昭和の車名とデートカーを彷彿とさせるフォルムでホンダ「プレリュード」が24年ぶりに復活

昭和からの車名が消えゆくなか、ホンダ「プレリュード」が24年ぶりに復活を遂げる。このモデルで6代目となるプレリュードは、歴代モデルのスタイルを踏襲した2ドアクーペスタイル(リヤハッチゲート)と往年モデルを知る人には懐かしく、今の人には新鮮なクルマとして映ることでしょう。しかも、その走りは、ホンダスピリッツの再来というものでした。試乗レポートをお届けします。

2L直列4気筒+2モーターの「e:HEV」を搭載

スポーツクーペが日本初出しだなんて、耳を疑った。いや、疑うどころか、思わず腰を抜かしかけた。時代は既にSUVと電動車が街を埋め、スポーツカーは絶滅危惧種となりつつある。そんなご時世に、ホンダが24年ぶりにプレリュードを開発し、販売を始めるというのである。しかも、アメリカでもなく、日本市場から。胸の奥に、ほのかに感動が走った。

日本には確かに、日産フェアレディZ、マツダ・ロードスター、トヨタ・スープラ、そしてハチロク。古くから熱心なファンがいる。

しかし、それだけで新型プレリュードを復活させたとは思えない。収益や販売台数だけが理由ならば、SUVや電動車を増やすのが手っ取り早いだろう。ホンダは、もっと大切なものを守ろうとしたのだ。

調査によると、「ホンダ=チャレンジ精神」をイメージするユーザーが減少しているという。かつてのホンダは、革新と挑戦の象徴であり、尖った技術と自由な発想で、個性豊かなモデルを生んできた。

だが、企業の規模拡大とともに「保守」の印象が強くなり、若年層に至っては「革新のホンダ」を知らない。それを見過ごせなかったホンダが、スポーツクーペで反撃を試みたのである。新型プレリュードは、保守の壁を突き破る起爆剤だ。

その兆しはすでにあった。シビックe:HEVが示した、まるでガソリン車のような躍動感あるパワーユニット。新型プレリュードは、それをさらにスポーツ寄りに調律し、2L直列4気筒+2モーターの「e:HEV」に落とし込んだ。

大人の乗り味とワインディングロードの楽しさを両立

CVTの特性も見直し、「S+シフト」で回転フィールを多段変速のように階段状に上げ下げする。アクセルを踏むたび、心の奥に小さな火花が散る感覚。耳に届くサウンドは、ハイブリッドの面影を微塵も残さず、コーナーに向かう度に胸を高鳴らせた。

さらに驚かされるのは、そのハンドリングだ。呼吸を止め、ワインディングに飛び込むと、ステアリングはまるで意志を持ったかのように滑らかに応じる。タイヤは環境性能重視のエコタイヤであるにもかかわらず、だ。

旋回は自然でフラットだ。遠心力、グリップ、物理の法則すら、静かに裏切られるような感覚。もはや運転する者の感覚が、クルマに合わせて変化するのだ。

だが、このクーペは決して獰猛ではない。可変減衰力ダンパーの効果もあり、乗り心地は穏やかなセダンと変わらぬ優しさを持つ。

だが、ひとたびコーナーに挑めば、姿勢はフラットに保たれ、操る楽しさが胸いっぱいに広がる。冒頭で「スポーツクーペ」と表現したが、実態は「スペシャリティクーペ」。日常では優雅に振る舞うが、ワインディングでは心を躍らせる舞踏家に変貌する。二律背反を両立させるその姿は、現代の物理と常識をも越えているように感じられた。

ホイールベースとトレッドの比率、フロントジオメトリーの強いキャスター角。細部に宿る設計思想が、直進安定性と旋回性能を巧みに両立させている。強烈なタイヤや硬いサスペンションで得られる感覚ではなく、車体全体の均衡から自然に生まれる、滲みでるフットワーク。その完成度の高さに、僕は思わず息を呑んだ。

ホンダがスポーティカーを世に出す勇気に感動

走り終えて停車した瞬間、胸の奥に小さな熱が残った。それは単なる性能への驚きではない。ホンダの、挑戦を恐れぬ精神の証しに触れた歓喜だ。運転する者の魂に問いかける。「まだ、挑戦する勇気はあるか」と。

新型プレリュードは、単なるスペシャリティカーではない。かつての挑戦の記憶と、今を生きる挑戦者への贈り物のように感じる。これに乗る者は、技術だけでなく、勇気と好奇心を携えることを求められる。そして、運転の楽しみを知る者は、クルマとともに心を躍らせることができる。現代のスピード社会にあって、このクーペは静かに、しかし確実に、心の中の冒険心を呼び覚ますのだ。

プレリュード車両本体価格:617万9800円

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