「逃げたのかもしれない」元大蔵官僚の無力感 氷河期世代記者が聞く

 この高揚感のなさは、いったい何だろう。日経平均株価は史上空前の5万円台にのり、好景気に沸き返ってもいい数字なのに、不安を感じる人が少なくない。

 就職氷河期世代の私は50代を迎える。採用面接に落ち続けた頃の、断崖が背中に迫るあの感覚をぬぐえないまま、平成を生きてきた人も多くいる。国のトップが変わるたび、スローガンが生まれては消えた。あれから約30年、この国が抱える課題が解決したとは思えず、政治への期待はあきらめに変わりつつある。

 昨年、財務省解体デモが広がった。壊すことへの願望は、自分の感情と表裏一体なのかもしれない。旧大蔵省の官僚で経済学者の小幡績・慶応大教授に会いに行った。

分断、格差、揺らぐ平和、民主主義……。これまでのやり方では解が見つからない時代です。これからどこに向かうのでしょうか。政治を取材する記者たちがそれぞれの問いを持ち、人に会い、考えます。解なき時代に解を求めて。

 1967年生まれの小幡さんは、92年に東大経済学部を首席で卒業後、旧大蔵省(現在の財務省)に入った。99年に自ら退職。2001年に米ハーバード大で経済学博士号をとり、学者に転じた。

 昨年、広がった財務省解体デモについてどう見ていたのだろう。

 「世界的な陰謀論ブームの一例だと思います。米国のトランプ現象も、裏で支配する影の権力者『ディープステート』が攻撃対象になっている。世界的な陰謀論の急速な広がりの根底にあるのは、社会の構成メンバーのはずなのに、無視され、外されているという強烈な疎外感だと思います」

 その疎外感はどこからやってくるのか。持つ者と持たざる者という経済格差だけではないと小幡さんは言う。

 「私自身も、疎外感を持っています。日本を良くしようと思っても、どこかむなしい。政治にも官僚にも企業にもあまり期待できない。米国の企業にパワーがあるといっても、自分たちがもうけるだけで、世界がよくなっているわけではない」

 「実社会をこうしたいという思いを、実現する手段がどこにもないんです。そんな絶望感が僕にはあります」

記者(手前)と話す小幡績教授=2025年12月23日午後4時12分、東京都港区三田の慶応義塾大学、浅野哲司撮影

 エリートの元官僚から「絶望」という言葉が出てくることに、少し驚く。

株価5万円でも広がる疎外感 「壊せば良くなる」のか?

 「経済や社会には間違いなく…

この記事を書いた人

古賀大己
政治部|総務省、朝日・東大調査
専門・関心分野
エネルギー、労働問題、web3、総務省

連載解なき時代に解を求めて(全5回)

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