英料理サイトのパスタレシピにイタリアで抗議の声 正しくない材料を記載、大使に書簡も

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ソフィア・ベッティーツァ、BBCニュース(ローマ)

イギリスの人気料理サイト「Good Food」が掲載した、イタリア・ローマの伝統料理「パスタ・カチョ・エ・ペペ」のレシピをめぐり、イタリアで大勢が激怒している。正しい材料が含まれていないほか、お手軽な料理だと軽んじるような表現があったからだという。

問題になった「Good Food」のレシピでは、スパゲッティ、黒こしょう、パルメザンチーズ、バターの四つの材料が書かれ、生クリームを加えてもいいとも書かれていた。一方、本来使われる材料は、スパゲッティ、黒こしょう、ペコリーノチーズの三つのみだという。

さらに、同サイトが「手早く作れるランチ」と紹介したことが、多くのイタリア人の反感を買った。

この件に対するイタリア国内の反発は大きく、イタリアの飲食業界団体が、ローマにあるイギリス大使館に申し立てを行う事態となった。

飲食業界団体「フィエペト・コンフェセルチェンティ」は、著名なイギリスの料理サイトにこのようなレシピが掲載されたことに「驚いた」と指摘。同団体のクラウディオ・ピカ会長は、サイトを運営するイミディエイト・メディアと、イギリスのエドワード・ルウェリン駐イタリア大使に手紙を送ったのだと明らかにした。

「Good Food」側は声明で、「フィエペト・コンフェセルチェンティ」に連絡をとり、「私たちのレシピは、イギリスで簡単に手に入る材料を使い、家庭で手軽に扱えるように整えられている」と説明。また、ローマの飲食店団体が「本格的なイタリア版のレシピを提供してくれれば、提供元を明記してサイトに掲載したい」とも述べている。

この騒動は、イタリアのメディアが広く伝えている。公共放送局RAIの記者は、「私たちはいつだって、BBCに比べて優秀じゃないないと言われる。(中略)それなのに、彼らがこんなことをするとは。ひどいミスだ。クリームを加えるという提案には、鳥肌が立った」と話した。

「Good Food」は、BBCの商業部門のBBCスタジオが2018年まで所有していたが、イミディエイト・メディアに売却された。昨年からは、ブランド名から「BBC」の名前が外されている。

「Good Food」はインスタグラムに、自分たちのレシピが「国際問題」を起こしてしまったと自嘲的に書いた。編集長が、私物の入った箱を抱えてオフィスを出る様子の動画も投稿した。

カチョ・エ・ペペの作り方に独自の工夫を加えるシェフはいるものの、「Good Food」のレシピが問題視されたのは、自分たちのレシピが本来の作り方だと主張することで、読者に誤解を与える恐れがあったからだ。

画像説明, 生パスタ専門店を経営するジョルジョ・エラモさんは「ひどい話だ」と話した

イタリアの人たちはしばしば、イタリア料理の作り方を外国人が独自に解釈する様子をからかう。しかし、今回の件は「伝統の改ざん」だと、それ以上に深い怒りを引き起こしている。

マウリツィオさんとロレダーナさんは、4代にわたり、家族でローマ中心部のホテルを運営してきた。

マウリツィオさんは、「ありとあらゆるアレンジをしても構わない。でもそれを、本来のイタリア料理の名前で呼んではだめだ」と言い、「バターやオイル、クリームを加えた時点で、それがカチョ・エ・ペペだとは言えない。それはもはや別の料理になる」と話した。

さらに「カエサルのものはカエサルに返すべきだ」と付け加えた。

サン・ピエトロ広場近くで生パスタ専門店を営むジョルジョ・エラモさんは、カチョ・エ・ペペをはじめとする伝統的なパスタ料理を提供している。

エラモさんは「ひどい話だ。あれはカチョ・エ・ペペではない(中略)Good Foodが載せたバターとパルメザンチーズ入りのレシピは『パスタ・アルフレード』と呼ばれるもので、別の種類のパスタだ」と話した。

エラモさんの店では、カチョ・エ・ペペにライムを加えたアレンジメニューも提供しているが、それについては問題ないという。

「これは夏向けのアレンジで、パスタをよりさっぱりと仕上げるためのものだ。伝統を損なっていない。クリームやバターとは違う。ライムはほんの少しの工夫にすぎない」と、エラモさんは語った。

画像説明, イタリア人がこの件に怒っているのは、イタリアの多くの伝統が食に基いているからだと、エレオノーラさんは言う

ヴァチカン市国の近くでサンドイッチ店を営むニコラさんは、特にクリームの使用を問題視している。

ニコラさんは、「カチョ・エ・ペペにクリームを使ってはいけない。クリームはデザートのためのものだ。お願いだからやめてほしい。クリームを使う人は、料理の意味を理解していない」と述べた。

イタリアでは、外国人がイタリア料理のレシピを改変すると怒る人が多い。パイナップル入りのピザや、午後以降に飲むカプチーノ、クリーム入りのカルボナーラなどがその一例だ。

ローマ中心部の繁華街で混雑するカフェで働くエレオノーラさんは、今回の件について、イタリア人がそこまで怒る必要はないかもしれないとしながらも、その理由は理解できると話した。

「私たちの伝統は食に根ざしている。だから、私たちのものでただ一つ世界中で知られているものに手を加えられると、少し悲しくなることもある」

BBCは、「Good Food」の現所有者、イミディエイト・メディアにコメントを求めている。

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