苦しいトランプ政権に新たな逆風!ドル安の要因に?

 11月7日発表予定だった米10月雇用統計は米政府機関の閉鎖の影響で発表延期となりました。そのため、民間の雇用統計が市場で注目され、先週5日発表のADP10月雇用統計は前月比4.2万人の増加となり、前月のマイナス2.9万人からプラス、予想の2.8万人増加も上回りました。

 米雇用市場の悪化懸念が払拭(ふっしょく)され、ドル/円は154円台前半の円安となりましたが、6日の米10月チャレンジャー人員削減数が前月比183%増の15万3,074人となり、10月として22年ぶりの高水準を記録しました。

 コスト削減やAIの導入によってレイオフが急増したことが明らかになり153円割れとなりましたが、高市政権への期待や米政府機関閉鎖の解除期待から再び154円台の円安となっています。

 民間会社の雇用データは強弱入り混じった内容で市場は迷うところですが、11日にADP社が発表した10月25日までの4週間の人員削減者数は、週平均で1万1,250人と弱い内容でした。10月後半の雇用が減少しているとみられ、11月に入っても弱い傾向が続いているのかどうか市場は来週発表のデータに注目しています。

 10日夜、米連邦議会上院は米政府機関閉鎖の終了に向けたつなぎ予算案を可決しました。今後、下院で採決され(12日から審議入り、12日に採決の可能性)、トランプ大統領が署名すれば成立し、政府機関は動き始めます。ただ、下院の採決は難航する可能性もあるため予断を許さない状況であることは留意する必要があります。

 米政府機関閉鎖の終了の見込みが高まったことによって米景気の下押し圧力が減少したことを好感し、10日の米国株は上昇し、ドル/円も154円台を維持しています。

 トランプ政権の逆風も一つなくなりそうですが、先週から始まったトランプ関税の最高裁での審理やニューヨーク市長選、バージニア、ニュージャージー両州知事選で民主党が勝利したことなど、新たな逆風が、しかもより強い逆風が吹き始めています。このことがドルの上値を抑える可能性があるかもしれない点には留意したいと思います。

 米地方選で共和党が全敗した大きな理由の一つはトランプ政権の経済政策に対する低評価が挙げられています。

 米政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス(RealClearPolitics)」が集計した複数の世論調査の平均値によると、3日時点のトランプ政権の支持率は43.7%で、不支持率は53.6%となっています。

 支持率は1月の就任当初の50.5%から低下しています。そして経済政策については厳しい評価を受けています。支持41.3%に対して不支持が54.9%となっており、支持を10ポイント以上も上回っています。 

 加えて、年内に出るといわれているトランプ関税の審理の判決によっては中間選挙を前に一気に支持を失う可能性があり、政権運営が困難になることも予想されます。1年後に中間選挙を控えているトランプ大統領にとっては厳しい局面になるかもしれません。

 トランプ政権は違憲の場合、関税継続のための「代替手段(法的手段)」を検討するのではないかとの見方もあります。また、貿易不均衡の是正を為替操作で行うシナリオも想定されるため注意したいと思います。

 6月に米国財務省は半期に一度連邦議会に報告している「為替報告書」を公表しました。今回は2024年12月までの1年間の分析・評価の公表ですが、日本は3期連続で「為替操作監視対象国」とされています。

 為替操作では円安や政策金利の低さを指摘していますが、これらの是正を求めて貿易不均衡の解消を仕掛けてくるシナリオも想定しておいた方がよいかもしれません。

米景気の消費者心理悪化。パウエル議長の対応に注目

 米景気の消費者心理は急速に悪化しているようです。7日に発表された米11月ミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)は50.3と、10月確報値の53.6から低下し、2022年6月以来、約3年半ぶりの低水準に落ち込みました。

 消費者調査ディレクターのジョアン・スー氏は声明で、「政府機関閉鎖が過去最長記録を更新する中、消費者は経済への悪影響を懸念し始めている」と指摘し、「消費者心理の低下は、年齢、収入、政治的立場を問わず国民全体に広がっている」と述べています。 

 パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、12月利下げは既定路線ではないと述べましたが、10月後半からの雇用市場の悪化や消費者心理の低下を受けてどのように対応するのか注目です。

 11月は、米連邦公開市場委員会(FOMC)は開催されませんが、12月9~10日のFOMCまでには政府機関閉鎖解除によって延期されていたデータがいくつか発表される可能性が高まりました。

 ただ、10月分の雇用統計や消費者物価指数(CPI)は間に合わないかもしれないとの見方があります。データが不十分な中で、FOMC内の意見は分かれたままなのか、それとも経済の変調を察知して柔軟な対応を取るのか注目です。

 11日に衆議院予算委員会が終了し、12日から14日まで参議院予算委員会が始まります。これまでのところ「責任ある積極財政」により、物価対策を最優先に強い経済の構築を掲げる財政拡張路線はぶれないようですが、財源問題は二の次という印象は否めません。

 財源が定かでない積極財政は実現可能なのかという疑念が残る中、14日に国会の予算委員会が終わると日本の政治要因で進んだ円安も賞味期限が切れ始める可能性もあります。日本の政治要因効果が減退してくると、米経済や政治など複雑になってきたドル要因でドル/円は動きそうです。

 まずは、米下院でつなぎ予算が可決し、米政府機関閉鎖が解除された時に、解除期待で上昇した株やドルが、「うわさで買って、事実で売れ(Buy the rumor,sell the fact)」の相場格言のような動きが出るのかどうかに注目です。

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