着けた瞬間にわかった。ウェアラブルカメラは「眼鏡型」じゃなくて良かったんだ
パッと見はネッククーラー。でも、どうやら違いそう。CEATEC 2025の「フェアリーデバイセズ」ブースで出会ったのは、U字型の首掛けデバイスです。
軽っ。
いや、正確には「重さが気にならない」と言うべきか。ヘッドセットカメラをつけているような圧迫感も、眼鏡型デバイスのような鼻への負担もありません。それが、ウェアラブルカメラ「THINKLET」の第一印象でした。
どこでも使える、首掛け型ウェアラブルデバイス
THINKLETの重量は170g。搭載されたカメラは8MPで、視野角は水平120度×垂直90度(「横広角機」の場合。縦広角機の場合は90度×120度)と、装着者の視野全体をカバーしてくれます。
Photo: 長谷川賢人特筆すべきは、ウェアラブルデバイスでは珍しい5chマイクアレイ(※)。さらに「XFE」技術という独自のフロントエンド音声処理エンジンも搭載し、騒音の多い工場や建設現場でも人の声をクリアに集音できるといいます。
※マイクアレイ:複数のマイクが並んで配置され、同時に複数マイクの信号を取得できる装置のこと。
あとで撮影した映像を見てみたら、ざわざわした会場内でもスタッフさんとの会話がくっきり録音できていました。ピンマイクも無いのにびっくり。
Photo: 長谷川賢人録画データからキャプチャ。画質は現代的にはやや物足りなさも感じるが、必要十分だろう。ただ、何よりも音声データの明瞭さは特筆もの。映像から「作業マニュアル」もAIが自動生成
そして、このデバイスはAIエージェントと組み合わせると、さらに真価を発揮!
というのも、フェアリーデバイセズが挑んでいるビジネスは、空調機器などの保守・メンテナンス業務や、工場・プラントといった現場作業員の職場改善。人手不足はもちろん、熟練の作業者が持っているスキルの継承など、たくさんの課題があるんです。
THINKLETで作業履歴を映像として残すことで、熟練の業を誰もが振り返れるようにしたり。あるいは、業務提携先のブレインパッド社と開発を進める「作業動画解析AIエージェント」を使って、映像からほぼ自動で作業マニュアルまで生成できたり。
Photo: 長谷川賢人Photo: 長谷川賢人うわ〜、いちいち手順ごとに写真撮って文章を細かに書いて……みたいな作業が無くなるだけで、めちゃくちゃ楽ですよねコレ。AIが映像からイイ感じに切り抜いて、説明も添えてステップ・バイ・ステップにしてくれるから、あとは人間がチェックして仕上げればOKと。
それから、THINKLET自体にSIMスロット内蔵で、ZoomやTeamsといったビデオ会議ツールとも簡単に接続できるのも大きい。熟練者が新人の作業をリアルタイム指導したり、保守作業で現場を共有しながら対応方針を相談したり、といった使い方も可能になるわけです。
「作業者にとっては、後ろに上司が立っているかのような感覚でサポートしてもらえる」とスタッフさん。その表現、まさに的確!
現場の声からたどり着いた「首掛け」が良い理由
Photo: 長谷川賢人「いや〜、なんで今まで無かったんでしょうね」
僕がそう呟くと、スタッフの方は苦笑いを浮かべながら答えてくれました。
「たぶんみんな、ドラゴンボールのスカウターみたいに、眼鏡とか頭にモニターがあるのに憧れるんですけど……現場ではそうじゃないんですよ」
実際、フェアリーデバイセズも最初はヘッドマウント型を開発していたそう。でも、現場の声を聞きながら改良を重ねた結果、辿り着いたのがそもそもの形状変更。ボタンは最小限に、操作も可能な限りシンプルに。そして何より、壊れにくいのも大事。
「カメラを頭につける場合、狭い場所での作業など、ぶつけてしまうリスクがある。でも、首掛けだと肩や頭の方が先に当たるので、壊れる心配がずっと少ないんです」
Photo: 長谷川賢人SIMスロットやストレージなど、首掛け部分にパーツを集約。まさに首掛け型のスマートフォンと言ってもいい。今は眼鏡型のカメラデバイスも出てきていますが、保護ゴーグルなどが必須な現場作業もありますよね。その点、首掛け型デバイスなら作業者の両手も空いて、無理のないかたちで使い続けられる。今では現場作業だけでなく、いろんな企業と協力して応用範囲を広げているところだそう。
うーん、ウェアラブルカメラの「正解」って、もしやコレだったのでは…?
YouTubeがスポーツ少年のレベルを上げたり、DIYや料理などの裾野を広げたりしたように、「動画でわかる」って、とても大事。これからは作業現場でのマニュアル作成、新人教育、遠隔支援など、まさにすべてが「見てわかる」ように変わっていくのかも。
そんな時代なら、THINKLETみたいなデバイスがスタンダードになってもおかしくない!と感じたのでした。
ちなみに、お値段は業務用機器だけあって要お見積り。いつか民生機が出たら買っちゃうなぁ。イベント取材とかライフログとか捗りそう!