Xの代替SNS「Bluesky」で特定意見が増幅するエコーチェンバー深刻…利用者半減

ブルースカイのスマホアプリの画面=13日午後(川口良介撮影)

X(旧ツイッター)を代替するサービスとして注目を集めた新しいSNS「Bluesky」(ブルースカイ)で、特定の意見や思想が増幅する「エコーチェンバー」が発生し、排他的な言論空間になってしまった―。そんな指摘が、アメリカのメディアや有識者、調査機関から相次いで公表されている。ブルースカイには、Xを所有する米実業家イーロン・マスク氏に対する不満などから、Xを離れて利用を始めた“進歩派”のユーザーが多い。ただ、利用者数は昨年11月のピーク時と比べ半減している。SNSに詳しい専門家は、これまで多様な意見が存在していたSNSから、一部の意見を持つ人々が新しいサービスに移動したことで思想的な断絶が起きていると指摘する。

都合の悪い話に「強烈な反応」

ブルースカイには、トランプ米大統領やマスク氏に反発する米民主党支持者ら進歩的な人々が大量に流入した経緯がある。昨年11月、マスク氏が第2次トランプ政権の「政府効率化省(DOGE)」を率いることが明らかになると、ブルースカイでは同氏に不満を持つXのユーザーを中心に、1日に100万人規模で新規ユーザー登録があった。一時は、米国のアップルとグーグルのアプリランキングで無料部門の1位にもなった。現在、登録ユーザー数は全世界で約3600万人にまで増えている。

しかし、ブルースカイの利用状況などを集計するサイト「Jaz’s Bluesky index」のデータによると、最盛期に1日約148万人いた投稿者が、今月には70万人前後まで減少している。

米紙ワシントン・ポスト電子版は6月8日に掲載したコラムで、ブルースカイではユーザーが進歩的な意見を言わなければ反応を得にくく、進歩派に都合の悪い話をすれば反発や炎上など強烈な反応を招くエコーチェンバーが起きていると伝えた。

またコラムでは、米ペンシルベニア大学ウォートン校でAI(人工知能)を研究するイーサン・モリック教授の「(ブルースカイは)過度に緊張感に満ちている」とする投稿を引用。政治とは無関係のAIに関する議論であっても、ブルースカイでは激しい反応が起きていると指摘した。

素晴らしい交流…変わってしまった

富豪として知られる実業家マーク・キューバン氏も9日、同様の見解をブルースカイに投稿した。

「ここ(ブルースカイ)での返信は、ツイッターほど人種差別的ではないかもしれないが、憎しみに満ちていることは間違いない」

「ユーザー同士の交流は、多くの話題についての素晴らしい会話から、『私に同意しないなら、あなたはナチス・ファシストだ』という風に変わってしまった」

The replies on here may not be as racist as Twitter, but they damn sure are hateful. Talk AI: FU, AI sucks go away Talk Business: Go away Talk Healthcare: Crickets. Engagement went from great convos on many topics, to agree with me or you are a nazi fascist We are forcing posts to X

— Mark Cuban (@mcuban.bsky.social) 2025年6月9日 5:18

キューバン氏は、AIやビジネスに関する話題には「くそ」「消えろ」といった反応があり、ヘルスケアに関する投稿には「無反応」だと指摘。こうした偏った風潮は、ユーザーにブルースカイへ投稿するのではなくXへ投稿することを強いているとの見方を示した。

マスク氏とオカシオコルテス氏

米調査機関のピュー・リサーチ・センターは、ブルースカイが政治的に左派の人々が集まる場所になっていると解説する。同センターが5月29日に公表した調査結果によると、政治的に左派のニュースインフルエンサーの69%がブルースカイのアカウント保有しているが、右派のニュースインフルエンサーは15%にとどまっている。

Xとブルースカイをそれぞれ代表するインフルエンサーが、両SNSの違いを象徴している。Xで最もフォロワー数が多いのはマスク氏であるのに対し、ブルースカイで最もフォロワー数が多い個人アカウントは、米民主党で急進左派のホープとして名高いアレクサンドラ・オカシオコルテス下院議員(35)だ。

「異なる意見の人と交流がない」

SNSに詳しい国際大の山口真一准教授(社会情報学)は、「ブルースカイとXは、投稿形式やユーザーインタフェースといった機能面では大きな違いはない」と前置きした上で、Xからブルースカイに移行する場合、過去のXでの投稿を生かせなくなり、新たなつながりを構築する必要もあるなど「一般のユーザーにとってはスイッチングコストが高い(移行の負担が大きい)」と指摘する。また、利用者が増えるほどサービスの価値が高まるネットワーク効果もXの方が強く働くため、「多くの人がXに残った」と分析している。

山口准教授によると、これまでXなどの巨大プラットフォーム上では、異なる意見を持つ複数のエコーチェンバーが存在し、交流が少なかった一方で、相互に可視化はされていた。これに対し、ブルースカイなど新しいSNSに特定の意見の人が多く移ったことで、「異なる意見を持つ人との交流が完全になくなり、断絶が起きている」と指摘する。

右派と左派の「フィルターバブル」

党派性の強いSNSとしては、トランプ氏が創設した「トゥルース・ソーシャル」が有名だ。2021年の米連邦議会議事堂襲撃事件を受け、トランプ氏のツイッター(現X)アカウントが永久凍結(当時)されたことをきっかけにサービスが開設された。こうした経緯から、トランプ氏の支持者を中心に保守派のユーザーがXから移行。異なる考えや意見に触れにくい言論空間「フィルターバブル」の顕著な例とされる。

しかし今度は、進歩的なユーザーがXからブルースカイに流れ、新たなフィルターバブルを形成している。

キューバン氏は9日、ワシントン・ポストの記事を引用したブルースカイへの投稿で「(ブルースカイでは)思考の多様性の欠如が、使用率を著しく低下させている」と指摘。これに対し、約3300件の返信と1100件の引用リポスト(再投稿)が寄せられ、多くが批判的な内容だった。中には「ファシストと話したいならXへ行け」「(Xで)ナチスとその支援者たちの言うことを聞く必要があるか」など誹謗中傷のような言葉も並んだ。

進歩派のX離脱は、右派の利益にもならない

進歩的な左派がXから離脱する現象について、米メディアの間では、左派にとっても右派にとっても利益にならない―との見方が出ている。

米ニュースサイト「ポリティコ」は、Xからブルースカイへの移行が盛んだった昨年11月に「民主党はXで存亡の危機に直面」と題した記事を掲載。その中で、匿名の民主党のコミュニケーション専門家のコメントとして「マスク氏が気に入らないという理由でXを離脱するのは、そもそも民主党をこの窮地に陥れた純粋主義的な政治そのものだ」「エコーチェンバーは、彼らが代表すると主張する労働者階級の苦悩よりも、代名詞の教義を重視する政党を生み出した」と伝え、民主党を取り巻く言論環境を憂慮した。

一方、米誌アトランティック電子版は同月、Xの左派ユーザーがブルースカイへ移行することは右派にとって問題だとする論考を掲載。「右派はXにリベラルなユーザーを必要としている」「考えをメインストリーム(一般)に訴える機会を求めている」と指摘した。

ピュー・リサーチ・センターの調査によると、同機関が定義するニュースインフルエンサーは、政治的な立場を問わず、Xには83%が平均週4日以上投稿した一方、ブルースカイは31%にとどまった。第2次トランプ政権発足後もXは言論空間としての地位を保っているが、ブルースカイでニュースインフルエンサーの活動は低調だ。

日本で活発なブルースカイ、アメリカと似た傾向も

ブルースカイは、Xの共同創業者、ジャック・ドーシー氏らが立ち上げた「分散型」の新しいSNSとして、日本でも注目を集めた。Xやフェイスブックのようにひとつの企業が中央集権的に管理する仕組みとは異なり、オープンなシステムが特徴だ。日本のユーザー数は米国に次いで世界トップクラスとされる。

日本では、ブルースカイの利用者や、ブルースカイを活用するシステム開発者らによる交流イベントも盛んに開催されている。過去には、同社のジェイ・グレイバーCEOが交流イベントにオンラインで参加。「日本は開発者コミュニティが活発で素晴らしい」と称賛するなど、日本を重視する姿勢を見せている。

「Bluesky」交流イベントのレポート(2024年4月14日)

南スイス応用科学芸術大学(SUPSI)の共同研究者、ジャンルカ・ノガラ氏らが5月5日に発表した論文は、「(ブルースカイへの)日本のユーザーの流入は興味深い傾向だ」とし、日本の利用者の多さに着目。2024年2月6日に招待制が撤廃された後、日本語による投稿が急増し、少なくとも同年の2月7日から3月4日の27日間にわたり、日本語での投稿数が、英語やドイツ語、フランス語を抜いてトップに立ったと分析した。論文は、学術誌の出版前に公開されるサイト「arXiv」(アーカイブ)に掲載された。

この研究は、ブルースカイ上では再共有(リポスト)された投稿よりもオリジナルコンテンツの量が多く、全体を通して信頼性の高い情報源を共有する傾向がある―といったポジティブな側面も明らかにしている。

ただ、日本ではブルースカイに著名人の参加が進んでおらず、ユーザー数の伸び悩みの一因になっている。国会議員ら政治家はほとんどアカウントを持っていない。メディアや企業公式アカウントの参入も足踏み状態が続いている。

一方、アメリカと同様に日本でも、マスク氏のトランプ政権への参画が明らかになった昨年11月、Xを離れてブルースカイに参入するユーザーが急増した。

「ブルースカイ」利用者が急増(2024年11月18日)

こうした経緯もあり、ブルースカイの日本語ユーザーの間でもマスク氏やトランプ氏に批判的な投稿が活発だ。進歩派インフルエンサーが多く、保守派インフルエンサーが少ない状況は、アメリカと似ている。

SNSの普及は、プラットフォームの仕組みや運営体制に加え、ユーザー同士のコミュニティーの魅力や多様性、寛容さが鍵を握る。アメリカでエコーチェンバーが問題化する中、日本でブルースカイの利用が拡大するかどうかは、ユーザーの意向や行動にも影響されることだろう。(西山諒)

産経ニュースのBlueskyアカウント

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