新型コロナウイルス、中国の「責任」と「米科学者の脱線」
第2次世界大戦(太平洋戦争)が終わって80年の筋目を迎える今年、世界各地で追悼集会や様々な国際会議が開かれる。終戦から80年の年月が経過して、戦争を直接体験した関係者が少なくなってきたため、戦争の記憶を次の世代に継承することが一段と難しくなっている。
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ところで、世界を震撼させた新型コロナのパンデミックはまだ5年余りしか経過していないが、忘れられてきた。世界で700万人以上が犠牲となり、数億人が感染した中国武漢発の新型コロナウイルス(Covid-19)の発生源について、今なお解明されていないからだ。世界のメディアの関心もウクライナ戦争や中東問題などの諸問題に移ってきている。
世界保健機関(WHO)は今月、パンデミック条約の条文案を協議し、合意に達した。5月には条約が採択される予定だ。同条約はCovid-19のパンデミックを教訓にし、次のパンデミック対策をまとめた外交文書だ。WHOの努力は評価できるが、肝心のウイルスの発生源については依然、統一見解がないのが現実だ。原因が明確ではないのに、具体的な対策をまとめることができるだろうか。WHOのパンデミック条約は新型コロナ感染問題を早急に閉じたい中国側からの政治的圧力があったのではないか、といった憶測すら沸いてくる。
幸い、昨年末から今年に入り、武漢ウイルスに関連した新しい情報が明らかになってきている。ドイツ連邦情報局(BND)が昨年秋、独自で入手していた機密情報の存在を明らかにした。そして米中央情報局(CIA)、そして米ホワイトハウスがウイルスの発生源は「武漢ウイルス研究所」(WIV)だという見解を公式表明したばかりだ。
ホワイトハウスが新型コロナ起源でWIV流出説を支持する理由として、1)新型.ウイルスは自然界には存在しない生物学的特徴を持つ。2)WIVでは過去、生物安全基準が不十分な中で機能獲得研究などが実施されていた。3)2019年秋、華南海鮮市場でCOVID-19が確認される以前に、WIVの研究者がCOVID類似の症状を示していた事例が確認されている、等を挙げている。
それらの情報は説得力があるが、決定打ではない。状況証拠だ。欠けている点は関係者の証言だ。具体的には中国人ウイルス学者、「コウモリの女」と呼ばれている新型コロナウイルス研究の第一人者、WIVの石正麗氏らの証言だ。もちろん、中国共産党政権は彼らに証言させないだろうから、現時点では発生源を断言することは難しい。換言すれば、新型コロナのパンデミックの責任は事実を隠蔽する中国共産党政権にあるといえるわけだ。
BNDが2020年に入手したWIV関連の機密情報の存在について明らかにした時、中国外務省の報道局長・毛寧氏は北京で、「新型コロナウイルスに関する問題で、中国はいかなる形の政治的操作も断固として拒否する」と強調し、BNDのWIV流出説を一蹴している。
発生源の調査は問題の政治化ではなく、科学的事実調査だ。中国側は人権蹂躙問題を追及されると直ぐに「内政干渉」と言い逃れるように、新型コロナ感染の発生源問題の追及についても「問題を政治化する試みだ」と言って煙に巻く。
中国共産党政権が忘れてならない点は、新型コロナウイルスのパンデミックで世界で700万人以上が死に、数億人の感染者が発生し、多くは今なおその影響で苦しんでいるという事実だ。
調査ジャーナリストとして著名なシャリー・マークソン女史(Sharri Markson)は、「中国共産党政権は世界の覇権を握るために世界のグローバル化を巧みに利用し、最新の科学技術、情報を手に入れてきた。武漢ウイルスはそのグローバル化の恩恵を受けて誕生してきたのだ」と述べている。
例えば、ウイルスの機能獲得研究、遺伝子操作の痕跡排除技術は、米ノースカロライナ大学のラルフ・バリック教授、そして英国人動物学者で米国の非営利組織(NPO)エコ・ヘルス・アライアンス会長のペーター・ダザック氏らとの共同研究を通じてWIVの石正麗氏が獲得していった内容だ。ダザック氏らは米国の税金でWIVのコウモリ研究を支援してきた。その意味で、米国の科学者の落ち度も追及されなければならない。
トランプ大統領の関税政策を批判し、中国は「自由貿易を擁護している」と自負しているが、中国が非人道的な共産主義思想を国是としている限り、彼らの発言を信じることは出来ない。 繰り返すが、中国共産党政権は新型コロナのパンデミックで700万人以上の犠牲者が出たことを忘れてはならない。世界の死者数は、ナチス・ドイツが強制収容所で虐殺したユダヤ人の数よりも多いのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年4月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。