讃岐うどんブームの先駆者「はなまるうどん」 原点回帰で高松へ本社移転、丸亀製麺に対抗
讃岐うどんチェーンの「はなまるうどん」を運営する「はなまる」が創業から25年の節目を迎えた今年、本社を東京から創業の地である高松市に移した。「原点回帰」を掲げ、移転にあわせ、讃岐うどんの新しい姿を全国に発信するプロジェクトを進める。同じ年に1号店がオープンした兵庫県発祥の讃岐うどん専門店「丸亀製麺」に店舗数で水をあけられる中、香川発祥である強みを前面に打ち出すことで、優位性をアピールしたいという狙いも透けて見える。
「本当の」
今年の元日付の香川県の地方紙、四国新聞朝刊に、「すべては、讃岐うどんとともに。」というタイトルが目を引く広告が掲載された。同日付のはなまるの本社移転を知らせる内容で、讃岐うどんの新しい歴史づくりに挑戦する決意が記されていた。
その中に「『本当』の香川生まれであるはなまるが」との一文があった。あえて「本当」の、と記したのは、丸亀製麺と名乗りながら、丸亀市発祥ではないライバルを意識したものとも取れなくはない。
はなまるうどんは香川県内で5店舗を展開した後、セルフ形式、かけうどん1杯100円を武器に県外に進出すると、全国に讃岐うどんブームを巻き起こした。「本場さぬきうどん協同組合」の香川隆昭理事長は「讃岐うどんを全国に知らしめた先駆者」と強調する。
同県内で現在営業するはまなるうどんは14店舗で、丸亀製麺は高松市の1店舗と本場では圧倒的な差がある。一方、全国の店舗数では平成21年11月に抜かれ、はなまるうどんが418店舗、丸亀製麺が862店舗(令和7年6月末時点)と2倍以上の開きがある。
看板に思い
はなまるが進めるのは「おいでまい!さぬきプロジェクト」。本社移転に加え、店舗の改装や新メニューの開発などを通じ、讃岐うどんの魅力を発信するというものだ。
前田良博社長は「店ごとに個性が異なり、お店巡りをしたくなるのが讃岐うどんの魅力だ。讃岐うどんがある程度浸透した今、製麺工場方式のチェーン店でありながら、個性と多様性のあるお店を全国に発信したい」と狙いを説明する。
「讃岐の地に戻ってもう一度本当の讃岐うどんの文化を広げたい」と話す「はなまる」の前田良博社長=7月1日、高松市香川県内の直営5店舗を5つの異なるコンセプト店にリニューアルする計画で、その1店目となる多肥店(高松市)が7月2日にオープンした。
多肥店のテーマは「未来」で「手打ちと創造」に挑戦。外看板は従来とは一線を画し、白い下地に手書きの文字を配置した。「原点回帰で真っ白な気持ちで新しい挑戦をする」(前田社長)との思いを託したという。
タブレット端末による注文を導入。はなまるうどんで初めての麺打ち場を設け、店内で麺の足踏みや熟成まで行う。協同組合の香川理事長のもとに麺の手打ち修業のため従業員を派遣した。
「はなまるうどん」の店舗で初めて設けられた多肥店のガラス張りの麺打ち場素材や作業工程も全面的に見直し、だしは香川らしく、いりこ感を強くした。県産小麦、県産農産物を使用して地産地消を意識。限定メニューとして「骨付き鳥っぽい味のかしわ天うどん」、綾川町で栽培されているそばとの合い盛「白黒つけないかけ・黒黒つけないざる」などを提供する。
8月からは残り4店舗も「煩悩」「時間」「日常」「探求」をコンセプトにした酒場的な店や食堂的な店などに順次リニューアルする予定だ。
目と鼻の先
真っ先にリニューアルした多肥店は、平成24年10月に開店した丸亀製麺の県内唯一の店舗から50メートルも離れていない目と鼻の先だ。それでも、前田社長は「香川発祥ブランドという意識を強く持ち、他店を意識するのではなく、自分たちの内面を磨きたい」と丸亀製麺への対抗心を表には出さない。
「讃岐」の文字を掲げたはなまるうどん多肥店の看板。すぐ近くには香川県内唯一の丸亀製麺の店舗がある=高松市はなまるの高口裕之最高マーケティング責任者も「各社はそれぞれのマーケットを分析し自社の戦略を考えており、当社は讃岐うどんをより究めるとともに、その土地ならではの店舗づくりを進める戦略を描いた。ご当地うどんが盛り上がっているのは歓迎だ」と話す。
一方、全店舗で店内自家製麺を提供する丸亀製麺は昨年11月、同社が〝聖地〟と位置付ける丸亀市の離島、広島(通称・讃岐広島)に研修施設「心の本店」をオープン。職人たちが本場の味を学ぶ。
発祥の強みが生きるのか。讃岐うどんを巡る熱い戦いから目が離せない。(和田基宏)