ノーベル賞渇望するトランプ氏、陰に陽に働き掛け-選考委員会に圧力

2010年のノーベル平和賞発表に先立ち、選考委員会は中国の反体制派が受賞すれば深刻な影響が及ぶだろうと中国とノルウェーの当局者から警告を受けていた。この脅迫を選考委員会は無視し、人権活動家で獄中にあった劉暁波氏に賞を授与することを決めた。

  ただ、ノルウェーが中国との外交的・経済的関係を修復するのには6年かかった。

  選考委員会の管理部門であるノルウェー・ノーベル研究所のクリスチャン・ベルグ・ハルプヴィーケン所長は「中国当局は受賞を阻止しようと組織的に動いていた」と述べ、「選考委員会が独立しているという事実を受け入れるのは難しかったようで、中国は明確なメッセージと警告を送ってきた」と当時を振り返った。

  その独立性はいま再び試されている。今回の相手は陰に陽に攻撃的なロビー活動を展開するトランプ米大統領で、10日の受賞者発表が迫るここ数日、働き掛けはいっそう強まっている様子だ。

  トランプ氏は先週の国連総会で「私がノーベル平和賞を受け取るべきだと誰もが話している」と主張。大統領1期目の2020年に、イスラエルとアラブ数カ国の外交関係を正常化させた「アブラハム合意」で自分と米国は正当な評価を受け取っていないと不満を示した。

  トランプ氏は今年1月の大統領返り咲き以来、インドとパキスタンの武力衝突、コンゴ民主共和国とルワンダが支援するその反政府勢力との戦闘、タイとカンボジアの国境紛争など、少なくとも6つの戦争を終わらせたと繰り返し述べている。ただ、この「実績」については、衝突自体が小規模または事実上かなり前に終わっていた、トランプ氏の関与は限定的だったとして、同氏が唱えるほどの称賛には値しないとの声もある。

  それでも、ロシアとウクライナの戦争やイスラエルのガザ侵攻の終結に向けた取り組むに関与するウィトコフ特使は8月の閣議で、ノーベル選考委員会は「いい加減しっかりして」、トランプ氏に賞を授与すべき時だと発言した。

  9月30日にはトランプ氏が米軍幹部との集会で、自分がノーベル平和賞を取るとは思っていないと述べつつ、「どうせろくなこともしていない人物にやるのだろう。そのような結果は、米国に対する大きな侮辱だ」と話し、選考委員会に圧力をかけた。

  この発言の24時間足らず前に、トランプ氏はイスラエルのガザ侵攻終結に向けた20項目から成る和平提案を発表した。この提案をイスラエルは受け入れたが、イスラム組織ハマスは正式な回答をまだ控えている。

米国のウィトコフ特使(前列左から2番目)とルビオ国務長官(同右から1番目)

  ウィトコフ氏は欧州当局者との非公表の協議でも、トランプ氏のノーベル賞受賞について提起していると、匿名を要請した当局者が明らかにした。ルビオ国務長官も折に触れてトランプ氏受賞への働き掛けに動員されているという。

  7月には、トランプ氏が直接、北大西洋条約機構(NATO)前事務総長でノルウェーの財務相を務めているストルテンベルグ氏に電話。オスロ市内を歩いていたストルテンベルグ氏にトランプ氏は関税について話し始めたが、そこでノーベル賞についても切り出した。このエピソードはノルウェー経済紙のダーゲンス・ナーリングスリーブがまず報じ、同国報道官が事実を確認した。

  企業も関わっている。米製薬大手ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)は最近、新型コロナウイルスワクチンの早期開発を可能にしたトランプ政権1期目の「ワープ・スピード作戦」について、「ノーベル平和賞に値する」取り組みだったと称賛した。

  ノーベル研究所のハルプヴィーケン所長は、委員会が「直接的な政治的圧力を受けたことはない」としながらも、「公の場と私的な場の両方で、複数のキャンペーンが行われているのは明らかだ」と語った。トランプ氏を名指しはしなかった。同所長によると、過去には「委員会に影響を及ぼせると考えられるメディアや関係者」に働き掛けるため、ノルウェーのPR会社が雇われた例もあるという。

  ノーベル平和賞の5人の選考委員はノルウェー議会によって選ばれる。協議内容は50年間非公開とされているため、トランプ氏が受賞する場合を除き、同氏が候補に挙がったかどうかを確認できるのは半世紀後になる。

  固唾をのんで発表を見守っているのは、ノルウェー政府も同じだろう。匿名を要請した同国政府高官は、トランプ氏が受賞を逃した場合にどのような行動を取るだろうかと問われ、自分は病欠を取ることを考えていると冗談交じりに語った。

  実際、発表のタイミングはノルウェー政府にとって理想的とは言えない。世界最大の2兆ドル(約295兆円)の運用資産を抱える同国の政府系ファンドは最近、パレスチナ自治区ガザへの侵攻に関連があるとして多数のイスラエル企業から資金を引き揚げ、イスラエルがガザで使用したブルドーザーを供給した米キャタピラーもポートフォリオから除外した。

  これを受け、米共和党所属の上院議員からは、ノルウェー政府系ファンドの幹部に対するビザ発給制限や、同国に課す関税の引き上げを求める声が上がっている。

  ノルウェーのアイデ外相はトランプ氏が受賞しなかった場合の影響について、「選考委員の判断次第と言うだけだ。委員会は独立した存在であるということを忘れてはならない」と強調した。

2024年のノーベル平和賞授賞式(昨年12月10日、オスロ市庁舎)

原題:Trump Wants the Nobel Prize and Is Applying Pressure to Win It(抜粋)

— 取材協力 Alberto Nardelli, Daryna Krasnolutska and Eric Martin

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