「不思議と負けそうな感じはしなかった」横浜の強さを探る 担当記者放談
第107回全国高校野球選手権神奈川大会は横浜の優勝で幕を閉じた。昨秋、春と日本一に輝いてきた名門は、5日開幕の選手権で史上9度目の甲子園春夏連覇に挑む。
神奈川大会は接戦の連続だった。準々決勝以降の3試合が逆転勝ちで、九回2死の土俵際まで追い詰められた試合も。そこで見えた横浜の強さとは─。神奈川新聞の高校野球担当が戦いの軌跡からひもといた。(和田秀太郎記者、松村祐介高校野球デスク、和城信行編集委員)
負けない強さ
松村 横浜の優勝をどう見ましたか?
和田 準々決勝は平塚学園に九回2死から逆転。準決勝は立花学園に、決勝も東海大相模に逆転勝ち。結果だけみれば苦戦です。
和城 でも不思議と負けそうな感じはしなかった。
松村 平学戦は九回2死のフルカウントから阿部葉がサヨナラ二塁打。
和城 この試合が一番苦戦したってことになると思うんだけど、印象的なのは準決勝後の村田監督の話。「平学戦では何も言わなかったけど、立花戦(準決勝)は四回表が終わったところで、受け身になるなと強く言った」と。
和田 その時点で0─3。裏に奥村頼の1本目のホームランが出ます。
和城 村田監督は「平学戦があったのに、まだ本気になっていない。それはないだろう」と怒ったと。だから平学戦も立花戦もリードはされていたけど、どこか余裕というか、自信があった。
松村 余裕と言うと、村田監督は首を振りそうですが。
和田 奥村頼の1本目はバックスクリーン弾。あれで球場の雰囲気が一変しました。2本目の逆転3ランはもちろんですが、私はあの1本目が大きな意味を持っていたと感じます。監督のげきに応えて一振りで流れを持ってきた。
松村 決勝でも三回に中村の大きなホームランで東海大相模に3点を先制された。
和城 そこでは監督は「ゲームセットまで、まだまだ長い旅だから」と選手に話している。
松村 先行されるのを恐れない。確かに中村の一発の後の四回に奥村頼が2ランを打って、その後1死一塁から池田が送りバント。1点ずつ返していこうという采配だけど、結果的にあのバントが効いた。
和城 大会中、何度か村田監督が話していたのは2年前の決勝、慶応戦の反省。九回表の併殺プレーを巡って微妙な判定があって、そこから気持ちを切り替えないままま選手たちをグラウンドに出してしまったと。だから今年は、最後まで全員で全力でと求めた。
和田 確かにリードされても慌てないから、焦って相手の術中にはまることがなかった。選抜はほぼほぼ先行して継投でねじ伏せたので、勝ち上がり方が全然変わっています。
ベンチの強さ
和田 投手起用も全然違ってますね。
松村 決勝は最後に奥村頼に代えるかなと思ったけれど、背番号16の前田が投げ切った。取材陣がむしろ驚いたが、村田監督から「これまで投手陣を引っ張ってきた」と送り出された前田は、「やってきて良かった」と意気に感じていた。
和城 相変わらず継投判断は早いけど、平学戦はワンポイントの片山が四球を出して、織田に替えて押し出し死球。采配がはまったとは言えなかった。
和田 それでも自信を持ってバンバン替えていく。春は最後は奥村頼がいるぞっていう安心感がありましたが、それとは違う。夏は1人が不調でも他にいる。
和城 奥村頼に関して言うと、決勝後の村田監督は「神奈川大会は奥村にはバッティングで頑張ってもらうつもりだった」と明かしていた。すごい思い切りだと思う。
和田 春の関東大会で奥村頼抜きで戦ったのが生きています。山脇も片山も、選抜で積んだ経験を生かした。夏は1年生の大型左腕、小林も投げた。
松村 ほぼ打撃に専念した奥村頼は疲労もなく甲子園を迎えられる強みがある。この投手層は全国屈指でしょう。
和城 唯一最後まで決まらなかったのがライトだね。奥村頼がレフトに入ってセンターは阿部葉。ライトはいつも悩ましい。
和田 今村と江坂を相手に応じて左右で使い分けるイメージですよね。村田監督は大会後、「良い代打がいなかった」と話していました。今のチームで代打で結果を出していくのは相当な精神力が必要。春は4番にも座った伊藤や1年生川上がメンバー変更で入るので、期待したいです。
選手の強さ
松村 そうはいっても阿部葉と奥村頼のチームという面はある。
和城 奥村凌、池田、小野、為永も。内野全員になっちゃうけれど、これだけベンチメンバーが活躍しても、やはりレギュラーの質が高い。
和田 準々決勝、準決勝はまさに内野の堅い守りで相手打線の心を砕いた感じでした。特に奥村凌。
和城 5回戦の藤嶺藤沢戦ではいいコースの内野ゴロをぎりぎりで何度もアウトにして、藤嶺は「どこに打っても」と思ったんじゃないかな。守りでじわじわ優位に立った。
和田 150キロ右腕の織田も、もちろん活躍しないといけない。織田は正直なところ、球自体は秋、春の方が迫力があったかもしれません。でも打撃はずいぶん良くなって、横浜の理想の投手像に一歩一歩近づいている。
松村 奥村頼は選抜決勝の最後に登板できなかった悔しさを忘れていない。「優勝投手」への熱い思いを力に変えるはず。村田監督も「甲子園は投手でいくぞ」と鼓舞している。
和城 甲子園では春のように阿部葉、奥村頼、織田という主力が引っ張る試合が理想なのかな。
松村 夏の甲子園は全国から段違いの注目を集めますからね。モノの違いを見せつけるような野球も見てみたいし、できると思う。
和田 でも村田監督は意外にそうでもないのかも知れません。「逆転の横浜」という自信を神奈川大会で身につけたということで、9回を俯瞰(ふかん)して1点でも多く取っていればいいという大人の戦い方をすると思います。
和城 あとうれしいのは、村田監督も阿部主将も「神奈川の全チームの気持ちを背負って」と言ってくれるところだね。決勝直後のベンチでのミーティングでも言っていた。
和田 チームは1日に大阪入りです。同行して日々レポートしますので、よろしくお願いします。