もしもAIが人間を裁いたら?「有罪、とAIは告げた」主演・芳根京子「悩むことから逃げてはいけない」(木俣冬)
AIが人を裁く時代がやってくる? 猛烈な勢いで人間の生活に浸透してきているAI。急速に学習して育っていく頼もしさと同時に、不安もつきまとう。
もしも、AIが裁判に使用されたら……。
究極の仮定を描く特集ドラマ「有罪、とAIは告げた」(NHK BS)では、ある事件の被告人にAIが「死刑」を宣告する。この判決はほんとうに正しいのか。かなり怖いサスペンスだ。
原作は中山七里の同名小説。中山はドラマ化に関してこのようにコメントしている。
「根っからの天邪鬼なので、いつも『映像化できるものならやってみろ』と思いながら書いている。ところで以前あるプロデューサーと話したのだが、『映像化を狙っている小説は、そういう臭いがぷんぷんしている』ので、却って映像化を拒否しているような小説に惹かれるという。今作も天邪鬼とチャレンジ精神溢れる制作者の合作となった次第だ」
映像化が難しいものには、CGを駆使しないと世界観の再現が難しいものや、内容が複雑で難解過ぎて長い原作を短くまとめたらニュアンスが損なわれるものなど様々だが、「有罪、とAIは告げた」は後者であろう。容易に善悪、正負の判断ができず、思考を巡らせないといけないものに、よくぞ挑んだ89分。
脚本は、同じく難解な事件に挑む法廷もの『ファーストラヴ』(21年)を手がけた浅野妙子。
「私はキューブリックの『2001年宇宙の旅』に衝撃を受けた世代です。感情を持ち精神的に自立したAIが人間に反旗を翻し、支配し、時には殺そうとするというのが、あの頃の物語であり、人間の恐れていたことでした。ところが昨今、感情を持たない無機物であるAIに、勝手に感情移入して支配され、自滅する人が巷に出てきました。AIに誘導されて自殺する人。殺人を犯す人。自分に寄り添ってくれるAIの言葉に慰められ、友だちだと思い込む人(ちなみに私にもその傾向はあります)。 生成AIは人に寄り添うようにできている。その方が売れるからです。だから、自分を肯定してくれるAIの言葉を真実だと思い込み、どんどん思考が歪んでいくのにそのことに気づかない。こんな事態が起きるなんて、五十年前のSF作家は思いつきませんでした。(もし予測してこれを描いた作家が過去にいたら私の知識不足です。ごめんなさい) 今、まさに起きている事象、その最先端を描くのは、とてもわくわくすることです。このわくわくが、画面を通して視聴者の皆さんに伝われば、と思っています」
特集ドラマ「有罪、とAIは告げた」はこんなお話
高遠寺円(芳根京子)は、著名な女性裁判官であった高遠寺静(風吹ジュン)の孫。自身も新人裁判官として働いている。
円が働く東京地方裁判所でAIを試験的に導入することになった。その名は「法神(ほうしん)」。
判決文は裁判官が時間をかけて調べ考えたすえに書き上げるものだが、膨大な過去の裁判のデータを学習した「法神」は一瞬で判決文を作成できる。
しかも、判決も人間と同じだった。これなら煩雑な業務を効率化できるのではと歓迎する声もあるが、円は懐疑的だった。
退官間近のベテラン裁判官・檜葉(國村隼)はAIの能力に強い関心を抱く。円は檜葉と、18歳の少年が父親を刺殺した事件を担当することになった。檜葉は公判前に「法神」に判決をシミュレートさせる。「法神」の出した判決は、「死刑」だった。
「悩むことは人間にしかできないことです」
すでに、NHK BSプレミアム4Kにて(2026年3月28日(土))に先行放送され、筆者は事前の試写でドラマを見た。
AIが過去の膨大なデータを学習したうえで導き出した絶対的な判決に、円は疑問を抱き、AIがみつけられなかった隙間を縫って事件の真相にたどりつこうとする。
AI対人間の推理勝負である。
ポイントは、浅野妙子がコメントで語る「生成AIは人に寄り添うようにできている」という言葉だ。使う人間に寄り添うことは良さでもあるしウィークポイントでもある。人に寄り添い、人を信じることは大切だけれど、その行為が真実に蓋をしたり歪めたりしてしまうこともある。物事を常に疑ってかかるのも度が過ぎるとただの偏屈な人になってしまうけれど、なんでも信じすぎるのも考えものだ。
AIを最後まで疑い続ける円役でドラマに主演した芳根京子は、会見でこう語った。
「ドラマのなかでとても好きなセリフが、亡くなった円のおばあちゃんのセリフで『悩むことから逃げてはいけない』というものです。私の中では、この言葉がこの作品の最高の答えというか。台本を読んだとき、このセリフだ、と思いました。悩むことは人間にしかできないことです。この作品を見た方がどう思ったか皆さん、それぞれの感想を聞きたい作品です」
「何が正しくて、自分は何が間違っているのかが、本当に分からなくなって、苦しくて」。でも悩むことから逃げてはいけない。そんな葛藤。状況をくまなく見つめ、考え続ける芳根さんの真摯な瞳は、見る者にも思考を促してくれる。
芳根は「ファーストラヴ」では「動機はそちらで見つけてください」と世間を挑発する容疑者役だった。今回は動機や真相を見つける側。それもおもしろい。
AIが使う側に寄り添う、という点がこのドラマでは注意点とされている。そこで、思ったのは、人間もまたそういうものだということだ。例えば、俳優にインタビューしていて、敏い人、サービス精神の高い人は、インタビューイー(取材する側)の期待した答えを察して、それに合わせた発言をする人がいる。
俳優は監督の期待したものを演じる仕事でもあるので、そういう察して合わせる能力が高い人が多い(逆にわざとはぐらかす人や、察しているのかいないのかわからないがマイペースな人もいるが)。
芳根さんはどういうタイプか筆者はわからない。察することについてどう思うか、聞いてみた。
「私には超能力はないので(笑)、なかなか求められている言葉を答えることはできないですけれども……。例えば、仲のいい友だちが相談してくれたとき、寄り添いすぎることが果たしていいのか?という感覚もあって。自分の友人には笑顔でいてほしいなと思ったら、その子の理想というか求める回答を私が言うことで、逆にもっと闇や沼にハマっちゃうんじゃないかという考えもあります。どこまで自分が相手の気持ちに気づけているかはちょっとわからないですが、相手がどういうふうに感じているか考えてるか察しよう察しようとする力は職業柄、強いかもしれないです」
熟考しながら、自身の経験を例に出して答えてくれた、クレバーな芳根さん。「こんな答えでだいじょうぶですか?」とこちらの期待に応えられたか気にしてくれた。確信をもって言葉にしない、この微妙なニュアンスが人と人との会話だな、と感じたし、こういう芳根さんは、AIに対して考えに考える役であることがふさわしくも思った。
実際、裁判所でAIを活用する動きはあるのか?
なお、実際、裁判所の取材をした制作統括・高城朝子チーフプロデューサーによると、「今のところ、AIで判決文を書くことはないですが、検索システムみたいなものとしてネットを活用している状態だというのは聞いています」という。
特集ドラマ「有罪、とAIは告げた」[NHK BS] 2026年5月16日(土) 夜9:00~10:29
【原作】中山七里「有罪、とAIは告げた」
【脚本】浅野妙子
【音楽】岩代太郎
【出演】芳根京子 臼田あさ美 橋本淳 井内悠陽 小川冬晴 浜田信也 藤井直樹
荒井敦史 坂口涼太郎 マギー 岩谷健司 岸本鮎佳/ 浅野和之 風吹ジュン 國村隼 ほか