アングル:トランプ大統領がグリーンランドを欲しがる理由

写真はグリーンランドの都市ヌークに掲揚されたグリーンランド国旗。2月5日、グリーンランドのヌークで撮影。REUTERS/Sarah Meyssonnier

[コペンハーゲン(デンマーク)23日 ロイター] - トランプ米大統領は22日、米国の国家安全保障にはグリーンランドが必要だと改めて主張し、グリーンランド特使に任命したランドリー米ルイジアナ州知事が「その先頭に立つ」と述べた。これに対し、デンマークとグリーンランドは強く反発した。

<トランプ氏はなぜグリーンランドを欲しがるのか>

グリーンランドは戦略的位置と資源の両面で、米国に利益をもたらし得る。欧州と北米を結ぶ最短ルート上にあり、米国の弾道ミサイル警戒システムにとって重要な地点でもある。米国は北極圏の同島にある既存の軍事的プレゼンスを拡大し、同島とアイスランド、英国の間の海域を監視するレーダー配備などを検討してきた。周辺はロシア海軍の艦艇や核搭載潜水艦が通過する海域とされる。

トランプ氏は22日、フロリダ州パームビーチで記者団に「グリーンランドは鉱物資源のためではなく、国家安全保障のために必要だ。グリーンランドの海岸線を見渡せば、至る所にロシアと中国の船舶がいる。我々はそこを手に入れる必要がある」と主張した。

船舶データによると、北極海域における中国の船舶の大半は、ロシア近海の太平洋北極圏および北極海航路を航行している。一方、ロシアの船舶の大半はロシア沿岸を航行しているが、アナリストらはロシアの潜水艦がグリーンランド、アイスランド、英国間の海域を頻繁に航行しているとみている。

広く北極圏を見れば、北大西洋条約機構(NATO)加盟国、中国、ロシアの活動拡大に伴い、ますます軍事化が進んでいる。最大都市ヌークはデンマークの首都コペンハーゲンよりもニューヨークに近い。島には鉱物資源に加え、石油や天然ガスも埋蔵しているとされるが、開発は遅れており、鉱業分野への米国の投資は極めて限定的にとどまっている。

<米国の存在感>

米軍はグリーンランド北西部のピトゥフィク空軍基地に駐留している。

1951年の米デンマーク協定は、デンマークとグリーンランドへの通告を条件に、米国がグリーンランド内を自由に移動し、軍事基地を建設する権利を認めている。

コペンハーゲン大学軍事研究センターの上級研究員、クリスチャン・ソービー・クリステンセン氏によると、歴史的にデンマークが米国に配慮してきた理由は、デンマークにグリーンランドを防衛する能力が乏しい上、NATOを通じて米国がデンマークに安全保障を保証しているためという。

<グリーンランドの現在の状況>

かつてデンマークの植民地であったこの島は、1953年にデンマークの正式な領土となり、デンマーク憲法の適用を受けている。

2009年、この島は国民投票を通じてデンマークからの独立を宣言する権利を含む広範な自治権を与えられた。

同年の法律に基づき、グリーンランド議会は、完全独立に向けた交渉をデンマークと始める条項を発動できる。独立には住民投票での承認が要る。さらに、デンマークとグリーンランドの独立協定にはデンマーク議会の同意も必要になる。

<グリーンランド側の思惑>

グリーンランドとデンマークの関係は、植民地支配下での不公平な処遇が明らかになって以降、緊張してきた。だが、トランプ氏の関心が高まるにつれ、デンマークは関係改善に力を入れ始めた。

世論調査では、人口約5万7000人の住民の大多数が独立を支持するとされる。ただ、独立を急げば暮らしが悪化し、米国の圧力にさらされるのではないか──。そんな懸念も根強い。

グリーンランドの経済は、輸出の95%以上を占める漁業と、国家予算のおよそ半分を賄うデンマークからの年間補助金に依存している。

<独立した場合>

仮にグリーンランドが独立しても、米国領にならずに米国と関係を結ぶ余地はある。いわゆる「自由連合」として米国と協定を結び、デンマークの補助金を米国の支援と保護に置き換える一方、軍事的権利を米国に認める枠組みが想定される。マーシャル諸島、ミクロネシア連邦、パラオに似た形だ。

グリーンランド専門家のウルリック・プラム・ガド氏によると、トランプ氏のグリーンランド購入構想は、国際法と自己決定の原則―住民が自らの政治的地位を選ぶ権利―に関する誤解に基づいているという。

<デンマークへの圧力>

トランプ大統領は、ルイジアナ州知事ランドリー氏をグリーンランド特使に任命した。ランドリー氏は、グリーンランドを米国の一部にする構想を支持している。こうした動きに、デンマークとグリーンランドの反発は強まった。

<デンマークとグリーンランドの反応>

トランプ大統領が一期目の任期中に島の購入を申し出た際、デンマークのフレデリクセン首相は「ばかげている」と批判した。

フレデリクセン氏とグリーンランドのニールセン首相は22日の共同声明で「他国を併合することはできない。国際安全保障を理由に議論したとしてもだ」と反発した。

デンマークのラスムセン外相は、特使の任命をめぐって米国大使を呼び出した。会談後、ラスムセン外相は、デンマークとグリーンランド側の代表は米大使に対し、「越えてはならない一線」を示した、と語った。

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Based in Copenhagen, Jacob oversees reporting from Denmark, Iceland, Greenland and the Faroe Islands. He specializes in security and geopolitics in the Arctic and Baltic Sea regions, as well as large corporates such as obesity drug maker Novo Nordisk, brewer Carlsberg and shipping group Maersk. Before moving to Copenhagen in 2016, Jacob spent seven years in Moscow covering Russia's oil and gas industry for Dow Jones Newswires and The Wall Street Journal, followed by four years in Singapore covering energy markets for WSJ and Reuters.

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