俺が容疑者? 「正義の通報」が一転、5時間に及んだ取り調べ
神奈川県警宮前署の刑事課は、階段を上った3階にある。
2022年秋、出頭要請を受けた20代の男性は刑事課の取調室に入った。格子のついた窓があり、机を挟み二つの椅子が置かれている。「刑事ドラマに出てくるような部屋だなと思いました」
最初に刑事からこう説明があった。
「占有離脱物横領容疑で調べています。サカイ引越センターの件です」
東証プライム上場の引っ越し大手であるサカイ(堺市)では、顧客406人分の個人情報の流出が明らかになっていた。
これを明るみに出したのが社員らの行動だった。サカイの社員だった男性もそれに関わったうちの一人。あれは公益通報であり、やましいことをしたつもりは一切ない――。
ところが刑事の説明によれば、男性の行動の一部に違法の疑いがあるという。正義のためにやったつもりだが、いつの間にか警察の捜査対象となり、「容疑者」の立場に置かれていた。
刑事は穏やかな表情ながら、細かいところまで尋ね、スマートフォンの確認も求めてきた。
休憩もないまま5時間に及んだ取り調べで、男性は自らの行動を正直に話した。
「公益通報に関わっただけで、ここまで調べられるのか」
緊張と恐怖のなか、そう感じた。
公益通報のため資料持ち出したら罪に?
そもそものきっかけは、この半年前にさかのぼる。当時住んでいた川崎市内のアパートのゴミ捨て場で22年3月、一つのゴミ袋が目に留まった。
透明な袋のなかには、サカイの顧客の氏名や住所など個人情報が記載された書類が大量に入っていた。アパートはサカイが一部を寮として借り上げており、別の社員が捨てたものだった。
このままでは個人情報が外部に漏れる可能性がある。心配した男性は、事実を記録に残すために写真を撮ったうえで、加入していたサカイの労働組合に通報した。そして、ゴミ袋から抜き出した資料を労組の関係者に渡した。
男性が関わったのはここまでだ。
関係者によれば、労組が会社に伝えたところ「持ってきてくれたらシュレッダーにかける」と言われたという。
労組は、このままでは隠蔽(いんぺい)される恐れがあると考え、東京新聞に情報提供した。
公益通報者保護法では、証拠隠滅されると信じる理由があるなど一定の要件を満たせばメディアへの通報も認めており、一連の行為は公益通報に当たるとするのが専門家の見解だ。
5月上旬、男性が撮影した写真とともに記事が東京新聞に掲載されると、サカイはその後に社長名で事実関係を認める文書を出して謝罪。再発防止を誓った。
これですべてが終わったかに見えた。
しかし、会社側の「反撃」がまもなく始まった。
ある休日の昼、男性の自宅玄関のドアが「ドンドンドン」とたたかれます。訪ねてきたのは…。記事の後半では、男性が一部始終を記録した実際の動画も視聴できます。
絞り込まれていった告発者
男性は4月末に退職していたが、5月…