【打撃一閃】分かち合った"苦しみ"…職人肌から「信念を感じる」 長谷川勇也が語る中村晃
ソフトバンクの中村晃外野手が通算1500安打を達成した。鷹フルでは、長谷川勇也R&Dグループスキルコーチ(打撃)を単独インタビュー。自主トレをともにした時代から今に至るまで、大切な後輩の“歩み”を振り返ってもらった。背番号7が見せ続ける打撃の真髄を徹底解説。同じ道を進むからこそ理解できる「苦しみ」を、赤裸々に語った。
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頬を緩ませて、懐かしそうに口を開いた。打撃における“真髄”を追い求めてきた2人だ。「僕もレギュラーになる前の頃、一緒にやっていた練習はとても印象に残ってますね。まだまだ2軍の選手ではあったけど、『なんとかこのプロ野球の世界で活躍してやろう』みたいな気持ちは、2人とも強かったと思います」。1500安打という節目に愛弟子がたどり着いた。「ずっと試合に出ることができれば、絶対に打てるような選手になると昔から思っていました」。
長谷川コーチはルーキーイヤーの2007年に故障離脱を経験。1軍出場を果たせないまま1年を終えた。「僕が1年目に怪我をしていて、ほぼシーズンやっていなかったんです。そのオフ、めちゃくちゃ練習したんですけど、入団してきたのが彼でした」。帝京高からドラフト3位指名でホークス入りした中村晃と、ここで出会った。「2年目のオフぐらいからは一緒に練習したのかな。だから晃はすぐに(僕に)言ってきたってことですよね。一緒に練習したのはよく覚えています」と振り返る。
まだ10代だった背番号7。当然、技術を吸収したい気持ちを抱きつつも、2人の自主トレはまさに“黙々”と行われていたという。「そんなに口数が多い方じゃない。性格的にも似ていたとは思うんですけどね。本当に2人とも野球しかないから。練習していても、会話を交わすというよりは黙って打ち続ける感じでした」。職人肌であることも大きな共通点。寒空の下で打球音だけが響く姿も、なんだか想像できてしまう。
今では中村も後輩を引き連れて自主トレをするようになったが、積極的に助言を送ることはない。プロ野球選手として「一人の時間」を大切にしてほしいからだ。長谷川コーチも「技術を獲得、習得するっていうのは自分と常に会話していないと、難しいと思うんですよ。僕たちの時も、お互いにそこに集中してやっていた感じですかね」という。若手時代から、バッティングを極めたい思いはともに抱いていた。「自分のスタイルはこれだって、ちゃんと貫き通す。晃は“信念”を感じる選手です」。そう語る表情は誇らしげだ。
現役時代に通算1108安打を放ち、2013年には首位打者と最多安打を獲得した長谷川コーチ。同年に残したシーズン198安打は、今も輝く球団記録だ。引退後は指導者となり、後継者の育成に心血を注いでいる。「評価の目」で中村を見た時、打撃面のすごさはどこにあるのか。即答で挙げたのは「空振りしないこと」だ。
「僕は中途半端にバットコントロールがあるタイプだったし、首位打者になった年も100三振(111)しました。僕は三振が多いけど、晃は本当にバットコントロールが上手い。野球センス、器用さはすごいなと思うんですよね。守備にしても、バットコントロールにしても、その器用な部分は僕にはなかったものです」
自主トレをともにするようになった10代の頃から、バットに当てる技術は突出していた。「だから平然と初球を見逃せるんですよ。2ストライクに追い込まれたり、カウントが深くなっていっても勝負ができる。今もそうですけど、若い時からそのスタイルだったのは、当てる能力があるからですよね」。長谷川コーチが通算4409打席で808三振を喫したのに対し、中村は6321打席で641三振。これこそが、背番号7が誇る最大の持ち味だ。
「器用さが彼の一番の長所。守備にしても、センスが僕とは違いますよね。僕はもう不器用だった。体の強さはあったので、数をやってなんとか身につけてきた。彼はもうサラッとできちゃうから。そこら辺の器用さはやっぱりもう敵わないなと。タイプ的には似ているけど、勝負するところはちょっと違うかなという感じです」
中村は11月に36歳を迎える。主に代打として戦った昨シーズンを「苦しかった」とも語っていた。晩年は代打稼業を極めようとした長谷川コーチは「彼なりに色々と考えて、代打の打撃を作り上げようとしていたと思うんですけど、ちょっと自分本来のスタイルとは違ったところで勝負していた。そういうところでの苦しさはあったんじゃないのかなと思います」。そう言えるのも、長谷川コーチだからこそ。思い悩む後輩を見守り、時には手を差し伸べてきた。
キャリアの終盤、長谷川コーチは右足首の不調とも闘っていた。「僕はどちらかというと、代打としてのバッティングに振り切った。(現役)最後の方はコンディションもあまり良くなくて、ずっと出られる感じじゃなかったので。だから1打席の勝負に重きを置きました」。今季の中村はスタメン出場を続けた時期もあり、万全の状態でグラウンドに立てている最大の証。ここからもう1度、ヒットマンとして花を咲かせてほしい。
「正直、どれだけ長くてもあと数年かなと思うんですけども。今まで通りやってくれれば、その下にいる人たちにも、何かいいものを残せる。これまでと同じようにやってくれれば、若い選手は必ず見本になると思うし、後輩たちに引き継いでいけるんじゃないかなと思います」
1500本目のヒットを自分のことのように喜んだのは、ともに歩んできたから。長谷川勇也と、中村晃。打撃を極めた2人の男は、ホークスが誇る財産だ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)