人工知能(AI)をさらに超越した「汎用人工知能(AGI)」や「人工超知能(ASI)」は定義が曖昧なまま巨額の投資が進んでいる

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AIが急速に発達する中で、GoogleやOpenAI一部のAI企業は単なるアルゴリズムではなく人間のように思考する汎用(はんよう)人工知能(AGI)の実現を目指しています。一方で、AGIではなく人工超知能(ASI)という言葉を使うことを好む専門家もいます。AGIとASIはそれぞれどういう特徴があって何が違うのか、なぜ明確な定義がないまま開発が進められているかについて、イギリスの経済紙であるフィナンシャル・タイムズがまとめています。

Why Big Tech cannot agree on artificial general intelligence

https://www.ft.com/content/d20e8c22-bc03-4404-ac93-f7886525d8d6

AGIとは「Artificial general intelligence(汎用人工知能)」の略称で、あらゆる分野で人間の知的能力を超えたAIのことを指します。汎用人工知能は実現不可能と考える意見もある一方で、Microsoftが汎用人工知能(AGI)開発のために1000億円以上をOpenAIに出資していたり、Googleの創業者であるセルゲイ・ブリン氏が「平日の週60時間オフィスで開発に取り組めば、GoogleはAGIを開発して業界をリードできる」と発言していたりと、AI開発をリードする企業がAGIの実現に本気で取り組んでいます。 Google DeepMindはAGIの定義として、「ほとんどの認知タスクにおいて、少なくとも熟練した成人と同等の能力を持つAI」と表現しました。しかし、この「熟練した成人」とはどれほどの能力なのか、「ほとんどの認知タスク」とはどれほど幅広ければ良いのか、明確に定義されていません。そのため、AGIは無形的であり、「AGIはいつ実現するか」について語る時、その人がAGIの定義をどの程度で考えているかによって大きく変化します。

たとえばOpenAIは、「AIが15兆円の利益を出したらAGIを達成したと見なす」と財務的な指標で定義しています。ただし、これはOpenAIにAGI開発支援の出資をしたMicrosoftとの合意内容であるため、AGIの技術的定義とはかけはなれています。とはいえOpenAIの最高研究責任者であるマーク・チェン氏は「私たちは、経済的に価値のある多くの仕事において人間を上回る能力を持つ、高度に自律的なシステムの開発を目指しています」と語っており、AGIを経済的観点から見ています。

「OpenAIが15兆円の利益を出すAIを開発したら汎用人工知能(AGI)達成とする」という内容でMicrosoftとOpenAIは合意している - GIGAZINE

また、合意されたAGIの認識がないことで、一部のテクノロジーリーダーはAGI到来のハードルを下げつつあります。OpenAIのサム・アルトマンCEOは2024年12月に「私の推測では、世界中のほとんどの人が考えているよりも早くAGIは実現し、その重要性ははるかに小さくなるでしょう」と発言しています。

AI開発のプラットフォームであるHugging Faceの研究者兼主任倫理科学者であるマーガレット・ミッチェル氏は、2025年2月に発表した論文(PDFファイル)の中で、「AGIを指針あるいは『北極星』として目標にするべきではない」と主張しました。ミッチェル氏はフィナンシャル・タイムズのインタビューの中で、AGIの定義が曖昧な理由を「知能」という概念自体が曖昧であるためだと指摘し、「AGIという用語は、『その用語の意味についての一般的な理解があり、私たちが行う必要があることについて意思を共有している』と錯覚を与えるような方法で使用されています。この状態は非常に有害になりえます」と語っています。

特定の計算能力に特化していた従来のAIと比較して、大規模言語モデル(LLM)は広い分野に対応しているため、LLMが汎用的なAIだと主張する人もいます。一方で、AGIは「汎用人工知能」という名前の通り汎用的にタスクをこなすことができるAIというだけではなく、これまでのAIの計算能力やその分野に特化した人間の能力すらも超えた高い能力を発揮する「強いAI」を意味する言葉としても用いられます。 そのため、Metaの主任AI科学者で「AI技術のゴッドファーザーの一人」とも称されるヤン・ルカン氏は、「人間の知能はそれほど汎用的ではない(ある程度汎用的なAIはすべて人間の知能を超えたものと言えてしまう)」ということを理由に、AGIという用語をあまり好んで用いません。代わりに、人間の知能を大きく超えるAIを表現するために、一部の専門家たちが用いる表現が「人工超知能(Artificial Superintelligence、ASI)」です。

AIのさらなる発展には大規模なデータセンターで学習を実行するために膨大な水やエネルギーが必要となり、多大な環境負荷も伴います。また、AGIは倫理的問題や社会的な危害の可能性も懸念されています。それにもかかわらず、AGI、あるいはASIはともに明確な定義が共有されていないまま、数億円規模の投資が行われたり、OpenAIはAGIの構築に向けてアメリカの国立研究機関と提携を発表していたりと、AI開発をリードする企業がかなり力を入れています。

AIスタートアップ企業Cohereの共同創業者ニック・フロスト氏は、AGIに関する議論について「大部分が、そのアイデアで資金を調達しようとする人々で満たされたバブルです。AGIが差し迫っていると誰かが何年も言い続け、それを言うことに金銭的なインセンティブがあるように思わせていますが、これまでずっと実現していないことに疑問を持つべきです」と加熱するAI開発の熱に警鐘をならしています。また一部の研究者は、「現実世界でAI技術を測定し評価するための有意義な方法を作ることは、AI業界の『AGIについての粗い主張』への執着によって妨げられている」と主張しており、あえて明確に定義していない可能性を指摘しています。

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