米ロ首脳会談、停戦に向け制裁緩和も焦点－戦時経済でプーチン氏苦境

ロシアのプーチン大統領は15日、米アラスカ州でトランプ米大統領と首脳会談に臨む。2022年２月にロシアの侵攻で始まったウクライナ戦争終結に向けた道筋を話し合う。

　　ロシア経済は成長ペースが失速し、石油収入が落ち込む一方、財政赤字は過去30年余りで最も膨らみ、インフレ率と金利は痛いほどの高止まりが続く。銀行業界の内部関係者は債務危機が近いと警告し、経済情勢は緊迫している。そうした中での米ロ首脳会談の開催だ。

　　トランプ大統領は今週、「現時点で好調でない」ロシア経済の立て直しにプーチン氏は集中すべきだと主張したが、この経済評価は控えめ過ぎるかもしれない。

　　ウクライナ戦争を支えるため、プーチン大統領は金融システムの活用を目指した。軍事支出の急増は、経済データの厳しい統制や銀行のオフバランスシートで覆い隠されてきた。しかしロシアの閣僚や銀行関係者、エコノミストらは、自国経済が深刻な状態にあると今や公然と警戒しつつある。

　　プーチン氏はこれまで、莫大な戦費がかかる「特別軍事作戦」を遂行しつつ、経済の安定を維持しようと努めてきた。70年続いた共産主義体制、旧ソ連の崩壊、度重なる経済不況を乗り越えてきたロシア国民は、痛みへの耐性が強く、ウクライナに対する開戦の決断を最終的に支持するだろうと判断した。しかし、ロシアの石油収入減少で綱渡りのバランスが崩れつつある。

　　アラスカでの首脳会談開催は、トランプ政権がロシア産原油輸出への新たな制裁を警告した後、急きょまとまった。

　　ロシアの報道機関は14日、ウシャコフ大統領補佐官（外交政策担当）が、会談ではウクライナ戦争に焦点を当てる一方で、トランプ氏とプーチン氏が二国間の経済協力についても協議すると述べたと報じた。ロシア大統領府は、両首脳が会談後に共同記者会見を開く予定だとしている。

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　　事情に詳しい複数の関係者によると、プーチン氏は、アラスカでの合意に制裁緩和を盛り込むよう再三要求した。トランプ大統領との会談は新たな時間稼ぎに過ぎないのではないかと懐疑的にみる向きもある。

　　ロシア政府は厳しいジレンマに直面している。戦闘を続ければ、既に深刻な問題がさらに悪化し、銀行が経営難に陥り、政府予算も危機にひんする恐れがある。制裁が強化されればなおさらだ。

　　永続的な停戦で合意が成立しても、戦争に依存する経済の非軍事化という困難な課題に対処せざるを得ない。多額の負債を抱える業者のデフォルト（債務不履行）を引き起こし、経済全体に波及する危険もある。

　　今年に入ると、ロシアの経済格差は無視できないほど広がった。国防産業が活況を呈する一方、民間部門は振るわない。国内総生産（ＧＤＰ）成長率は４－６月期に前年同期比1.1％と、１－３月期の1.4％から減速した。24年は４％を上回っていた。そこに原油が追い打ちをかける。

　　ウクライナ侵攻時には１バレル＝100ドルを目指す原油高となったが、世界的な需要減少と供給増を受け、原油価格は25年を通じて60ドル前後に下落した。24年に石油と天然ガスが連邦政府の歳入の約30％を占めたことを考えると、ロシア経済への影響は甚大だ。

　　６月に開催されたサンクトペテルブルク国際経済フォーラムで、プーチン大統領はリセッション（景気後退）は「いかなる状況下でも許されない」と明言した。だが、トランプ政権がロシア産のエネルギー購入などを継続する第三国に２次制裁を科す構えを見せる中で、一部のロシア主要行の間では、８月初めまでに金利収入急減など深刻な影響が表面化した。

　　トランプ大統領と直接会談する準備が整ったとプーチン氏が判断した背景には、そうした状況が存在する。ロシアの銀行関係者らが匿名を条件に語ったところでは、首脳会談で合意が得られれば軍事費が削減され、負債を抱える国防関連業者が大きな打撃を受ける可能性がある。逆に戦争を続ければ、トランプ政権が石油制裁強化の脅しを実行に移す恐れがあり、一層重大なリスクを伴いかねない。

　　プーチン大統領はそうなることは避けたいと考えている。制裁緩和の要求は、東部ドンバス地域およびクリミア半島の割譲要求と同時に示された。ウクライナのゼレンスキー大統領と欧州各国首脳は、週末に提案を拒否した。

　　トランプ氏は「１バレル当たりのエネルギー価格がさらに10ドル下がれば、プーチンは人を殺すのをやめるだろう。自国経済が悪化しており、彼には選択肢がないだろう」とＣＮＢＣに先週語った。

　　そうした評価は、ロシアの体制内で一部の人々が抱く不安とそれほどかけ離れておらず、15日の首脳会談に向け、トランプ氏がプーチン氏より多くのカードを持つ可能性を示唆するかもしれない。どちらが最も有利に手札を使ったか、会談の結果で判断されることになりそうだ。

原題：Exposing the Cracks at the Heart of Putin’s War Economy（抜粋）