タイトルに挑んだGT500ラストレース。目標には届かずも石浦宏明は晴れやかな笑顔「本当に悔いのないレースができた」
スーパーGT ニュース
Ryuji Hirano / autosport web
11月1〜2日、栃木県のモビリティリゾートもてぎで決勝レースが行われたスーパーGT第8戦『MOTEGI GT 300km RACE GRAND FINAL』は、TGR TEAM KeePer CERUMOの石浦宏明にとってのGT500クラスでのラストレースとなった。2008年から戦ってきたフィールドでの最後の戦いは王座へ挑んだ一戦となったが、結果はおよばずランキング3位に。それでも「本当に悔いのないレース」と戦い切った一戦を終え、笑顔をみせた。
石浦は2006年にスーパーGTにデビュー。2007年には大嶋和也とともにGT300クラスのチャンピオンを獲得すると、2008年にはTOYOTA TEAM TSUCHIYAからGT500クラスにデビュー。2009年に大嶋とともにLEXUS TEAM KRAFTで初勝利を飾ると、LEXUS TEAM SARDを経て2011年にLEXUS TEAM ZENT CERUMOに加入。以降11年間、チームメイトとして、監督として気の合う立川祐路とともに、そして2024年からは新たに加わった大湯都史樹とともに同チームで過ごし、長きに渡りGT500クラスで戦ってきた。
そんな石浦は、7月に2025年限りでのGT500クラスでの活動終了を発表していた。第4戦富士以降、ファンとともに戦いながら、最終戦もてぎにチャンピオンの権利を残し臨んでいた石浦だが、GT500クラスでの最後のレースウイークは、王座に挑戦する天王山となった。
KeePer CERUMO GR Supraの石浦宏明/立川祐路監督/大湯都史樹 2025スーパーGT第8戦もてぎ
迎えた11月1日の予選日、午前の公式練習ではトラフィック等もあったが、1分37秒381というベストタイムで9番手。石浦はチームレポートの中で「公式練習では順位としてはいまひとつで、Q1を通ることができるのか、ラストレースでQ1を通れないかも……ということがちらつく緊張感ある状況」だったと振り返ったが、今季KeePer CERUMO GR Supraは公式練習から公式予選までの間の劇的なパフォーマンス向上が多くあった。今回も、チームメイトの大湯が「方向性としては合っていた」という確信を繋げるべく、午後の予選に向けてセットアップを修正して臨んでいた。
午後の公式予選では、Q1を石浦が担当した。「最後のアタックだったということもあり、『思い切っていこう』と走りました」という石浦は、信頼していたとおりチームが行ったセットアップが好転していることを感じ取りながら最後の予選に入った。アタック1周目は一度中断せざるを得なかったが、2周目にはセクターでも好タイムを記録しながらアタックを続けた。
しかし、フィニッシュまであとわずかという90度コーナーで、石浦を絶望が襲った。KeePer CERUMO GR Supraのギアが抜けてしまった。「『終わった』と思いました。汗が噴き出しました」という一瞬だったが、その刹那、「奇跡的に」ギアが入り、KeePer CERUMO GR Supraは再加速。タイムロスは最小限で済み1分36秒022というタイムで3番手に。Q2の大湯に繋げてみせた。
このアタックと“90度コーナーの奇跡”が、Q2の大湯に繋がった。この第8戦に至るまで、大湯は事あるごとに「石浦さんのラストシーズンでチャンピオンを獲りたい」と繰り返していた。第8戦の週末も、「大湯選手が今まで見たことがないくらい緊張していて、気持ちが伝わってきたのでそれも嬉しかった」と石浦が言うように、大湯は石浦とのラストレース、そしてチャンピオンに向けて今までにないほど気合を入れていた。
そしてその気合は、タイトル争いの最大のライバルであったau TOM’S GR Supraをノーウエイトで抑えてのポールポジションに繋がった。
石浦宏明と岡島慎太郎エンジニア 2025スーパーGT第8戦もてぎ
石浦宏明/大湯都史樹、立川祐路監督 2025スーパーGT第8戦もてぎ
石浦がGT500で戦う最後の日となった11月2日。この週末は石浦が愛する家族ももてぎを訪れ見守るなか、13時にいよいよ決勝レースの火ぶたが切って落とされた。スタートドライバーは石浦。「ポールポジションからたくさんの注目を浴びながらスタートを担当させていただきましたが、GT500ラストレースで、なんてありがたい環境からレースをさせてもらえているのかと、噛みしめながらスタートしました」と1〜2コーナーはトップでクリアしていった。
しかし、この決勝でKeePer CERUMO GR Supraが選んでいたタイヤは、「もう少し暖かいコンディションに向けた」ものだった。ウォームアップにやや苦しみ、3〜4コーナーへの加速でわずかにホイールスピン。その間隙を突かれ、au TOM’S GR Supraの先行を許してしまう。さらにTRS IMPUL with SDG Zにもかわされ、石浦は3番手となった。
ただその後のペースは悪くなく、石浦はTRS IMPUL with SDG Zとのギャップを詰めつつ、戦略を柔軟に変更。燃費を稼ぐ走りに切り替え、21周でピットイン。大湯に交代したが、ここで戦略とチームの作業が功を奏し、TRS IMPUL with SDG Zを先行してピットアウトすることができた。
しかし大湯はTRS IMPUL with SDG Zではなく、まだピットに入っていなかったau TOM’S GR Supraをあくまでターゲットにしていた。「アウトラップに賭けていました」とギャップを縮め逆転するべく、攻めに攻めた。たたその攻めた結果、90度コーナーでタイヤがロックアップ。コースアウトに繋がってしまった。ここでKeePer CERUMO GR Supraはわずかなダメージを負い、かつタイヤにはフラットスポットができ、その後の大湯は防戦一方となった。
ただ、最後まで大湯はあきらめることなくレースを戦い、結果は7位。大湯が粘ったことでランキング3位にも繋がった。立川祐路監督も大湯のトライについては「守りにいく状況ではなかったので仕方がない。その後もよく耐えてくれたと思います」と語っている。
KeePer CERUMO GR Supra(石浦宏明/大湯都史樹) 2025スーパーGT第8戦もてぎ
KeePer CERUMO GR Supra(石浦宏明/大湯都史樹) 2025スーパーGT第8戦もてぎ
攻めた結果、GT500ラストイヤーでのタイトルには繋がらなかった。予選後「もしシーズン2勝できればこれほど最高なことはない」と語っていた石浦だが、「今週の大湯選手は僕のラストレースということでずっと気合を入れてくれていて、そのフルプッシュがコースアウトに繋がってしまったかもしれませんが、チャンピオンを獲りにいった結果だと思っています」とその姿勢を喜んだ。
「チームみんながやれるだけのことをやった結果ですので、本当に悔いのないレースができたと思います」
そして石浦は、何年にも渡って取り組んできた強豪セルモの復活の手ごたえを得た一年だったと振り返る。「1号車は改めて強いと思いましたし、3年連続チャンピオンにはなかなか勝てないと思いましたけど、予選ではノーウエイトで前に出ることができました」と石浦。
「セルモにチーム力がついていることは間違いないですし、自分のレース人生でいちばんチャンピオンに近づいた瞬間でした。TGR TEAM KeePer CERUMOは改めてチャンピオン争いができるチームになりましたし、大湯選手がチームを引っ張る立場に成長してくれました」
石浦はレース後のセレモニーでも、スーパーGTから“引退”と紹介されたわけではなかった。2026年は石浦の言葉にもあるとおり、11年在籍したセルモを離れ、ドライバーとして新たなフィールドでスーパーGTを戦うことになる。GT500の活動は終えるということは、残すはひとつだ。
「僕はチームを離れることになりますが、今後も楽しみですからね。応援しながら自分のレース活動を続けていきたいと思います」と石浦は、ふたたび強豪となった愛するセルモのメンバー、愛する家族とともに笑顔をみせた。
KeePer CERUMO GR Supraの石浦宏明と大湯都史樹 2025スーパーGT第8戦もてぎ
太田麻美おおたあさみ
2025年 / スーパー耐久 ルーキープリティ