「正直、焦りはあった」浦和レッズが強い。その理由を、金子拓郎は肌で感じている。「最初は個人でやるだけで…」【コラム】
明治安田J1リーグ第14節が3日に各地で行われ、浦和レッズは東京ヴェルディに2-0で勝利した。埼玉スタジアム2002の大歓声を力に変えた浦和は、これで5連勝。序盤戦は苦しんだが、気づけば2位につけている。好調の理由はなんなのか。ピッチに立つ金子拓郎は、変化を肌で感じていた。(取材・文:石田達也)
挽回著しい浦和レッズに強すぎる味方『THIS IS HOME』
【写真:Getty Images】
5万2429人の大観衆を集めたホームゲームで2-0と快勝した浦和レッズ。2016年以来となるリーグ5連勝を達成し、暫定ではあるが2位まで順位を上げた。
マチェイ・スコルジャ監督はこのゲームのあと、「相手チームも立ち上がりからサポーターが作るテンションを感じながらプレーしていたと思いますので、このスタジアムのマジックが出たと言えると思います。そのサポーターとチームを称えたいと思いますし、感謝したいです」と話した。
その一方、東京ヴェルディの城福浩監督は「あの雰囲気をプラスに変えられたか、怖がらずにやれたかと聞かれると、そうとは言い切れない。腰が引けたという言い方がいいのか、そういった前半があったことは本当に悔やむところです」と、大きな赤いうねりとなって押し寄せるアウェイの空気感に呑まれたことを振り返った。
試合は、バックスタンドから『THIS IS HOME』と書かれたタオルマフラーを掲げたデザインによる壮大なビジュアルサポートと地鳴りのような声援でファン・サポーターが後押しをするなか、立ち上がりから浦和が主導権を握る。
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試合が動いたのは6分、松尾佑介が左サイドでマテウス・サヴィオからのボールを受け3バックの脇を攻略すると、対面した綱島悠斗を交わしカットイン。コンパクトに左足を振り抜くと、ボールは森田晃樹の足をかすめてゴールネットを揺らした。
その後も攻勢を続ける浦和は攻守の切り替えも早く、人とボールが良く動く。28分には金子拓郎が空中戦で起点を作り、渡邊凌磨がシュートを放つも、これはマテウスのファインセーブに遭う。1分後のコーナーキックでは、こぼれ球を松尾がボレーシュートで狙うが、谷口栄斗にかき出された。
金子は攻撃に奥行きを出すため、ボールが出てこなくても何度も裏に抜ける動きを繰り返す。
「点を獲るために裏抜けは絶対に必要。浦和はボールを出せる選手が多いので、今日も何本か、もう少し合っていれば抜け出せたシーンはありました。最後の合わせるところだけなので、引き続き自分も動き出しを意識したいです。また自分は出し手にもなれますし、両方できるのが強みなので継続していきたいです」
すると31分に浦和に追加点が入る。コーナーキックの場面でキッカーの金子がすぐそばのマテウス・サヴィオに転がすと、ブラジル人MFはグラウンダーのクロスを送る。そのこぼれ球を拾った渡邊が右足で鋭いシュートを放ち、相手ディフェンダーに当たりながらネットを揺らした。
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金子は「(ショート)コーナーに関しては練習で決まっていたので。セカンドボールからですが、それが得点につながって良かったです」と口にする。
そして「セットプレーで取れると楽になりますし、試合を優位に進められる。あのコーナーキックがあったから前半2-0にすることができて、自分たちのペースで試合を運べました」と続けた。
浦和の保持、ビルドアップ、プレス回避は見事で、前半のパフォーマンスをひと言で表すならば“パーフェクト”だった。
「前半から押し込もうという話はしていたので、プレスもハマっていましたしセカンドの回収もできていました。ボールキープできる時間も多く、前半はプラン通りだったと思います」
だが、後半は状況が一変する。ヴェルディが人と立ち位置を変え、アグレッシブなプレーで押し込んでくることで受け身になる。
「前半のようにプレスをかけるべきだと思いましたし、サイドの選手がディフェンスラインに吸収されすぎたと思います」
73分には途中出場の髙橋利樹を谷口栄斗が倒して、一発退場に。ヴェルディは10人になったのだが戦況は変わらず、浦和は何度もゴール前に運ばれてしまう。それでも守護神・西川周作を中心にブロックを組み、中を締め「最後は絶対にやらせない」気迫の守備で弾き返し、このまま試合を終えた。
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【写真:Getty Images】
これで浦和は5連勝。3点目を奪いにいくためのギアは上がらなかったが、勝ち切ったことはプラス材料としたい。選手の特徴と配置が適材適所でハマり、攻撃では裏に抜け出す動きや流動性が増えた。守備ではプレスのかけ方が整備され、攻守のバランスが取れている。
金子は「1つ勝ち始めて、みんなに自信がみなぎっている。自信を持ってプレーできている。前線だけでなく中盤にも連動性が出ている。最初は個人でやるだけで、単発に終わっていた部分が多かったのですが、今は連動して3人目の動きが増えていると感じています」と好調の理由を明かす。
そして直近5試合ではチームとして10得点を記録。誰かひとりに頼る訳ではなく、前線の攻撃陣がそれぞれの持ち味を発揮し得点に絡むなど好循環が生まれている。
「コンビネーションの部分で選手がつながっているのを、自分たちもプレーしていて感じています。その上で、誰がボールを持っても怖い存在になれているのが、今のチームの強みかなと思います」
金子は、前節のサンフレッチェ広島との試合で、リーグ戦12試合目にして今シーズン初ゴールを記録。それまで好機はありながらもゴールが遠かった。「ここまで初ゴールを取れなかったシーズンは記憶にない」とナーバスになった部分もあったが、チームに勝利をもたらしたことで肩の荷がスッと下りたのではないだろうか。
「正直、焦りはありましたが、ひとつ取ったことで力が抜けた部分はあると思います。まだ1点だけなんで満足はしていません。これが良い方向に行くようにリラックスしながら、点に絡めるように頑張るだけです」
何かをやってくれそう。そんな不思議な期待感が金子から漂う。「選手として自分の結果にフォーカスしなければいけないですし、ポジション争いに負けるつもりはない。チームのことを考えつつも、自分のプレーをもっと出していきたいと思います」と歯切れ良く答えるコメントには決して小さくない響きがある。
金子の今シーズン2得点目も、そう遠くはないだろう。本領を発揮し始めている背番号「77」の活躍に注目したい。
(取材・文:石田達也)
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