コメ価格は「損切り」間近か 卸最大手・神明社長の「暴落」発言の真意とは 「5キロ3500円」は実現するか

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 これから米価はどう動くのか――。「暴落する」とした米卸最大手・神明ホールディングスの藤尾益雄社長の発言が注目を集めている。発言の意図はどこにあるのか。

【写真】コメは「暴落」?…神明・藤尾社長と「あかふじ米」

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「暴落するのは間違いない」

「このままいけば、(米価が)暴落するのは間違いない」

 米卸最大手、神明ホールディングスの藤尾益雄社長は12月2日、新潟県新発田市で開かれた米の生産者向けの会合で講演し、こう話した。

 そのうえで、「5キロ3500円が適正。みんなで5キロ3500円で売れるようにしないと」と述べた。

 米農家は、米価高騰により、現在「バブル状態」にある。

 神明は、米価高騰のなかでも自社ブランドの「あかふじ米」を5キロ3500円ほどで販売してきた。生産規模拡大によるコストを下げた米作りが持論で、大規模農家への支援も行ってきた。それが「みんなで5キロ3500円で売れるようにしないと」という発言につながったと、農業経営学が専門の宮城大学・大泉一貫名誉教授は見る。

「いわゆるポジショントークでしょう。ただ、『こんなに米が高くていいのか』と、問題意識も持っていると思います。だから、『暴落』という強い言葉を使った。米バブルは近い将来、間違いなくはじける。農家に『目を覚ましてほしい』、ということでしょう」(大泉名誉教授)

高値トレンド形成したのは

 業界も消費者も米価に翻弄されるなかで、発言は注目を集めた。

 だが、違和感を抱いた人も少なくないのではないか。神明とは卸売の最大手であり、米の流通に及ぼす影響は少なくない。結局のところ、ここまでの米価高騰を招いた、当事者のひとりではないのか。

「神明は今年、米を集荷業者から高値で購入した程度の話だと思います。藤尾社長は、米全体の高値トレンドを形成したのは、全農と農協(JA)と考えていると思います」(同)

25年産米は「茶田買い」

 直接の原因は、「概算金(仮払金)」の存在だろう。米の流通は特殊だ。JAは卸売業者に対する販売価格が確定する前に概算金を農家に支払う。

 2024年に始まった令和の米騒動を受け、25年産米は「青田買い」どころか、田植え前の「茶田買い」が行われた。田植えのころには概算金の金額は高騰し、米農家には集荷業者が群がるようになっていた。

神明ホールディングスの藤尾益雄社長=2025年10月3日

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神明の「あかふじ米」=米倉昭仁撮影

 23年までの10年間、全国的にJAの概算金はおおむね玄米60キロ1万2000~1万6000円の間で推移した。それが25年は3万~3万5000円に上昇した。

 背景には、JAの「意地」もあったのでは、と大泉名誉教授は推測する。かつてJAは、農家からほぼ全量の米を集荷してきたが、24年は28%まで落ち込んだ。

「全農は25年産米の集荷率が『3割を超える』ことを目標にして、農協の組合長自らが集荷に農家を訪ねた地域がかなりありました」(同)

 結果、他の集荷業者との買い取り競争が起こり、米の価格はつり上がった。

消費者は米を買い控え

 そして、米価の異様な高騰は、結局、JAと集荷業者の首を絞めることになる。消費者は米を買い控えるようになったからだ。

 消費者離れが顕著になったのは、25年産の新米が出回り始めたころだ。

「今年10月ごろから、小売店で米の売れ行きが明らかに悪くなりました。その時点で、卸売業者は集荷業者から米を買わなくなりました。農協も高値をつけて全力で米を買い集めたものの、売れない。さあ、困った、というのが今の状況でしょう」(同)

備蓄米放出を要請も「追い返された」

 藤尾社長の発言は、農林水産省や鈴木憲和農水相に不満を訴えるメッセージであるとも感じるという。

「藤尾社長は、『米の高騰は農水省の需給政策の失敗。このままだと生産者も流通業者も価格下落に巻き込まれる』と、思っているのではないか」(同)

 米の価格が全国平均で5キロ2800円を超えたのは24年8月下旬だった。同26日、吉村洋文・大阪府知事は、政府に備蓄米を放出するように求めた。

 同じころ、藤尾社長も全国米穀販売事業共済協同組合(全米販)の副理事長として、農水省に対し、備蓄米の放出を要請していたのだ。

「けれども、農水省の幹部は高飛車な対応で、けんもほろろに追い返されたと聞いています。あの時点で備蓄米を放出していれば、ここまでの値上がりは起きなかっただろう。藤尾社長にはそうした忸怩たる思いもあるのではないか」(同)

農水相は「米価維持」が目的か

 藤尾社長の発言の3日後、鈴木農水相は、記者会見で「報道は拝見した」と述べた。そのうえで、「コメントは差し控えたい。米の価格はマーケットの中で決まっていくもの」と、おなじみの持論を展開した。


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JAに出荷される米=米倉昭仁撮影

 大泉名誉教授は、藤尾社長と鈴木農水相の考えは対極にあると分析する。

「卸売業者である藤尾社長は、米の買い入れ価格を2万5000円程度(玄米60キロあたり)に下げなければならないという認識を持っている。しかし、鈴木農水相はできるだけ現状の米価を維持したいのでしょう」

 JAの米の卸売価格は11月、全銘柄平均3万6493円(同)で、過去最高だった前月より565円下がったものの、高値水準のままだ。

「全国規模の巨大組織である農協は卸売業者に対して優位性があるから、売値を維持している。それなのに、鈴木農水相は、その『市場に米の価格をまかせる』という。だから農協の代弁者にしか見えないのです」(同)

米価はどう動く

 今後、米価はどう動くのか。

 もし、藤尾社長の予測通り、米価が下落するのであれば、買い取り価格を下回る金額で米を販売する「損切り」を早くしたほうが、損金は抑えられる。

 また、米価は来年の米の作付面積にも影響される。

 いま、米農家は来年の米の買い取り価格を想定しながら、来年の苗の作付けについて思案しているはずだ。米の生産コストは60キロ1万5814円(24年産米)。この金額を上回る買い取り価格であれば、作付面積を増やすほど利益が出る。しかし、この金額を下回れば、赤字が増える。

「いくら鈴木農水相が『来年の主食用米の生産量は711万トンの見込み』と言っても、利益が見込めると考える農家が多ければ、作付面積は増えるでしょう。その結果、米の価格が『暴落』する可能性がある」(同)

3月決算を前に「損切り」か

 実際の作付面積が見えてくるのは来年2月~3月ごろとされる。そのころになれば、米の価格の下がり方が変化するかもしれないという。

 米の消費量の3割を占める中食・外食産業からの値下げ圧力も高まると、大泉名誉教授は予測する。

「3月の決算を前に、すべての米業者――集荷業者、卸売業者、小売店は損切りしてくるでしょう。それは年明け早々から米の平均価格に表れてくると思います」(同)

 年明け、米価はどう動くのか。米価の暴落は起こるのか。稲作に未来はあるのか。米離れは解消されるのか。生産者も流通も消費者も、動向を注視している。

(AERA編集部・米倉昭仁)

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