SNSもChatGPTとの会話もすべて筒抜けに…「まるで冷戦時代に逆戻り」EU女帝が企む"恐るべき監視計画" "児童ポルノ摘発"はタテマエに過ぎない
欧州委員会(EU)が提出した“ある法案”が物議をかもしている。私的なメッセージを含む通信内容をスキャンし、検出した内容を当局に報告することをプロバイダーに義務付けるというものだ。ドイツ在住作家の川口マーン惠美さんは「『子供を性犯罪から守るため』という大義名分を掲げているが、それはタテマエだ。当局の真の目的は全く別のところにある」という――。
「通信の秘密」は、個人の尊厳を守り、自由なコニュニケーションを保障するための基本的人権の一つ。民主主義国においては、個人間の通信の内容や、通信した人の住所や名前、通信の日時、発信場所などの情報は、たとえ公権力であっても、知ったり、漏らしたりしてはならないというのが決まりだ。日本では憲法21条第2項、ドイツでは基本法(憲法に相当)10条第1項で、この「通信の秘密=通信の自由」が保障されている。
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ところが、この民主主義の大前提を切り崩そうとしているのが、EUの欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長(67歳・女性)だ。EUにおける実質的な最高権力者によって、現在、危険極まりない話が進められようとしている。
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EU欧州委員会ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長、2025年10月6日、フランス・ストラスブールにて
実は最近、EUでは、フォン・デア・ライエン氏に対する不満が膨張している。氏の素行の悪さはかなり有名で、コロナ禍の際、権限もないのにファイザー社のCEOとショートメールで膨大な額のワクチン購入のディールを行ったり、コロナ後の復興のための基金から数千億ユーロを正規の手続きを経ずにばら撒き、EUの会計監査院から指摘されたり、グリーン・ディールを振り回してEUの産業を弱体化させたり……。
それどころか、ワクチンの件では告訴されても一向に動じず、証拠のショートメールは無くなるわ、裁判はもみ消すわという破廉恥さだ。
ただ、さすがにそれでは収まらなくなり、欧州議会ではこの3カ月の間に3度も不信任案が提出された。
結論としては3度とも切り抜けたのだが、それは、フォン・デア・ライエン氏に対する信任が強固だったせいではもちろんない。おそらく、氏の失墜で野党が勢いをつけ、自分たちの既得権益までが消滅することを嫌った議員が多かったからだろうと、私は思っている。
そのフォン・デア・ライエン氏が、EUの自由な通信を守るため、外国からの干渉や偽情報を防ぐ「欧州民主主義防衛の盾」を作ろうと言い出した。
AIの発達により、これまでの法律では不十分なのだそうだ。それだけではない。氏がさらに狙っているのがSNSのチャットの監視。EU当局が、具体的な容疑なしに、誰のチャットでも覗けるようにしようというものだ。
監視は本当に「子供のため」なのか
EUでは、子供を使ったポルノ、特に子供相手の性的虐待シーンの映像や画像を売買する犯罪が多いが、チャットを監視すれば、これらの犯罪もいち早く見つけることができるという。つまり、「子供を性的犯罪から守る予防措置」という聖なる目標が掲げられているわけだ。
ただ、問題の本質は、実は他にある。ネットを覗けるようになった当局が、そのチャンスを児童ポルノ摘発以外の目的に利用しないはずはなく、まさにそれが問題なのだ。
特にドイツ政府は、元々、通信の監視には熱心で、白羽の矢を立てた人間のメール、電話、SNSのチャットなどは、すでに覗いているといわれる。もちろん違法行為である。
しかも、彼らが探っているのは性犯罪ではなく、政敵の動向。つまり目下のところ、監視対象の本命はAfD(ドイツのための選択肢)なのだ。
ドイツでは長年、あらゆる政党がAfDを極右と決めつけ、主要メディアと協力して激しい誹謗中傷を行ってきたが、AfDは弱くなるどころか、どんどん強くなっている。10月の世論調査ではCDU(キリスト教民主同盟)を抜いて第1党。すでに目の上のたんこぶどころの話ではない。
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しかも、今ならAIのおかげで膨大な時間もコストもかけずに、疑わしい単語や映像は1日に何百万でも自動でどんどん炙り出せる。そして、私たちはメールにもチャットにも、フィルターに引っかからないことしか書けなくなる!
AfDのアリス・ワイデル共同党首が、「この強権ぶりは、シュタージでさえ夢に見るだけだっただろう」とコメントを出していたのも当然のことだった。
1989年、ベルリンの壁がなくなった時、東ドイツの人口は1643万人で、9.1万人のシュタージの職員と、18万9000人の非公式協力者がいたという。
非公式協力者というのは、本業ではないが、シュタージのために逐次周りの人たちを監視し、密告していた人たちだ。
一方、現在のドイツでは、NGOが主体となった各種の“草の根プロジェクト”が進められ、“民主主義強化”のために活動している。ただ、NGO=非政府組織とは言いつつ、その資金の多くは国や州から助成金として出ている。
そして、彼らはその資金で「AfD打倒」のデモを打ち、また、ヘイトスピーカーや、ナチ思想を主張している人を見たら、すぐに届け出るようにと呼びかけている。
つまり、前者は官製デモで、後者は「密告」の勧め?
いずれもシュタージを彷彿とさせる行為だ。
日本人もひとごとではいられない
ライプツィヒという町は、冷戦の終了と、それに続く東西ドイツの統一において、重要な役割を果たした。町の中心にあるニコライ教会で、毎週月曜日に開かれていた市民の集会が次第に拡大し、その熱意が国中の人たちを立ち上がらせ、最終的にベルリンの壁を崩したのだ。
ドイツ史に名を残すことになったこの「月曜デモ」は、民の力で民主主義を達成した無血革命と言われ、今もライプツィヒ市民の誇りである。
ただ、当然のことながら、自由を求める人が多ければ多いほど、それを締め付ける力も強くなる。それは、ライプツィヒのシュタージ博物館が物語っている。
また、その監視社会が復活するなど「まさか……」と思いつつも、EUの動きは予断を許さない。フォン・デア・ライエン氏は、証拠となるべき自分のショートメールは抹消しておきながら、他人のチャットは監視しようとしているのだ。
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こんな勝手な行動は、それこそ民主主義の名において、絶対に止めなければならない。
なお、これは日本人にとっても決してひとごとではない。チャットGTPとお友達になっている人は多いが、これらの「会話」は全て記録されている。カードで買い物をすれば、その中身は丸見えだ。そのうち、たとえ犯罪ではなくても、他人に知られずに大きな買い物をしたい超富裕層は、金の延べ棒を使い始めるのではないかとさえ、私は思っている。