【最終回】『魁!! 男塾』の宮下あきら先生のロングインタビュー第6弾「民明書房」と「ジャンプ黄金期」について

古今東西どれほどの数の出版社があったかは知らないが「民明書房」ほどミステリアスな出版社は他に無いだろう。民明書房とは『魁!! 男塾』に登場する架空の出版社だが、当時の少年たちは本気で民明書房の存在を信じていた。

さて、長きにわたりお届けしてきた宮下あきら先生のロングインタビュー企画もいよいよ最終回! 今回はその「民明書房」を中心に伺った話をお届けしよう。

・謎の出版社

1980年代~90年代にかけての「ジャンプ黄金期」には、数多くの名作が掲載されていた。読み飛ばす作品が1つもないほど充実のラインナップの中、それでも男塾が好きだった人は「民明書房」も大好物だったに違いない。

子どもたちが本気で信じた民明書房の説得力たるや……! 果たして宮下あきら先生は、どのように民明書房を思い付いたのだろうか?

宮下先生「そもそも民明書房は、白土三平先生の忍者漫画の影響が大きいんだ。白土先生も漫画の中で説明文を書いてて、それが子どもながらにとても印象的だった。それを自分なりにアレンジしたのが民明書房だね。

民明書房があったおかげで他の格闘漫画との差別化は出来たんじゃないかな? 男塾は戦う舞台が特徴的だったよね? 縄の上だったり、水の中だったり、火を使ったり。

その舞台と民明書房がいい具合にマッチしてたと思うし、説得力が出たんじゃないかな? 呉竜府(ゴ リュウフ)とドスコイ・カーン? あれも面白かったよね(笑)」

民明書房のルーツは白土三平先生だそう。たしかに民明書房のおかげで、他の格闘漫画とは違う謎の説得力があったことは事実だろう。では民明書房のエピソードは、どのように考えられていたのだろうか?

宮下先生「説明文はもちろん、書籍の名前も自分で考えていた。いつも原稿が描き終わった後、最後に民明書房の文章や画を入れてたんだ。ただ段々俺もエスカレートしてきちゃって、途中からは子どもでも怪しいぞって思ってたらしいよ(笑)。

男塾はもしかしたら民明書房を書いてるときが1番楽しかったかもしれないね。民明書房のエピソードは書いてて楽しくて、自分でも笑ってたもん(笑)。

お気に入りは「カクゴール」のくだりだね。書籍名の「かき氷屋三代記 ー我永遠に氷をアイスー」もそうだけど、挿絵のふんどしも最高だろ(笑)?」

「民明書房を書いてるときが1番楽しかったかもしれない」と語ってくれた宮下先生。私、本当の本当に全てのエピソードを信じておりました……! 先生も罪なお人よ……!! 楽しかったからオールOKですけど!

・男塾とジャンプ黄金期

さて、終盤に差し掛かってきたが『魁!! 男塾』は格闘漫画であり、ギャグ漫画であり、そして「男の教科書」的な側面があった。タイトルもそうだが、宮下先生は男塾にどんな想いを込めていたのだろう?

宮下先生「男塾ってタイトルだけど、俺は自衛隊とか相撲部屋とか応援団とか、男の特殊な世界が好きなんだよ。男塾のテーマがまさにそうだし “男の美学” みたいなものに惹かれるのはあるな。

男塾が終わった後には青年誌でも描いたけど、本質的にはそこまで変わらない。やっぱり “男” というテーマがあって、逆に俺はそれ以外は描けないんだ。だから「天より高く」は自分で描いてて楽しかったよ。

自分で俺は女々しい男だと思ってる。根性ゼロ(笑)。だからこそ “こういう男になりたい” みたいな憧れがあって、男をテーマにした作品になったんじゃないかな」

自分では女々しいと仰っていた宮下先生だが、何度も「自分が悪い」と口にする姿には、男の強さを垣間見た気がしている。少なくとも宮下先生は作品が、少年たちの “男像” に影響を与えたことは間違いないだろう。

最後に宮下先生に「少年ジャンプ」「ジャンプ黄金期」そして「集英社」について話を伺ってみることにした。

「少年ジャンプはやっぱり描き甲斐があったよね。発行部数も多かったし、作家への待遇も良かった。ジャンプは連載100回ごとに海外旅行もプレゼントしてくれるんだ。集英社は作家に本当に大事にしてくれたよ。

今の時代は紙物はそんなに売れないし、それを考えればあの時期のジャンプに描けたことはラッキーだったね。当時男塾を読んでた子どもが大人になって「男塾が好きでした」と言ってくれるのは本当に嬉しいな。

アメトーークの「男塾芸人」みたいに男塾を他のコンテンツで使ってくれるのもありがたいよ。サンドイッチマンのライブのイラストも描かせてもらったのも、地元・吉祥寺のサンロード商店街が男塾を取り上げてくれたのも嬉しかったね。

それもやっぱり当時の少年ジャンプで描いてたからだろう。サンロード商店街では冬のイベントでも男塾を使ってくれるみたいだし、今でも当時のジャンプの影響力の大きさを実感してるよ」

ジャンプ黄金期──。大げさに言えばそれは1つの少年誌を日本中の全少年が夢中で読んでいた時代である。もう2度とそんな時代は訪れないだろうし、世界中を見渡してもそんな雑誌は無いハズだ。

私はドラゴンボールも、スラムダンクも、ターちゃんも好きだった。だが、心を惹かれて初めてコミックを集めたのは『魁!! 男塾』であった。その作者である宮下あきら先生にお話を伺えたことは一生の自慢である。

・感謝

また一見イカつく見える宮下先生だが、インタビューではいたずら小僧のようにニコリとお笑いになる姿が非常に印象的であった。男塾のイメージとは違うかもしれないが「チャーミングで優しい先生」と感じた次第だ。

最後になるが、冷静に考えれば男塾はツッコミどころ満載の作品である。ただ当時の我々は、目と頭だけではなく心でも男塾を読んでいた。宮下先生のエネルギーがジャンプを通じて確実に少年たちに届いていたのだろう。

ジャンプの向こう側にいる数百万人の子どもたちを、全身全霊で夢中にさせてくれた宮下あきら先生。貴重な機会を与えていただいたことと併せて、厚く御礼申し上げます。どうもありがとうございました。押忍!

参考リンク:宮下あきら公式X 執筆:P.K.サンジュン Photo:RocketNews24. Ⓒ宮下あきら. Ⓒ集英社.

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