米国はドル離れを嫌いBRICSに擦り寄るのか? C5構想はコモディティ市場の波乱を示唆<コモディティ特集>

12/17 13:30 配信

 米ポリティコの報道によると、トランプ米大統領は主要7ヵ国(G7)の代替版であるコア5(C5)の創設を検討している。C5は米国、中国、ロシア、インド、日本の5ヵ国で構成され、欧州やカナダが排除される。G7やG20が現在の世界情勢に適していないとの認識がC5構想の背景であるという。 中国やロシア、インドが中核国であるBRICS諸国の台頭は世界経済の中心が西側からBRICSへ移行することを示唆し、ドル離れや米国離れを連想させている。米国の総債務残高は38兆ドル規模まで膨張し、債務拡大に依存した経済政策が不安視されていることもあって、米国離れやドル離れは自然な流れである。ただ、トランプ米大統領はこの潮流を変えようと、世界の中枢であるG7を作り変えようとしているのかもしれない。●BRICSへの接近はドル離れを食い止める手段か 今のところ非現実的かもしれないが、米国とBRICS諸国との連携強化は、ドル離れや米国離れを食い止める手段となる。ウクライナ停戦に熱心なトランプ米大統領はロシアの資源にも関心を向けているとの噂もある。ドル離れは米国の心臓部である米国債市場を揺るがし、持続可能性を不透明にしているため、米国が債務本位性を維持しようとするならば、ドル離れは放置できる問題ではない。金相場の高騰が示すように、過剰に流通するドルなどの紙幣は貴金属市場で処分されて、資産的裏付けのない通貨の存在意義に疑問を投げかけている。株式や債券など、ペーパー資産市場全体が懐疑の目線を向けられていると言っても言い過ぎではない。 米国が作成したロシア寄りのウクライナ停戦案からすると、米国がBRICSのなかでも特にロシアへ接近を試みているとの見方は単なる憶測ではないかもしれない。また、ロシアを敵視している欧州をウクライナ停戦協議から排除していることも米国の配慮なのだろう。ただ、米国がまとめたウクライナ和平案は、ロシアとの直接的な軍事衝突を望む英国やフランス、ドイツの妨害によって足踏みを強いられているため、和平の達成を糸口として米国がドル離れ阻止を目指すなら、米国は欧州をどうにかしなければならない。●ウクライナ戦争を巡り欧州と摩擦強める米国 米国が北大西洋条約機構(NATO)の通常防衛能力の大半を2027年までに欧州が引き継ぐことを望んでいると報道されていることは、米国の欧州に対するけん制である可能性が高い。NATO全体の防衛能力は軍事大国である米国がかなり担っており、これを欧州が引き継ぐことは無理だが、ウクライナ停戦を遅らせているNATOや欧州に対する米国の圧力であるとすると理解しやすい。BRICSの台頭によって米国離れが生じて、これが米国によるロシアなどBRICSへの接近を促し、次世代に向けた構想のなかで欧州が切り捨てられようとしているという仮定は成り立つと思われる。 今月、米政府が公表した国家安全保障戦略(NSS)では、「北大西洋条約機構(NATO)が果てしなく拡大していく現実を阻止する」と明記されたほか、「欧州の国々に自国の防衛の責任を負わせる」と強調した。米軍事専門サイト「ディフェンス・ワン」は、トランプ米政権がNSSの未公表部分で、米政権がイタリアとハンガリー、ポーランドとオーストリアなど欧州の4ヵ国に欧州連合(EU)からの離脱を勧奨する方針を打ち出していたと報道されるなど、欧州と米国の摩擦は着実に強まっていると思われる。 一方、EU域内にある2100億ユーロのロシア資産をEUが永久に凍結し、ウクライナに戦費を供給する担保として利用しようとしていることからすれば、EUは一線を越えようとしている。法的な問題から「凍結」となっているものの、実質的には「没収」である。ベルギーのバルト・デウェーフェル首相は、この計画はロシアの資金を盗むことに等しいと批判した。EUのウクライナへの資金供給は、ロシアのウクライナに対する戦後賠償が前提となっているため、欧州の中核国はウクライナ戦争におけるロシアの優勢を未だに一切認めていない可能性がある。 今週の週明けにかけてベルリンで開催された和平協議を経て、ウクライナ停戦期待が広がっているが、15日に欧州首脳が発表した共同声明は早期の停戦を目指していない。声明では「国際的な境界線は武力によって変更されてはならない」と再確認されたほか、ウクライナ国内でウクライナ軍を支援する欧州主導の多国籍軍の創設にも言及がある。匿名の米高官はウクライナ停戦に向けて90%の争点が解消されたと述べているものの、領土問題で欧州は譲歩する気はなさそうだ。欧州が譲歩しなければ、ゼレンスキー大統領もウクライナ東部の割譲を認めないだろう。●C5報道の裏に潜む大きなテーマ これまでのような覇権国ではないかもしれないが、米国が世界の中心に居座るには、ロシアやその資源が必要であるとしよう。米国にとってBRICSという経済的枠組みも同様に必要であり、そのためには早期のウクライナ停戦が必須であるとすると、欧州のなかでも英国やドイツ、フランスなどロシアとの直接的な軍事衝突を望む国は米国にとって障害となる。トランプ米大統領がBRICSにすり寄ってでも、既存の経済システムを維持しようとしているならば、C5報道には続きがありそうだ。テーマとして大きすぎることから、コモディティ市場では直視されづらいかもしれないが、ペーパー資産とハード資産の対立も含まれており、無視できるテーマではないと思われる。(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

株探ニュース(minkabu PRESS)

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最終更新:12/17(水) 13:30

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