Nintendo Switch 2の「販売計画台数」は妥当なのか? 実績と環境から考える“初代超え”の可能性
任天堂は5月8日、Nintendo Switchの後継機「Nintendo Switch 2」について、全世界における初年度の販売計画台数を1,500万台に設定していると明らかにした。 【写真】1500万台の販売が計画されるNintendo Switch 2 界隈で話題を集める「全世界で年間1,500万台」という任天堂の計画。本稿では、Nintendo Switchにおける実績や、とりまく環境などの面から、この数字と妥当性を考えていく。 ■「10か月で前世代機と同程度を販売する」。任天堂の計画は強気か、弱気か。 この数字は、5月8日に行われた任天堂の2025年3月期決算説明会で言及されたもの。同社の今後の業績を考えるうえで外せないトピックのひとつとして、このタイミングで触れられた形だ。代表取締役社長の古川俊太郎氏は、オンラインで実施された記者会見の場において、「(現行のNintendo Switchと比較し)販売単価も高くなるなど、早期普及には相応のハードルがあるが、(同機と)同等の立ち上がりを目指したい」と述べた。ここに「4月より世界経済を騒がせているアメリカの相互関税の実施」「それにともなって引き起こされる可能性のある景気の後退」「ハードウェアの生産能力の制限」などは加味されていないという。 任天堂はNintendo Switchにとっての初年度にあたる2018年3月期に、約1,500万台の同機を販売している。つまり、計画そのものは、現行機と同程度の水準であるというわけだ。とはいえ、「Nintendo Switch 2は6月のローンチであり、実質的には集計期間が10か月となること」「少なくともローンチの時点では専用タイトルが少なく、基本機能に重複する部分が多いこと」「後方互換を備えていること」「日本語・国内専用と多言語対応の2つのモデルが存在すること」など、価格や情勢以外にも条件の異なる部分が多いため、単純比較はできない。界隈ではこの数字をめぐり、「ちょうどいい」や「少ないのでは?」など、さまざまな意見が噴出している。「初年度に全世界で1,500万台を販売する」という任天堂の計画を、私たちはどのように受け止めるべきなのか。 ■国内における出荷台数は300万台前後か。220万の見込み購入者全員に届くのかが争点に 現行機であるNintendo Switchは、ローンチからの約8年で1億5,000万台超を売り上げている。うち、日本市場での販売台数は3,500万台ほどと言われている。割合にして、約23%が国内で消化されている計算だ。 Nintendo Switch 2も同様に推移すると仮定すると、日本市場では(1,500万台の23%にあたる)350万台が購入されることになる。この数字は、マイニンテンドーストアにおける第1回の抽選販売の応募者総数である220万を大きく上回っている。つまり、1,500万台という現時点での任天堂の計画では、年度内にこの需要すべてを満たすことが可能であるというわけだ。 一方、日本市場における現行機の販売台数にはおそらく、転売のために国外へと持ち出されたものもいくらか含まれているだろう。現行機の実績である3,500万台は、純粋に使用する目的で購入された数字ではない可能性がある。こうした点を考慮すると、初年度に国内で350万台も売れる状況は考えにくい。そのような展望は、任天堂も織り込み済みであるはずだ。実際に流通する台数は、350万台を下回ると予測される。今回発表された任天堂の計画に対する本当の論点は、「220万という応募者総数から考える需要と、Nintendo Switchの販売実績を踏まえた流通量との差が、諸条件によってどの程度縮まってくるか」にあると言える。 他方、任天堂は4月9日、中国市場において、Nintendo Switch 2の発売を当面見送ることを明らかにしている。ここには「政府の規制によって遊べるソフトが少なく、販売が伸びていない」という同国内市場をめぐる直近の動向の影響があるという。現時点で続報は入っていないため、おそらく全世界同時発売日である6月5日に、同様に中国でNintendo Switch 2がローンチされることはないのだろう。こうした隣接する巨大マーケットの特殊な事情は、日本での需給にマイナスに作用するかもしれない。国内向けに流通された同機が中国へと持ち出されかねないからだ。 先にも述べたとおり、「全世界で年間1,500万台を販売する」という任天堂の計画は、数字だけを見れば、日本国内のニーズを十分に満たせるものであると言える。その反面で、中国の事情の影響を受けるのであれば、状況はやや変わってくるだろう。「自身で使用する」「転売する」など、持ち出しの理由はさまざまあると推測される。多言語対応モデルがそのターゲットとなるのはもちろんのこと、場合によっては「日本語に不自由がないユーザー向け」「中国語でしか読み書きができないユーザーに多言語対応モデルと偽って転売するため」に、日本語・国内専用モデルが購入される可能性もある。 このような未来を想定すると、「全世界で1,500万台(≒日本国内で200万台)」という数字には、「充足」であると考えられる材料、「不足」であると考えられる材料のどちらもが内包されていることになる。裏を返せば、著しく過不足することは考えにくい「妥当」な設定であると結論づけることができるのではないか。 Nintendo Switchのローンチ当初、任天堂は同機の年間販売計画を1,000万台に設定していたが、蓋を開けてみると、1,500万台を売り上げたという過去がある。当時と比較して、任天堂プラットフォームをめぐる状況は一変したと言っても過言ではないだろう。つまり、現行機と同様に支持されることになれば、1,500万台の販売にはとどまらない可能性が高い。その意味において、「全世界で年間1,500万台」という計画は、「世界情勢の煽りを受けたとしても、まず達成できるであろう最低ライン」とも考えられる。実際には2,000万台、さらにはそれ以上といった青写真を、同社は描いているのではないだろうか。 そのためには、在庫の確保が不可欠となる。第1回の抽選販売において、多くの落選者を生み出してしまう見込みであることを謝罪した4月23日、任天堂は生産体制のさらなる強化に言及している。古川氏は、今回行われた決算説明会の質疑応答において、「直近の大きな需要にお応えすべく、生産体制の強化をすすめ、販売促進に注力する」とあらためて述べた。 Nintendo Switch 2の発売が想定以上の結果をもたらすかは、社会とのギャップをいかに埋められるかにかかっていると言える。出荷数や年間販売台数などをめぐる議論はその一端である。話題を集める「全世界で年間1,500万台」という任天堂の計画。1年後に振り返ったとき、同社やそのファンにとっての“うれしい誤算”が生まれていることに期待したい。
結木千尋