当選目指さない「2馬力選挙」、兵庫県知事選挙で問題浮き彫り…活動量2倍で公平性揺らぐ
「自らの当選を目的として候補者となる」――。
鳥取、島根両県の合同選挙管理委員会は21日、今夏の参院選鳥取・島根選挙区(改選定数1)で、そんな当たり前とも言える内容の宣誓書を候補者に提出させることを決めた。「『2馬力選挙』を防ぐ」(松崎亮太・合同選管事務局長)ための独自策だ。
「2馬力選挙」とは、当選を目指さず、他の候補者の当選を目的に立候補する行為を指す。公職選挙法では、候補者1人あたりの選挙カーやビラの数などが制限されている。「2馬力」では応援を受ける側が実質、2人分の活動量になるため、選挙の公平性が脅かされる事態となる。
【一覧】兵庫県知事選期間中の斎藤元彦、立花孝志両氏のスケジュール「2馬力」が注目を浴びたのが、兵庫県の斎藤元彦知事が再選された昨年11月の知事選だ。選挙は、斎藤氏がパワハラなどの疑惑を内部告発され、県議会から不信任決議を受けて失職したことで実施された。
政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏は、「斎藤氏の合法的なサポートをする」と立候補。街頭では斎藤氏の演説が終わると同じ場所に姿を現し、残った聴衆に「『おねだり』やパワハラは全くなかった」「テレビによる洗脳だ」と繰り返し訴えた。
疑惑を検証していた県の第三者委員会はその後の今年3月、斎藤氏による10件のパワハラを認定した。贈答品の受領疑惑については違法性は認めなかったが、出張先で受け取った多くの特産品を持ち帰っていたことはおおむね事実だとした。
斎藤陣営は選挙戦後半(11月8~16日)、X(旧ツイッター)で計40か所での街頭活動を事前告知した。立花氏はこのうち、国会で石破首相の会派あいさつに応対した日を除く8日間で計16か所、斎藤陣営の後を追うような日程を組んでいた。
斎藤氏を支持する川西市の60歳代女性は「斎藤さんの疑惑について、何が本当か知りたかったが、立花さんはそれに応えてくれた」と振り返る。
鳥海不二夫・東京大教授(計算社会科学)のXの分析によると、選挙期間中(10月31日~11月16日)、斎藤、立花両氏に言及する投稿の1日あたりの合計は、斎藤氏の対抗馬だった前尼崎市長の稲村和美氏に触れた投稿の1・8~9・2倍だった。17日間のうち7日間は、立花氏だけで稲村氏を上回っていた。
稲村氏の陣営関係者は「立花氏は多くのフォロワーを抱えるインフルエンサー。選挙結果に大きな影響を与えたと思う」と話した。
立花氏は3月の千葉県知事選へ立候補を表明した際も、自身への投票を呼びかけず、熊谷俊人知事を応援する意向を示した。熊谷氏が「迷惑」と発言したため撤回したが、選挙戦では兵庫県や大阪府など千葉県外で街頭演説し、知事選とは無関係な兵庫の問題に関する持論を展開した。
公選法第141条、同第142条の規定総務省は選挙カーやビラなどの数量制限を根拠に、「公選法の解釈上、ほかの候補を応援することは違法の恐れがある」と説明する。ただし、明確な禁止規定はなく、当選を目的としない立候補は想定していない。
日野愛郎・早稲田大教授(選挙制度論)は「『2馬力』は選挙の公正性を明らかに損なう行為で、非常に大きな問題だ。選挙が不正に利用されるようなことが続けば、選挙制度への不信感を高める。可能な限り早いタイミングで実効性のある対策を行うべきだ」と指摘する。
石破首相は2月、国会答弁で「誰もが納得する選挙運動のあり方を確立するのが喫緊の課題だ」と述べた。与野党は今月1日の「選挙運動に関する協議会」で、「2馬力」への対応を今後の議論の優先課題とする方針で一致した。
ただし、今夏の参院選には間に合わない見通しだ。鳥取、島根両県の宣誓書も、法的な拘束力はない。丸山達也・島根県知事は22日、記者会見で「個別の選挙区でやることじゃない。選挙制度をつくるべき国政の怠慢の尻ぬぐいだ」と述べた。