身内の性加害問題を語らない新ローマ教皇

 第267代ローマ教皇レオ14世が就任してから1カ月がたった。5月7日からバチカンで実施された教皇選挙(コンクラーベ)を現地で取材し、その後のレオ14世の言動を追う中で、二つの「距離」を強く意識させられている。

 まずは教皇と世俗との距離だ。

 コンクラーベは枢機卿がシスティーナ礼拝堂で秘密投票を行い、新教皇が選出されれば白煙を、不選出なら黒煙を礼拝堂の煙突から上げて周知する。私もサンピエトロ広場に通い、数万人ものキリスト教カトリック信徒らと煙突を見上げ、煙を待ち続けた。

 広場は連日、欧州、南米、アジアなど世界各地からの来訪者で埋め尽くされた。報道陣も数え切れないほど多かった。

検証不能な秘密投票

 だが、注目度の高さとは裏腹に、投票結果の詳細は公表されない。閉鎖された礼拝堂の中で何が起きたのかを知るのは容易ではなく、結果の精緻な検証もほぼ不可能だ。現場で取材している手応えを感じにくかった。

 コンクラーベの段取りは、13世紀に教皇の選出が紛糾して約3年間も決まらない事態となり、密室に枢機卿たちを閉じ込めて選ばせたことが由来とされる。

 ただ、非効率にも思える方式を今でも維持しているのはなぜなのか。カトリック研究が専門のミシェル・ディロン米ニューハンプシャー大教授は「古くからの儀式や慣習は、特に変化が多い現代では(カトリック教会の)制度の安定と継続性に対する安心感を人々に与える」と指摘する。

 秘密主義と、選挙の前後も含めた儀式の荘厳さによって、威厳を保っている面もあるのだろうと感じた。

トランプ氏への対処にも期待

 政治との距離も焦点となった。

 レオ14世(本名=ロバート・プレボスト氏)は史上初の米国出身の教皇となった。これまで、世俗と宗教の権力集中を避けるため、「超大国の米国から教皇は選ばない」との不文律があるとされてきたが、破られた。

 選出の理由はいくつかあるだろうが、世界を混乱させるトランプ米大統領に対する働きかけへの期待も推認される。「枢機卿たちは、米国とその『強権的指導者』への対処法を知る人物を選んだ」(デビッド・ギブソン米フォーダム大宗教文化センター所長)など、政治的な意図を読み解く専門家は少なくない。

 レオ14世は、就任式などでパレスチナ自治区ガザ地区での早期停戦を呼びかけたり、ロシアとウクライナの停戦交渉をバチカンで開催することに意欲を見せたりと、フランシスコ前教皇と同様に、国際紛争の解決に向けて関与していく姿勢を示している。

 サンピエトロ広場で会ったウクライナ人のエバ・イパティさん(24)は「新教皇には、ウクライナが納得できる形での停戦が実現するように力を貸してほしい」と期待を寄せた。レオ14世の今後の動きが注目される。

「沈黙は被害者にとって不快」

 一方で、予想に反してレオ14世の姿勢が見えない課題が…

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