空飛ぶトランプ宮殿? カタール王室が「お荷物」豪華ジェットを喜んで譲りたい裏事情
世界有数のプライベートジェットのオーナーであるカタール王室は、これまで複数の大型ジェット機をひそかに手放してきた。新型の大統領専用機について納入遅れに苛立つ米国のトランプ大統領は、その中の1機のボーイング747を譲り受けようとしている。 多くの人は、カタール側がトランプにこの豪華な航空機を贈ることで、大統領に取り入ろうとしているとと考えているが、実はもっと単純な理由があるのかもしれない。彼らは単に、この飛行機がもう要らないのだ。 この飛行機は2020年に売りに出されたが、買い手がつかなかった。フォーブスが話を聞いた航空専門家によれば、カタール王室はこの機体を無償で手放せれば、メンテナンスや保管のための巨額の出費を避けられる。トランプを喜ばせるのは、追加のボーナスだろう。 カタールは、他にも1機の豪華版の747型機を譲渡しており、さらに2機を格納庫に入れたままにしている可能性がある。このことは、巨大で燃費が悪い大型ジェットの需要が衰えていることを示している。 「カタールは、他の多くのモダンな国家と同様に、経済性に優れさまざまな用途に利用しやすく、しかも目立たずに移動可能な航空機に移行している」と、ドバイに本拠を置く航空コンサルタント企業BAA & Partnersのライナス・バウアーはフォーブスに語った。彼によると、カタール王室の動きは、「空の地政学的パフォーマンス」という過去の様式に別れを告げるものだという。 ■世界第4位の富裕国が贅を尽くした「空飛ぶ大御殿」 ペルシャ湾に面した小さな半島にあるカタールは、豊富な石油と天然ガスのおかげでひとりあたりGDPが世界第4位の富裕国となっている。この富を背景に、カタールを統治するサーニー家の王族は、エアバスやボーイングの旅客機十数機を豪華な内装をしつらえた専用機に改装しているほか、ボンバルディアやダッソー製のプライベートジェットも保有している。 その中の1機が、トランプが欲しがっている747-8型機で、2012年購入当時の定価は3億6700万ドル(約532億円。1ドル=145円換算)だったとされている。その後、3年間をかけて特注の豪華な内装が施され、追加で数千万ドル(数十億円)の費用がかかったと推定されている。 通常の747-8型機が定員467人なのに対し、この飛行機はわずか89人のために設計された「空飛ぶ大御殿」であり、ふたつのベッドルームと娯楽室、会議室を備えている。内装は、パリのデザインハウスのCabinet Pinto(キャビネット・ピント)が手がけており、シカモア材やワカポー材、絹、天然皮革などを使用した豪華な仕上がりになっている。 ■ナローボディ機やビジネスジェットへの移行が進む 1970年に就航した747型機は、長距離大量輸送の時代を切り開いた存在だ。しかし、4発エンジンは燃料費が高騰する現代においてはコスト高で、情報サイト「Corporate Jet Investor(コーポレート・ジェット・インベスター)」によると、このVIP仕様機の運航コストは2019年時点で1時間あたり2万3000ドル(約334万円)に達していた。 航空会社はこの10年間で、747型機やエアバスの4発機A340を退役させ、より燃費効率に優れたボーイング787やエアバスA350といった双発ワイドボディ機や、航続距離の長いナローボディ機に切り替えている。カタールと同様に、サウジアラビアやブルネイ、アラブ首長国連邦、ドイツなどの王族や政府も、燃費の悪い4発機の廃止を進めている。 豪華な大型機は、燃費の悪さに加えて「安全面でもリスクがある」と、航空コンサルタント企業Aerodynamic Advisory(エアロダイナミック・アドバイザリー)のリチャード・アブーラフィアは指摘する。「こうした機体は、敵国や敵対勢力にとっては大きな標的になる」と彼は述べた。 また、機体が大きすぎると長い滑走路を必要とするため、使用できる空港が限られる。「ナローボディ機であれば利用可能な空港は格段に増えるし、通常のビジネスジェットであればさらに多くの空港が利用可能になる」とアブーラフィアは述べている。 カタールは同様の747-8型機を2018年に、トルコのエルドアン大統領に譲渡し、さらに旧型の747-SPは資産管理会社に売却しており、現在は保管状態にあるとみられる。「こうした巨大で特注の内装を持つ機体は、売却が極めて困難だ」とアブーラフィアは語った。