コラム:ロシア石油収入断絶へ代替案、トランプ氏の「2次関税」は欠陥
[ティノス島(ギリシャ) 21日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領は、年間で1600億ドルに上るロシアの石油収入を締め上げるのに「2次関税」を課す必要はない。
トランプ氏は最近、ロシア産原油の購入国を制裁すると脅しているものの、落とし穴だらけだ。ウクライナに侵攻したロシアの戦闘の資金源を断つには、より良い方法がある。
それはロシアからの原油購入で2位となっているインドに購入を止めさせ、サウジアラビアにより多くの原油をくみ上げるように説得することだ。そうすればロシアの原油輸出が減少しても、世界の原油価格が跳ね上がることはないだろう。また、ロシアが外国から受け取る石油販売収入を事実上引き下げることもできる。
これらの措置は財政赤字の拡大、経済成長率の鈍化、不良債権の増加、そして依然高いインフレ率によって既にひずみが生じているロシア経済にさらなる打撃を与えるだろう。
ロシアからの原油輸出を全面的に止めると、何が問題になるのか。ロシアと貿易をしている国々に「2次関税」を課すというトランプ氏の脅しは、その実現を目指している。トランプ氏は先週、もしもロシアのプーチン大統領が50日以内にウクライナでの戦闘を終わらせなければ、ロシアの輸出品を購入している国からの輸入品に米国は100%の関税をかけるとけん制した
このような包括的な「2次関税」には多くの欠点があるため、金融市場はトランプ氏が実行するとは考えていない。トランプ氏の発言後にロシアの株価と通貨ルーブルの相場は上昇した一方、原油価格は下落した。トランプ氏が本当に実行すると投資家が考えた場合の動きとは正反対だった。
ロシアは米国、サウジアラビアに次いで世界3位の原油産出国だ。国際エネルギー機関(IEA)によると、6月に日量計720万バレルの原油とディーゼルエンジン用燃料などの精製品を136億ドルで輸出しており、これは年間で1600億ドル余りに相当する。世界市場からこれらの供給が全てなくなれば、原油価格は急上昇する。とりわけ米国の消費者に打撃を与え、トランプ氏の人気を損なうことになる。
もう1つの問題は中国だ。ウクライナのキーウ経済学院(KSE)の統計によると、2025年1―5月のロシアの原油輸出量の3分の1弱を中国が購入している。ロシアにとって中国は最も重要な同盟国だ。そのため、米国が中国からの輸入品に100%の関税をかけたとしても、行動を変えることはできないだろう。世界の2大経済大国の米国と中国の貿易戦争がさらに激化し、米国のインフレ率を押し上げるだけだろう。
An area chart showing that China, India and Turkey buy about 60% of Russia’s oil exports理論的には、トランプ氏は中国を「2次関税」の適用から除外し、他の国々にだけ課すこともできる。ロシア産原油の約4分の1を購入しているインドと、約10分の1を買っているトルコが主な標的になるだろう。トランプ氏は両国をねじ伏せることができるかもしれない。しかし、米国にとって最も深刻で、長期にわたるライバルの中国に対する「2次関税」の適用を免除する一方で、友好国にはペナルティーを科すという政策は地政学的に見て愚策だ。
<ロシアの溝を埋める>
幸いなことに代替案はある。トランプ氏はムチだけではなく、アメも使ってインドとトルコにロシア産原油の購入をやめるように説得することができる。米国は防衛や貿易、技術、エネルギーに関してインド、トルコ両国と広範な関係を築いている。複数の手段を用いることにより、トランプ氏は両国と「ウィンウィン」の取引をできるだろう。
アメの1つは、世界市場への原油の代替供給を確保することだ。そうすれば、インドやトルコはエネルギー調達価格が上がることはないと安心するだろう。また、米国の消費者を燃料価格上昇から守ることにもつながる。
ロシアは、インドとトルコに代わって原油を購入してくれる販売先を見つけるのに苦労するだろう。対照的に、トランプ氏にとっては他の供給国に生産ギャップを埋めてもらう現実的なチャンスがある。中国がロシアからの原油を買わなくなれば、その筋書きは不可能になる。
トランプ氏が最初に接触すべきなのが、指導者と緊密な関係を築いているサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)だ。IEAの統計によると、サウジとUAEは日量で計320万バレルの余剰原油生産能力を抱えており、これはインドとトルコのロシアからの購入量よりも多い。サウジとUAEはともに世界市場でのシェアを高めることに熱心だ。
トランプ氏は、良好な関係にある米国の生産者らに産油量を引き上げるように説得できるかもしれない。市場に一時的な不足が生じた場合、米国は戦略的な備蓄から石油を放出することも可能だ。米国は新たな生産が始まれば備蓄を補充することを約束し、掘削業者に供給量を増やせるとの自信を与えることができる。
<価格上限の強化>
ロシア産原油の輸出量を削減することは、トランプ氏の計画の一部に過ぎない。また、ロシアの原油販売価格も引き下げるべきだ。
上限価格による制約を回避するため、ロシアは上限価格に従わないタンカーの「影の船団」を構築し、原油を輸送した。その後、G7諸国はこれらの船舶の一部に制裁を課し、運航を困難にした。
EUよりも強力な制裁手段を持つ米国は、ロシアの「影の船団」に加わっているタンカー全てに罰則を科すことができる。インドとトルコにロシア産原油の購入を止めさせることができれば、ロシアの石油収入はさらに下がるだろう。
これらの措置により、ロシア産原油の上限価格を1バレル当たり40ドル程度に抑えることが可能かもしれない。ロシアの石油輸出量も大幅に減れば、「影の船団」の収入を半減させることも可能かもしれない。
プーチン氏は反発しているため、軍資金を空にするだけでは交渉させることは不可能かもしれない。しかし、トランプ氏は欧州諸国が費用を負担することを条件に、ウクライナへの武器供給の強化も約束している。もしもトランプ氏が約束を守り、3000億ドルと推定されるロシアの凍結資産を活用して欧州が資金を調達すれば、ロシアは最終的に戦争をやめるかもしれない。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
Hugo Dixon is Commentator-at-Large for Reuters. He was the founding chair and editor-in-chief of Breakingviews. Before he set up Breakingviews, he was editor of the Financial Times’ Lex Column. After Thomson Reuters acquired Breakingviews, Hugo founded InFacts, a journalistic enterprise making the fact-based case against Brexit. He was also one of the founders of the People’s Vote which campaigned for a new referendum on whether Britain should leave the EU. He was one of the initiators of the G7’s “partnership for global growth and infrastructure”, a $600 billion plan to help the Global South accelerate its transition to net zero. He is now advocating a $300 billion “reparation loan” for Ukraine, under which Moscow’s assets would be lent to Kyiv and Russia would only get them back if it paid war damages. He is also a philosopher, with a research focus on meaningful lives.