石川県知事選で山野之義さん側の公職選挙法違反の疑い|山本一郎(やまもといちろう)

 明日3月8日、石川県知事選の投開票が行われる予定ですが、実質的には現職の馳浩さん(64)と前金沢市長の山野之義さん(63)による一騎打ちでの様相です。前回2022年の得票差がわずか7,982票だったこともあり、今回も最後まで予断を許さない展開となりました。

 ところがこの選挙戦、政策論争と並行して公職選挙法がらみの問題が水面下で進行していました。しかも、その問題の「本丸」がどちらの陣営にあるかについて、選挙直前に大手メディアが真逆の方向から火を噴いたことで、有権者に誤った印象を与える事態が生じています。順を追って整理します。

山野さん陣営に対する刑事告発——告示前の問題

 2月13日、石川県内で活動する新谷博範さんが、山野さんを公職選挙法違反の疑いで石川県警に刑事告発しました。弁護士に依頼した正式な告発状で、証拠はUSBメモリに記録して警察に提出済みとしています。

 告発の内容は二点です。

 一つ目は事前運動の禁止規定違反です。公職選挙法は、告示日の立候補届出が完了するまで選挙運動を禁じています。ところが山野さんは告示前から、ほぼ全てのSNS投稿に「石川県知事選挙に出馬することを正式に表明いたしました」という文言を繰り返し明記していました。どの選挙かを告示前に明示して自身への支持を呼びかける行為は、選挙実務の常識として事前運動にあたります。

 ちなみに、問題となる選挙運動の3要件は、公職選挙法第129条で定められた「特定の選挙に関すること(選挙の特定)」「特定の候補者の当選を目的とすること(当選目的)」と「投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為であること(行為の態様)」で、これらを公示・告示前に行うことを事前運動として選挙期間前に行うことは事前運動にあたり、違法という扱いになります。

 二つ目は、選挙運動用有料インターネット広告の禁止規定違反です。さらに深刻なのは、その事前運動性のある投稿に対し、Meta(Facebook・Instagram)の広告機能を使って約159万円を投じて大量拡散していた点です。Meta社の広告ライブラリは公開情報であり、新谷さんはそこから証拠を確保しています。

 比較として引き合いに出されるのが、2023年の東京都江東区長選挙における木村弥生さんのケースです。あのときの有料広告は約38万円。有罪判決(懲役1年6月、執行猶予5年)が確定し、区長は失職しています。山野さんのケースは金額だけで4倍以上であり、しかも告示前という「事前運動」の要素まで加わっています。その点では常識的に見れば山野さん陣営の選挙運動は違法な事前運動にあたり、当選しても無効になるレベルで問題じゃないのかと言えます。

 関係先も含めて石川県警に事情を尋ねた限りでは、現段階で断定的なことは言えないとしたうえで、告訴状はすでに受理されていて投開票日後に捜査を行うものであるとの返答で、個人的には兵庫県知事選や宮城県知事選など最近の公職選挙における事前運動はある意味「違法でもやったもの勝ち」な面があるため、その顛末がどうなるのかは非常に気にしております。

告発後の山野さんの対応がさらに問題を深めた

 刑事告発の内容もさることながら、その後の山野さんや陣営の対応が事態をこじらせました。

 告発を受けた山野さんは、SNS上で「当該告発は不受理となった旨をご本人が県政記者クラブに報告された」という趣旨の発信をしました。これ、まあ普通に嘘じゃないですかね。まるで石川県警によって告発が退けられたかのような印象操作です。

 新谷さんの説明によれば、石川県警から「受理の状況を公にしないよう」求められたため、記者クラブには「相談」という表現を使って伝えただけです。当然ながら「不受理になった」とは一言もお話にはなっておらず、書面などでも書いておられません。山野さんは匿名記者の伝聞というテイで、事実を歪めた形で発信したことになります。

 さらに見過ごせないのが、投稿文言のひっそりした書き換えです。告発状がホームページで公開された翌日(2月14日)以降、問題とされていた「石川県知事選挙に出馬することを正式に表明いたしました」という文言が、過去の投稿も含めて「石川県のリーダーとして挑戦する決意を表明いたしました」にサイレント変更されていました。変更の理由説明は一切ありません。

 新谷さんは改めて文書を出し、①虚偽発信の撤回、②公選法違反でないとするなら具体的な根拠の説明、③文言変更の理由説明、の三点について2月17日中の回答を求めていました。しかし山野さんからの具体的な反論は、公開情報の範囲では確認できていません。「説明しない・事実を曲げる・こっそり修正する」というパターンは、2010年の金沢市長選でネット選挙の問題が起きたときと構造的に同じです。

選挙期間中にも——「まっすぐ県民目線の会」のYouTube問題

 告示前の問題にとどまりません。選挙期間中の2月19日以降にも、山野さん陣営による公選法違反の疑いが生じていました。

 問題となるのは「まっすぐ県民目線の会」というYouTubeチャンネルが投稿したショート動画です。チャンネル登録者数はわずか5人、動画は1本のみ。しかしその動画の視聴回数は57万回超に達していました。動画のタイトルは「前金沢市長の石川県知事候補の政策『奥能登知事室』」と、候補者名・選挙名・政策を明記した内容です。投稿日は3月2日、選挙期間のど真ん中です。

 登録者5人・動画1本のチャンネルでショート動画が57万回再生されることは、有料広告として展開されたのではないかと見られます。石川県知事選は注目選挙なので、Google Trendsなどでも馳浩さん、山野之義さん両陣営は毎日10万件単位の検索や表示がネット上では行われています。ただ、山野さん陣営の検索状況から見るに有料広告なしにこの数字が出ることは構造的に不可能であり、本件については石川県警も問題を認識しています(捜査の詳細については続報で改めてお伝えします)。第三者的にはGoogle透明性センターで取り扱われるようになれば、山野さん陣営「まっすぐ県民目線の会」が有料広告だったかが分かるようになるでしょう。

 しかも、投開票日8日を迎えてこのチャンネルを訪れたところ、なんとこの問題のショート動画は削除されていました。ということは、まあ、これは山野さん陣営は分かっててやってるんでしょう… 違法性の認識があって、問題になる可能性があることは分かっているから消したんだろうと思うわけです。もちろん、さすがに変なのでスクリーンショットも全部押さえてますが。

いまはすでに消されてしまった山野之義さん陣営の『まっすぐ県民目線の会』のチャンネルにぽつんと置かれた宣伝動画。ガッツリ有料広告が配信されていたとみられますうーん、まあこれが許されるのならみんなやっていいんですかねえという素敵動画。山野さん陣営、ギリギリのところを攻めたいと思っていた割に、思い切り「前金沢市長」と明記したうえでPRを繰り広げておられました

 一般論として「候補者個人名義ではなく支援団体名義にすれば規制を迂回できる」という発想があったとすれば、それは誤りです。確認団体ではない一般の政治団体は、選挙期間中の有料インターネット広告は認められていません。名義がどこであれ、選挙運動性のある動画に有料広告を乗せれば違反は成立します。逆に言えば、石川県警がこれを不起訴にするのであれば、我が国のネット選挙はまた一段、タガが外れることになるのかもしれません。

 やりたい放題であった立花孝志さんの身柄を取るのに公職選挙法が役に立たなかったように。

現代ビジネスの「誤報」が混乱に拍車をかけた

 こうした状況のなか、投票日3日前の3月5日、講談社系ウェブメディア「現代ビジネス」が馳さんの陣営を批判する記事を掲載しました。

 「YouTube登録43人で127万視聴の摩訶不思議」という見出しで、馳さんの支援政治団体「ワンチーム石川」のYouTubeチャンネルが、登録者43人にもかかわらず127万回再生されているとして有料広告疑惑を示唆し、選管が馳陣営に公選法上の注意をしたとも書いています。ただ、記事にあるように選管が注意を本当にしているのであればワンチーム石川に掲載されたショート動画などとっくに削除されるはずなのです(3月8日時点でまだ閲覧可能)。

 Google Trendでも分かる通り、現職ということもあって馳浩さん自身はネットで多く検索・閲覧され、自身の確認団体である政治団体のチャンネルは選挙中一貫して15万PVはたたき出しています。対抗の山野さんも石川県有権者から関心を持たれているのは事実ですが、アクセスの15%ほどは参政党など支持団体方面からの流入と見られ影響力は小さくなっています。

告示後、一貫して馳浩さんは現職かつ知名度の高さや高市早苗さんの現地入りなどの影響で石川県知事選に関心のあるネットユーザーからのインタレスト(興味)は高い

 記事を書かれたワンチーム石川はすぐさま「現代ビジネスからワンチーム石川への取材は一切なかった」「石川県選管への取材もなかったことを選管側が確認した」などの反論を記した記事訂正申入書を公表し、一方的な情報をもとに、選挙残り3日というタイミングで記事を掲載した現代ビジネスに抗議しています。公職選挙中に、よりによって取材無しでこたつ記事を書くのはさすがにまずいのではないかと思います。

 馳浩さん陣営のワンチーム石川でのyoutube広告は選管から注意も警告儲けておらず、一方で山野さん陣営の確認団体「まっすぐ県民目線の会」はチャンネル登録者5人で57万回再生になっており、しかも投開票日間近になってこれを削除しています。どっちが悪質で違法性が強いかは明白です。たぶん、これもまた選挙ウォッチング有志が刑事告発でもするんじゃないかと思っています。

問われているのはSNS時代の選挙の公正さだ

 今回の選挙で浮き彫りになったのは、2013年のネット選挙解禁以来ずっと積み残されてきた構造的な問題です。

 告示前の有料SNS広告、選挙期間中の支援団体名義での有料動画広告——いずれも「バレなければやり得」という発想で行われた可能性があります。江東区長選の前例が示したとおり、選挙後に刑事責任が確定して当選無効・再選挙となれば、石川県の試算では約8億円の税金が再び投じられます。山野さんが当選するかどうかにかかわらず、今回の一連の疑惑については捜査の行方を注視する必要があります。そして現代ビジネスの記事問題は、選挙期間中のメディア報道のあり方として、別途きちんと問われるべき案件です。

 もはやインターネットが公職選挙の主戦場になって久しいわけですし、法律を改正するなどして早めに実態に合った規制にしていくべきじゃないかと思っています。

 なんということでしょう。 記事を書いているうちに、3月8日の投開票日を迎えてしまいました。

 石川県民の皆さまにおかれましては、今後の石川県がより良くなるように候補者選びをしていただければと存じます。

普段はザンギエフを使っています。オークランド・アスレチックスのファン。1996年慶應義塾大学法学部政治学科卒、23年新潟大学修士(法学)、一般財団法人情報法制研究所/事務局次長・上席研究員。専門は統計分野、社会調査、制度設計と、投資実務および置物系コンサルティング業務全般。

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