マイケル・セイラー氏の暗号資産戦略、ウォール街を圧倒-追随許さず

ウォール街では暗号資産(仮想通貨)ブームに乗るための強化型上場投資信託(ETF)やトークン化ファンド、仕組み商品といった新たな投資手段が次々に登場している。だが、最大のリターンをもたらしているのは、マイケル・セイラー氏の手法だ。

  セイラー氏が率いるストラテジー社(旧マイクロストラテジー)は小口投資家による投機熱が続く中、資本市場を活用した先駆的手法で知られる。基本戦略は、株式と社債を発行して資金を調達し、それを仮想通貨ビットコインの購入に充てるというものだ。相場が上昇すれば再び資金を調達し、買い増す。このサイクルを繰り返している。

  昨年大幅な利益を得たセイラー氏のこの資本市場戦略は今のところうまく回り続けている。ストラテジーの株価は年初から約26%上昇しており、ビットコインの16%高を上回る勢いで、ナスダック100指数構成銘柄の中で屈指の高パフォーマンスを記録している。

  同社の株価は、保有するビットコインの評価額を大きく上回るプレミアムが付いており、これが上昇局面ではロケット燃料のように働き、ETFを含む他の暗号資産関連銘柄を圧倒。米国内にある74本の暗号資産ETFのうち、1本を除いた全てを上回るパフォーマンスを記録している。

  「セイラー氏は最も早く参入し、最もレバレッジをかけた」とミラー・タバクのチーフ市場ストラテジスト、マット・メイリー氏は述べ、「彼はビットコインだけでなく、自社株や株式市場そのものを活用し、適切なタイミングでレバレッジをかけている」と指摘した。

  同社株に2倍のレバレッジをかけて連動するETFの「MSTX」や「MSTU」でさえ、今年は約1%下落しており、ストラテジー株のリターンには及ばない。こうしたレバレッジ型ETFは営業日ごとに保有比率を調整するため、価格変動が大きい局面では「ボラティリティー・ドラッグ」により中長期リターンが下がる恐れがある。

  一方のストラテジーは、株価の上昇が資金調達能力を高め、それがさらなるビットコイン購入につながるという自己強化型の構造を持つ。今月、ビットコインが最高値を更新する中、この戦略は勢いを増している。

  ウォール街はさらに多様な商品の開発を進めており、ストラテジーのライバルの数は増加している。トランプ米大統領の関連企業も25億ドル相当の株・社債発行でビットコイン購入資金を調達する計画だ。

  それでも、他社が再現することが困難なのはセイラー氏への圧倒的な「信奉」だ。ストラテジーは単なるビットコイン連動銘柄ではなく、暗号資産に強い信念を持つ層が自らの確信を表明するための手段であり、レバレッジ型かつ物語性を帯びた「自己増幅的」な銘柄だ。株価はビットコインと連動するだけでなく、それを糧にして動く。個人投資家にとっては、このプレミアムこそが投資の本質であり、ストラテジーの特異性を際立たせている。

  その結果、ブラックロックの「IBIT」など、低コストで機関投資家向けのビットコイン投資手段が登場しているにもかかわらず、ストラテジーは依然として他に類を見ない存在となっている。同社の時価総額は、セイラー氏がビットコイン購入計画を初めて公表した5年前には10億ドル程度だったが、現在は1000億ドルを超えている。保有するビットコインの規模も600億ドル超と、模倣企業の追随を許さない。

  さらに同社は、株式と債券を組み合わせた資金調達で、追加のビットコイン購入に向けて840億ドルを調達する計画も明らかにしている。

原題:Wall Street Can’t Beat Michael Saylor’s Runaway Crypto Engine(抜粋)

関連記事: