サントリー「THE PEEL」好調 黒幕は販促を科学する謎の営業新組織
サントリーの新RTDブランド「THE PEEL」が、発売2カ月で想定を超える売り上げとなり、年間販売計画を上方修正するなど好調だ。背景にあるのは、商品力だけではない。店頭データを駆使し、販促施策を科学する新組織「買場戦略課」の存在だ。データが営業とブランドを担当する事業部をつなぐ共通言語となったことで、前例のないスピードで施策を修正・展開している。
THE PEEL好調の背景には、店頭での販売データの活用がある。販売データを基に、THE PEELの訴求内容を変更。それがきっかけとなり、売り上げが伸びた
サントリーが2025年4月に発売したRTD(レディー・トゥー・ドリンク、アルコール缶飲料)の新ブランド「THE PEEL(ザ・ピール) 〈レモン〉」が好調だ。
当初の年間販売計画は150万ケース(350ml×24本換算)。しかし、発売後わずか2カ月後で年間販売計画の5割を突破し、6月には200万ケースへと販売計画を上方修正した。9月からは6缶パックを通年販売する方針も決定し、定番化に向けて体制を強化している。
THE PEEL(ザ・ピール) 〈レモン〉
「ほろよい」など、サントリーの主要RTDブランドに比べればまだ販売数は少ないが、直近3年間に同社が投入したRTDの新商品の中で、最も高い週次での販売実績を達成しているという。
「THE PEELのメインターゲットは、普段からビールを飲んでいるビールユーザー。従来のRTDは『甘い』『本格・品質感が低い』『食事に合わない』といった印象を持たれがちだが、レモン果皮由来の香り、ほろ苦さ、甘くなさにフォーカスすることで、そのイメージを払拭し、ビール好きにも選んでもらえる商品を目指した」と、THE PEELのマーケティングを担当するサントリー ビール・RTD本部RTD部の玉腰潤氏は話す。
実際、この味わいがビール好きを動かした。
背景には、25年4月に大手ビール会社が行ったビールの価格改定がある。アサヒビール、キリンビール、サッポロビール、サントリーといった主要ビールメーカーは、資材コストや物流費の高騰を受けた形で、一斉に価格改定へと踏み切った。
サントリーも、主力ビールの「ザ・プレミアム・モルツ」や「サントリー生ビール」、第三のビール「金麦」などのビール類は4~7%価格を引き上げた。
値上げによって飲用頻度を抑える動きが見られる中で、大手のビールが350mlで200~250円程度のところ、THE PEELは同350mlを160円前後で販売している。手頃な価格ということも後押しし、THE PEELはビールユーザーの受け皿として機能した。玉腰氏は「ビールユーザーの味わいには妥協したくない、というニーズを捉えられたことがヒットにつながった」と分析する。
新組織「買い場戦略課」とは
もっとも、THE PEELの成功は商品設計だけで実現したわけではない。ヒットの背景には、サントリーが24年に新設した営業戦略部隊「買場戦略課」(発足当時の名称は買場マケ課)の存在がある。
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「従来はプロダクトアウトを軸に商品開発や展開を考えていくことが主流であった。しかし、近年では消費者の嗜好の変化・多様化が進み、顧客起点で消費者のニーズや変化を捉え、新たな需要を生み出す新商品や需要創造の提案を積極的に実施する必要が出てきた。そこで、ID-POSなど購買データを基に、買場ごとに勝ちパターンを見極め、営業活動に落とし込む組織として買場戦略課を立ち上げた」
サントリー営業推進本部家庭用統括部買場戦略課課長の山本庸介氏は、買場戦略課の目的をこう語る。THE PEELの店頭施策でも、この新組織が重要な役割を果たしている。
(写真右から)サントリー営業推進本部家庭用統括部買場戦略課課長 山本庸介氏、同課 丸尾佳子氏、ビール・RTB本部RTD部 玉腰潤氏
POP施策で売り上げが1.3倍に
THE PEEL発売後、買場戦略課は全国のスーパーマーケットなど数百店舗を対象に販売データを収集、分析した。THE PEELの売り上げが好調な店舗とそうでない店舗のデータを突き合わせ、さらにID-POS(販売時点情報管理)のデータと照合。購買者属性やリピート状況まで掘り下げ、THE PEELを売るためのヒントを探した。
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