2型糖尿病患者において炭水化物と他の栄養素のバランスが、心血管イベント・死亡リスクに影響する可能性 順天堂大学
2型糖尿病患者において、1日の摂取エネルギーに占める炭水化物の割合が高いことが、心血管イベントや死亡のリスクの増加と関連することが明らかになった。順天堂大学の研究グループの研究によるもので、「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。
研究の概要:2型糖尿病患者の心血管イベントや死亡リスクを規定する食事とは?
順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の研究グループは、1日の摂取エネルギーに占める炭水化物の割合が高いことが、2型糖尿病患者の心血管イベント※1や死亡のリスクの増加と関連することを明らかにした。
2型糖尿病患者を対象に、食事を含む生活習慣を質問票で評価し、最大10年間にわたって心血管イベントや死亡の発症状況を追跡した結果、炭水化物の摂取割合が高いほど心血管イベントや死亡のリスクが増加し、逆に、炭水化物の摂取量が少なく、タンパク質や脂質の摂取量が多いことがそのリスク低下に寄与することがわかった。とくに、動物性のタンパク質や脂質が多いことで、心血管イベントや死亡の発症リスクが低下した。
また、飽和脂肪酸※2の摂取割合が高いことも、心血管イベントや死亡のリスク低下に関連していた。
これらの結果は、2型糖尿病患者の心血管疾患予防のために、食事に含まれる栄養素の調整が非常に重要である可能性を示唆するとともに、その方法は欧米人と日本人では必ずしも同じではない可能性を示唆している。
研究の背景:カロリー制限では心血管イベントや死亡リスクが低下しない
2型糖尿病患者は、心血管イベントや死亡のリスクが高いことが広く認識されている。糖尿病治療においては、これらのリスクを軽減するために、食事、運動、睡眠、そして生活リズムの改善が重要。しかし、これまでの研究では、脂肪摂取量を減少させることを主としたエネルギー制限食などの生活習慣への介入では、2型糖尿病患者心血管イベントや死亡リスクの低下には結びつかないことが示されている。このことから、単に食事量を制限するのではなく、食事の質や食事以外の生活習慣も考慮することが重要であると考えられる。
「糖尿病治療ガイドライン」(2024年版日本糖尿病学会)では、2型糖尿病患者に対して、初期設定としてエネルギー摂取量の40〜60%を炭水化物から摂取することを提案しているが、適切な栄養素の割合については依然として明確でない。さらに、2024年版の日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドラインやアメリカ糖尿病学会のガイドラインは、総炭水化物摂取量を減らすことが血糖管理の改善に寄与する可能性を示唆している。しかし、炭水化物摂取割合が心血管イベントや死亡リスクに与える影響や、炭水化物摂取量を減らした場合にタンパク質や脂質を増やすことがどのような影響を及ぼすのか、さらに動物由来と植物由来のタンパク質や脂質では影響が異なるのかについては、依然として不明な点が多い。
そこで研究グループでは、2型糖尿病患者を対象に、食事の栄養素を含むさまざまな生活習慣と心血管イベントや死亡リスクとの関連性を検討した。
研究の内容:低炭水化物で適度な動物性タンパク質・脂質摂取がリスクの低さと関連
本研究では、順天堂医院などに通院中で心血管イベントの既往がない2型糖尿病患者731名を対象に、試験開始時、2年後、5年後に食事、身体活動量、睡眠時間、睡眠の質、生活のリズムなど、さまざまな生活習慣を質問紙により評価し、心血管イベント発症日や死亡日または追跡終了日までの各生活習慣スコアの平均値を算出した。食事評価には、日本人の食習慣を反映させるために設計された簡易型自己記入式食事歴質問票(Brief-type Self-administered Diet History Questionnaire;BDHQ)を使用し、摂取エネルギーや主要栄養素の摂取量を推定した。
炭水化物、タンパク質、脂質の三大栄養素は密接に関連しており、例えば炭水化物摂取量が多いと、タンパク質や脂質の摂取量が少なくなる傾向がある。そのため、各栄養素単独での摂取量を検討するのではなく、これら三つの栄養素のバランスを考慮することが重要。このため、炭水化物、タンパク質、脂質の摂取量に基づき、低炭水化物ダイエットスコアを算出した。炭水化物摂取量で11等分し、摂取量が最も少ないものを10点、最も多いものを0点、タンパク質と脂肪の摂取量でも同様に計算し、これらを合計して「総低炭水化物スコア」を算出した。このスコアが高いほど、炭水化物摂取が少なく、タンパク質や脂質摂取が多いことを示す。また、動物性食品と植物性食品に基づくスコアも別々に算出し、それぞれ「動物性低炭水化物スコア」※3と「植物性低炭水化物スコア」※4として評価した。
最大10年間にわたって心血管イベントや死亡の発症状況を追跡し、各生活習慣と心血管イベントまたは死亡のリスクとの関連性を検討した。
対象者の平均年齢は57.8±8.6歳、62.9%が男性で、BMIは24.6±4.1だった。平均追跡期間は7.5±2.4年で、その間、55人(7.5%)に心血管イベントまたは死亡というアウトカムが発生した。
分析の結果、年齢、性別、総エネルギー摂取量、動脈硬化のリスク因子を調整した後も、炭水化物摂取割合が高いほど主要アウトカムの発生リスクが高いことが示された。また、「総低炭水化物スコア」や「動物性低炭水化物スコア」が高いほど、主要アウトカムのリスクが低いことも明らかになった。さらに、飽和脂肪酸の摂取割合が高いと、リスクが低いという関係が認められた。
図1
(出典:順天堂大学)
これまでの一般人口を対象とした研究では、炭水化物摂取割合と死亡リスクとの関係に一貫性がなかったが、本研究では、2型糖尿病患者において、炭水化物摂取割合が多いほど主要アウトカムの発生リスクが増加することが示された。糖代謝異常を伴う2型糖尿病患者は、一般人口に比べて炭水化物摂取の影響を受けやすい可能性がある。とくに、日本人の主食である米の摂取量が多いと、主要アウトカムが増加する可能性が示唆された。
西洋諸国の研究では、「動物性低炭水化物スコア」が高いと総死因および心血管イベントによる死亡リスクが高まる一方で、「植物性低炭水化物スコア」が高いとリスクが低下することが示されている。しかし、アジア諸国の研究では、「動物性低炭水化物スコア」が高いと死亡リスクが低下することが報告されている。本研究でも、日本の2型糖尿病患者において「動物性低炭水化物スコア」が高いと主要アウトカムのリスクが低下することが確認された。この結果は、動物性タンパク質や脂質を増やし、炭水化物摂取量を減らすことが、主要アウトカムの発生リスクを低下させる可能性があることを示唆している。
なお、日本における動物由来のタンパク質源としては魚が主であり、本研究の対象者においても肉類の摂取量は比較的少なかった。肉類はタンパク質、ミネラル、ビタミンが豊富で、エネルギー源として優れており、適量の肉類摂取の有用性が動物性脂質摂取のリスクに優り、心血管リスク低減に寄与したと考えられる。したがって、過剰な動物性タンパク摂取を勧めるものではないと考えられる。
以上の結果から、日本人2型糖尿病患者においては、炭水化物の摂取割合が高いと心血管イベントや死亡リスクが増加し、逆に、炭水化物摂取量が少なく、動物性のタンパク質や脂質摂取量が多いことがリスク低下に関連していることがわかった。これらの結果は、2型糖尿病患者の心血管疾患予防において、食事に含まれる栄養素の調整が重要であることを示唆している。
今後の展開:低炭水化物とする介入によって予後を改善させ得るか?
本研究では、炭水化物摂取割合と心血管イベントや死亡リスクとの関連について明らかにした。しかし、今後は炭水化物摂取割合を減らすことで、どのようなメカニズムで心血管イベントが抑制されるのかを明らかにする必要がある。また、本研究では炭水化物摂取割合が約45%で予後に良い影響を与える可能性があることがわかったが、さらに厳格な糖質制限食が予後に与える影響についても検討することが今後の課題。さらに、食事の栄養素バランスを調整した介入研究を通じて、長期的に心血管イベントの発生リスクを低下させるかどうかを検討することが重要であると考えられる。
研究グループでは、「2型糖尿病の治療において、食事療法は最も重要な要素であり、今後の研究によって適切な栄養素の割合が明らかになることが望まれる。さらに、個々の健康状態、生活習慣、血糖値の管理目標に基づき、最適な栄養素の摂取バランスを調整した食事プランを提供する個別化されたアプローチによって、心血管イベントなどの合併症の発症や進展が抑制されることが期待される」としている。
関連情報
2型糖尿病を有する人の炭水化物摂取割合と予後の関連性が明らかに― 食事栄養素のバランスの重要性 ―(順天堂大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Relationship of carbohydrate intake proportion to cardiovascular events in Japanese people with type 2 diabetes mellitus」。〔J Clin Endocrinol Metab. 2025 Mar 21:dgaf179〕 原文はこちら(Oxford University Press)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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筋力トレーニングを行っている男性が、高用量のクレアチンを5日間摂取することで、筋持久力が上昇したとする研究結果を紹介する。ブラジルで行われた研究で、昨年論文が発表された。
日常的に筋トレを行っている男性対象の研究
この研究は、日常的に筋力トレーニングを行っている18~30歳の健康な男性12人を対象に実施された。参加者全員が適格条件である、過去3年以上の筋トレ歴があり、過去3カ月以内にサプリメントや同化ステロイドを使用していないことを満たしていた。
主な特徴は、年齢25.2±3.4歳、体脂肪率14.8±6.0%、骨格筋量41.8±4.0kgで、筋トレ歴は5.9±3.1年でトレーニング頻度は5.0±0.6回/週、1回あたり64.2±17.8分であって、ベンチプレスでの1RM(1回だけ施行可能な最大負荷量〈one repetition maximum〉)は106.8±10.6kgだった。
20gのクレアチンまたはプラセボを5日間摂取して比較
研究デザインは無作為化プラセボ対照クロスオーバー二重盲検法で、研究参加者、および結果判定者以外の現場スタッフには、クレアチンかプラセボか分からないように盲検化したうえで、参加者の半数はクレアチン、他の半数はプラセボを5日間摂取。30日のウォッシュアウト期間をおいて、割り付けを変更したうえで5日間、プラセボまたはクレアチンを摂取してもらった。
クレアチン摂取条件では、クレアチン一水和物20gとマルトデキストリン10g、計30gを4分し7.5gとして、400mLの水とともに1日4回摂取。プラセボ摂取条件では、とうもろこしでんぷん20gとマルトデキストリン10g、計30gを4分し7.5gとして、400mLの水とともに1日4回摂取することとした。
参加者には試験期間中、食事・運動習慣を変更しないことを求めた。また、筋力への影響の評価日の前日に24時間の食事記録をつけてもらい、栄養士が栄養素摂取量を評価した。
評価項目は、最大筋力(ベンチプレスでの1RM)、筋持久力(70%1RMで施行不能に至るまでの反復回数)、総作業量(負荷強度×反復回数)、血中乳酸値、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)、疲労指数(fatigue index;FI)、活力と疲労の状態(ブルネル気分尺度)などとした。
では、結果をみていこう。
短期間のクレアチン摂取で筋持久力は向上するが最大筋力は変わらない
クレアチン条件で筋持久力が有意に向上
総反復回数は、クレアチン条件では摂取前の23.8±7.9回に比べて摂取後は27.3±5.4回と+14.7%有意に増加していた(p=0.036、効果量〈g〉=0.52)。その一方、プラセボ条件では摂取前が25.1±6.9回、摂取後が25.4±7.1回で変化は+1.2%であり非有意だった(p=0.414、g=0.06)。変化量の絶対差については、クレアチン条件は3.4回でプラセボ条件は0.3回であり前者が高値だが、この比較では有意でなかった。
総作業量は、クレアチン条件では摂取前の1,791±592.4au(任意単位)に比べて摂取後は1,991±395.4auと+11.1%有意に増加していた(p=0.038、g=0.52)。その一方、プラセボ条件では摂取前が1,848±422.9au、摂取後が1,875±450.1auで変化は+1.4%であり非有意だった(p=0.402、g=0.07)。変化量の絶対差については、クレアチン条件は199.5auでプラセボ条件は26.7auであり前者が高値だが、この比較では有意でなかった。
最大筋力は有意な変化なし
次に、ベンチプレスでの1RMで評価した最大筋力への影響をみると、クレアチン条件では摂取前が106.8±11.7kg、摂取後が107.0±11.5kgであり、+0.2%の変化であって統計的に非有意だった(p=0.688)。同様にプラセボ条件も、摂取前が107.8±11.7kg、摂取後が105.3±10.2kgであり、-2.3%の変化であって統計的に非有意だった(p=0.219)。
このほかに評価した、血中乳酸値、自覚的運動強度(RPE)、疲労指数(FI)、活力と疲労の状態に関しては、いずれも条件間に有意差が認められなかった。なお、食事摂取量は、エネルギー量(p=0.263)、炭水化物(p=0.167)、タンパク質(p=0.466)、脂質(p=0.225)のいずれも条件間に有意差がなかった。
筋持久力が向上することでトレーニング量が増え、筋肉量が増えるのではないか
以上より論文は、日常的に筋トレを行っている男性においても、5日間にわたりクレアチンを1日あたり20gと高用量摂取することで、筋持久力が向上することが示されたが、最大筋力は有意な変化が認められなかったとまとめられている。ただ、考察において以下のように、介入をより長期とすることで筋力にも有意な変化が生じる可能性を記載している。
すなわち、本検討もそうであるように、研究においては1RMを評価したうえで負荷を調節するが、一般的な筋トレのシーンにおいて1RMテストに基づいて負荷を設定することはあまりなく、通常は負荷量が任意とされるため、筋トレ効果は反復回数と総作業量によって規定される。よって、クレアチン摂取により筋持久力が向上し反復回数と作業量が増加した状態で長期的に筋トレが行われれば、結果的に筋肥大につながると考えられるという。
文献情報
原題のタイトルは、「Short term creatine loading improves strength endurance even without changing maximal strength, RPE, fatigue index, blood lactate, and mode state」。〔An Acad Bras Cienc. 2024 May 10;96(2):e20230559〕 原文はこちら(Academia Brasileira de Ciências)/
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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汗腺機能の指標である発汗誘発剤に対する発汗反応は、8歳ごろから性差が生じることが報告された。男子は女子よりも年齢に伴う発汗量増加が早く、顕著だという。また、春から夏にかけて、子どもの汗腺機能が顕著に向上することもわかった。早稲田大学などの研究グループの研究によるもので、「Annals of the New York Academy of Sciences」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。著者らは、将来的に、汗腺機能に基づくオーダーメードの熱中症予防法を提案できる可能性を述べている。
研究の概要
早稲田大学スポーツ科学学術院、新潟大学教育学部、筑波大学体育系の研究グループは、新潟大学附属新潟小・中学校の児童・生徒を含む6~17歳の子ども405名(男子229名、女子176名)、および18~25歳の若年成人52名(男性25名、女性27名)を対象に、発汗を誘発する薬剤(ピロカルピン)を経皮的に汗腺に投与して、誘発された発汗量から汗腺機能を年齢層ごとに評価した。
その結果、薬剤によって誘発された発汗量(汗腺機能の指標)の性差が8歳ごろから認められ、年齢に伴う発汗量の増加は男子が女子よりも早く、顕著に生じていた。また、研究に参加した子どものうち111名は春と夏の両方で測定を実施し、季節適応を調べたところ、夏には発汗量の顕著な増加(春の1.5倍)が認められた。
研究の背景:子どもの汗腺機能はどのように発達するのか?
発汗はヒトが進化の過程で獲得した特有の体温調節機能であり、暑熱環境下や運動時に体内の熱を体外に放散する役割がある。一般的に「子どもは汗っかき」と思われがちだが、実際には子どもの汗腺機能は大人より低く、未発達。
しかし、例えば身長や体格、あるいは筋力が子どもから大人になるに従い発達するように、汗腺機能がどのように発達するのか、またその様相が男女で異なるのかなどは明らかでなかった。さらに、大人は夏にかけて暑熱に適応して汗腺機能が高まることが報告されていたが、このような適応が子どもでも起こるのかどうかはわかっていなかった。
これらを明らかにすることは、子どもの体温調節特性や発達段階を踏まえ、子どもの熱中症リスクやその対策を考えるうえで重要。
研究の概要:小児と若年成人対象の発汗量を測定し、その関連因子を検討
新潟大学附属新潟小・中学校の児童・生徒を含む新潟市・県内外の子ども(6~17歳)、および若年成人(18~25歳)、合計457名(男子254名、女子203名)を対象に研究を行った。実験は2023年2~4月、11~12月に実施した。
電流を用いて非侵襲的に薬剤を皮膚に浸透させるイオントフォレーシスという手法を用いて、発汗を誘発する作用のあるピロカルピン(ムスカリン受容体刺激薬)を前腕部に経皮投与した(図1)。これによって誘発される発汗量、活動汗腺密度、単一汗腺当たりの発汗量を計測した。併せて身長、体重、握力などの測定も行い、汗腺の発達様相と比較をした。また、2~4月に測定を行った子どものうち111名(男子57名、女子54名)については8月にも同様の実験を行い、夏への季節適応を調べた。
図1 実験の様子と方法
(出典:早稲田大学)
研究の成果:8歳から発汗量の性差が拡大、季節適応は大人以上の可能性
17歳以下は2歳ごとの群に分け、若年成人は単群として解析した。
ピロカルピンによって誘発される発汗量の性差は、早くて8歳ごろから認められた(男子>女子)。男女とも年齢に伴い発汗量が増加したが、男子の方が発汗量の増加が早く(6~7歳と比較して男子では14歳以降に、女子では18歳以上で増加)、顕著だった(図2)。
図2 年齢による発汗量の変化
(出典:早稲田大学)
このような年齢や性別による発汗量の差は、主に一つの汗腺が出す発汗量の違いに起因していた。汗腺機能の発達様相は体格や握力とは異なっており、汗腺独自のものだと考えられる。
汗腺機能を春と夏で比較したところ、男子、女子ともに夏の発汗量が春のおよそ1.5倍に増加し(図3)、この増加は汗腺密度と汗腺当たりの発汗量の双方に起因していた。
図3 春から夏にかけての発汗量の変化
(出典:早稲田大学)
子どもは大人と比べると運動や環境変化に対する身体の適応程度が小さいと考えられているが、汗腺の季節適応に関しては大人と同等か、より顕著に生じる可能性が考えられる。
今後の展開:汗腺機能に基づくオーダーメードの熱中症予防法に期待
本研究の結果は、子どもの汗腺機能、ひいては暑熱環境下における体温調節の発達特性に基づき熱中症リスクや予防を考えるうえで貴重な資料となる。今後、このような発達様相を引き起こすメカニズムの解明(例えば性ホルモンが関与するのかどうかなど)も必要とされる。また汗腺機能の発達は、究極的には個人間で異なると考えられ、著者らは「身長や体重、あるいは握力を計測するように汗腺機能を簡便に評価する方法を確立することで、個人の汗腺機能に基づくオーダーメードの熱中症予防法提案などにもつながるかもしれない」としている。
プレスリリース
文献情報
原題のタイトルは、「Biological maturation and sex differences of cholinergic sweating in prepubertal children to young adults」。〔Ann N Y Acad Sci. 2025 Apr 15〕 原文はこちら(John Wiley & Sons)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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日本肥満学会は4月17日、「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome;FUS)」に関するステートメントを公開した。かねて社会問題として指摘されていた、日本の若年女性の痩せすぎ傾向を医学的に新たな症候群として位置付け、問題点を整理し対策をまとめた内容。肥満学会のホームページに掲載されている情報を紹介する。
日本人若年女性の痩せすぎ問題を医学的に定義し対策を総括
日本の20代女性の2割前後が低体重(BMI18.5未満の痩せ)であり、先進国のなかでもとくに高率である。低体重や低栄養は骨量の低下や月経周期異常をはじめとする女性の健康にかかわる、さまざまな障害と関連していることが知られている。
我が国で低体重(痩せ)女性が多い背景として、ソーシャルネットワークサービス(SNS)やファッション誌などを通じた「痩せ=美」という価値観が深く浸透し、それに起因する強い痩身願望があると考えられる。近年では糖尿病や肥満症の治療薬であるGLP-1受容体作動薬の適応外使用が「安易な痩身法」として紹介され、社会問題となっている。
しかしながら、従来の医療制度や公衆衛生施策においては、肥満への対策が重視されており、低体重や低栄養に対する系統的アプローチは不十分であった。その原因として、第一に、低体重や低栄養と疾患の関係性を表すような疾患概念が存在しないことが挙げられる。また、この問題を解決するためには、個人の意識や行動に焦点を当てるだけではなく、痩身願望を生み出す社会構造へのアプローチが不可欠である。
このような背景から、日本肥満学会は、日本骨粗鬆症学会、日本産科婦人科学会、日本小児内分泌学会、日本女性医学学会、日本心理学会と協同してワーキンググループを立ち上げた。ワーキンググループでは、骨量の低下や月経周期異常、体調不良を伴う低体重や低栄養の状態を、新たな症候群として位置付け、診断基準や予防指針の整備を目的とすると同時に、本課題の解決方法についても議論を進めている。
今回発表されたステートメントでは、閉経前までの成人女性を中心とした低体重の増加の問題点を整理し、新たな疾患概念の名称・定義・スティグマ対策を示すとともに、その改善策を論じている。
ステートメント「閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題」
ステートメントは「「閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題―新たな症候群の確立について―」としてまとめられている。以下はその抜粋。
背景:低体重および低栄養による健康リスクや症状
骨量低下および骨粗鬆症
若年期は骨密度ピークを獲得する最重要期である、しかし、低栄養やエストロゲンの低下、低体重による物理的な過重負荷の低下が骨形成を阻害し、20代における骨減少をもたらし、将来的な骨粗鬆症リスクを高めると考えられる。
月経周期異常、妊孕性および児の健康リスク
低栄養や極端な体重減少は視床下部−下垂体−卵巣系に影響し、月経不順や排卵障害を引き起こす。長期的には不妊や妊娠合併症リスクの上昇が懸念される。低体重に伴う希発月経や視床下部性無月経は、妊娠前の体格や栄養状態の不良と相まって、切迫早産や低出生体重児の増加など児の健康にも影響を及ぼす可能性が示唆されている。
微量元素やビタミン不足による健康障害
低栄養の場合、複数のビタミン・ミネラルの不足が生じやすく、さまざまな健康障害を引き起こす可能性がある。鉄、葉酸、ビタミンB12の不足は貧血を引き起こし、亜鉛欠乏は創傷治癒の遅延や免疫機能の低下、味覚異常をもたらす。さらに、ビタミンDやカルシウムの不足は骨密度の低下を招き、骨粗鬆症や骨折のリスクを高める。
代謝異常
低体重は糖尿病発症リスクとして知られ、日本人若年女性の低体重では耐糖能異常のリスクが高いことが最近の研究で明らかとなっている。また、エネルギー制限により、体の代謝を調整する甲状腺ホルモンの一種であるトリヨードサイロニン(T3)が減少する低T3症候群や脂質異常症(LDLコレステロール上昇)を引き起こす。
サルコペニア様状態
加齢に伴う筋量や筋力の低下はサルコペニアと定義されるが、若年女性の低体重や低栄養状態においても、筋量低下との関連が指摘されている。筋量や筋力低下は将来的なロコモティブシンドロームやフレイルにつながる懸念もあり、ライフコースや老年期の健康維持の観点からも、若年期のサルコペニア予防は重要である。
摂食障害
痩身願望が内面化しやすい社会的風潮のなかで、摂食制限行動が行き過ぎると摂食障害へ移行することがある。心理的ストレスや自己肯定感の低下と相まって重症化する例も少なくない。とくに若年女性では、理想的な痩せボディイメージの内面化が食行動の異常を促進し、メディアを含む社会からの痩身への圧力と相まって、摂食障害の発症リスクが高まる。
精神・神経・全身症状
低体重や低栄養状態は、倦怠感、睡眠障害、低血圧、頭痛、便秘、冷え性、肌質・髪質の低下などの身体症状を引き起こす。また、神経精神症状としては抑うつ、不安、集中力低下、認知機能の低下や身体活動の低下なども認められる。
現状の課題や問題
肥満症対策として特定保健指導が推進される一方で、低体重に対する介入の枠組みは未だ確立されていない。健診で低体重が判明しても、骨密度や生殖機能への評価といった関連疾患のスクリーニングが実施されることは少ない。教育現場においても思春期の子どもたちに対する適切な食育やボディイメージ啓発が十分に行われているとは言い難い。
また、肥満症や2型糖尿病を対象に開発・承認されたGLP-1受容体作動薬などを、「痩せ薬」として販売・使用されるケースが常態化し、低体重や正常体重の女性が用いていることも報告されている。このような使用に対して、副作用リスクに加えて、過度なダイエット行動の助長といった社会的懸念が高まる状況にある。
新たな症候群の概念
閉経前女性の低体重や低栄養に関連する健康障害を体系的に整理し、新たな概念(症候群)として提示し、かつ、貧血、月経周期異常、倦怠感といった表面的な指標のみではなく低体重・低栄養という根本的な病態に着目して、健診や診療の場で活用されるだけでなく広く一般に認識されることを期し、この症候群の名称として「Female Underweight/Undernutrition Syndrome;FUS(女性の低体重/低栄養症候群)」を提案する。
FUSに含まれる主な疾患や状態は以下のとおり。
- 低栄養・体組成の異常:BMI18.5未満、低筋肉量・筋力低下、栄養素不足(ビタミンD・葉酸・亜鉛・鉄・カルシウムなど)、貧血(鉄欠乏性貧血など)
- 性ホルモンの異常:月経周期異常(視床下部性無月経・希発月経)
- 骨代謝の異常:低骨密度(骨粗鬆症または骨減少症)
- その他の代謝異常:耐糖能異常、低T3症候群、脂質異常症
- 循環・血液の異常:徐脈、低血圧
- 精神・神経・全身症状:精神症状(抑うつ、不安、集中力低下、認知機能低下)、身体症状(全身倦怠感、睡眠障害、冷え性、頭痛、便秘、髪質・肌質の低下)、身体活動低下
なお、摂食障害や二次性の低体重(甲状腺機能亢進症・悪性疾患など)はFUSとして捉えるべきではなく、原疾患に対する治療を優先するべき。また、閉経後の女性や男性はFUSの概念に含まれない。
FUSの原因
FUSの原因は多面的であり、個人の身体的特性や社会的要因、心理的要因が複雑に絡み合って生じると考えられ、大きく三つの視点から整理する。
体質性痩せとは、やせ願望や摂食障害、過剰な運動がなく、低体重状態が長期間持続する体質的特性を指す。一般に、体重が増えにくいが、内分泌機能や月経周期は正常に保たれている。日本人女性の痩せのうち、約40%はとくに食事制限を含む意図的減量行動を行っていないという報告もあるが、そのすべてが体質性痩せであるかは不明である。
SNS、ファッション誌などのメディアの影響によるやせ志向
メディアによる影響で「痩せ=美」という価値観が浸透し、とくに若年女性において、食事摂取制限を中心とした減量行動(いわゆるダイエット)の志向が強まっている。過度な食事制限や偏った食生活が長期化すると、低体重や低栄養状態に陥り、骨密度低下や月経周期異常など、多彩な健康障害を招きやすくなると考えられる。
社会経済的要因・貧困などによる低栄養
貧困を背景として十分な食事を得られず、結果的に低BMI 低栄養状態に陥るケースも報告されている。このような場合、個人の努力だけでは解決が困難であり、社会構造的な支援や政治的施策が不可欠となる。これらの要因は相互に重なり合いながら、低体重や特定の栄養素不足、骨密度低下、月経周期異常、体調不良などを引き起こし、FUSへと至る可能性がある。
ステートメントでは、このほかに、FUSの対処法やスティグマに対する注意、今後の方向性などについて整理したうえで、「日本において、閉経前までの成人女性の低体重や低栄養がもたらす健康障害は、個人の健康の問題にとどまらず、社会全体に影響を与える重要な課題。FUSは、これらの課題を包括的に整理し、体系的な診断と介入を促す基盤となることが期待される」と述べられている。
関連情報
閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題―新たな症候群の確立について―(日本肥満学会)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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コンタクトスポーツで近年問題が指摘されている、脳震盪を来さない程度の微小な脳へのダメージの蓄積抑制に、ω-3脂肪酸が役立つ可能性を示唆する研究が報告された。脳神経損傷のマーカーである「神経フィラメント軽鎖(Nf-L)」を用いた研究を対象とするメタ解析の結果であり、競技シーズン中の脳神経ダメージに対するω-3脂肪酸摂取の影響は認められないが、シーズン後の評価結果にはNf-Lが対プラセボで有意に低下するという。
微小な衝撃の反復による脳神経のダメージをω-3脂肪酸PUFAで抑制可能か?
コンタクトスポーツにより発生するスポーツ関連脳震盪(sports-related concussion; SRC)に対して、身体防護具の改善、安全性を重視したルール変更などの対策が続けられているが、現在も報告数が増加し、とくに若年アスリートでの増加が報告されている。さらに近年、受傷後には脳震盪を呈さないにもかかわらず、軽微な衝撃が繰り返されることで脳神経へのダメージが蓄積されることが明らかにされてきており、反復性非脳震盪性頭部衝撃(repetitive subconcussive head impacts; rSHI)と位置づけられ対策が急がれている。
このrSHIは基本的に無症状であるため、リスクが生じたアスリートも受療行動を起こさず、繰り返す衝撃により脳神経のダメージが蓄積していく。そのような脳神経のダメージを捉えるための感度・特異度の高いバイオマーカーとして、神経フィラメント軽鎖(neurofilament-light; Nf-L)を使用可能だ。rSHIの基準値や臨床的に問題となるrSHIの判定閾値についてコンセンサスは未だ存在しないものの、神経細胞障害の程度や神経疾患の重症度とに関連してrSHIが上昇するというエビデンスがある。
一方、SRCやrSHIに対する、エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid; EPA)やドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid; DHA)などの長鎖オメガ3脂肪酸(long-chain ω-3 polyunsaturated fatty acids; LC ω-3 PUFA)の有効性を示唆する複数の研究結果が報告されてきており、コンタクトスポーツ選手のNf-Lに対するLC ω-3 PUFAの有効性を検討した研究も既に存在する。ただ、それらの研究結果のシステマティックレビューはまだ行われていなかった。
米国の大学アメフト選手を対象とする3件の研究報告を特定しメタ解析
この研究では、システマティックレビューとメタ解析のガイドライン(PRISMA)に準拠して、PubMed、CINAHLという2種の文献データベースのスタートから2024年1月までに収載された文献を対象とする検索が行われた。一次検索で460報がヒットし重複削除後の403本を2名の研究者が、タイトルと要約に基づき独立してスクリーニングを実施し5報に絞り込んだ。その後の全文精査により3報を抽出し、それらのデータをメタ解析の対象として利用した。
特定された報告はすべて米国の大学アメリカンフットボール選手を対象とする研究だった。研究参加者は29~81人で、3研究を合計すると長鎖オメガ3脂肪酸(LC ω-3 PUFA)摂取群が105人、プラセボ摂取群が71人、計179人だった。
介入は、ドコサヘキサエン酸(DHA)のみ、またはエイコサペンタエン酸(EPA)とDHAの組み合わせとして摂取されていた。摂取量は2~6g/日の範囲であり、介入期間は20~33週間だった。すべての研究で介入後に血漿LC ω-3 PUFA濃度の有意な上昇が報告されていた。
3件の研究のうち2件は、シーズン前とシーズン後に神経フィラメント軽鎖(Nf-L)を評価し、他の1件は介入中の複数のポイントでNf-Lを評価していた。
長鎖オメガ3脂肪酸(LC ω-3 PUFA)の予防的摂取戦略が部分的に支持される
メタ解析は、シーズン中の神経フィラメント軽鎖(Nf-L)、およびシーズン後のNf-Lという2時点の評価データを用いて行われている。
その結果、シーズン中のNf-Lに関しては、長鎖オメガ3脂肪酸(LC ω-3 PUFA)群のほうがプラセボ群より低値ではあるものの、群間差は非有意だった(平均差=-1.66±0.82pg/mL〈偽陽性リスクを抑制するBonferroni調整後p=0.09〉)。一方、シーズン後のNf-Lに関しては有意な群間差が認められ、LC ω-3 PUFA群のほうが低値だった(平均差=-2.23±0.83pg/mL〈調整後p=0.02〉)。
著者らは、「我々の研究結果は、反復性非脳震盪性頭部衝撃に曝されるコンタクトスポーツのアスリートが、予防的に長鎖オメガ3脂肪酸を摂取するという戦略を、部分的に支持するものである。ただし、有効な摂取量を探索するために、さらなる研究が必要とされる」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「Nutritional Optimization for Brain Health in Contact Sports: A Systematic Review and Meta-Analysis on Long-Chain ω-3 Fatty Acids and Neurofilament Light」。〔Curr Dev Nutr. 2024 Sep 3;8(10):104454〕 原文はこちら(Elsevier)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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マラソンランナーの競技前・競技中・競技後の栄養素摂取量と、完走タイムとの関連を検討したところ、記録が3時間未満のランナーと3時間超のランナーでは、競技中の炭水化物摂取量に有意差が認められたという結果が報告された。
セビージャマラソン参加者の栄養素摂取量と完走タイムとの関連を検討
この研究は、2022年のセビージャマラソン参加者を対象に行われた。セビージャはスペイン南部の都市で、ここで開催されるマラソンンには多くの市民ランナーが参加する。コースが平坦なこと、気象条件が良いことなどから好記録が出やすい大会として知られている。
研究参加者は、過去2年以内にマラソン大会への出場経験があり、大会主催者からメール送信されたインフォームドコンセントに書名した18歳以上の成人160人。主な特徴は、年齢42.2±7.3歳、男性87.5%、BMI22.9±2.1、競技歴9.2±6.2年。競技レベルは、地域大会レベルが99人(61.9%)、国内大会または国際大会レベルが57人(35.6%)と、広い範囲に分布していた。この大会における走行記録は、121~180分が37人(23.1%)、181~240分が99人(61.9%)、241分以上が24人(15.0%)だった。
競技前・競技中・競技後の栄養素摂取量は、精度検証済みの自記式質問票「持久系競技のための栄養摂取質問票(Nutritional Intake Questionnaire for Endurance Competitions;NIQEC)で把握した。
競技前・競技中・競技後の栄養素摂取量と、走行タイムおよび競技レベルの関連
栄養素摂取量は、前記三つの走行タイムカテゴリー別および競技レベル別に、競技前・競技中・競技後の3時点で比較された。
競技前:走行タイムや競技レベルで栄養素摂取量に有意差なし
競技開始1時間前の摂取量の平均は、水分7.2±4.1mL/kg、エネルギー量4.6±7.0kcal/kg、炭水化物0.8±0.6g/kg、タンパク質および脂質は各0.1±0.1g/kg、ナトリウム4.6±4.7mg/kgであり、カフェインは1.3±0.9mg/kgだった。
走行タイムカテゴリーの3群で比較したところ、すべて有意差はみられなかった。また、競技レベルの2群で比較した場合も、摂取量に有意差のある栄養素はなかった。
競技中:サブスリーランナーは炭水化物摂取量が有意に多い
競技中の摂取量の平均は、水分466.1±279.2mL/時、エネルギー量148.2±69.4kcal/時、炭水化物35.4±16.9g/時、タンパク質0.9±1.3/時、脂質1.4±5.1g/時、ナトリウム192.3±150.3mg/時、カフェイン56.6±49.4mg/時だった。
走行タイムカテゴリーの3群で比較したところ、すべて有意差はみられなかった。ただし、走行タイムが3時間未満(いわゆるサブスリー〈sub-three-hours〉)か否かで二分した比較では、炭水化物についてはサブスリー群の摂取量のほうが多く、有意差が認められた(p=0.011)。また、米国スポーツ医学会の長時間運動での炭水化物摂取量の推奨(30~60g/時)を満たしていた割合は、全体で49.0%と半数以下だったが、サブスリー群では69.4%であり、他群より有意に多かった(p=0.035)。
競技レベルの2群で比較した場合、国内・国際大会レベルは地域大会レベルより、脂質摂取量が有意に多かった(0.09±8.0 vs 0.07±2.1g/時)。エネルギー量(161.8±11.1 vs 141.6±6.2kcal/時、p=0.08)や炭水化物摂取量(38.6±2.7 vs 33.9±1.5g/時、p=0.107)、およびその他の栄養素の摂取量は有意差がなかった。
競技後:競技レベルの高いランナーは競技後のエネルギー摂取量が有意に多い
競技終了1時間での摂取量の平均は、水分14.7±7.9mL/kg、エネルギー量4.2±3.2kcal/kg、炭水化物0.80±0.5g/kg、タンパク質0.12±0.2g/kg、脂質0.06±0.1g/kg、ナトリウム2.4±3.9mg/kg、カフェイン0.52±0.2mg/kgだった。
走行タイムカテゴリーの3群で比較したところ、すべて有意差はみられなかった。
競技レベルの2群で比較した場合、国内・国際大会レベルは地域大会レベルより、エネルギー量(4.4±3.4 vs 3.4±3.1kcal/kg、p=0.031)、脂質(0.03±0.2 vs 0.01±0.1g/kg)、ナトリウム(2.0±3.9 vs 1.1±4.0、p=0.005)の摂取量が有意に多かった。炭水化物(0.80±0.6 vs 0.66±0.5g/kg、p=0.244)やタンパク質(0.06±0.1 vs 0.04±0.2、p=0.073)、およびその他の栄養素は有意差がなかった。
走行タイムと有意な相関のある因子の検討
次に、走行タイムを従属変数、年齢や性別、BMI、栄養素摂取量を独立変数とする解析を施行。その結果、高齢(r=0.244、p=0.002)、BMI高値(r=0.287、p=0.000)、性別が女性であること(p=0.000)は走行タイムの長さと正相関し、トレーニングの頻度や時間は逆相関していた(いずれもp=0.000)。
競技前の栄養素摂取量は走行タイムと有意な関連がなかった。競技中の栄養素摂取量に関しては、水分(r=0.241、p=0.002)が正相関した一方、エネルギー量(r=-0.150、p=0.061)や炭水化物摂取量(r=-0.155、p=0.054)は、有意水準には至らないが逆相関の傾向(摂取量が多いほどタイムが短い傾向)が認められた。
栄養カウンセリングを受けているランナーは約半数
このほかに、栄養カウンセリングを受けているか否かも調査され、コーチから受けているランナーが19.3%、スポーツ栄養士から受けているのが18.7%、その他のスタッフから受けているのが16.1%であり、45.8%はカウンセリングを受けていなかった。
栄養カウンセリングを受けていたランナーの完走タイムカテゴリーをみると、スポーツ栄養士から受けていたランナーでは121~180分という最も良好なカテゴリーに属する割合が高い傾向が見てとれる。詳しく述べると、完走タイム121~180分の37人のうち、スポーツ栄養士から栄養カウンセリングを受けていたランナーが25.0%と「カウンセリングを受けていない」を除いた中で最多を占め、コーチまたはその他のスタッフから受けていた群は各13.9%であった。また、完走タイム241分以上の24人のうち、スポーツ栄養士から栄養カウンセリングを受けていたランナーが占める割合は4.3%と最小だった。
文献情報
原題のタイトルは、「Nutritional Intake and Timing of Marathon Runners: Influence of Athlete’s Characteristics and Fueling Practices on Finishing Time」。〔Sports Med Open. 2025 Mar 16;11(1):26〕 原文はこちら(Springer Nature)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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長期的な追跡調査の結果、高齢者における自転車利用が、健康寿命および寿命の延伸に貢献し、この効果はとくに、車を運転しない人において大きい可能性が示された。筑波大学の研究者による研究の結果であり、「Transportation Research Part F: Traffic Psychology and Behaviour」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。著者らは「日本では高齢者の運転免許返納が進んでいるが、これと同時に、高齢者の自転車利用を促進するような社会的支援が望まれる」としている。
研究の概要:自転車利用は高齢者の要介護や死亡のリスクを下げる可能性
欧米に比べて、日本では多くの高齢者が移動手段として自転車を利用している。先行研究により、自転車利用者は社会交流や身体活動量が多いことがわかっている。これらの知見から、自転車利用は、長期的には要介護化や死亡のリスクを低減する重要な生活因子であることが予想される。
しかし、日本においてこれを解明するための長期的な追跡調査はなかった。この研究では二つの研究課題により、これを検証した。
第一に、2013年時点の自転車利用量と2023年までに発生した要介護化および死亡との関連性を、10年間の追跡調査で検証した。第二に、2013年と2017年の2時点における自転車利用状況(非利用/開始/中断/継続)と要介護化、死亡との関連性を検証した。さらに、上記の両課題において、車を運転しない人に限った分析を行った。
第一の研究課題による検証を通して、2013年時点の自転車利用者は非利用者に比べて、その後10年間の要介護化および死亡リスクが低いことがわかった。また、この自転車利用による各リスクの低下は、とくに車の非運転者において顕著であることがわかった。
第二の研究課題からは、2013年から2017年にかけて、自転車利用を4年間継続していた人は非利用者に比べて、その後6年間の要介護化および死亡のリスクが低いことがわかった。さらに、車の非運転者に限った分析からは、自転車利用の継続者だけでなく、利用開始者も要介護化リスクが低いことがわかった。
これらの結果から、高齢者における自転車利用は、健康寿命および寿命の延伸に貢献し、この効果はとくに車を運転しない人において大きいことが示唆された。高齢者にとって自転車は「生活の足」として機能し、心身の健康維持・増進に貢献していると考えられる。日本では高齢者の運転免許返納が進んでいるが、これと同時に高齢者の自転車利用を促進するような社会的支援が望まれる。
研究の背景:日本では高齢者の自転車利用の健康効果に関する縦断研究が不足
欧米に比べて、日本では多くの高齢者が移動手段として自転車を利用している。自転車は徒歩よりも長距離の移動が容易であり、高齢者が痛みを抱えやすい膝関節への負担が軽いという利点がある。したがって、とくに交通網が発展していない中山間地域では、自転車は重要な「生活の足」としての役割を担っていることが予想される。
これまでに国内で行われた横断研究により、自転車利用者は社会交流や身体活動量が多いことがわかっており、長期的にみた場合は、要介護化や死亡のリスクを低減する重要な生活因子となることが期待される。一般成人を対象にした複数の研究では、自転車利用者は死亡リスクが低いことが既に報告されているが、高齢者では、欧米においてこの関連を認めた報告と認めなかった報告の両方があり、一貫した結果は得られていない。加えて、日本では、長期の追跡研究そのものが行われていない。
そこで本研究では、まず、基本的解析として、中山間地域在住高齢者を対象に、調査開始時の自転車利用量と要介護化、死亡との関連性を、10年間の追跡研究により検証した。続いて、初回調査から4年後にもう一度同様の調査を行い、自転車利用状況(非利用/開始/中断/継続)と要介護化、死亡との関連性を検証した。さらに、両課題において車を運転しない人(非運転者)に限定した解析を追加で実施した。
研究内容と成果
(1)調査開始時の自転車利用量と要介護化・死亡との縦断的関連性に関する研究
2013年に茨城県笠間市で高齢者を対象に実施した郵送調査の有効回答者6,385人(平均年齢74.2±6.5歳、女性52.5%)を対象に、2023年まで10年間にわたり追跡し、要介護化(要支援1以上)と死亡の状況について調査した。
自転車利用状況は、平均的な1週間における自転車に乗る日数と時間を質問紙で調査し、週あたりの自転車利用量を、「非利用/1~74分/75~149分/150分以上」の四つのカテゴリーで集計した。
分析の結果、2013年時点に短時間であっても自転車を利用していた高齢者は、非利用者に比べて、その後10年間の要介護化および死亡リスクが低いことがわかった(図1)。また、自転車利用による両リスクの低下は、とくに車の非運転者において強まることがわかった(図2)。ただし、自転車利用量が多い人ほど、各リスクが低下するという量反応関係はみられなかった。
図1 調査開始時の自転車利用量と要介護化リスク(左図)および死亡リスク(右図)
(出典:筑波大学)
図2 車の非運転者における調査開始時の自転車利用量と要介護化リスク(左図)および死亡リスク(右図)
(出典:筑波大学)
(2)2時点における自転車利用の変化と要介護化・死亡との縦断的関連性に関する研究
2013年時点の有効回答者6,385人のうち、2017年時点に生存し、かつ、介護認定歴や転出歴がない人を対象に再度郵送調査を行い、3,558人から有効回答を得た。そして、2013年および2017年時点の自転車利用(週1日以上)状況から、対象者を「非利用/利用開始/中断/継続」の4グループに分け、2023年まで6年間にわたり追跡して、要介護化と死亡の状況について調査した。
分析の結果、2013年から2017年にかけて4年間、自転車利用を継続していた人は、非利用者に比べて、その後6年間の要介護および死亡のリスクが低いことがわかった(図3)。さらに、車の非運転者に限った分析では、自転車利用の継続者に加え、開始者も要介護化リスクが低いことがわかった(図4)。
図3 自転車利用の変化と要介護化リスク(左図)および死亡リスク(右図)
(出典:筑波大学)
図4 車の非運転者における自転車利用の変化と要介護化リスク(左図)および死亡リスク(右図)
(出典:筑波大学)
これらの結果から、高齢者における自転車利用は、健康寿命および寿命の延伸に貢献し、この効果はとくに車を運転しない人において大きいことが示唆された。高齢者にとって自転車は「生活の足」として機能し、心身の健康維持・増進に貢献していると考えられる。運転免許返納による高齢者の移動手段の確保が課題となっている日本において、高齢者の自転車利用を促進するような社会的支援が望まれる。
今後の展開:電動アシスト自転車の健康効果は?
本研究では、自転車利用における電動アシスト機能については評価できていない。通常の自転車に比べて、電動アシスト付き自転車の方が身体的な負荷は軽くなるが、傾斜地での利用を容易にすることや、走行距離、利用の継続性といった面で利点があると考えられる。著者らは、「今後は自転車利用に関する調査項目を充実させて、電動アシスト付き自転車の健康効果について調査、検証を進めていく予定」としている。
プレスリリース
自転車利用は健康寿命延伸のカギで、車の非運転者では特に重要(筑波大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Changes in cycling and incidences of functional disability and mortality among older Japanese adults」。〔Transp Res Part F Traffic Psychol Behav. 2025 May:111:296-305〕 原文はこちら(Elsevier)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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食習慣が健康状態に強く関与していて、心血管死や癌死、および全死亡のリスクと関連のあることは広く知られている。しかし、人々の食習慣は人生の途中で変化することも少なくない。では、そのような変化が生じた場合に、死亡リスクも変化するのだろうか? この疑問に対する一つの答となる日本人対象研究の結果が、「Journal of Epidemiology」に掲載された。国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 ヘルス・メディカル微生物研究センターの渡邉大輝氏、愛媛大学大学院農学研究科の丸山広達氏らが報告した。
日本人における食事の多様性の変化と死亡リスクとの関連を解析
食習慣と健康アウトカムとの関連については、横断研究にとどまらず縦断研究のエビデンスも存在する。しかし、それらの研究の大半は食習慣を一時点でのみ評価していて、観察期間中に生じた可能性のある食習慣の変化が考慮されていない。それでも海外からは、地中海食スコアや代替健康食事指数(Alternate Healthy Eating Index;AHEI)で把握した食習慣の改善が、死亡リスクと負に関連することが報告されている。ただ、日本人でのエビデンスはみられない。渡邉氏らは、国内多施設共同大規模コホート(the Japan Collaborative Cohort)研究(JACC Study)のデータを用いてこの点を検討した。
JACC Studyは、1988~90年に国内45地域に居住する40~79歳の成人11万585人を登録し、2009年まで健康アウトカムを前向きに追跡した研究。このJACC Study参加者のうち、ベースライン時および追跡5年目に実施した食物摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire;FFQ)を用いた調査に回答していて、それまでにがん・心血管疾患に罹患しておらず、その他のデータ欠落のない2万863人(ベースライン時の年齢55.7±9.3歳、女性63.0%)を解析対象とした。
食事の多様性の変化パターンに基づき、4群に分けて死亡リスクを比較
食習慣の評価には、食品摂取の多様性スコア(Dietary diversity Score;DDS)を用いた。33種類の食品について、FFQで把握した摂取頻度に基づき0~1点の間にスコア化し、合計33点満点のDDSを算出。すると、ベースライン調査におけるDDSの平均は10.5点、5年後の調査の平均は10.3点だった。
各調査の平均点の上か下かで、多様性が‘高い/低い’と判定。2回の調査での判定結果に基づき、全体を4群に群分けして、死亡リスクを比較した。各群の該当者割合は以下のとおり。
ベースライン調査と追跡調査ともに‘低い’で一貫していた「低/低」群(37.7%)、ベースライン調査では‘低い’だったものが追跡調査では‘高い’に改善していた「低/高」群(14.1%)、ベースライン調査では‘高い’だったものが追跡調査では‘低い’に悪化していた「高/低」群(14.4%)、ベースライン調査と追跡調査ともに‘高い’で一貫していた「高/高」群(33.8%)。
食事の多様性が一貫して高かった群のみ、死亡リスクが有意に低いという結果
中央値14.8年(四分位範囲6.9~16.1)、25万6,277人年の追跡で、2,995人(14.4%)が死亡していた。解析に際しては、交絡因子(年齢、性別、地域、BMI、喫煙・飲酒・運動・睡眠習慣、エネルギー摂取量、テレビ視聴時間、就業状況、婚姻状況、高血圧・糖尿病の既往など)の影響を統計学的に調整したうえで、「低/低」群を基準として死亡リスクを比較した。
その結果、「高/高」群でのみ、全死亡(ハザード比〈HR〉0.82〈95%CI;0.74~0.91〉)と心血管死(HR0.81〈0.67~0.98〉)のリスクの有意な低下が観察された。「低/高」群や「高/低」群は「低/低」群と有意差がなかった。つまり、5年の間に食事の多様性が変化したことによる死亡リスクへの影響は認められなかった。
なお、癌死や呼吸器疾患死については、「高/高」群も「低/低」群との差は有意ではなった(それぞれ、HR0.93〈0.80~1.09〉、0.93〈0.69~1.25〉)。
性別の解析では、男性の死亡リスクはDDSと関連なし
続いて性別ごとに解析すると、女性では全体解析と同様に、「高/高」群では、全死亡(HR0.73〈0.63~0.85〉)と心血管死(HR0.54〈0.31~0.94〉)のリスクの有意な低下が観察された。「低/高」群や「高/低」群の死亡リスクは、やはり「低/低」群と有意差がなかった。
一方、男性では「高/高」群においても、死因にかかわらず「低/低」群と有意差がなかった。
中年期以降に食事の多様性を改善しても死亡リスクは変わらない可能性
著者らは本研究を「日本人を対象にDDSの変化と全死亡リスク、死因別死亡リスクとの関連を検討した初の研究」と位置づけている。
結果的に、DDSの変化と死亡リスクとの有意な関連は認められなかった。先述のように、海外の先行研究では、地中海食スコアやAHEIで把握した食習慣の改善が死亡リスクと負に関連するという、本研究とは異なる結果が示されている。この違いの理由として著者らは、「食事の多様性を表すDDSは他の指標より解釈が容易ではあるが、ナトリウムや飽和脂肪酸などの控えるべき栄養素の摂取が多い場合にも高く評価される傾向があることなどの影響が考えられる」として、「より精度の高い指標を用いた再検討が必要な可能性がある」としている。
また、DDSと死亡リスクとの関連が女性で有意、男性では有意ではないという結果の理由として、男性は野菜や果物、乳製品の摂取量が全体的に少なく、DDSの高低で分けても群間差があまりないこと、サンプル数が少なかったために統計的に有意になりにくいこと、調理の習慣や食品に関する知識が女性ほど高くない可能性があることなどの影響を挙げている。
結論として、「40歳以上の国内一般住民を対象とした我々の研究により、DDSで評価した食事の多様性の高さが全死因および心血管疾患による死亡のリスクと負に関連していることが示された。ただし、性別ごとの解析では女性においてのみ、それらの関連が有意だった。さらに、ベースラインから5年後までのDDSの変化は死亡リスクと有意な関連がなかった。よって、中年期以降に食事の多様性が向上しても、死亡リスクが抑制されない可能性が示唆された。このことは、食事の多様性が低い人に対して、より早期から改善を働きかけることの必要性を示しているとも考えられる。ただし、本研究結果の検証のため、より大規模なサンプル、かつ食事の質のより精緻な評価手法を用いた今後の研究が必要かもしれない」とまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Changes in dietary diversity and subsequent all-cause and cause-specific mortality among Japanese adults: The Japan Collaborative Cohort Study」。〔J Epidemiol. 2025 Mar 8〕 原文はこちら(J-STAGE)
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計量前の急速な減量が、男性格闘技選手の怪我のリスクと関連があることが報告された。計量の24時間前からの減量幅が1パーセントポイント多いごとに、試合後7日以内に怪我を報告する確率が約1.2倍上昇するという。オーストラリアからの報告。
急速な減量のパフォーマンスへのプラス作用は不確か。一方で怪我のリスクとなる可能性
格闘技アスリートの多くが、有利な条件で試合を行うために、計量前に急速な減量(rapid weight loss;RWL)を行っている。ただ、RWLが試合の勝利に結びつくとするエビデンスは乏しく、一方で脱水のリスクを高めたり、ジュニア期では成長の遅延という影響が生じ得ることが報告されている。さらに、試合中のケガのリスクを押し上げる可能性も示唆されている。ただし、本論文の著者によると、RWLと怪我のリスクとの関連については柔道やレスリング、テコンドーでは報告があるが、総合格闘技では調査されていないという。
総合格闘技とムエタイ選手の試合後の怪我の有無と、RWLやRWGとの関連を検討
この研究は、西オーストラリア州で開催された格闘技大会(15件はムエタイ、9件は総合格闘技)の参加選手を対象とするオンラインアンケートとして実施された。各イベントの主催者、コーチ、ソーシャルメディアを通じて、メールや電話などで選手に回答協力を呼び掛けた。対象は、西オーストラリア州格闘技委員会(Western Australia Combat Sports Commission)の公式試合、24試合のいずれかに参加した選手として、18歳以上であることと、アンケートの回答に必要な英語の能力があることを条件とし、プロかアマチュアかは問わなかった。
各イベントの5~7日後にアンケートへの回答を依頼。質問内容は、試合前7日間での減量幅、試合前日の計量の24時間前からの減量幅、および試合後7日間の怪我の有無。これに、選手登録情報にある体重の情報や、試合前2度目の計量時の体重のデータを解析に用いた。
なお、試合前の計量は2度行われ、試合開始時刻の24時間前の計量で規定の体重をクリアしていることを確認し(この時点での計量は1回のみ)、2度目の計量は試合開始の2時間前に実施され、この時点では体重要件を満たす必要はなかった。
試合後の怪我の報告の有無で二分した比較では、RWLの幅に有意差なし
14カ月の調査期間中に開催された24件の大会の参加者155人、215件の回答を得られた。試合に複数回参加した選手は最初の試合のみのデータに該当する155件のうち、31人は試合後にトレーニングを行っておらず怪我の状態が不明と判断され、残った124件を試合後の怪我の報告の有無で二分して比較。
すると、試合前7日間での急速な減量(RWL)の幅、計量前24時間でのRWLの幅、および計量後から試合までの急速な増量(rapid weight gain;RWG)は、試合後の怪我の報告状況に有意差はなかった。この結果は、性別に解析しても同様だった。
なお、試合の結果については、男性選手では怪我なしの場合は勝率が50%、怪我ありの場合は35%、女性は同順に63%、73%だった。
また、急速な減量(RWL)と、計量後から試合までの急速な増量(RWG)の状況は、男性選手は7日間でのRWLは-6.1±3.2%、24時間では-3.0±1.9%、RWGは5.7±3.3%、試合時点で減量がどの程度回復していたかを表す「RWGのRWLに対する比(RWG/RWL比)」は91%だった。女性選手は7日間でのRWLは-4.9±3.4%、24時間では-2.6±2.1%、RWGは5.8±3.3%、RWG/RWL比は112%だった。
男性選手では計量前24時間での減量と計量後の増量が怪我のリスクに相関
次に、ロジスティック回帰モデルによる検討を実施。この解析の対象は、215件の回答から試合後にトレーニングを行っておらず怪我の状態が不明だった43件を除外した175件とした。解析の結果、年齢は試合後に怪我を報告する有意な関連因子であるほかに(1歳高齢であるごとにオッズ比1.07)、試合前の急速な減量(RWL)および急速な増量(RWG)と、以下のような関連が認められた。
急速な減量(RWL)との関連
試合前7日間でのRWLが1パーセントポイント多いごとに、試合後7日間に怪我を報告することのオッズ比が、女性選手は0.92(95%CI;0.80~1.06)、男性選手は1.07(0.94~1.18)で、性別にかかわらす有意な関連はなかった。一方、計量前24時間でのRWLが1パーセントポイント多いごとに、試合後7日間に怪我を報告することのオッズ比が、女性選手は0.86(0.68~1.10)でやはり有意な関連がなかったが、男性選手は1.19(1.00~1.42)であり、19%増えるという有意な関連が認められた。
急速な増量(RWG)との関連
計量から試合までの間のRWGが1パーセントポイント多いごとに、試合後7日間に怪我を報告することのオッズ比が、女性選手は0.98(0.86~1.11)で有意な関連がなかったが、男性選手は1.13(1.01~1.26)であり、13%増えるという有意な関連が認められた。
選手寿命を重視するならRWLに際してスポーツ栄養士の介入を
以上に基づき論文の結論は、「計量前24時間でより大きく減量した男性格闘技選手は、試合後7日間に怪我を報告する可能性が高い。アスリートとコーチは、選手の成功とキャリアのために、スポーツ栄養士などの栄養の専門家のアドバイスを求める必要がある」と述べられている。
また、本研究ではRWLとRWGは強く相関するものの、RWGの変動の43~55%はRWLでは説明できないことも明らかになった。RWGの変動の残りの半分は何が規定しているのかは現時点で不明であり、今後の研究が必要としている。
文献情報
原題のタイトルは、「Is there a relationship between rapid weight changes and self-reported injury in combat sports athletes? A 14-month study of 24 combat sports events」。〔J Sci Med Sport. 2025 Jan 22:S1440-2440(25)00007-6〕 原文はこちら(Elsevier)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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去る2024年10月に開催された第83回 日本公衆衛生学会総会にて、女子栄養大学 副学長・教授の武見ゆかり先生が、「産業保健と地域保健の連携による職域の減塩の推進」をテーマに講演されました。講演では、現場で活動する栄養士・管理栄養士にとって実践的かつ今後の活動に直結する知見が多数示されました。この講演のレビュー記事が、栄養士・管理栄養士向け情報サイト「あじこらぼ」(味の素株式会社)で公開されましたのでご紹介します。
減塩の目標達成には環境整備がカギ
日本人の平均食塩摂取量は現在も10g前後で推移しており、2024年度から始まった「健康日本21(第三次)」で掲げられた国民平均7gという目標を達成するには、新たな視点からのアプローチが不可欠です。武見先生は、個人の努力だけに頼るのではなく、“自然に健康になれる環境づくり”の一環としての「食環境整備」の必要性を強調しました。
講演では、職域での食環境改善による具体的な減塩の成功事例が2件紹介されました。1つは、社員食堂を持たない企業でスマートミール対応弁当の導入と減塩講話の実施により、食塩摂取量と尿Na/K比が有意に改善した事例。もう1つは、社員食堂を持つ企業において、メニューの減塩化と情報提供を行った結果、従業員の血圧が有意に低下した事例です。いずれも、「食品へのアクセス」と「情報へのアクセス」の両輪が有効に機能した好例として紹介されました。
また、武見先生は、情報提供だけのポピュレーションアプローチで生活習慣を変えるには限界があることを指摘。人々が無意識のうちに減塩を実現できるような、食品そのものの質の改善が、健康格差の是正にもつながる重要な施策であると述べました。
今後、栄養士・管理栄養士には、従来の教育活動に加えて、職域や地域と連携した食環境づくりの視点がますます求められます。減塩を社会全体で推進するための中核的存在として、多職種との連携を活かした取り組みが期待されています。
このセミナーレポートの全文と印刷用のPDFは、Webサイト「あじこらぼ」で絶賛公開中です。栄養に携わる方にとって必見の内容ですので、ぜひご一読ください。
レビュー記事の全文&PDFダウンロードはこちら!
第83回 日本公衆衛生学会総会「産業保健と地域保健の連携による職域の減塩の推進~ポピュレーションアプローチとしての食環境整備~」武見 ゆかり 先生(女子栄養大学 副学長・教授)
栄養士さん・管理栄養士さん向け情報サイト「あじこらぼ」
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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月経に関連する困難症状(月経随伴症状)について、運動習慣のない若年女性と運動習慣のある若年女性とで比較検討した結果、症状関連要因が両群間で異なる可能性のあることが明らかになった。筑波大学体育系の中田由夫氏、順天堂大学スポーツ健康科学部の町田修一氏、日本女子体育大学体育学部健康スポーツ学科の夏井裕明氏らの研究によるもので、「BMC Women's Health」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。著者らは、「個人の生活習慣などに応じた対策の必要性が示唆される」としている。
研究の概要:月経随伴症状の重症度と関連のある因子をWebアンケート調査
月経困難症や月経前症候群などの月経随伴症状は、若年女性の約90%が経験し、日常生活にも影響を及ぼすことが知られている。これらの症状への対策が求められているが、これまで有効な対策の構築には至っていない。
この研究では、日常的に運動を行っていない若年女性(運動習慣のない若年女性)99人と、定期的に運動を行っている女子サッカー選手(運動習慣のある若年女性)125人を対象に、症状の重症度と個人特性、生活習慣等に関するWebアンケート調査を実施し、月経随伴症状の重症度に影響を与える要因を運動習慣の有無によって比較した。
その結果、運動習慣のない若年女性では月経日数やストレスが影響していたのに対し、運動習慣のある若年女性では、ボディーマス指数(BMI)、就寝時間、カフェインの摂取、朝食の摂取状況が影響していることがわかった。以上のことから、月経随伴症状の重症度に影響を与える要因は運動習慣の有無によって異なる可能性があり、個人の生活習慣などに応じた適切な対策の必要性が示唆された。
本研究の知見は、症状の軽減、さらには女性の健康支援や生活の質の向上に貢献することが期待される。
研究の背景:アスリートと非アスリートで、月経随伴症状関連因子は異なるか?
月経困難症や月経前症候群などを含む月経随伴症状※1は、月経を有する女性の約90%が経験する症状。重度の症状を有する場合は、学校や仕事を欠席せざるを得ないなど、日常生活にも影響を与え、若年女性の生活の質を揺るがしかねない。また、経済産業省(働く女性の健康推進に関する実態調査 2018)によると、月経随伴症状による年間の社会的負担は6,828億円と推定されており、重大な社会的課題であることから、対策の必要性が示されている。
これまで、月経随伴症状の重症度に影響を与える要因についての検討は多く行われているが、その多くが運動習慣のない女性を対象とした研究であり、運動習慣を有する女性アスリートを対象とした研究はほとんどなかった。女性アスリートにおいても、運動習慣のない女性と同様に月経随伴症状の発現が認められており、競技パフォーマンスへの影響も懸念されている。一方で、月経随伴症状の重症度には身体活動が関連するといった報告もあることから、運動習慣のない女性の研究結果を女性アスリートに適応できるのか否かは明らかではない。
そこで、本研究では、月経随伴症状の重症度に影響を与える要因を運動習慣の有無によって比較検討した。
研究内容と成果:共通の因子が認められず、両者で大きく異なるという結果
2022年6月から8月にかけ、日常的に運動を行っていない若年女性(運動習慣のない若年女性)と、大学の部活動などに所属し定期的に運動を行う女子サッカー選手(運動習慣のある若年女性)を対象として、月経随伴症状の重症度と個人特性、生活習慣についてのWebアンケート調査を実施した。この調査において、月経随伴症状の重症度は、先行研究(Mitsuhashi et al, 2023)において報告されている16の症状それぞれの月経前と月経中の重症度を0〜3で評価した。また、個人特性としては、身長や体重、初経年齢や月経の日数などを調査し、生活習慣としては、食習慣、睡眠状況、身体活動量、ストレス状況を調査した。
回答者428人(運動習慣のない女性192人、運動習慣のある女性236人)のうち、データ欠損等があった198人を除外した224人(運動習慣のない女性99人、運動習慣のある女性125人)のデータを使用し、ロジスティック回帰分析※2を用いて月経随伴症状の重症度に影響を与える要因を検討した(表1)。
表1 ロジスティック回帰分析の結果
黄色のハイライトが、月経随伴症状の重症度に影響を与える要因と考えられる項目。 BMI:Body Mass Index、METs:Metabolic equivalents、*:p<0.05(統計的に有意)。 0.05(統計的に有意)。
その結果、運動習慣のない若年女性では、重度の症状を有することと月経日数が長いこと、ストレスレベルが高いことに関連が認められた。一方、運動習慣のある若年女性では、重度の症状を有することとBMIが高いこと、就寝時間が遅いこと、月経随伴症状を有している、または有する家族がいること、カフェインの摂取があること、週あたりの朝食摂取頻度が少ないことが関連していることが明らかになった。
以上のことから、月経随伴症状の重症度に影響を与える要因は、運動習慣の有無によって異なる可能性が示唆された。
今後の展開:症状軽減関連因子の探索
本研究により、月経随伴症状の重症度に影響を与える要因は運動習慣の有無によって異なる可能性があり、さらに生活習慣などの個人の特徴に応じた対策の必要性が示唆された。著者らは、「今後さらに、本研究で月経随伴症状との関連が認められた項目を改善することで症状が軽減されるか、また、症状が軽減されることで生活の質は向上するのかについて検証を行っていく」としている。
出典
文献情報
原題のタイトルは、「Comparison of factors associated with the occurrence of menstruation-related symptoms in Japanese women without exercise habits and female soccer players: A cross-sectional study」。〔BMC Womens Health. 2025 Mar 24;25(1):139〕 原文はこちら(Springer Nature)
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腕に付けたセンサーにスマホをかざすことで血糖値をいつでも測定できる、間歇スキャン式持続血糖測定(isCGM)を糖尿病でない人が用いた場合、測定結果が高めに示されるという論文が、米国臨床栄養学会発行の「The American Journal of Clinical Nutrition」に掲載された。食品GI値をisCGMで評価すると高値と判定されるため、示された値を基に食事制限などを行うと、過小摂取につながり得ると著者らは述べている。
そもそもisCGMは糖尿病患者の血糖管理目的で開発された機器
間歇スキャン式持続血糖測定(intermittently scanned continuous glucose monitoring;isCGM)は、皮下間質液中のブドウ糖濃度を測定するセンサーを腕に留置し、そこにスマートフォンなどをかざすと、その時点の血糖値および過去数時間の血糖変動が示される。指先などの穿刺の必要がなく、何度でも繰り返し測定でき、血糖トレンド(上昇局面か下降局面か安定しているのか)もわかることから、糖尿病患者の血糖管理に寄与している。
isCGMが測定しているのは、実際には血糖値ではなく、細胞間質液中のブドウ糖濃度である。この細胞間質液中の糖濃度を静脈血漿血糖値に換算した結果が表示される。その換算には、主に糖尿病患者の血糖変動から得たデータを基に構築されたアルゴリズムが利用されている。つまり、現在使われているisCGMは、非糖尿病者の血糖変動はあまり考慮されていないアルゴリズムに基づいて換算した値を「血糖値」として表示している。
このほかのisCGMの注意点として、従来より、血糖が細胞間質に移動するのに若干時間がかかることから、血糖値が短時間で大きく変化しているとき、とくに低血糖になり始めているような時には、isCGMの測定値が実際の血糖値との乖離が大きくなること、センサー装着直後は測定精度が低いことなどが知られている。また、アスリートが使用する場合には、発汗の影響、衝撃への耐久性なども考慮すべき課題として指摘されている。
このような課題がありながらも、血糖値を瞬時に何度でも測定できるという画期性から、isCGMは急速に普及してきており、非糖尿病者の健康管理目的での使用も広がっている。非糖尿病者がisCGMを用いる場合の主要な使い方の一つとして、食後血糖上昇の把握が挙げられる。実際、食品のグリセミック指数(glycemic index;GI)をisCGMで評価した報告も少なくない。ただし、GI測定のゴールドスタンダードは指先等を穿刺して血液検体を得て行う血糖自己測定(self monitoring of blood glucose;SMBG)とされている。ところが、これまでのところ、SMBGによるGIの評価とisCGMによるGIの評価を比較した検討は十分行われていない。
以上を背景として今回紹介する論文の著者らは、非糖尿病の健常者を対象に食事負荷試験を行い、SMBGとisCGMによるGIが同等か否かを検証した。
7種類の食品のGI値をSMBGとisCGMで比較
この研究は英国で実施され、参加者は年齢が18~65歳の健康な成人で、食品に対するアレルギーがなく、食後血糖変動に影響を及ぼし得る状態(脂質異常症や糖代謝異常の存在、およびその治療など)がなく、女性は妊娠・授乳中でないことを条件として募集された15人。果物のスムージーや果物そのもの(丸ごと)を5分未満で摂取する条件、25~35分かけて摂取する条件、ブドウ糖摂取条件、食物繊維摂取条件など、計7種類の条件でGIを測定するという、無作為化非盲検クロスオーバー試験として実施した。
各条件の試行の前日の夕食は、試験期間が始まる前に個々の参加者が選択した食事を再現した。また飲酒や喫煙は禁止した。少なくとも2日間(中央値3日)のウォッシュアウト期間を設けて7条件を試行し、試行の時間帯は6時50分~11時として参加者ごとの時間帯のずれは1時間以内とした。7条件の食品の摂取前、摂取15、30、45、60、90、120分後にSMBGを実施した。この間、トイレに行く以外は着座とした。室温は18.4~22.3℃、湿度は30.0~42.0%、気圧は736~791mmHgの範囲だった。
なお、参加者によっては、空腹時時点でもisCGMとSMBGの値に乖離が認められた。このため、食後血糖の両者の乖離の解析に際しては、単純に両者の測定結果を比較するというモデルのほかに、空腹時の値の差を調整(例えば空腹時isCGMの値がSMBGの値より10mg/dL高ければ、食後のisCGM値を-10)したうえで比較するというモデル(isCGMadj)でも検討した。
糖尿病でない人のisCGMを利用した食事管理には注意が必要
研究参加者15人は年齢が34±14歳、女性9人で、BMI24.05±2.6だった。
七つの条件すべてで、食品摂取後isCGMの値はSMBG値よりも高値で推移していた。空腹時点での乖離を調整したisCGMadjでは、乖離の幅は縮小したものの、多くのポイントでSMBG値より有意に高い値で推移していた。
これに伴い、isCGMで評価したGI値は高値となっていた。例えばスムージーのGI値はSMBGでは53であり低GI(GI56未満)と判定されたが、isCGMでは69であり中GI(同56~69)と30%高く判定された。ブドウ糖摂取条件などを除外し、果物を丸ごと食べる条件、食物繊維条件といった4条件で比較すると、SMBGではすべて低GIと判定されたのに対して、isCGMでは3種類が中GI、1種類は高GI(69超)と判定された。
血糖値が140mg/dL以上の時間帯を3.8倍長く評価する
このほかに明らかになったこととして、食後に血糖値が140mg/dL以上になっていた時間帯の長さを比較すると、isCGMはSMBGより3.8倍長く評価することが明らかになった(p<0.001)。空腹時時点の乖離を調整しても、なお2倍の開きがあった(p=0.005)。<>
これらの結果から著者らは、isCGMは食品のGI値を判断する適切な方法とは言えないと結論づけている。また、著者らが所属する英バース大学発のプレスリリースには、「isCGMは糖尿病患者にとって素晴らしいツールであり、たとえ測定が完璧に正確でなくても、まったく測定しないよりはましだ。しかし、血糖コントロールが良好な人に対しては、誤解を招く可能性がある。健康な人がisCGMに頼ると、不必要な食事制限や不適切な食事選択につながりかねず、血糖値を正確に評価したい場合は、従来の方法が依然として有効」と記されている。
プレスリリース
Researchers warn continuous glucose monitors can overestimate blood sugar levels(バース大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Continuous glucose monitor overestimates glycemia, with the magnitude of bias varying by postprandial test and individual – a randomized crossover trial」。〔Am J Clin Nutr. 2025 Feb 22:S0002-9165(25)00092-9〕 原文はこちら(Elsevier)
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0.001)。空腹時時点の乖離を調整しても、なお2倍の開きがあった(p=0.005)。<>Page 13
20~69歳の日本人1,055人を対象として、食にまつわるリテラシー(栄養成分表示の活用など8項目)と食に対する動機づけ(健康志向など15項目)を幅広く調査した結果、食事の質との関連を示す項目は、肥満との関連を示す項目と大きく異なることが明らかになった。東京大学の研究グループの研究によるもので、「Appetite」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。研究グループによると、本研究は「食にまつわるリテラシーと食に対する動機づけを網羅的に調べたうえで、それらと食事の質および肥満との関連を包括的に検討した世界で初めての研究」であり、「この成果は世界的な公衆衛生課題である不健康な食生活と肥満の蔓延に対する有効な戦略を立てるうえで重要な科学的根拠となることが期待される」という。
研究の背景:肥満者は食事のリテラシーが低いのか?
不健康な食生活と肥満は、世界的に主要な公衆衛生上の課題。したがって、食習慣や肥満を形作る要因をより良く理解することが必要となってきている。このような流れの中で、食に対する動機づけ、すなわち、個々人が食品を摂取する際に考慮する理由や意味づけに注目が集まってきた。「食」とは、社会の中で営まれる社会的な行為であり、人々の食物摂取は、空腹といった生理学的な動機づけだけでなく、嗜好や利便性、社会的規範といったさまざまな動機づけによってなされるものであるからだ。
また、最近になって登場した概念として、食にまつわるリテラシーがある。これは、「食を計画、管理、選択、準備、摂取するために必要な、相互に関連した知識、スキル、行動の集まり」のことを指す。
食にまつわるリテラシーおよび食に対する動機づけが、食事の質および肥満とどのように関連するかについての検討は、これまで部分的にしか行なわれてこなかった。そこで本研究では、食にまつわるリテラシーと食に対する動機づけを網羅的に調べ、それらと食事の質および肥満との関連を包括的に検討することを目的とした。
研究の内容:千人の日本人成人を対象に食のリテラシーと食の動機づけを調査
本研究は、2023年2~4月に全国26都道府県で実施された「食の5Wスタディ」のデータをもとにしている。研究参加者は、20~69歳の日本人男女1,055人。妥当性が検証済みの質問票を用いて、食にまつわるリテラシー(調理技術、食に関する誘惑に抵抗する力、健康的な間食スタイル、社会的・意識的な食行動、栄養成分表示の活用、日々の食事計画、健全な食費、健全な食品備蓄の8項目※1)と食に対する動機づけ(嗜好、習慣、生理的必要性、健康、利便性、快楽、食の伝統、自然への配慮、社会性、価格、見た目の良さ、体重管理、感情、社会的規範、社会的イメージの15項目※2)を評価した。また、4日間にわたって食事日記をつけてもらい、そのデータをもとにして健康食インデックス※3)を算出し、食事の質を評価した。さらに、身体測定を行った。
結果は表1に示すとおり。食にまつわるリテラシー8項目の中で、食事の質が高いことと関連していたのは、調理技術(が高いこと)、健康的な間食スタイル、栄養成分表示の活用、健全な食費の4項目だった。また、食に対する動機づけ15項目のうち、食事の質が高いことと関連していたのは、自然への配慮を重視すること、利便性を重視しないこと、快楽を重視しないことの3項目だった。
表1 食にまつわるリテラシーおよび食に対する動機づけと、食事の質、肥満および腹部肥満との関連a
c:腹囲が男性90㎝以上、女性80cm以上を腹部肥満とした。
(出典:東京大学)
一方、食にまつわるリテラシー8項目の中で、腹部肥満(腹囲が男性90㎝以上、女性80cm以上で定義)と関連していたのは、食に関する誘惑に抵抗する力(が弱いこと)、日々の食事計画(を立てないこと)の2項目だった。また、食に対する動機づけ15項目のうち、腹部肥満と関連していたのは、嗜好を重視すること、健康を重視しないこと、体重管理を重視することの3項目だった。ちなみに、肥満(BMI25以上)との関連を調べた場合もほぼ同様の結果だった。
今後の展望:不健康な食事と肥満の蔓延に対する対策の新たな視座
食にまつわるリテラシーと食に対する動機づけを網羅的に調べた本研究では、食事の質の向上に重要な項目(調理技術、健康的な間食スタイル、栄養成分表示の活用、健全な食費、自然への配慮重視、利便性軽視、快楽軽視)は、肥満の予防に重要な項目(食に関する誘惑に抵抗する力、日々の食事計画、嗜好軽視、健康重視)と大きく異なることが示唆された。本研究は、食にまつわるリテラシーおよび食に対する動機づけと、食事の質および肥満との関連を包括的に検討した世界で初めての研究。本研究の成果は、世界的な公衆衛生課題である不健康な食事と肥満の蔓延に対する有効な戦略を立てるうえで、重要な科学的根拠となることが期待される。
※1 食にまつわるリテラシー:食にまつわるリテラシー(food literacy)の評価には、オランダで開発された29問からなる妥当性が検証された質問票(self-perceived food literacy scale;SPFL scale)の英語版を日本語に正確に翻訳したものを用いた。評価したのは以下の8項目で、参考として質問の例を付記する。また、SPFL scale日本語版は自由に使用できるように、もと論文のオンライン補足情報として公開されている(詳細はこちら)。
食にまつわるリテラシーの項目/質問(例)
- 調理技術(food preparation skills)/新鮮な食材の品質を見分けたり、匂いを嗅いだり、感じたりすることができますか?
- 食に関する誘惑に抵抗する力(resilience and resistance)/おいしい食べ物が見えて匂いを感じる場所にいることを想像してください。それらを買う誘惑に勝つことができますか?
- 健康的な間食スタイル(healthy snack styles)/間食として果物を食べますか?
- 社会的・意識的な食行動(social and conscious eating)/他の人と一緒にいる場合、共に食事をとることは重要だと思いますか?
- 栄養成分表示の活用(examining food labels)/商品の栄養成分表示でカロリーや脂質、砂糖、食塩の含有量を確認しますか?
- 日々の食事計画(daily food planning)/何かを食べるとき、その日にそれまでに食べたものを振り返りますか?
- 健全な食費(healthy budgeting)/多少値段が高くても、健康的な食品を買いますか?
- 健全な食品備蓄(healthy food stockpiling)/あなたの家に、ポテトチップスやおせんべい、塩味のスナックの買い置きが4袋以上ありますか?
※2 食に対する動機づけ:食に対する動機づけ(eating motivation)の評価には、ドイツで開発された45問からなる妥当性が検証された質問票(The Eating Motivation Survey scale;TEMS scale)の英語版を日本語に正確に翻訳したものを用いた。評価したのは以下の15項目で、参考として質問の例を付記する。また、TEMS scale 日本語版は自由に使用できるように、もと論文のオンライン補足情報として公開されている。
食に対する動機づけの項目/質問(例)
- 嗜好(liking)/わたしが食べ物を食べる理由は…好きだから
- 習慣(habits)/わたしが食べ物を食べる理由は…いつも食べているから
- 生理的必要性(need and hunger)/わたしが食べ物を食べる理由は…お腹が空いているから
- 健康(health)/わたしが食べ物を食べる理由は…バランスのとれた食事をするため
- 利便性(convenience)/わたしが食べ物を食べる理由は…手早く準備できるから
- 快楽(pleasure)/わたしが食べ物を食べる理由は…自分へのご褒美として
- 食の伝統(traditional eating)/わたしが食べ物を食べる理由は…その食べ物と共に育ったから
- 自然への配慮(natural concerns)/わたしが食べ物を食べる理由は…有害物質(例:農薬、汚染物質、抗生物質)が含まれていないから
- 社会性(sociability)/わたしが食べ物を食べる理由は…社交の場がより快適になるから
- 価格(price)/わたしが食べ物を食べる理由は…安価だから
- 見た目の良さ(visual appeal)/わたしが食べ物を食べる理由は…パッケージなど、見た目が魅力的だから
- 体重管理(weight control)/わたしが食べ物を食べる理由は…カロリーが低いから
- 感情(affect regulation)/わたしが食べ物を食べる理由は…イライラしているから
- 社会的規範(social norms)/わたしが食べ物を食べる理由は…食べないと失礼だから
- 社会的イメージ(social image)/わたしが食べ物を食べる理由は…流行っているから
プレスリリース
食にまつわるリテラシーと食に対する動機づけ―食事の質および肥満との関連―(東京大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Food literacy and eating motivation in relation to diet quality and general and abdominal obesity: A cross-sectional study」。〔Appetite. 2025 Mar 13:107968〕 原文はこちら(Elsevier)
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自分の身体が“巨大化”したと想像(大きくなった状態をイメージ)するだけで、実際の歩幅や足の動きが大きくなることが明らかになった。VR(仮想現実)などを使わずとも、言葉だけで身体イメージを操作して、その影響が実際の歩行動作に表れることが、実験的に証明された。京都工芸繊維大学の研究者による研究の結果であり、「Frontiers in Human Neuroscience」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。著者らは、「認知を活用した新たなリハビリや、スポーツ指導法への応用が期待される」としている。
研究の概要:ガリバーになったと思って、リハビリやトレーニングをしたら…
京都工芸繊維大学の研究グループは、まるで「ガリバー旅行記」のように、自分の身体が巨大になったと想像するだけで、実際の歩き方まで変わることを実証した。
歩行動作は通常、身体の大きさや重さを前提とした無意識の運動計画によって制御されているが、本研究では、視覚を遮った状態で「自分の身体が大きくなった」と想像させるだけで、対象者の歩幅や足の持ち上げる高さが実際に増加することが確認された。
従来、身体イメージの変化はおもに、VR(仮想現実)などの高度な技術を用いて操作されていたが、本研究では言葉による指示のみで身体イメージを変化させるという点で新規性がある。これは、身体の認知が運動に与える影響を明確に示した初の成果。
この成果は、リハビリテーション分野やスポーツトレーニングにおいて、認知的なアプローチだけで身体動作を改善・強化する新たな方法としての応用が期待される。
(出典:京都工芸繊維大学)
研究の背景:「歩く」という動作を身体イメージで操作可能か?
ふだん何気なく行っている「歩く」という動作は、実は自分の身体の大きさや重さといった情報を基に、脳が事前に運動計画(モータープラン)を立てたうえで実行されている。これまでの研究では、この運動計画は実際の動作と同じ脳領域が働く「運動イメージ」に基づいていることが明らかになっており、この知見は脳卒中などのリハビリテーションでも活用されている。
一方で、「身体イメージ」──つまり自分自身の身体がどのような大きさ・形をしているかという主観的な感覚──が、歩行にどう影響を与えるかについては、十分には明らかにされていなかった。とくに、身体イメージと実際の身体サイズにズレが生じた場合に、運動がどう変化するのかという問いに対する実験的な検証は、ほとんど行われていない。
このような背景のもと研究チームは、「身体イメージの変化が歩行動作に与える影響」を検証する実験を行った。
研究の内容:「自分が大きくなった」と想像するだけで、歩幅・足を上げる高さが変化
本研究では、18〜19歳の健康な成人26名(男女13名ずつ)を対象に、歩行動作中の身体イメージの影響を調査した。参加者には以下5条件で歩行課題(4歩分の歩行)を実施してもらい、条件ごとの全体の平均運動軌跡を図示した。
5条件の歩行課題
- 目を開けた状態で歩く(開眼)
- 目を覆った(ブラインド)状態で歩く(閉眼)
- 目を覆った状態で「自分の身体が天井(約4m)まで届くほど大きくなった」と想像しながら歩く(閉眼+巨大化イメージ)
- 再び通常の身体イメージを思い浮かべた状態で目を覆って歩く(2回目の閉眼)
- 最後に目を開けた状態で通常の身体イメージに戻して歩く(2回目の開眼)
この条件のうち、とくに注目されたのが三つ目のフェーズである「身体が大きくなった」と想像する条件だった。このとき、歩幅(ステップ長)、足の持ち上げ高さ、1歩にかかる時間が、他の条件と比べて有意に増加していた(図2)。つまり、実際の身体サイズは変わっていないにもかかわらず、「大きくなった」と想像するだけで、歩行動作そのものが拡大されていた。
図2 歩幅・足の上げ高さの変化
(出典:京都工芸繊維大学)
この結果は、運動プランが「現実の身体」ではなく、「頭の中で想像された身体」をベースに組み立てられている可能性を示している。
なお、実験は裸足で行われ、足裏からの感覚(固有感覚)による補正を極力排除していたため、より純粋に身体イメージの影響を測定することができた。また、歩行の再現性や信頼性を統計的に分析したところ、想像された大きな身体イメージのもとでも、参加者は安定して一貫した歩行パターンを維持できていたことが確認された。
今後の展開:認知が運動を変える~リハビリ・運動指導の新たなアプローチへ
この研究の最大の新規性は、VRなどの視覚操作技術を使わず、「言葉による想像だけ」で身体イメージを変化させ、歩行動作に影響を与えた点にある。これまで身体イメージの研究では、仮想空間や視点の高さを変えるなどの視覚的操作が主流だったが、本研究では極めてシンプルな言語的指示だけで同様の効果を引き出すことに成功した。
この成果は、身体の運動に対して「心の持ちよう」や「想像力」が与える影響の大きさを示すものであり、リハビリテーションやスポーツトレーニングにおいて、認知・イメージを活用した新たな指導法の開発につながる可能性を秘めている。
例えば、身体を動かしづらい患者に対して、身体を大きく・軽く・伸びやかに想像させることで、実際の動作が改善する可能性があり、道具を使わずに認知面からアプローチする低負担なリハビリ手法としての応用が期待される。また、アスリートのパフォーマンス向上にも応用できるかもしれない。
著者らは、「今後は、VR技術との組み合わせによるイメージの精密制御や、高齢者・障害者を対象とした臨床応用も視野に、さらなる研究を進める予定」としている。
出典
本学 屋京典 研究員、基盤科学系 来田宣幸 教授らの研究グループは、身体を大きくイメージするだけで歩行動作が変化することを実証しました(京都工芸繊維大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Impact of body image on the kinematics of gait initiation」。〔Front Hum Neurosci. 2025 Mar 17:19:1560138〕 原文はこちら(Frontiers Media)
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「食事バランスガイド」の推奨により近い食生活を送っている人ほど、尿中へのナトリウムとカリウムの排泄量の比(尿ナトカリ比〈尿Na/K比〉)が低いという関連のあることが報告された。国立がん研究センターなどが行っている次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)妥当性研究のデータを解析した結果であり、奈良女子大学生活環境学部食物栄養学科の高地リベカ氏らによる論文が「Clinical Nutrition ESPEN」に掲載され、国立がん研究センターのサイトにニュースリリースが公開された。詳細な食事調査または採尿などにより食塩摂取量を定量的に評価しなくても、「食事バランスガイド」の遵守を心がけることで減塩につながる可能性を示唆する知見。
「食事バランスガイド」と食塩摂取量との関連についての疑問点
日本人の食習慣の問題点として、古くから食塩(ナトリウム〈Na〉)の過剰摂取が指摘され、さまざまな公衆衛生対策が行われてきている。一方、健康的な食生活をできるだけ容易に実現するためのツールとして、2005年に厚生労働省と農林水産省によって「食事バランスガイド」が作られ現在も活用されている。ただし、「食事バランスガイド」には、ナトリウム(Na)摂取量を評価する項目が含まれていない。
「食事バランスガイド」の遵守状況とNa摂取量との関連は既に複数の研究で検討されているが、結果に一貫性がない。その一因として、これまでの研究は「食事バランスガイド」の遵守状況を、比較的簡便な食事調査である「食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)」で評価し、Na摂取量も同じFFQで評価していたことの影響が考えられる。よって、より精度の高い手法による食事調査で遵守状況を評価し、この食事調査とは独立した指標でNa摂取量を評価し、両者の関連を検討する必要があった。
また、「食事バランスガイド」とNa摂取量との関連についてはこのほかにも、野菜摂取量が多い場合に「食事バランスガイド」の遵守率が高いと評価されやすいという問題も指摘されている。すなわち、野菜を使った料理には調味料が使われることが少なくなく、「食事バランスガイド」を遵守していると評価される食習慣であるほど、実際にはNaを多く摂取しているのではないかという考え方だ。仮にその指摘が正しいとすれば、「食事バランスガイド」の改訂が必要になるかもしれない。
高地氏らの研究は、これらの未解決の疑問点の答えを得るため、FFQより正確な評価法とされている「秤量食事記録調査(weighed food record;WFR)」、および、24時間蓄尿によるNa排泄量等のデータを用いた解析を行った。なお、Naは尿以外に汗などの経路でも排泄されるため、尿中排泄量は摂取量よりやや少ないものの、経口摂取量を測定するのは他の栄養素よりはるかに困難であるため、24時間蓄尿による排泄量の測定は、Na摂取量の最も正確な評価法の一つとして位置付けられている。
JPHC-NEXTのデータを用いて精緻に解析
この研究の対象は、国立がん研究センターなどが行っている次世代多目的コホート(JPHC-NEXT)妥当性研究に参加した35~80歳の住民248人。食事摂取量やNa排泄量等の評価方法、および「食事バランスガイド」の遵守状況の評価方法は以下のとおり。
食事摂取量やNa排泄量等の評価
2012年11月~2013年12月に約3カ月間隔(四季それぞれ)で、連続3日間(平日2日、週末1日)計12日にわたり、WFRを実施した。また、より簡便な手法である、FFQによる評価も行った。
WFRを実施した各3日間の最終日には24時間蓄尿を行った。また、初回の採尿から1年後の時点にも行い、実施回数は計5回とした(図1)。それらの結果から、ナトリウム(Na)とカリウム(K)の排泄量、および尿Na/K比を算出した。なお、Naが血圧を上げるように作用するのに対して、KはNaの吸収阻害と排泄促進作用により血圧を下げるように働く。そして、それら両者の比(尿Na/K比)は、血圧への影響をより敏感に把握できると考えられている。
図1 研究スケジュール
(出典:国立がん研究センター)
「食事バランスガイド」遵守状況の評価方法
12日間のWFRの平均値を用いて、「食事バランスガイド」で規定されている、主食(ごはん、パン、麺類)、副菜(野菜、きのこ、いも、海藻類)、主菜(肉、魚、卵、大豆類)、牛乳・乳製品、果物の摂取量、および、総エネルギー摂取量、菓子・嗜好飲料という7項目のカテゴリー摂取量を、それぞれ10点満点で評価。合計70点満点の遵守スコア(食事バランスガイドスコア〈Japanese Food Guide Spinning Top score;JFGSTスコア〉)を算出、そのスコアの四分位数により研究参加者を4群に分類した。
このほかに、Na摂取量を大まかに把握する方法として、高Na食品(みそ汁、麺類、塩蔵魚、漬けもの)の1週間あたりの摂取頻度を10点満点にスコア化(塩スコア)して、上記の70点満点のJFGSTスコアに追加し80点満点で評価するという試みも行った。さらに、先行研究との比較のため、調味料からのNa摂取量をより詳細に評価する手法も用いた。
JFGSTスコアが高いほどNa排泄量は少ない傾向で、K排泄量は有意に多い
対象者の平均年齢は56.4歳で、女性が58.5%だった。JFGSTスコアは27~59点の範囲に分布していた。JFGSTスコアが高い群には女性が多く、年齢が高く、エネルギー摂取量や喫煙・飲酒習慣のある人が少なく、BMIが低いという傾向があった。
JFGSTスコアとNa排泄量、K排泄量、尿Na/K比との関連の検討に際しては、性別、年齢、BMI、高血圧の既往歴の影響を統計学的に調整した。
秤量食事記録調査(WFR)に基づくJFGSTスコアと、NaやKの排泄量、尿Na/K比
精緻な食事調査法である、WFRに基づくJFGSTスコアとNa排泄量の関連は、わずかに有意水準未満ながら、スコアが高いほど排泄量が少ないという傾向が認められた(JFGSTスコアが1四分位高いごとにNa排泄量が-129mg/日、傾向性p=0.051)。また、JFGSTスコアが高いほどK排泄量が多く(同137mg/日)、尿Na/K比が低い(同-0.32mmol比)という有意な関連(いずれも傾向性p<0.01)が認められた(図2)。0.01)が認められた(
JFGSTスコアとは別に塩スコアを加えて合計80点としたスコアとの関連を検討すると、NaやKの排泄量の群間差はより大きくなる傾向がみられたが、尿Na/K比は大きくかわらなかった。
図2 「食事バランスガイド」の遵守スコアと尿中Na、K排泄量、尿Na/K比との関連
(出典:国立がん研究センター)
食物摂取頻度調査票(FFQ)に基づくJFGSTスコアと、NaやKの排泄量、尿Na/K比
一方、比較的簡便な食事調査法であるFFQに基づくJFGSTスコアとNa排泄量との間には、有意な関連が認められなかった(傾向性p=0.81)。JFGSTスコアとは別にNa摂取量を評価して合計80点としたスコアも(高Na食品の摂取頻度または調味料摂取量をスコア化した双方とも)、Na排泄量との関連が非有意だった。
なお、FFQに基づくJFGSTスコアが高いほどK排泄量が多く(JFGSTスコアが1四分位高いごとに133mg/日)、尿Na/K比が低い(同-0.21mmol比)という関連は、前記のWFRに基づく評価との関連と同様に有意だった(いずれも傾向性p<0.01)。<>
性別に解析した場合、男性では、WFRに基づくJFGSTスコアの高さとNa排泄量の少なさの関連がほとんど認められなかった。その一方で、K排泄量の多さとの関連はより強固となり、結果として、JFGSTスコアの高さと尿Na/K比の低さの関連は維持されていた。
他方、女性については、NaやKの排泄量、尿Na/K比ともに、全体解析の結果と同様の傾向が維持されていた。
「食事バランスガイド」は高食塩是正を含めた健康的な食習慣の指針として妥当
これらの結果から、「食事バランスガイド」には食塩摂取量を評価する項目が含まれていないにもかかわらず、その遵守によりNa排泄量が減少傾向となり、K排泄量は有意に増加し、尿Na/K比は有意に低下する可能性が示唆された。これにより、「食事バランスガイド」は食塩過剰摂取の是正という点でも、一般生活者に推奨できると考えられた。さらに、高食塩食品の摂取頻度による塩スコアを勘案すると、Na排泄量の減少とも有意な関連が示された。
現在、食塩摂取量について、一般生活者では「健康日本21(第三次)」で1日7.0g未満、高血圧患者では日本高血圧学会が同6.0g未満という目標を掲げているが、食塩摂取量を把握すること自体が容易でなく、とくに自分で料理をしない人にとっては極めて困難と考えられる。そうした中、著者らは本研究によって、「食事バランスガイド」の遵守に塩を多く含む料理の摂取頻度による評価を追加することの必要性と併せて、「食事バランスガイド」の遵守を心がけることでも、ある程度の減塩が可能であることが示された意義を強調している。その一方で、解析対象に若年者が含まれていなかったことから、解釈の一般化には注意が必要だとしている。
文献情報
原題のタイトルは、「High adherence to a food guide may be associated with lower 24-hour urinary sodium excretion and sodium-to-potassium ratio, and higher potassium excretion」。〔Clin Nutr ESPEN. 2025 Mar 8:67:146-154〕 原文はこちら(Elsevier)
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国立がん研究センター/次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)
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0.01)。<>Page 16
大学と中学校が連携した学校保健活動の報告が、「日本公衆衛生雑誌」に掲載された。鳥取大学医学部環境予防医学分野の桑原祐樹氏らによる論文であり、中学生のデジタル機器の利用状況の実態や、抑うつレベルと食生活・運動習慣との有意な関連を示した調査結果も示されている。
医学生が主体的に参画して続けられている、松江市内の中学生に対する保健活動
成人後、とくに中高年以降に罹患率が上昇する生活習慣病のリスクとなる生活習慣は、実際には成人前、さらには小児期に形成され始め、成人後の介入ではその変更が困難なことが多いとされている。そのため、生活習慣病対策として成人対象の取り組みばかりでなく、小児・未成年者へのアプローチの重要性も指摘されている。母子健康や学校保健においても、例えば「健やか親子21」の取り組みなどによって、小児期からの健康づくりが推進されている。
一方、子どもたちの健康に影響を及ぼし得る生活習慣として近年、スマートフォンやゲームなどのデジタル機器の使用時間の長さへの懸念がしばしば指摘されるようになった。このほかにも我が国特有の課題として、OECD加盟国で最下位とされる子どもたちの精神的幸福度の低さが挙げられる。
このような状況に対応して、鳥取大学医学部環境予防医学分野では、デジタル社会における思春期世代の心身の健康を目指し、デジタル機器の節度ある使用と好ましい生活習慣の獲得について啓発することを目標とした公衆衛生活動を実施してきている。桑原氏らの今回の報告は、同講座が2022年度に行った学校保健活動の取り組みの概要と、島根県松江市内の中学校でのアンケート調査や健康教育活動を通して得た知見を総括したもの。
なお、同講座のこの活動は、歴史的には1991年まで遡り、当時、島根医科大学(現・島根大学医学部)が地域の教育委員会や学校と協力し「小児成人病対策事業」を実施したことに始まる。その後は研究者の異動に伴い、鳥取大学の同講座が活動を継続。現在は、医学部4年生の社会医学実習のフィールドとして、松江市内の小・中学校を10人程度のグループ単位で1年につき半年程度の間、週に半日程度訪問。児童・生徒との交流や聞き取り調査、アンケート調査などを通して学校保健上の課題を取りまとめ、それに対応した保健教材を作成し、医学生自身がそれを使って授業を行うなど、ピア・エデュケーション(同世代の仲間による教育技法)による啓発を実践している。
論文では、それらの活動の詳細な報告がされているが、本稿では中学生を対象に実施したアンケート調査の結果を中心に紹介する。
松江市内のある中学校全生徒のアンケート調査の結果
このアンケート調査は、松江市内のある中学校の生徒全員に対し、自記式質問紙を用いて実施された。調査項目は、先述の社会的背景を反映し、デジタル機器の使用状況を含む生活習慣全般を把握する内容。また、患者健康質問票(Patient Health Questionnaire-9;PHQ-9)を用いて抑うつ傾向を評価し、生活習慣との関連を検討した。
中学生4人に1人が軽度うつ傾向、9人に1人が中等度うつ傾向
この中学校の全生徒467人のうち434人から回答を得て、回答内容に不備のない357人(男子46.5%)を解析対象とした。
PHQ-9のスコア4点以下を「うつ傾向なし」、5~9点を「軽度うつ傾向」、10~27点を「中等度うつ傾向」とすると、それぞれ、64.1%、24.1%、11.8%が該当した。つまり、約4人に1人に軽度うつ傾向、約9人に1人に中等度うつ傾向が認められた。
性別で比較すると、女子のほうがうつ傾向の高い生徒が多かった(p=0.019)。
食べ物の好き嫌いが多い生徒、栄養バランスを考えない生徒はうつ傾向が強い
食べ物の好き嫌いは、「ほとんどない」が28.6%、「少しある」が52.7%、「たくさんある」が18.8%であり、好き嫌いが多いほどうつ傾向が強い生徒が多かった(p<0.001)。また、「栄養バランスを考えて食事を摂っているか」という質問に、「はい」と回答した生徒が82.9%、「いいえ」が17.1%であり、後者においてうつ傾向が強い生徒が多かった(p=0.006)。<>
朝食摂取頻度、夜食摂取頻度、家族と一緒に食べる頻度に関しては、うつ傾向との関連が有意でなかった。
スポーツをしていない生徒はうつ傾向が強い
体育の授業以外でのスポーツ活動(部活動や郊外のスポーツスクールなど)は、「週4日以上」が61.9%、「週1~3日」が21.0%、「週0日」が17.1%であり、その頻度が低いほどうつ傾向が強い生徒が多かった(p<0.001)。<>
睡眠時間や就床時刻とうつ傾向との関連については、平日と休日に分けて質問された。
その結果、平日の睡眠時間が短いことと(p=0.002)、休日の就床時刻が遅いこと(p=0.015)が、抑うつ傾向の強さと有意に関連していた。平日の就床時刻と休日の睡眠時間は、うつ傾向と有意な関連がなかった。
そのほかには、睡眠の質の低下(入眠潜時が長く中途覚醒が多い)が、抑うつ傾向の強さと有意な関連が認められた(p<0.001)。<>
デジタル機器の利用と抑うつ傾向との関連についても、平日と休日に分けて質問された。
その結果、平日については、SNS利用時間の長さのみが抑うつ傾向の強さと有意に関連し(p=0.009)、ゲームプレー、動画(YouTubeやテレビなど)視聴、および、デジタル機器の総利用時間(ゲーム、動画の他にスマホやパソコンなども含む)は、抑うつ傾向と有意な関連がなかった。
一方、休日については、SNS利用時間(p=0.008)、ゲームプレー時間(p=0.024)、動画視聴時間(p=0.015)が抑うつ傾向の強さと有意に関連していた。ただし、デジタル機器の総利用時間は有意な関連がなかった。
活用できる地域の資源を最大限活用する学校保健活動
上記のアンケートの結果や、学校保健スタッフとの交流から、中学生の抱えている健康課題を抽出し、心の健康と関連のある生活習慣、デジタル機器利用に関する教材を作成して、中学2年生を対象とする医学生による授業が行われた。
その結果、中学生からは「規則正しい生活を意識したい」、「心や体の健康のために人に頼ることも大事」、「自分の課題が見つかった」、「目標を立てるきっかけになった」といった声が聞かれ、学校保健スタッフからは「担任の先生からではなく、自分と近い世代で専門知識を持つ外部の人たちによる啓発が生徒にとって新鮮であり、保健活動のマンネリ解消につながる」、「経年的な教育の効果を実感した」、「地域での取り組みの継続が重要である」という意見が聞かれた。また、医学生からは「中学生の目線で考えてほしいという、教員からのアドバイスを得て、情報共有の在り方に気づきを得た」、「アンケートを実施、集計、分析し、その結果を伝わる形にまとめる方法を学んだ」といった意見があった。
著者らは、「健康教育を受講した生徒や学校保健スタッフから得られた意見から、ピア・エデュケーションの教育技法を用いて、デジタル機器の節度ある使用と好ましい生活習慣について啓発することができた。今後は関係者をつないで地域の資源を最大限活用した、思春期世代の心身の健康づくり活動の展開が望まれる」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「大学と中学校が連携した学校保健活動:デジタル機器の使用と生活習慣についての調査と健康教育」。〔日本公衆衛生雑誌2025 Apr 1(J-STAGE早期公開)〕 原文はこちら(J-STAGE)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
0.001)。<>0.001)。<>0.001)。また、「栄養バランスを考えて食事を摂っているか」という質問に、「はい」と回答した生徒が82.9%、「いいえ」が17.1%であり、後者においてうつ傾向が強い生徒が多かった(p=0.006)。<>Page 17
環境省と気象庁は、令和7年度「熱中症特別警戒アラート」および「熱中症警戒アラート」の運用を4月23日(水)から開始する。運用期間は、10月22日(水)まで。二つのアラートのうち、とくに前者の「熱中症特別警戒アラート」発表地域では、「重大な健康被害が生じる恐れがあることから、自発的な熱中症予防行動を積極的に行ってください。また、家族や周囲の人々においても見守りや声かけ等の共助や、公助を行ってください」と呼び掛けている。
熱中症特別警戒アラート、熱中症警戒アラートとは~背景と目的~
近年、気候変動等の影響により、国内の熱中症による救急搬送人員は毎年数万人を超え、死亡者数も高い水準で推移している。この状況を踏まえ、環境省では、令和3年度から、気象庁と共同で「熱中症警戒アラート」を運用し、熱中症への警戒を呼びかけてきた。
さらに令和5年の気候変動適応法(平成30年法律第50号)の改正において、従前から運用してきた「熱中症警戒アラート」が「熱中症警戒情報」として位置づけられるとともに、気温がとくに著しく高くなり、熱中症による人の健康に対する重大な被害が生じる恐れのある場合に発表する「熱中症特別警戒情報」(通称:熱中症特別警戒アラート)が創設された。
「熱中症特別警戒アラート」が発表された地域では、広域的に過去に例のない危険な暑さ等となり、熱中症による人の健康にかかわる重大な被害が生じる恐れがあることから、自発的な熱中症予防行動の実施、また、家族や周囲の人々においては見守りや声かけ等の共助や、公助の行動をとることを促すことを目的として運用している。
図1 熱中症警戒情報・熱中症特別警戒情報について
(出典:環境省)
熱中症特別警戒アラート、熱中症警戒アラート、それぞれの概要
発表単位
- 熱中症警戒アラート
- 全国を58に分けた府県予報区等を単位として発表(北海道、鹿児島県、沖縄県を細分化)
- 熱中症特別警戒アラート
- 都道府県単位
発表基準・タイミング
- 熱中症警戒アラート
- 府県予報区等内の暑さ指数(WBGT※1)情報提供地点のいずれかにおいて、日最高暑さ指数が33以上となることが予測される場合に、前日の午後5時および当日の午前5時に発表
- 熱中症特別警戒アラート
- それぞれの都道府県内のすべての暑さ指数情報提供地点において、翌日の日最高暑さ指数が35以上となることが予測される場合に、前日の午後2時に発表。
情報提供方法
- 環境省熱中症予防情報サイト
- 熱中症特別警戒アラート、熱中症警戒アラートのほか、全国841地点における暑さ指数の予測値・実況値等、熱中症予防情報の提供を行っている。
- 個人向けメール配信サービス
- 環境省が「環境省熱中症予防情報サイト」にて提供している、暑さ指数の予測値および実況値を、メール配信を行うバイザー(株)が運営する一斉情報配信システム「すぐメールPlus+」により個人向けに配信するサービス。令和7年4月23日(水)0時より配信開始予定。
- 環境省LINE公式アカウント
- 環境省は、LINE公式アカウント「環境省」を開設し、熱中症予防対策の情報配信をしている。スマートフォン等のLINEアプリで、LINE公式アカウントを友だち追加すると、熱中症特別警戒アラート、熱中症警戒アラートの発表や暑さ指数の情報を、受け取ることができる。【アカウント名:環境省、LINE ID:kankyo_jpn】
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ほうれん草やビート根などに豊富に含まれている硝酸塩の摂取が運動パフォーマンスに与える影響に関する、アンブレラレビューの結果が報告された。疲労困憊に至る時間、走行距離、筋持久力、ピークパワーなどに対する有意な影響が認められるという。
食事性硝酸塩の運動パフォーマンスに対する影響をアンブレラレビューで検証
一酸化窒素(nitric oxide;NO)は、体内では血管を拡張したり、筋肉でのグルコース取り込みを促進するように作用する。体内のNOは、NO合成酵素(nitric oxide synthase;NOS)により産生されるほか硝酸塩からも産生され、後者の経路は摂取した食品に由来する。
硝酸塩を豊富に含む食品として、ビート根、ほうれん草、ケール、ニンジンなどがあり、これらの食品そのもの、またはジュースを摂取することで、血管拡張作用等を介してスポーツパフォーマンスが向上することのエビデンスが蓄積されてきている。
例えば2018年に国際オリンピック委員会が発表したアスリートのサプリメント摂取に関するコンセンサスは、「12~40分の高強度運動のパフォーマンスが3~5%向上することが示唆されている」としている(DOI: 10.1136/bjsports-2018-099027)。ただ、このコンセンサスレポートは当然ながら2018年より前の研究報告をレビューしまとめられており、この時点では「12分未満の運動タスクに何らかの利点があるというエビデンスは明確でない」としている。もちろん、このコンセンサス発表後にも、硝酸塩に関する多くの研究結果が報告されてきている。
一方、自然科学では、無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)の結果を統合して行われるシステマティックレビューとメタ解析を最も強固なエビデンスと評価されることが多い。しかし今回取り上げる論文の著者らは、「スポーツ栄養学の場合、臨床研究と比較して研究に用いられる評価指標が数多くあり、個々の研究はそれらの指標の一部しか評価していないことが少なくないため、システマティックレビューでは摂取の影響の全体像を把握できない可能性がある」としている。それに対して、メタ解析の結果を統合して解析するアンブレラレビューは網羅性が向上すると考えられる。また、硝酸塩のパフォーマンスに対する効果のアンブレラレビューはまだ行われていなかった。
PRIORに準拠してアンブレラレビューを実施
アンブレラレビューの報告に関するガイドライン(Preferred Reporting Items for Overviews of Reviews;PRIOR)に準拠して、MEDLINE、EMBASE、Cochrane Database、CINAHL、Scopus、SPORTDiscus、Web of Scienceという7種類の文献データベースに2024年7月1日までに収載された英語論文を対象として、「システマティックレビュー」、「メタ解析」、「食事性硝酸塩」、「運動パフォーマンス」などのキーワードで検索を実施。研究対象者の年齢や性別は制限しなかったが、疾患有病者のみを対象としたメタ解析の報告は除外した。
一次検索で834報がヒットし、重複削除後の420報を2人の研究者が独立して、タイトルと要約に基づきスクリーニングを行い、82報を全文精査の対象とし最終的に20件のメタ解析の報告を適格と判断した。なお、採否の意見の不一致は3人目の研究者との討議により解決した。
解析対象メタ解析の特徴
解析対象とした20件のメタ解析には合計180件のRCT(対象者数2,670人)が含まれ、個々のRCTの対象者数は43~1,705人の範囲だった。メタ解析の対象とされているRCTの重複の程度の指標であるCCA(corrected covered area)は14.4%で、重複が多いと判断された。なお、CCAは一般的に、0~5%は重複が少ない、6~10%は中程度の重複、11~15%は重複が多い、15%超は重複が非常に多いと判断される。
持久力だけでなく筋力パフォーマンスにも有意な影響
有酸素持久力パフォーマンスへの影響
13件のメタ解析では、有酸素持久力パフォーマンスに関連する指標が検討されていた。
そのうち8件では疲労困憊に至るまでの時間(time-to-exhaustion;TTE)への影響が解析されており、7件では食事性硝酸塩のTTEに対するエルゴジェニック効果が報告されていた。走行距離を評価していた4件のメタ解析は、すべて有意な改善を報告していた。
漸増運動負荷試験(graded exercise tests;GXT)についても4件のメタ解析が行われていた。ただしそのうち3件は信頼区間の幅が広く、下限が負となり非有意だった。さらに、タイムトライアルへの影響を評価していた8件のメタ解析のうち7件は非有意という結果だった。
また、VO2maxへの影響を検討していた研究は1件であり、それも有意な効果は認めないと結論づけていた。総運動量(total work don;TWD)への影響を検討していた研究も1件であり、それも有意な効果は認めないと結論づけていた。
筋力・筋持久力パフォーマンスへの影響
5件のメタ解析では、筋力または筋持久力などのパフォーマンスに関連する指標が検討されていた。
筋力を評価していた4件のメタ解析のうち、有意な効果を報告していたのは2件だった。一方、筋持久力を評価していた3件のメタ解析は、すべて有意な効果を報告していた。
ピークパワーを検討していたメタ解析は5件で、うち3件が有意な効果を報告し、平均パワーについては4件中3件が有意な効果を報告。さらに2件の研究はピークパワーに到達するまでの時間を評価しており、双方ともに有意な効果を報告していた。
論文の結論は、「硝酸塩の摂取により、疲労困憊までの時間、走行距離、筋持久力、ピークパワー、ピークパワーに到達するまでの時間が改善されるが、その他のパフォーマンスに対するエルゴジェニック効果は示されていない」とまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Dietary Nitrate Supplementation and Exercise Performance: An Umbrella Review of 20 Published Systematic Reviews with Meta-analyses」。〔Sports Med. 2025 Mar 14〕 原文はこちら(Springer Nature)
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国立環境研究所と早稲田大学の研究グループは、気候変動がこのまま進行するとこれまで通りのスポーツ活動は困難になるとする研究結果を発表した。日本国内842都市のデータに基づく予測であり、「Environmental Research: Health」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。
研究の概要:大会開催時期の変更、屋内練習場拡充などの対策が重要になる
国立環境研究所と早稲田大学スポーツ科学学術院(細川由梨准教授)の研究チームは、国内で数百万人が参加する学校の運動部活動に着目して、将来の気候変動による暑熱影響と対策の効果を評価した。その結果、気候変動が進行すれば、これまで通りの活動実施は困難となり、早朝練習の導入や屋外練習の削減といった対策だけでは不十分であると予測された。
現状でも多くの熱中症が運動部活動で発生していることをふまえると、気候変動の進行に注視しつつ、今回想定した対策をはじめ、大会や練習の年間スケジュールの変更や屋内運動場の整備といった抜本的な対策も実行に移していくことが重要と考えられるという。
研究の背景と目的:今後のさらなる高温化は運動部活動をどう変えるのか
日本の学校における運動部活動は、数百万人もの児童・生徒が定常的に参加する、世界でも稀な規模の活動。青少年期に一定の強度・時間以上の運動をすることは、筋骨格や心肺の健康、肥満の予防、ストレスの軽減、また学業成績の向上などさまざまな良い効果をもたらし、その後の人生の健康にも寄与すると言われている。一方、運動中は、骨折や捻挫などの外傷に加えて熱中症のリスクが高まり、国内の運動部活動では毎年数千件の熱中症が報告されている。
運動部活動は、多くの人々の健康を支える日本独特の「仕組み」とも言える。しかし、気候変動によって将来は高温の頻度・強度が一層増加すると予測されるにもかかわらず、運動部活動への暑熱影響に着目した研究はほとんど行われていなかった。
そこで、本研究では、将来の気候変動下における暑さ指数(WBGT)※1の予測に基づき、主に屋外における運動部活動への暑熱影響と対策の効果を分析し、将来の運動部活動のあり方を考えるための知見を得ることを目的とした。
研究手法:国内842都市のデータを基に、今後の暑さ指数の変化を予測
時間別WBGTの予測
気候予測データは、多くは日別以上の時間解像度である場合が多く、運動部活動のように特定の時間帯の活動を対象とした将来影響の評価には課題があった。そこで、国内842都市における過去12年間分の時間別WBGTデータと、対応する日別気象データ(気温、湿度、風速、日射量)の関係を、機械学習手法の一つであるeXtreme Gradient Boosting(以下「XGBoost」と省略)で学習し、日別の気象データから、時間別のWBGTを予測するモデルを構築した。
約5,000万件の全データからランダムに選定した約4,000万件のデータを学習したモデルは、決定係数0.96~0.99、平均絶対誤差0.55~0.95°Cと、時間を問わず高い精度が確認された。そこで、約5,000万件の全データを学習したモデルを構築し、日本域の気候予測データ(NIES2020)に適用して、国内842都市における将来の時間別WBGTを予測した。
運動部活動への暑熱影響と対策の効果の評価
次に、予測した842都市の時間別WBGTと、活動実施に関わる暑熱基準(28°C≦WBGT<31°c:激しい運動を中止、31°c≦wbgt:すべての運動を中止)※2をもとに、「週5日・1日あたり2時間の屋外活動が、放課後の15~18時に実施可能か」※3について、表1に示す三つのレベルで運動部活動への暑熱影響を評価した。また、表2に示す三つの対策による効果を分析した。暑熱影響と対策の評価のイメージを図1に示す。31°c:激しい運動を中止、31°c≦wbgt:すべての運動を中止)
表1 暑熱レベル
(出典:早稲田大学)
表2 暑熱対策
(出典:早稲田大学)
図1 暑熱影響と対策の評価のイメージ
(出典:早稲田大学)
研究結果と考察:大会スケジュールの大幅な変更が必要になる可能性
全国的な傾向を簡潔に表現するため、過去のWBGTによる八つの地域区分(図2)に基づいて結果を示す。
図2 過去(1980~2014年)4~10月における平均WBGTによる八つの地域区分
(出典:早稲田大学)
暑熱影響
2060~2080年代の暑熱影響は、次の通り予測された(図3)。
図3 2060~2080年代・4~10月の地域区分ごとの暑熱レベル
(出典:早稲田大学)
温室効果ガス排出を大幅に抑制するシナリオ(SSP1-1.9)下では、暑熱レベル1(激しい運動を中止)/暑熱レベル2(すべての運動を中止)に達するのは、8地域中それぞれ5地域/1地域、活動制限期間は8地域合計で延べ年間12カ月(最も長い地域で4カ月)と予測された。
化石燃料に依存して排出を抑制しないシナリオ(SSP5-8.5)では、暑熱レベル1/暑熱レベル2に達するのは、8地域中それぞれ6地域/4地域、活動制限期間は8地域合計で延べ年間19カ月(最も長い地域で6カ月)と予測された。
2030~2050年代の全シナリオの結果は、2060~2080年代のSSP1-1.9~SSP1-2.6に相当するものだった。
上記より、気候変動の進行によって、運動部活動が将来受けると考えられる暑熱影響は大きく変化し、地域による影響の差も大きいことがわかった。とくに温暖な地域では、活動制限期間が1年のうち数カ月にわたり、年間スケジュールの大幅な変更が必要となる可能性がある。
対策の効果
2060~2080年代における対策の効果は、次の通り予測された(図4)。ここでは、最も暑熱影響が大きく、対策の効果が見えやすいSSP5-8.5の結果を取り上げる。
図4 2060~2080年代・4~10月の地域区分ごとの対策による暑熱レベルの変化
(出典:早稲田大学)
対策Aによって、暑熱レベル1/暑熱レベル2に達するのは、8地域中それぞれ5地域(1地域減)/0地域(4地域減)、活動制限期間は8地域合計で延べ年間14カ月(5カ月減、地域別では最大2カ月減)となった。
対策Bによって、暑熱レベル1/暑熱レベル2に達するのは、8地域中それぞれ5地域(1地域減)/1地域(3地域減)、活動制限期間は8地域合計で延べ年間12カ月(7カ月減、地域別では最大2カ月減)となった。
対策Cによって、暑熱レベル1/暑熱レベル2に達するのは、8地域中それぞれ4地域(2地域減)/0地域(4地域減)、活動制限期間は8地域合計で延べ年間10カ月(9カ月減、地域別では最大2カ月減)となった。
対策間で効果の違いはあるものの、いずれの対策でも、最も気候変動が進行するシナリオ下でも暑熱レベル1の地域が減少し、暑熱レベル2の地域がほとんどなくなる顕著な効果があると予測された。一方で、温暖な地域を中心に、暑熱影響が残存して激しい運動が制限されるため、気候変動が進行した状況では、本研究で想定した対策だけではこれまで通りの運動部活動を継続することは難しくなると考えられる。
今後の展望:早朝練習の導入や屋外練習の削減といった対策では不十分
本研究では、国内で数百万人が参加する学校の運動部活動に着目して気候変動の暑熱影響と対策の効果を評価した結果、気候変動が進行すればこれまで通りの活動実施は困難となり、早朝練習の導入や屋外練習の削減といった対策だけでは不十分であると予測された。既に多くの熱中症が発生している現状を鑑みれば、気候変動の進行に注視しつつ、今回想定した対策はもとより、より抜本的な対策(例:大会や練習の年間スケジュールの変更、屋内運動場の整備、夏季のより涼しい地域での活動)を実行に移していくことが重要と考えられる。
研究グループでは、「今後、本研究で開発した時間別WBGT(レポジトリ〈Environmental Data Initiative〉で公開済み)と評価手法に基づいた研究対象の拡張、時間別WBGT予測手法の改良、全国の面的な暑熱環境の予測、気候変動下での学校スケジュールのあり方に関する発展的な研究を実施する予定」としている。
プレスリリース
21世紀の暑さの中で運動部活動はできるのか?―国内842都市・時間別の予測データに基づく分析結果―(早稲田大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Heat impacts on school sports club activities in Japan under climate change and the effectiveness of countermeasures」。〔Environ Res Health. 2025 Mar 10;3(2):025008〕 原文はこちら(IOP Publishing)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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明治安田厚生事業団と笹川スポーツ財団は、2024年11月に実施した「活動量計による身体活動・スポーツの実態把握調査2024」の結果を発表した。活動量計を用いた高精度な身体活動量測定を、全国規模で調査した前例のない国内初の調査であり、厚生労働省「身体活動ガイド2023」の推奨を満たしているのは47.9%であることなどが明らかになった。
調査の概要:全国各地の日本人の活動量を客観的な指標で把握する研究
2024年1月に、厚生労働省が策定した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(以下、身体活動ガイド2023)」の中で、「健康づくりのための新しい推奨身体活動量」が示された。しかし、身体活動量に関する全国規模かつ代表性のある客観的データがなく、実際に国民がどの程度動いているかを明確に把握できていないという課題が残っている。
一方、本研究の研究グループでは、身体活動に費やす時間や活動強度、座位時間を詳細に測定できる「活動量計」を用い、身体活動量を実測するとともに、質問票でスポーツ実施状況等を調べ、日本国内における身体活動の実態把握を目指す研究を実施している。2023年度には首都圏・中京圏・近畿圏の13都府県50地点の成人・高齢者650人を対象に調査を実施し、今年度は全国47都道府県200地点、5,400人に対象を拡大し調査を行った。
その結果、「身体活動ガイド2023」が定める1日の推奨身体活動量の達成率は、全体で47.9%だった(速報値)。
調査結果のポイント
- 活動量計を用いた高精度な身体活動量測定を、47都道府県200地点、5,400人を対象に実施(解析対象者数1,106人)。全国規模での調査は前例がなく、国内初の調査。
- 厚労省「身体活動ガイド2023」が定める、健康づくりのための推奨身体活動量(成人1日60分、高齢者1日40分)を満たしているのは47.9%であった。とくに成人で達成率が低いことが明らかとなった。
- 1日あたりの歩数は、性別や年齢層を問わず推奨値を下回っていた。1日あたりの座位時間は、男性では9時間、女性では8時間を超えていた。
調査概要
調査対象;層化二段無作為抽出法を用いて全国47都道府県から抽出された200地点における満20歳以上80歳未満の男女5,400人。 調査方法;郵送法。対象者には土・日曜日を含めた合計7日間にわたる活動量計の装着を依頼し、測定を行った。期間中に実施した運動・スポーツや生活習慣等に関しては質問票によって回答を得た。 調査時期;2024年11月。 主な調査項目;1)活動量計による測定:身体活動量(低強度・中高強度)、歩数、座位行動時間など。2)質問票による調査:運動・スポーツ実施状況、運動・スポーツ活動歴、健康認識、生活習慣、基本属性など。
回収状況;解析対象者数1,106人(有効回収率20.5%。1日10時間以上の装着日が4日以上の者)。
調査結果(速報値)
1. 厚労省「身体活動ガイド2023」が定める推奨身体活動量の達成率は47.9%
「身体活動ガイド2023」で定める歩行またはそれと同等以上(3メッツ以上の強度)の身体活動量は、成人(20~64歳):1日60分以上(≒1日約8,000歩以上≒週23メッツ・時以上)、高齢者(65歳以上):1日40分以上(≒1日約6,000歩以上≒週15メッツ・時以上)。
本調査における、これらの推奨身体活動量の達成率は全体で47.9%であった。年齢層別では、20~64歳の成人が45.7%、65~79歳の高齢者が57.1%、性別でみると、男性では20~64歳47.2%、65~79歳52.3%、女性では20~64歳44.6%、65~79歳62.4%となり、成人で達成率がより低いことが明らかとなった。
図1 「身体活動ガイド2023」の推奨身体活動量の達成率
(出典:明治安田厚生事業団)
2. 1日あたりの歩数と座位時間
1日あたりの歩数は、性別や年齢層を問わず推奨値を下回り、1日あたりの座位時間は、男性は9時間、女性は8時間を超えていた。
図2 各行動の中央値
(出典:明治安田厚生事業団)
研究グループでは、「今後はスポーツ実施や健康指標との関係性を検証することで『スポーツによる健康寿命の延伸』を目指すための知見や政策形成に資する情報を発信していく」としている。
プレスリリース
私たちはどのくらい動いているのか?客観的データがない課題の解決へ(明治安田厚生事業団)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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栄養士さん・管理栄養士さん向け情報サイト「あじこらぼ」(味の素株式会社)は、第28回 日本病態栄養学会年次学術集会で開催された共催セミナー「個人レベルでの食塩摂取量の評価に基づく実践的減塩指導」のレビュー記事を公開しました。
講師は、社会医療法人 製鉄記念八幡病院 理事長であり、日本高血圧学会 減塩・栄養委員会の委員も務められている土橋 卓也 先生。科学的根拠に基づいた“実践的な減塩指導”のヒントが紹介されました。
減塩指導における食塩摂取量の「評価」の重要性
実効性のある減塩指導を行うには、まず対象者の食塩摂取量を正確に把握することが不可欠です。土橋先生は評価なき減塩指導の限界と、実践的な評価方法の重要性を強調。減塩を意識していると回答した人とそうでない人の食塩摂取量に有意差がないというデータが示され、「意識」や「自己申告」だけでは指導の根拠にならないことが明らかにされました。
食塩摂取量の評価方法は、大きく分けて「入り口調査」(食事内容の把握)と「出口調査」(尿中排泄量の測定)の2つに分類されます。食事調査は手軽な反面、主観に依存しがちで信頼性が低いことが課題です。一方、尿中ナトリウムの測定は信頼性が高いものの手間がかかります。例えば24時間蓄尿は正確性に優れる一方で、実施のハードルが高く、実用性には課題があります。
このような課題を克服し、減塩目標を達成する指導を行うためには、具体的にどうすれば良いのでしょうか。土橋先生の講演では、より具体的な指導法やツールを紹介されています。ぜひご一読ください。
レビュー記事の全文&PDFダウンロードはこちら!
第28回 日本病態栄養学会年次学術集会「個人レベルでの食塩摂取量の評価に基づく実践的減塩指導」土橋 卓也 先生(社会医療法人 製鉄記念八幡病院 理事長)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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トライアスロン選手が採用していたテーパリングやグリコーゲン超回復、競技中の炭水化物摂取の戦略を調査した、ブラジルの研究者による研究結果が報告された。競技中の炭水化物の摂取量は、大半の選手が推奨値未満であったことなどが示されている。
トライアスリートの大会前の準備や競技中の炭水化物摂取は?
この研究のための調査は、トライアスロン(オリンピック・ディスタンス※)出場経験のあるアスリートを対象として、オンラインアンケートとして実施された。適格基準は、上記に該当する18歳以上の選手で、ポルトガル語の質問項目を理解できること。
89人が回答し、このうち競技歴がトライアスロンでない(デュアスロンやアイアンマンなど)選手などを除外し、72人(男性84.7%)を解析対象とした。アンケートでの質問項目は、競技歴に関するものと、大会参加前に行うテーパリング、グリコーゲンローディング(超回復)、および競技中の炭水化物やサプリメントの摂取状況、消化器症状についてであり、すべて自己申告の回答を解析に用いた。
大会週間前はトレーニング時間を6割強程度にテーパリング
解析対象者の主な特徴は、男性、女性の順に、年齢38.9±9.4、30.2±7.7歳、トライアスロン歴4.12±4.70、3.44±3.20年であり、これらは性別間に有意差がなかった。日常のトレーニング時間は、14.14±4.06、17.79±2.52時/週で女性選手のほうが有意に長く、また大会参加前1週間のトレーニング時間も9.03±2.64、11.29±2.85時/週で女性選手のほうが有意に長かった。
女性選手の大半(90.9%)は、スポーツ栄養に関する専門家のアドバイスを受けていた。その一方、男性選手でのその割合は57.8%だった(スポーツ栄養士が55.7%、医師が1.6%)。
日常のトレーニング時間に対する大会参加前1週間のトレーニング時間の比は、63.7±17.6、64.1±15.8%であり、男性、女性ともにトレーニング時間を6割強程度に減らしていた。この比率に関しては性別間の有意差はなかった。
グリコーゲン超回復は半数弱が実行し、その大半は変法によるもの
大会前のグリコーゲン超回復戦略は、48.6%の選手が行ったと報告し、残りの51.4%は大会日まで日常の食事を続けたと回答した。
グリコーゲン超回復戦略は、以下の3パターンに分類される。
「古典的(classical)モデル」は、大会の6~4日前までの炭水化物を通常より抑え(筋グリコーゲン枯渇誘発)、大会の3日前からは炭水化物摂取量を通常よりも増やす方法。「更新(updated)モデル」は、古典的モデルのデメリットである、筋グリコーゲン枯渇誘発中に疲労が蓄積しやすいという負の影響を避けるためにそれを行わず、大会の3日前から炭水化物摂取量を増やすという方法。「改変(modified)モデル」は、やはり筋グリコーゲン枯渇誘発を行わずに、競技の24時間前以降のみ炭水化物摂取量を増やすという方法。
本研究の解析対象者では、更新(updated)モデルを行っていた選手が27.8%、改変(modified)モデルが18.0%であり、古典的(classical)モデルは2.8%にすぎなかった。
なお、栄養士に指導を受けていたアスリート(45人)のうち、グリコーゲン超回復戦略を実行していたのは57.7%だった。
競技中に60g/時以上の炭水化物サプリを摂取していたのはわずか2人
86.1%の選手は、競技中に炭水化物サプリメントを摂取していた。摂取量の平均は58.3±37.6gであり、競技時間は161±25分であったため、1時間あたりの炭水化物摂取量は22.1±14.9g/時と計算された。2時間以上の持久系競技で推奨される、60g/時以上の炭水化物サプリを摂取した選手は2人だけだった。
なお、栄養士に指導を受けていたアスリート(45人)の86.66%が、競技中に炭水化物サプリを摂取していた。
炭水化物サプリ以外のサプリの摂取状況
競技前に摂取したサプリは、カフェイン36.1%、β-アラニン33.3%、タウリン25.0%が多く、重炭酸ナトリウムが1.3%だった。一方、競技中に摂取したサプリは、カフェイン27.8%、タウリン9.7%が多く、β-アラニン、クレアチン、重炭酸ナトリウムなどがそれぞれ1.3%だった。
大半の選手が競技前・競技中に、複数のサプリを摂取していた。
トライアスロン選手は栄養に関する推奨を認識していない、または採用していない
本研究の主な結果は、以下の4点にまとめられる。
- 1)トライアスリートの半数弱(48.6%)が競技前にグリコーゲン超回復戦略を採用しており、更新(updated)モデルまたは改変(modified)モデルを採り入れていた。
- 2)大半のトライアスリートは、競技中に約20g/時程度の炭水化物補給戦略を採用していた。
- 3)グリコーゲン超回復または競技中の補給戦略を採用したほとんどのトライアスリートが栄養士のアドバイスを受けていたが、1人は医師のアドバイスを受けていた。
- 4)栄養士の指導を受けているトライアスリートは男性より女性に多かった。
この結果を基に論文は、「古典的(classical)モデルのグリコーゲン超回復を行ったトライアスリートはほとんどおらず、さらに、競技中に補給していた炭水化物の量も不十分だった。トライアスリートは栄養に関する推奨事項を十分に認識していなかったか、認識したうえでそれを採用していなかったと結論づけられる」と総括されている。
文献情報
原題のタイトルは、「Self-reported carbohydrate supercompensation and supplementation strategies adopted by Olympic triathlon athletes」。〔Braz J Med Biol Res. 2025 Feb 3:58:e14189〕 原文はこちら(SciELO)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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全国47都道府県の過去30年間の健康傾向を包括分析した結果が報告された。平均寿命は延長したが、「健康でない期間」が長期化し、地域格差が拡大したことなどが明らかになった。慶應義塾大学などの研究グループの研究成果であり、「Lancet Public Health」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。
研究の概要:日本が世界に先駆けて経験している超高齢社会の健康課題が明らかに
慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)の野村周平特任教授らと、米国ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)による国際共同研究グループ※1は、世界有数の長寿国である日本の健康状態の30年にわたる変遷を包括的に分析した。世界の疾病負荷研究(GBD)2021※2のデータを用い、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を含む371の疾病・傷害および88のリスク要因について、日本および47都道府県における各種健康指標の推移を詳細に評価した。
本研究は、世界最長寿国の一つである日本の1990年から2021年までの30年間の健康状態変化を都道府県レベルで分析した前例のない取り組み。日本が世界に先駆けて経験している超高齢社会の健康課題を明らかにし、健康格差の縮小や疾病構造の変化への対応など、保健医療・社会政策における優先課題を科学的に提示している。
発表のポイント
平均寿命が延長するも、健康寿命との差が拡大
2021年時点の日本の平均寿命は85.2歳となり、1990年から5.8年延長。しかし、健康寿命※3との差は拡大し、1990年の9.9年から2021年には11.3年となった。「健康な長寿」の実現が重要な課題に。
47都道府県間の健康格差が拡大
平均寿命の地域差は1990年の2.3年から2021年には2.9年に拡大し、とくに男性で格差が顕著(3.2年→3.9年)。
認知症(アルツハイマー病など)が主要死因の第1位に浮上
疾病負荷(DALYs※4:早期死亡や障害によって失われた健康的な生活年数)も2015年から2021年にかけて人口あたり約2割増加し、予防・ケア体制の整備が急務。
主要疾病の死亡率低下が鈍化
脳卒中や虚血性心疾患を含む主要疾病の年齢調整死亡率の減少ペースが鈍化。全死因の年齢調整死亡率※5の年率換算変化率※6は、1990〜2005年の-2.0%から2015〜2021年には-1.1%へと縮小。
糖尿病の状況が悪化、肥満のリスクも高まる
2015年以降、年齢調整した糖尿病に起因するDALYsは年率2.2%増加。高血糖や過体重・肥満の問題も深刻化しており、対策の強化が求められる。
パンデミック初期(2021年)のCOVID-19による死亡率は低水準だが精神疾患は悪化
COVID-19による年齢調整死亡率は人口10万人あたり3.0人と、世界全体(94.0人)の約31分の1の低水準。一方、2019〜2021年のパンデミック前後で精神疾患によるDALYsは悪化し、とくに若年層(10〜54歳)において増加が顕著だった。この年代では、女性が15.6%、男性が9.0%の増加を示し、特に若年女性への影響が大きかった。
発表内容の詳細
日本の平均寿命は過去30年で5.8年延伸、健康寿命との差は拡大
日本の平均寿命は、1990年の79.4歳から2021年には85.2歳へと5.8年延伸した。
健康寿命は、1990年の69.5歳から2021年には73.8歳へと4.4年延伸したが、平均寿命と健康寿命の差(つまり、何らかの健康問題を抱えて生活する期間)は、9.9年から11.3年へと拡大している。男女別では、この差は女性で11.1年から12.7年に、男性で8.7年から9.9年に拡大しており、いずれも増加傾向にある。
47都道府県間の健康格差が拡大
都道府県間の平均寿命の格差は1990年の2.3年から2021年には2.9年に拡大した。
女性の格差が2.9年から2.6年に縮小したのに対し、男性では3.2年から3.9年に拡大した。健康寿命の格差も1.8年から2.3年に拡大している。
年齢調整死亡率は1990年から2021年に41.2%減少したが、その減少率には都道府県差があり、最大49.0%、最小29.1%と開きが見られた。年齢調整DALYs率も24.5%減少したが、都道府県間での減少率には最大27.7%、最小19.6%と差があった。
認知症が主要死因の第1位に浮上
2021年の主要死因※7は、アルツハイマー病を含む認知症(10万人あたり135.3人)、脳卒中(114.9人)、虚血性心疾患(96.5人)、肺がん(72.1人)、下気道感染症(62.3人)だった。GBDで分類される140種類の死因の中で※8、認知症は1990年の6位から2021年には1位へと上昇した(図1)。
平均寿命の延伸は、脳卒中(1.5年)、虚血性心疾患(1.0年)、がん(1.0年)、下気道感染症(0.8年)の死亡率低下に最も起因し、これらが7割以上を占めた。
図1 日本のGBD詳細レベル(レベル3)の死因と年齢調整死亡率の年率換算変化率(%)
(出典:慶應義塾大学)
主要疾病の改善ペース鈍化と糖尿病の悪化傾向
年齢調整死亡率の年率換算変化率※6は、1990~2005年の-2.0%から2015~2021年には-1.1%へと減少幅が縮小した。脳卒中や虚血性心疾患も同様の傾向を示している(図)。また、年齢調整DALYs率の減少ペースも鈍化し、1990〜2005年の-1.0%から2015〜2021年には-0.5%に低下した。とくに、糖尿病の年齢調整DALYs率は悪化しており、2005〜2015年の0.1%から2015〜2021年には2.2%へと増加している。
高血糖や肥満が深刻化
GBD2021で評価した88のリスク要因は、2021年の全死亡の41.9%に寄与していた。このうち、代謝リスク(高血圧など)が24.9%、行動リスク(喫煙、不健康な食事など)が21.6%、環境・職業リスクが9.1%を占めた。高血糖や高BMI(過体重・肥満)によるDALYs率の悪化も顕著で、高血糖の年率換算変化率は2005~2015年の-0.8%から2015~2021年には0.8%へ、高BMIは1990~2005年の-0.3%から2015~2021年には1.4%へと悪化した。
COVID-19の影響は限定的も、精神疾患が悪化
COVID-19による死亡は2020年で全死亡の0.3%(10万人あたり2.7人)、2021年には1.0%(10万人あたり11.7人)を占めた。COVID-19によるDALYsは2021年で10万人あたり190.2年(全DALYsの0.6%)と、世界平均(2,686.6)や高所得国平均(2,058.9)と比べ低水準だった。一方、2019〜2021年の精神疾患のDALYs率は悪化し、とくに10〜54歳の女性で15.6%、男性で9.0%の増加が見られた。
新たなエビデンスが戦略的政策立案の基盤を築く
本研究は、日本の健康指標が長期的に向上している一方で、その改善ペースが鈍化していること、また地域間の健康格差が依然として解消されていないことを明らかにした。また、認知症や糖尿病の増加、肥満やメンタルヘルスの悪化が顕在化しており、平均寿命と健康寿命の差が拡大している。こうした状況を踏まえ、国や各地域における疾病負荷の軽減を目的とした保健活動(ヘルスプロモーション)の推進や、社会環境の整備が、これまで以上に求められる。
本研究で得られたエビデンスは、保健医療・社会政策のさらなる発展に貢献するものと言える。日本政府が推進する「健康日本21」は、第1次計画で個人の健康管理支援を重視し、第2次計画では社会環境の整備による「健康格差の縮小」が掲げられてきた。そして、2024年度から始まった第3次計画では、「誰も取り残さない」健康づくりを目指し、社会環境のさらなる整備が進められている。本研究のデータは、こうした政策の方向性を科学的に裏付けるものであり、国や自治体が地域ごとの特性に応じた効果的な健康施策を展開するための貴重な知見を提供する。
また、日本の健康課題に関する知見は、高齢化が進む諸外国からも大きな関心を集めている。本研究のような評価を今後も積極的に行い、発信していくことで、広く国際社会に貢献することが期待される。
プレスリリース
文献情報
原題のタイトルは、「Global incidence、prevalence、years lived with disability (YLDs)、disability-adjusted life-years (DALYs)、and healthy life expectancy (HALE) for 371 diseases and injuries in 204 countries and territories and 811 subnational locations、1990-2021: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2021」。〔Lancet. 2024 May 18;403(10440):2133-2161〕 原文はこちら(Elsevier)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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サッカーのパフォーマンスに対する31種類のサプリメントの効果を、ネットワークメタ解析によって比較検討した結果が報告された。走行距離、筋力、ジャンプ力、スプリントタイム、敏捷性などについて、それぞれの最大化に資するサプリが示されている。中国とマレーシアの研究者らの報告。
ネットワークメタ解析で、多数のサプリの効果を比較
2億7,000万人以上が世界各地でサッカーをしていて、13万人はプロ選手であると報告されている。サッカーは世界中で最も人気の高いスポーツと言える。
サッカーは90分の試合中、有酸素性エネルギー代謝が約90%を占め、残りの約10%は無酸素性エネルギー代謝とされ、スプリント、急速な加速/減速、方向転換、ジャンプ、キックなどの多くの動作が混在し、持久力と筋力、敏捷性、集中力、認知機能が必要とされる。エネルギーの供給や筋力強化、集中力向上、回復の促進などを意図して、多くのサッカー選手がサプリメントを摂取しており、その割合は報告により47.8~93.7%の範囲に分布している。
サプリ摂取がサッカーパフォーマンスに及ぼす影響についても、既に多くの研究報告があり、またそれらの報告を用いて行ったメタ解析の報告も存在する。しかし、異なる介入を行っている多数の研究報告を統合し、どの介入が優れているかを比較する統計学的手法であるネットワークメタ解析により、多くのサプリの影響を同時に比べるという研究はまだ行われていなかった。
1,425選手、80件の研究データを基に、31種類のサプリの効果を比較検討
文献検索には、PubMed、Web of Science、Cochrane、Embase、SPORTDiscusというデータベースを用いて、2024年2月5日までに収載された論文を対象とした。包括条件は、サッカー選手を対象にサプリ介入を行い効果を検討した無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)であり、除外条件は世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)禁止物質を使用している研究、査読を経ずに掲載された学会発表、同一の試験の結果に基づいて執筆されている異なる報告、および英語以外の言語による論文。
一次検索で5,937報がヒットし、重複削除後の3,345報をタイトルと要約に基づくスクリーニングにより139報に絞り込み、全文を入手し得た128報を全文精査の対象とした。最終的に、80件の研究報告を適格と判断した。
抽出された研究の特徴
抽出した80件の研究の参加者数は合計1,425人で、性別については63件の研究で男性が1,111人、8件の研究で女性が128人参加し、1件は男性と女性の両方を対象としていて、8件は性別の記載がなかった。競技レベルはエリートレベルが50件、877人、非エリートレベルが30件、548人だった。
これらの研究で、合計31種類のサプリの効果が検討されていた。最も多く検討されていた成分はカフェインで、カフェインのみを評価した研究が21件存在していた。次いでクレアチンと炭水化物が多く、各12件だった。なお、複数のサプリを併用した介入の報告は、個々のサプリの効果と相互作用の双方を評価した。
評価指標ごとの解析結果
解析は、走行距離、筋力、ジャンプ力、スプリントタイム、敏捷性などのパフォーマンス指標ごとに行われている。要旨のみを紹介する。
走行距離
走行距離に対するサプリ摂取の影響は25件の研究報告が存在し、カフェイン、炭水化物、プロテイン、ビート根エキスなど16種類のサプリが介入に用いられていた。解析の結果、炭水化物とプロテインの併用の累積順位曲線下面積(surface under the cumulative ranking curve;SUCRA)が96.2%と最も高く、炭水化物と電解質の併用(SUCRA=85.8%)、ウシ初乳(SUCRA=81.5%)と続いた。なお、SUCRAの値が高いほど、その介入が最も効果的である可能性が高いと判断される。
これらの影響を、対プラセボの標準化平均差(standardized mean difference;SMD)としてみると、炭水化物とプロテインの併用はSMD=2.2と非常に大きな影響が観察された。次いで、炭水化物と電解質の併用がSMD=1.3と大きく、ウシ初乳は中程度の有意な影響、カフェインは小さい有意な影響が観察された。
筋力
筋力については9件の研究でカフェイやプロテインなど8種類のサプリが検討されていた。SUCRAは、ビート根エキスが83.1%、黒ショウガ(Kaempferia parviflora)が80.9%、カフェインが66.2%だった。黒ショウガの対プラセボのSMDは0.46であり、小さい有意な影響が観察された。
ジャンプ力
34件の研究でジャンプの高さに対する14種類のサプリの影響が検討されていた。SUCRAは、β-アラニンが90.9%、メラトニンが89.6%、カフェインが74.6%だった。SMDは、β-アラニンが0.83、メラトニンが0.75でそれぞれ中程度、カフェインは0.37、クレアチンは0.33であり、それぞれ小さい有意な影響が観察された。
スプリントタイム
36件の研究でスプリントタイムに対する18種類のサプリの影響が検討されていた。SUCRAは、マグネシウムクレアチンキレートが99.6%、メラトニンが93.3%、クレアチンと重炭酸ナトリウムの併用が86.8%だった。SMDは、マグネシウムクレアチンキレートが-3.0と非常に大きく、メラトニンは-1.9、クレアチンと重炭酸ナトリウムの併用は-1.4でそれぞれ大きい有意な影響、アルギニンは-1.2と中程度の有意な影響が観察された。
敏捷性
14件の研究で敏捷性に対する11種類のサプリの影響が検討されていた。SUCRAは、クレアチンと重炭酸ナトリウムの併用が99.8%、メラトニンが79.4%、黒ショウガが71.6%だった。SMDは、クレアチンと重炭酸ナトリウムの併用が-2.3と非常に大きく、カフェインは-0.38の小さい有意な影響が観察された。
ピークパワーおよび平均パワー
12件の研究でピークパワーに対する10種類のサプリの影響が検討されていた。SUCRAは、マグネシウムクレアチンキレートが87.3%、分岐鎖アミノ酸(BCAA)が74.4%だった。一方、平均パワーに対してマグネシウムクレアチンキレートはSMD=1.3と、大きい有意な影響が観察された。
自覚的運動強度
29件の研究で自覚的運動強度に対する13種類のサプリの影響が検討されていた。SUCRAは、炭水化物とプロテインの併用が93.7%、炭水化物と電解質の併用が80.2%、メラトニンが77.4%だった。自覚的運動強度に対して炭水化物と電解質の併用はSMD=-0.56の小さい有意な影響が観察された。
競技レベルで層別化したサブグループ解析の結果
エリートレベルと非エリートで層別化した解析では、サプリ摂取による異なる影響が観察された。有意な影響が認められたサプリは以下のとおり。
エリートレベル
エリートレベルを対象とする研究の解析では、走行距離に対するカフェイン(SMD=0.28)が有意。ジャンプの高さに対しては、メラトニン(SMD=0.74)とカフェイン(SMD=0.39)が有意。スプリントタイムに対しては、マグネシウムクレアチンキレート(SMD=-3.0)、メラトニン(SMD=-1.9)、クレアチンと重炭酸ナトリウムの併用(SMD=-1.4)、アルギニン(SMD=-1.2)が有意。敏捷性に対しては、クレアチンと重炭酸ナトリウムの併用(SMD=-2.3)、カフェイン(SMD=-0.38)が有意。自覚的運動強度に対しては、炭水化物と電解質(SMD=-0.75)が有意。
非エリートレベル
非エリートレベルを対象とする研究の解析では、走行距離に対する炭水化物とプロテインの併用(SMD=2.3)が有意。筋力に対しては、黒コショウ(SMD=0.46)が有意。ジャンプの高さに対しては、β-アラニン(SMD=0.83)とカフェイン(SMD=0.34)が有意。平均パワーに対しては、カフェイン(SMD=0.35)が有意。自覚的運動強度に対しては、炭水化物と電解質(SMD=-1.4)が有意。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of different dietary supplements on athletic performance in soccer players: a systematic review and network meta-analysis」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2467890〕 原文はこちら(Informa UK)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
Page 25
日ごろから食されている食品由来成分であるアピゲニンに、糖尿病を予防する効果があることが明らかになった。広島大学などの研究グループの研究によるもので、「FASEB journal」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。
研究の概要:日ごろ食べている食品の中に抗糖尿病成分
広島大学と山陽小野田市立山口東京理科大学の共同研究チームは、βチューブリンに結合して糖尿病抑制効果を示す食品成分(アピゲニン)を見いだした。
糖尿病の原因はさまざまだが、それらの一つとして、小胞体ストレス、インスリン抵抗性が挙げられる。小胞体ストレスやインスリン抵抗性を改善できる化合物を特定することは、糖尿病の治療に有益であると考えられる。本研究では、比較的安全とされる食用植物由来の化合物から、インスリン抵抗性を軽減できる物質の特定を目指した。
その結果、アピゲニンという物質が、小胞体ストレス、インスリン抵抗性を改善することがわかった。アピゲニンは、タマネギ、オレンジ、パセリなどの食物に含まれており、日ごろから食されてきた。このような、比較的安全な食用植物由来の因子が、糖尿病を予防できる可能性が示された。
研究の背景:小胞体ストレスやインスリン抵抗性を改善する食品由来成分の探索
糖尿病は、血糖値を下げる働きをもつインスリンというホルモンの分泌・作用不足により血糖値が異常に高くなる慢性代謝性疾患であり、世界的な健康上の懸念となっている。全身の血管や神経にダメージを与え、心臓病や腎臓病、失明のリスクが高まる病気で、日本に579万人の患者がいるといわれている。
インスリンは、膵臓のβ細胞という細胞から分泌される。インスリンが細胞膜上のインスリン受容体に結合すると、PI3K/Aktシグナル伝達経路という、外部からの信号を細胞に伝える身体の仕組みが活性化され、細胞内へのグルコースの取り込みが促進されることで、血糖値を下げる。しかし糖尿病では、インスリン抵抗性(生活習慣や環境、遺伝的な要因によりインスリンが効きにくい状態)により、細胞内へのグルコース取り込みが損なわれた結果、血糖値が上昇する。
本研究では、インスリン抵抗性の一つの原因として知られている小胞体ストレスに着目した。細胞に小胞体ストレスがふりかかると、小胞体内でのタンパク質の折り畳み(タンパク質がその機能を発揮できる形に構造を変えること)に問題が起き、異常タンパク質が蓄積する。本研究では、食品由来の因子449種類から小胞体ストレス軽減因子を特定し、インスリン抵抗性、さらには糖尿病改善効果を示す化合物を明らかにすることを目的とした。
研究成果の内容:アピゲニンが小胞体ストレスによる細胞死抑制を最も強く抑制
まず、449種類の食品由来化合物群の中から、小胞体ストレスによる細胞死抑制効果を示す化合物を検討した。その結果、アピゲニンという化合物が最も強い効果を示した。アピゲニンはタマネギ、オレンジ、パセリなどの食物に含まれており、抗酸化作用や抗炎症作用など、身体にとってよい影響をもたらすことが知られている。アピゲニンは小胞体ストレス応答の誘導(GRP78,CHOP)を抑制し、小胞体ストレスによる細胞死を抑制した。さらにアピゲニンは、小胞体ストレスによるインスリン抵抗性改善効果を示した。
そこでその作用機構を明らかにする目的で、アピゲニン結合タンパク質を検討した。アピゲニンとリンカーを介して磁気性ビーズに結合させたビーズを作成し、本ビーズに結合するタンパク質をSDS-PAGE、銀染色、nano LC-MS/MS解析により同定した。その結果、アピゲニンはβチューブリンに結合することが明らかになった。解析でもアピゲニンはβチューブリンに結合することが確かめられた。
そこで、アピゲニンによるβチューブリン重合・脱重合への影響を検討した。その結果、アピゲニンはβチューブリンの重合を促進することで小胞体ストレスによるインスリン抵抗性を改善することが示された。この効果は、糖尿病モデルマウスでも確認された。
今後の展開:新規糖尿病用薬の開発も期待される
食品成分は、人々が日常摂取する食品由来の成分であるため、安全性が高いと期待される。また、特定した化合物であるアピゲニンはβチューブリンと結合することが明らかになった。βチューブリンを標的とする抗糖尿病薬は知られておらず、今後はこのような知見をもとに、新しいメカニズムを有した糖尿病治療薬の開発が期待される。
(出典:広島大学)
プレスリリース
【研究成果】日頃から食されている食品由来成分に糖尿病を予防する効果があることを発見しました(広島大学)
文献情報
原題のタイトルは、「A unique compound ameliorating endoplasmic reticulum stress and insulin resistance by binding to β tubulin」。〔FASEB J. 2024 Nov 15;38(21):e70150〕 原文はこちら(John Wiley & Sons)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
Page 26
学校給食が、経済的に困難な世帯の中学生の体重や肥満率を抑制するように働いていることが報告された。上智大学と曁南大学(中国)の研究者による研究の結果であり、「Health Economics」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。この効果は、中学校を卒業して給食を食べなくなった後も、少なくとも数年間は持続するという。著者らは、「学校給食には、子どもの食習慣を望ましい方向に変化させる食育効果があることが示唆される」としている。
研究の背景:給食に長期的な食育効果はあるのか?
世界中で肥満が急増するなか、肥満対策としての学校給食の役割が国際的に注目されている。しかし、その効果について十分なエビデンスがなく、また学校給食には多大なコストがかかることが問題視されることもある。
日本でも、このトピックについて、個人レベルのデータを用いた精緻な検証は本研究が初めて。また、給食が体重に与える効果は、給食がなかった場合に持参したであろう弁当の内容に依存するため、世帯や地域の特性によって効果が違うと考えられるが、子どものバックグラウンドによる効果の違いは世界的にも十分検討されていなかった。
さらに、日本の学校給食に関しては、食事摂取を通じて生徒の健康を直接的に改善するだけでなく、「食育」と呼ばれる教育効果を通じて長期的な食習慣改善効果を持つことが期待されているが、給食の中長期的な効果についてはよくわかっていなかった。
研究の方法:給食のある学校とない学校の生徒の体型指標の差を検討
この研究では、厚生労働省の「国民栄養調査(現:国民健康・栄養調査)」の1975~94年の個人レベルのデータを用いた分析が行われた。同調査は、日本全国を代表するサンプルでさまざまな個人特性とともに身長・体重の計測値がわかる、世界的にも貴重なデータ。
日本では公立小中学校の生徒は、通っている学校で給食が提供されていれば原則として給食は強制参加であり、また、ほぼすべての公立小学校で給食がある一方で、公立中学校では市区町村により給食の有無が分かれている。この差を利用して、中学校給食のある地区とない地区で小学4~6年生と中学生の体型指標の差を比較するという、差の差(difference-in-differences;DID)分析を行った。
分析の結果:給食のある学校では、社会経済的地位の低い世帯の子どもの肥満が少ない
分析結果は、全体では中学校給食による体重や肥満への有意な効果はみられなかった。しかしその一方で分析対象を、非ホワイトカラーの父親の子や、一人あたり世帯支出が低い世帯の子ども、すなわち社会経済的地位の低い世帯の子どもに限定すると、中学校給食によりボディマス指数(BMI)や肥満度、肥満が有意に減少することが示された。
中学校給食による肥満減少効果は母親のBMIが高い子どもやエネルギー摂取の多い地域の子どもなど、エネルギー過剰摂取のリスクが高い子どもにもみられたことから、給食がエネルギーの過剰摂取を抑制することで肥満を減少させたことが示唆される。
さらに、社会経済的地位の低い世帯の子どもへの給食の肥満減少効果は、中学卒業後の15~17歳にも認められた。このことから、給食を食べることで直接的に肥満が減少するだけでなく、「食育」の理念のとおり、学校給食が食生活の改善を通じた長期的な肥満抑制効果を持つことが示唆された。
一方、学校給食による瘦せすぎへの影響は全く見られなかった。
今後の展望:給食の費用対効果の検討には肥満抑制を介したコスト低減も考慮が必要
本研究は、学校給食が社会経済的地位の低い世帯の子どもに対して肥満抑制効果をもつことを示唆しており、生徒全員を対象に厳しい栄養基準に基づいて栄養バランスのとれた昼食を提供する日本の学校給食、および、給食を教育の一部として位置づける「食育」の高い価値を示すものと言える。
また、学校給食実施には多大な費用がかかるという経済的ハードルがあるが、費用対効果の評価にあたっては、小中学生の栄養状態改善による直接的かつ短期的な効果だけでなく、食習慣改善による長期的効果を考慮する必要があることを示唆している。
プレスリリース
学校給食は経済的に困難な世帯の子供の肥満を減らすことが明らかに 卒業後少なくとも数年間は肥満減少効果が持続(上智大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Wholesome Lunch to the Whole Classroom: Short- and Longer-Term Effects on Early Teenagers' Weight」。〔Health Econ. 2025 Mar 18〕 原文はこちら(John Wiley & Sons)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】