【コラム】トランプ政権よ、それが金利を下げるやり方か-ダドリー

巨額の財政赤字をはじめとする重大な問題について、米国の指導者らは政策金利を引き下げさえすれば対処できるという考えに飛びついた。

  そう簡単にいけば苦労はない。

  トランプ米大統領は連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長に繰り返し利下げ圧力をかけ、同議長への不満を公にしている。ベッセント米財務長官は長期国債の発行を減らすことで、長期金利を押し下げようとしている。金融規制当局は大手米銀の長期債保有拡大を促そうと、資本要件の調整に動いている。銀行が長期債の保有を積み増せば、国債相場は上昇し利回りは低下するはずではある。

  こうした試みが狙い通りの結果を出せたら、大きな恩恵となり得るだろう。金利が米議会予算局(CBO)の予想を1ポイント下回れば、政府は10年かけて約3兆5000億ドル(約510兆円)の債務コストを節減することができる。これは先日成立した「大きくて美しい法」によって、同期間に予想される財政赤字の追加額にほぼ匹敵する。

  残念ながら、政府の狙いは外れそうだ。むしろ逆効果を招く恐れさせある。

  まずFRBについて考察してみよう。トランプ氏のFRB攻撃は、利下げ志向の人材を次期議長に据えるという脅しを伴う。これは将来のインフレ期待を高め、結果として長期債利回りを押し上げる。FRBがトランプ氏からの圧力に屈する兆候が見えれば、事態はさらに悪化するだけだ。したがってFRBはトランプ・ファクターを相殺し、市場からの信認を維持しようと、一層慎重な姿勢を取らざるを得なくなる。つまりトランプ氏からの圧力がなかった場合よりも高い水準に、短期金利を据え置く。

  米国債発行に関するベッセント長官の計画は、一定の効果を上げる可能性はある。長期債の発行が少なくなり、これまでと同数の投資家が購入したいと考えれば、利回りは下がる。しかしその影響は極めて微少で、大きくてもベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)単位にとどまり、ポイント単位の動きからは程遠い。長期債利回りを決定付けるのは国債発行の構成ではなく、圧倒的に短期金利の軌道予想だ。何十年も続いてきた「定期的で予測可能な」発行慣行から逸脱することで、不確実性が生じ、何らかの好影響があったとしてもそれは相殺されかねない。

  さらに悪いことに、米財務省は依然として巨額の財政赤字を賄うために資金を借り入れる必要がある。すなわち短期債の発行が増え、政府の財政は将来の短期金利の変動にもっと敏感になる。極端な話、すべての国債が短期債であれば、連邦公開市場委員会(FOMC)が金利を引き上げるたびに政府の利払いコストが跳ね上がる。この状況は「フィスカルドミナンス(財政支配)」につながりかねない。フィスカルドミナンスは政府の財政問題がFRBの経済運営能力を著しく損なう状態を指す。

  これらに比べ、銀行資本要件の緩和も大して勝るものではない。焦点となっている補完的レバレッジ比率(SLR)は、景気悪化や金融危機にあっても銀行が損失を吸収できるようにしたセーフティーネットだ。これを緩和しても、長期債利回りを大きく下げるには不十分だ。銀行は金利リスクへのエクスポージャーを過剰に抱えたくないため、米国債の購入意欲は限定的になる。

  トランプ政権が本当に金利を下げたいのなら、もっと良い選択肢はある。間違った方向の政策を捨てるのもその一つだ。

  まずは政府の財政運営を健全化することだ。「大きくて美しい法」は財政に大惨事をもたらし、今後10年間で3兆ドル余りの赤字を追加する見込みだ。国債発行は増え、利払いコストも拡大する。例えば社会保障制度を持続可能な路線に改革するなど、慎重な財政運営の証しを見せることが、投資家の信頼を得る手段になる。

  次に、貿易政策に明確さと確実性をもたらすことだ。トランプ氏が仕掛けた関税戦争は、外国人投資家に米国債への投資意欲を失わせた。通常なら関税引き上げでドルは強くなるはずだが、実際には大幅に下落しているのは周知の事実だ。

  第3に、FRBの独立性を脅かすのをやめることだ。次期FRB議長の条件が「金利引き下げ志向」であるべきではない。

  第4に、「マールアラーゴ合意」なる構想を放棄することだ。これは外国政府に対し、保有米国債を長期かつ低利回りの債券に置き換えることを強制するものだ。

  最後の提案は、国債市場をより強じんにすることだ。例えば取引の中央清算を拡大すれば、2020年3月に起きたような市場の混乱にも対応できる。FRBの資金調達ファシリティーを銀行やプライマリーディーラーだけでなく、すべての国債保有者に開放すれば、多様な投資家が国債を保有しやすくなる。そうなれば財務省の国債買い戻しも拡大し、国債の流動性向上につながり得る。

  こうした助言を、トランプ政権が取り入れる可能性は低い。しかし数字はうそをつかない。CBOの予測では、現在のままでは10年後の財政赤字に基づく債務利払いコストと、社会保障、メディケア(高齢者・障害者向け医療保険制度)のコストはいずれも国内総生産(GDP)の1ポイント分拡大する。利下げ要求の脅しは何の有意な解決にならない。

(ニューヨーク連銀の前総裁、ウィリアム・ダドリー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:America, This Isn’t How You Lower Interest Rates: Bill Dudley(抜粋)

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