天の川銀河中心の濃密な領域 ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した「いて座B2分子雲」
こちらは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で観測した、「いて座B2分子雲(Sagittarius B2 molecular cloud)」の様子です。
【▲ ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測した「いて座B2分子雲」(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, STScI, Adam Ginsburg (University of Florida), Nazar Budaiev (University of Florida), Taehwa Yoo (University of Florida); Image Processing: Alyssa Pagan (STScI))】いて座の方向、約2万6000光年先の「いて座B2分子雲」は、天の川銀河中心部の超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」から数百光年ほど離れたところにあります。
人間の目は赤外線を捉えられないため、画像の色は使用されたフィルターに応じて着色されています。無数の星々が輝く銀河中心付近、そのあちこちに雲がかかっているように見えますが、NIRCamはこの領域に存在する全てを捉えているわけではありません。
次の画像は、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に搭載されている別の装置「中間赤外線観測装置(MIRI)」で観測した「いて座B2分子雲」。NIRCamでは暗い宇宙空間にしか見えていなかった部分も含めて、ガスや温かな塵(ダスト)から放射された赤外線が捉えられています。代わりに、近赤外線では視野を埋め尽くしていた星々は、中間赤外線では特に明るい一部しか見えていません。
【▲ ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の中間赤外線観測装置(MIRI)で観測した「いて座B2分子雲」(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, STScI, Adam Ginsburg (University of Florida), Nazar Budaiev (University of Florida), Taehwa Yoo (University of Florida); Image Processing: Alyssa Pagan (STScI))】それでもなお、画像には暗く見える部分が残っています。これらはガスや塵が密集している、言ってみればこれから誕生する星々にとって“繭(まゆ)”のような場所。特に高密度な場所であるため、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡をもってしても、その向こう側を見通すことはできません。
ガスと塵が集まった高密度な分子雲からは新たな星が形成されますが、なかでも「いて座B2分子雲」は特に活発に星を生み出している星形成領域のひとつとして知られています。
NASA=アメリカ航空宇宙局によれば、「いて座B2分子雲」には天の川銀河中心に存在するガスのうち約10%程度しか含まれていないにもかかわらず、この領域で誕生する星々の実に50%が「いて座B2分子雲」で生み出されています。
「いて座B2分子雲」の様子をこれまでになく詳細に観測したジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のデータからは、電波望遠鏡を用いたこれまでの観測では知られていなかった大質量星周辺のHII領域(※)の候補がすでに発見されているといいます。
※…HII(エイチツー)領域:若い大質量星が放射する紫外線によって電離した水素ガスが赤色の光を放つ領域。
天文学者はジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測を通じて、天の川銀河中心ではどうして「いて座B2分子雲」が多くの星を生み出し、他の星形成領域では少ないのか、その理由が解明されることに期待を寄せているということです。
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した「いて座B2分子雲」の画像は、NASAから2025年9月24日付で公開されています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部