル・サイード氏のチームは、世界各地の同じ時代の海洋化石は、生命の回復パターンが地域によって異なっていたことを示唆していると言う。
「一部の地域では、より原始的な生物群集が、より長く残っていた可能性があります」とエル・サイード氏は述べる。「一方、熱帯地域では、より現代的な外観を持つ魚類相が早くから形成されていたのかもしれません」
このパターンは、地球規模の大災害において予想されるものだ。赤道に近い生息地が生命の回復のホットスポットになっていた可能性がある。
化石記録の空白を埋める魚類の発見は今後もさらに続くだろう。こうした遺跡群から、陸と海の両方で、生命がいかにして最も暗い時代から立ち直ってきたかが明らかになってくるだろう。
文=Riley Black/訳=三枝小夜子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2026年6月5日公開)
- 記事を印刷する
- メールで送る
- リンクをコピーする
- note
- X(旧Twitter)
- はてなブックマーク
- Bluesky
こちらもおすすめ(自動検索)
操作を実行できませんでした。時間を空けて再度お試しください。
権限不足のため、フォローできません
日本経済新聞の編集者が選んだ押さえておきたい「ニュース5本」をお届けします。(週5回配信)
ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。
入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。
ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。
入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。