【無料記事】三ツ沢の奇跡……ルヴァンカップ・POラウンド vsセレッソ第2戦(H) マッチレビュー
▼2025JリーグYBCルヴァンカップ・プレーオフラウンド 第2戦
6月8日(日) 18:03キックオフ/ニッパツ三ツ沢球技場(3,825人)
横浜FC 4-0 セレッソ大阪(Jリーグ公式サイト)
【得点】 45′+2 横浜FC/森 海渡 84′ 横浜FC/ユーリ・ララ 89′ 横浜FC/鈴木武蔵 104′ 横浜FC/櫻川ソロモン
アウェイでの第1戦を1-4で落としていた横浜FCは、このプレーオフラウンドを突破するためには4点差で勝利するか、最低限として90分間で3点差をつけて延長戦に持ち込む必要があった。
しかしリーグ戦の主力編成で三ツ沢に乗り込んできたセレッソに、前半は完全にゲームを支配される。前半だけでセレッソに6本のシュートを許し、28分にはクロスの折り返しからルーカス・フェルナンデスに決定的なシュートを二度打たれるが、一度目は福森晃斗が体を張ってブロックし、そのはね返りからの二度目はフェリペ・メギオラーロがビッグセーブでしのいだ。
耐え続けて迎えた42分、森海渡の動き出しに合わせて新保海鈴がセレッソの最終ラインとGKの間にロングパスを送った。ペナルティエリアを出ていた福井光輝がこれを足で処理しようとして後逸。森海渡に入れ替わられた福井は、エリア内に入った相手ストライカーを引っ張って倒してしまう。完全なDOGSO(決定的な得点機会の阻止)であり、問答無用で福井にレッドカードと、横浜FCにPKが与えられる。代わったキム・ジンヒョンから森海渡が横浜FC移籍後初ゴールとなるPKを決め、残りを2点差とした横浜FCは、後半45分を相手より人数が多い状況で戦えることとなった。
後半開始からセレッソはヴィトール・ブエノを退げてCBの進藤亮佑を投入し、5バックで逃げきる体勢に入った。横浜FCも後半開始から鈴木武蔵と駒井善成をシャドーに投入。押し込んで試合を進めるがなかなか決定機を作れず、70分には山田康太と櫻川ソロモンを投入して攻め続ける。残り10分を切った84分、CKの流れから福森晃斗が右サイドから左足インスイングで入れたクロスをユーリ・ララが頭で叩き込んで1点差。セレッソは完全にパニックになっており、さらに舩木翔をピッチに送り6バックで死守しようとするが、終了直前の89分にその舩木が福森のロングフィードの処理を誤り、走り込んだ武蔵が同点ゴールを突き刺した。
90分を終えて合計スコア4-4となった試合は延長線に突入。サポーターの後押しを受けてホームチームが延長前半終了直前に、またも福森のCKから櫻川ソロモンが決めて、ついに3点差をひっくり返した。短いハーフタイムに響いた「フリエ、オイ!」はたかが数千人が発しているものとは思えない迫力があり、続けたチャント「歴史塗り替えろ」のメッセージは確実にチームに届いていた。
延長後半残り15分、セレッソは10人で打って出る。107分、カウンターから右サイドを駆け上がったルーカス・フェルナンデスが中央に送ったクロスは、フリーで走り込んだ古山兼悟に届く直前に、飛び出したフェリペが体を投げ出し片手パンチングで弾き出した。セレッソの猛攻を最後までチーム、サポーターが一体となってはね返し、「ビューティフルネーム」が響く中、横浜FCがクラブ史上初めてのベスト8、プライムラウンドへ駒を進めた。
【選手交代】(横浜FCのみ) 46′ 駒沢→武蔵、慶治朗→駒井 70′ 熊倉→山田、森海渡→ソロモン 87′ 山﨑→遠藤貴
116′ 新保→山根
▼二兎を追ったスタメン
『奇跡』という言葉はそれを成しとげたチームにリスペクトを欠いているようであまり使いたくはないが、この試合についてはまさに奇跡としか言いようがない。
横浜FCは前半のアディショナルタイムまで、1本のシュートも打てていなかった。
第1戦のスタメンから8人を入れ替え、完全にリーグ戦の主力メンバーを出してきたセレッソに対し、横浜FCはリーグ戦の主力で先発したのはンドカ・ボニフェイス、山﨑浩介、新保海鈴、ユーリ・ララら、ボランチから後ろの選手に限られていた。クラブとしては、このカップ戦の目的は二つある。一つはできる限り勝ち進んでクラブの成長につなげること。もう一つは出場機会の少ない選手に試合経験を積ませて戦力の底上げを図ること。第1戦を終えて3点差の状況であれば、そのどちらかに目的を絞るべきに思えた。あくまで勝ち進むことを目指すなら、次のミッドウイークに試合は組まれていないため、完全にリーグ戦の主力で臨む。戦力の底上げを図るなら、ヴァンイヤーデン・ショーンやまだ公式戦デビューできていない秦樹にチャンスを与えても良かった。その目的さえ明確であればプライムラウンド進出をいわば“捨てて”も、3点ビハインドの状況なら納得感はある。
この日のメンバーはいわばその二兎を追ったもので、いかにも慎重な四方田修平監督らしかった。ただ1トップに1回戦・岐阜戦以来のスタメンとなった森海渡を配したのが一つのミソとも言え、二兎を追った結果が敗退に終わったとしても、森海渡がゴールを決めるなりして完調のきっかけをつかんで後々リーグ戦のスタメン争いに加わってくれば、振り返ってから“何も残らない試合だった”で片付けられることはないだろう。