アメリカがウクライナへ軍事支援再開とゼレンスキー大統領
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ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は11日、アメリカが一時停止していた軍事支援を再開したと述べた。ドナルド・トランプ米大統領は10日、米NBCニュースに対し、ロシアによるウクライナ空爆の激化を受け、アメリカが北大西洋条約機構(NATO)を通じてパトリオット地対空ミサイルシステムをウクライナに供与することで合意したと話していた。トランプ氏はさらに、14日にも「ロシアに関する重大な声明」を発表すると予告している。
ゼレンスキー大統領は11日夜、毎晩恒例のビデオメッセージで、「欧州の新しい防衛パッケージ」について言及し、来週にはアメリカのキース・ケロッグ特使とウクライナ軍が協議する予定だと話した。
ゼレンスキー氏はウクライナ復興支援会議が開かれていたローマで10日、ドイツが2基、ノルウェーが1基のパトリオット購入費用を負担する用意があると述べ、他の欧州諸国も支援に前向きだと述べていた。
ロシアはここ数週間、ドローンとミサイルを使ったウクライナの都市への攻撃を強化しており、ウクライナでの民間人の死傷者数は過去最多を記録している。
ロシアは8日夜には、ウクライナに対してその時点で過去最多のドローン728機を投じ、ゼレンスキー大統領は「ロシアはこれを1000機に増やそうとしている」と警告していた。
国連によると、6月のウクライナにおける民間人の死傷者数は、過去3年間で最多の死者232人、負傷者1300人以上に上った。
ゼレンスキー氏はかねて、パトリオット・システムや精密誘導砲弾などの供給停止がウクライナの防衛に与える影響について懸念を示し、ロシアの攻撃激化を受けて、パトリオット・システム10基の供与を要請していた。パトリオットは、接近するミサイルを探知・迎撃する世界有数の防空システムとされている。
トランプ大統領が発表した最新合意のもと、NATOがアメリカからパトリオットを購入し、それをウクライナに供与する。トランプ氏によると、費用はNATOが「全額負担」するという。NATOは、アメリカを含む加盟国による拠出によって運営されている。
トランプ氏はNBCニュースによる10日のインタビューでさらに、14日にも「ロシアに関する重大な声明」を発表すると予告したが、詳細は明かさなかった
マルコ・ルビオ米国務長官は11日、ドイツやスペインなどの同盟国に対し、保有するパトリオット・システムの一部をウクライナに提供するよう促したのだと述べた。その方が早くウクライナに着くからだとルビオ氏は言い、「NATOの同盟国諸国が保有する兵器を提供するよう、促し続けている(中略)すでに、備蓄しているからだ。そうすれば、代替品の購入資金のやりとりについて合意を結ぶことができる」と述べた。
ウクライナへのこうした防空支援強化に先立ち、ロシアは過去最大規模の空爆を連日続けていた。交渉による和平実現を目指すトランプ政権は、この様子にいら立ちを募らせている様子を示していた。
トランプ大統領は7日夜、「ウクライナは今、とても厳しい攻撃を受けている」と述べ、兵器を追加供与する方針を示した。3日には、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談を行った後、戦闘終結に向けた「進展はなかった」と不満をあらわにしていた。さらに8日には、「プーチンはこちらに、やたらとたわごとを投げてくる。彼はいつも我々に優しいが、それは結局、意味がないんだ」と記者団に述べた。
ルビオ国務長官は10日、マレーシアで開かれた会議の合間にロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相と「率直な」会話を交わしたと記者団に述べていた。
ルビオ氏は、「和平交渉の進展が見られない」ことにトランプ氏が「いら立っている」として、それは自分も同じだと発言。「この紛争を終結させるために、ロシア側により柔軟性が見られないのは残念」だと述べた。
ルビオ長官は、ラヴロフ氏と紛争終結について新しいアイディアをいくつか交換したので、それをトランプ氏に報告するつもりだとも述べた。一方、トランプ氏が14日にロシアについてどういう「重大」な発表をするのかについては、踏み込まなかった。
米紙ニューヨーク・タイムズは、匿名のアメリカ政府筋の話として、かつてイスラエルに配備されていたパトリオット・システムをアメリカで改修後、ウクライナに送る予定だと伝えた。
イスラエルが保有していたパトリオットについての交渉は以前から進められており、ウクライナ高官は6月の時点ですでにアメリカに送られたが、ウクライナはまだ受け取っていないと述べていた。
パトリオット・システムとその迎撃ミサイルは、ロシアの巡航・弾道ミサイルからウクライナの都市や重要インフラを守る上で、極めて重要な役割を果たしている。パトリオットは、旧ソ連製のS-300地対空ミサイルや西側製の地対空ミサイルシステム「NASAMS」と合わせて、軍隊関係者が「多層防空」と呼ぶ体制をウクライナに展開している。
パトリオットは高性能なレーダーと追尾能力、高い迎撃率を備えており、ウクライナがロシアの激しい空爆に対して自衛するためには不可欠とされる。一方で、1基あたり約10億ドル(約1470億円)と非常に高価なことも、西側の保有国が提供に慎重になる理由になっている。
ウクライナ軍はすでにパトリオットの運用方法を習得している。ロシアによる全面進行が2022年2月に始まって以来、ウクライナ政府が西側に対してパトリオットを要請し続けた後、最初の2基が2023年4月に供与された。現在の正確な配備数は極秘情報となっている。
パトリオット・システムの配備が1基増えるごとに、より多くの都市や軍事基地、発電所などが防空網の傘下に入ることになる。
ウクライナは広大な国土を持ち、そのすべてや国民全員を守ることは到底不可能だが、ロシアが空爆の頻度と規模を共に激化させる中、欧米諸国は防空支援の緊急性を認識している様子を示している。
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トランプ大統領は今年1月にホワイトハウスに復帰して以来、ウクライナ支援を縮小し続けた。ドイツのキール研究所によると、アメリカは2022年初頭から2024年末までに690億ドル(約10兆1700億円)相当の軍事支援を行っており、最大の支援国だった。