600年の時を超え、一瞬の輝きを見せた「客星」の謎が解明される

Image: Public Domain / Wikimedia Commons

600年の時も、天文学的にみれば星のきらめきのように一瞬なんですよね。

1408年10月、明王朝時代の中国で、宮廷の天文学者たちが不思議な天文現象を観測しました。それはまるで夜空に固定されたかのように動かず、10夜以上にわたってまぶしく輝き続けていた黄色い光の点でした。

当時の記録には「杯ほどの大きさ」「光沢があって明るい純粋な黄色」と記述されており、その光景が印象的だったことから、正式に記録されました。

600年以上前の記録が謎を解く手がかりに

この1408年に現れた客星(新星や超新星、彗星などの突発的に現れる明るい星)は、数世紀もの間ずっと正体不明の歴史的な謎とされてきましたが、最新の研究でついにその謎が解き明かされたようです。

中国科学技術大学の天文学者、Boshun Yang氏が率いる研究チームは、査読前の論文を公開できるプレプリントサーバーのarXivに投稿した最新の研究論文で、「1408年の客星」に関する新たな史料を紹介しています。

研究チームが注目したのは、当時、皇帝への祝辞や賛美の詩を担当していた宮廷官僚のHu Guang氏による記録です。以前の記述よりも詳細で信頼性の高い情報を提供しているこの文書は、偽造や誤った解釈の可能性を排除する根拠になったといいます。

輝き続けた新星の可能性

Image: Yang et al. 2025 / arxiv

Guang氏の記録によると、この天体は南の空にある「Niandao(上の星図の右上部分)」という古代中国の星群(現在のはくちょう座やこぎつね座にあたる領域)に現れ、10日以上にわたって観測できたといいます。

上の星図の黄色く囲まれた領域に出現した客星は、空を横切る彗星や流星とは異なり、この天体は静止して明るさを維持していたことから、星である可能性が高いそうです。

突然明るさを増し、その後徐々に暗くなるこの天文現象は新星の特徴と一致するといいます。研究チームによると、この新星は異常に長い間安定して輝き続ける「プラトー型」だった可能性が高いとのこと。

興味深いことに、研究チームは当時の政治的な事情が、この天文現象の表現にも影響していたと指摘しています。というのも、古代中国の学者は、天文現象を皇帝に報告する際の記述に慎重で、皇帝が今後に楽観的でいられるよう、良い印象を与える表現が求められていたといいます。

Universe Todayは、この新星に関する報告でも、「とげがある」などの不吉な印象を与える表現を避けて、「黄色」や「光沢がある」といった言葉を用いていると伝えています

古文書と現代天文学の交差点

研究チームは、今回見つかった新しい歴史的文書と、現代の天体物理学の知見を組み合わせることで、1408年に観測された客星はほぼ間違いなく新星だったと主張しています。この発見によって、古代中国の記録と現代の天文観測が一致する事例がまたひとつ増えたことになります。

Image: NASA, ESA, CSA, STScI, T. Temim (Princeton University)かに星雲

そのような例としては、1054年に出現し、中国の天文学者による観測記録が残されている超新星が挙げられます。この現象によって、現在の「かに星雲(上の画像)」が誕生し、いまではウェッブ宇宙望遠鏡などによってその姿が鮮明に捉えられています。

こうした観測記録からわかるのは、人類の歴史のなかでは遠い過去の出来事であっても、宇宙の時間の流れから見るとほんの一瞬にすぎないということ。さらに、こうした古い記録は現代の天文学にとって重要な土台になっており、新しい発見の背景として使えるだけでなく、発見そのものを後押しする力にもなっているのです。

自分の残したものが、自分がいなくなって何百年もたってから日の目を見るって、なんかいいな。

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