「中国製三脚」が問いかけてくる現実 6万円台のビデオ三脚を使って見えた、市場の転換点:小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(1/3 ページ)
前回のコラムでは、三脚のようなレガシーなデバイスでさえも近年改良が続き、多くの新機能が搭載されるようになったという動きをご紹介した。具体的には脚部はシングルロック、ローアングル対応という流れが強化され、またヘッド部もより軽量なカメラに対応できるようカウンターバランスが再設計されるなど、撮影トレンドの変化が見て取れる。
従来はここまでしかできません、それ以上は別の三脚を使ってくださいというすみ分けが行われてきたところ、1台で多くのシーンに対応できるようなマルチ化が起こった背景には、中国製の三脚が低価格・多機能を武器に力を付けてきたことが挙げられる。
筆者もこれまで、中国製の三脚は使ったことがなかった。またコラムでは取り上げたものの、「SmallRig x Potato Jet TRIBEX SE」は日本語のレビュー記事がほぼなかったので、品質がよく分からない。そこで実際に購入して、どのような製品なのかを調査してみることにした。
もともと中国SmallRigという会社は、カメラに取り付けるグリップやリグなどを得意としてきたメーカーで、そこから徐々に幅を広げて撮影関連の機材全般を手掛けるようになった。
SmallRig x Potato Jet TRIBEX SE(以下TRIBEX SE)は、カーボン脚だった前モデル「SmallRig x Potato Jet TRIBEX」(以下TRIBEX)から、脚部を廉価なアルミに変えてコストダウンしたモデルとなる。前作が日本円で13万9890円だったところ、6万6890円と約半額に価格を下げてきた。
TRIBEX SEの重量は3.7kgと、それほど軽量というわけでもない。とはいえ前作のTRIBEXもカーボンの割には3.8kgだったので、ほぼ同じである。ヘッド部分を軽量化することでだいたい同じ重量になるように調整したものと思われる。
筆者が普段使っているのは、伊Manfrottoのヘッド「MHV500AH」と、脚部「055MF3」である。ヘッドは現行品ではあるがもう10数年前のモデル、脚部はすでに販売終了しており、組み合わせ的にはかなり古い。ただ重量は全体で3kgと、まずまず軽量である。
これと比較してみると、TRIBEX SEは構造がよく似ている。スプレッダなしで開脚が3段階に変えられることや、センターポールがあり高さが稼げるといった共通点があり、ヘッドの付け替えでビデオと写真のどちらにも対応できる。
まず脚部を全部折りたたんだ状態では、TRIBEX SEが数センチ低い程度である。脚部とセンターポールを最大に伸ばした場合でも、この差は同じままだ。
脚部を全部縮めた状態で、ねじりに対する強度を比較してみた。Manfrottoはかなり古い製品だが、ねじり耐性が強く、ほとんど動かない。一方TRIBEX SEは、微妙にねじれが発生する。このぐらいは許容範囲と見るかは撮影用途にもよるだろうが、ねじれ耐性は三脚の重要な基本性能なので、ある意味ここがコストにつながってくるところである。
一方で最低高はかなり異なる。このタイプの三脚は、脚部をめいっぱい開いてもセンターポールがあるために、最低高が下げられないというデメリットがある。実際同じようにセッティングしても、数センチの高さの差はそのままだ。
しかしTRIBEX SEは、センターポールを途中で外すことができる。横の六角ネジを2回ほど回すと、ポールが外せるのだ。また六角レンチもヘッド部分に収納できるスペースが設けられているなど、気が利いている。
センターポールを外すと、ほぼヘッド部の高さだけになるので、ハイハットによる撮影とほぼ同等の高さまで下げられる。いちいちネジを外すは面倒ではあるが、ネジは完全に外れるわけではなく、緩めても脱落しないようになっている。このあたりも細かい配慮が伺える。
またセンターポールを下ろす時も、指を挟まないよういったん途中で止まるように設計されている。ポールを回転させるとうまくはまる箇所があるので、そこで初めて全部下がるという作りになっている。
一方Manfrottoにはそのような指はさみ防止機能はないが、脚部とポールのつなぎ目がボール状で持ちにくくなっており、わざわざここを持つ意味がない。デザインで事故を防止するか、機構で事故を防止するかの思想の違いが見て取れる。
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以前なら「中華三脚」という蔑称で呼ばれたかもしれないが、細部までかなり念入りに設計されており、作りもしっかりしている。一方でヘッドは6万円という価格と、上位モデル同様の重量に収めるために、かなり切り詰めた作りになっている。油圧は効いているものの、ちょっと動きが重い。
特徴的なX-クラッチ油圧テクノロジーは、一見楽そうに見える。岩場などものすごく段差があるところで展開するプロモーション動画が多く制作されているが、本来そういう足場の悪いところで三脚を使うこと自体がセオリーにないんじゃないかという気もする。ずるっと滑ったらカメラごと転落してしまう。
また足を収納する際に三脚を上下ひっくり返してレバーを握って格納するという動画もたくさんあるが、よく見るとどれもカメラがついていない状態で行われている。アマチュアが何も知らずにまねすると、衝撃でプレートが外れてカメラごと脳天逆落としみたいなことになりはしないかと心配である。プロモーション方法としては、これまでの三脚メーカーのセオリーにはない訴求方法である。
またX-クラッチ油圧テクノロジーは、ボールレベラーがなくても大丈夫といえるのかという問題もある。足場が悪い場所ほど、一度展開したあとに足のハマり具合を微調整するものだが、そうしていると水平がズレる。そのたびにまたカメラを持ち上げて全部の足のロックを外して水平を取るというオペレーションは、妥当なのか。一方でうまく使えば効率は上がるのは確かなので、使う人を選ぶ三脚であるともいえる。
これはどういったユーザーに向けての製品なのか、ということになるが、じっくり腰を据えて同じ場所でパンチルトズーム撮影するというよりは、パッと撮ってはすぐ撤収して移動みたいな、なるべく多くのフィックスカットを撮りたいような撮影に向くだろう。
基本的にはクリエイター/インフルエンサーの意見が色濃く反映されており、いわゆるビデオ系カメラマン向けとは方向性が異なる製品である。そしてクリエイター/インフルエンサーは、その予備軍まで含めればプロカメラマンよりも爆発的に人数が拡大している。また購入意欲も旺盛である。
こうした中国メーカーの動向は、低価格ながら品質が上がったという単純な問題ではない。従来メーカーは質を下げて価格をそろえれば対抗できるわけではなく、ターゲットが違うことを意識して、何かを捨てて何かを拾い、新しいタイプの製品を開拓しなければならない。
そもそも三脚は、「ビデオ」「写真」「トラベル」のようなざっくりとしたジャンル分けがあるだけで、ユーザーターゲット別の分類などはあまり積極的にされてこなかった。今後中国からの参入メーカーが増えれば、製品層が厚くなってくる。ユーザーや用途別のジャンル分けをしていかないと、ユーザー側が選べなくなってしまう。
「高いものは全部できる」「一流メーカーは安心」だけで押し切っていた時代は終わり、撮影にかけるバジェットの幅が広がった現在は、低価格のものも含めて用途によって使い分けることも必要だ。
三脚のような安定したビジネスにも、過酷な再編の波が押し寄せている。
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