「トゥキディデスの罠」に飛び込んだトランプ、米国が米国そのものを転覆しようとしている!(Wedge(ウェッジ))

 ニューヨークタイムズ紙コラムニストのポルグリーンが、11月21日付けの論説‘The Thucydides Trap Is Coming for America’において、トランプは自分で「トゥキディデスの罠」に飛び込んでいる、中国は現状維持を主張、世界の頂点で米国が米国を転覆しようとしている、と述べている。要旨は次の通り。  「トゥキディデスの罠」とは、台頭国家が覇権国家に挑戦する時に戦争が起こるという理論である。  トランプ第二期政権はこの前提を覆している。トランプ政権は、世界秩序を自ら破壊している一方、(台頭国家である)中国が現状維持を主張している。  「トゥキディデスの罠」に飛び込もうとしているのは中国ではなく、米国だとの逆転が起きている。いわば、世界の頂点で、米国が米国を転覆しようとしている。  最近の研究(学術誌 International Security に掲載された東アジア研究者3人による挑発的な論文)は、「中国は体制安定を重視する現状維持勢力であり、外向きというより内向きの性格が強い」と言う。それは、彼らが中国の公的演説から学校教育本に至るまで膨大な資料を分析して得た結論だった。  中国の領土的主張は、台湾と一部国境地域に限られている。「中国の狙いは明確で、持続的で、限定的だ」と彼らは書く。  しかし、中国が善意ある、あるいは無害な行為者である訳ではない。南シナ海での攻勢、新疆での弾圧、香港での締め付け、台湾人の意思に関係なく台湾を領有しようとする執念は、アジアの平和と秩序に重大な挑戦を突きつけ、人権の基本原則を侵害している。  日本との外交的対立も激化し、中国の脅威能力を示威している。しかし、こうした行動はいかに残虐であっても、世界秩序の再構築を狙うものではない。

 そもそも、世界を一国が監督するという考え方自体が時代遅れだ。未来の問題は、二極対立ではなく多極の複雑性である。この現実に対して、トランプがうまく対応できていないのは明らかだ。  進歩派の外交政策学者ヴァン・ジャクソン(「The Rivalry Peril」の著者)は「脅威を与えていない国に侵攻し、世界規模の対テロ戦争を展開しなければ覇権の維持ができないのであれば、米国は明らかに衰退している」と言う。衰退国家による攻撃的行動が如何に危険かを示す例は歴史に満ちている。16世紀スペインの軍事的狂信、末期オスマン帝国の民族主義の台頭、両大戦間の英国の持続不能な帝国維持の試みだ。  トランプの軍事的脅しや関税政策の多くは、実際は国内向け効果を狙ったものだ(フェンタニルや税収のための関税の例)。トランプ政権下の米国は中国に似つつある。すなわち、政権安定に執着し、人々を支配するためには手段をいとわず、世界のリーダーシップには主たる関心を示さず、民族主義的な熱狂の中で独裁的指導者の個人崇拝を築く国家へと向かっている。  トランプは、選挙戦での過激な反中言辞にもかかわらず、実際には「対中タカ派」ではない。彼はしばしば習近平を称賛する。  一方、トランプ政権は関税乱発、同盟軽視、国際機関離脱など、自ら米主導の秩序を破壊する方向に動いている。南アでの20カ国・地域(G20)首脳会議につき、トランプは数カ月前から欠席を宣言し、最後は突然にG20会議を全面ボイコットすると発表した。  中国はもっと長期的で洗練されたゲームをしている。習近平が派遣した李強は、多極化する世界の課題と可能性について主要経済国と議論する準備を整えている。  米国は、台頭国と協力して新秩序を築くのか、支配に固執するのか、選択に迫られている。トランプは後者を選んでいる。中国は前者を求めているように見える。歴史を見れば、前者の道が平和と繁栄につながり、後者は崩壊への道である。 *   *   *

Wedge(ウェッジ)
*******
****************************************************************************
*******
****************************************************************************

関連記事: