英与党でスターマー首相下ろしの動き 「首相は対抗する」と支持者ら
画像提供, Getty Images
クリス・メイソン政治編集長、ヘンリー・ゼフマン政治担当主任編集委員
英与党・労働党内で、キア・スターマー首相の指導力に疑問の声が上がっている。首相の側近らは、スターマー首相は党首交代の動きに対抗すると明言している。
スターマー氏に忠実な関係者の間では、今月下旬に予定されている秋季予算案発表から2週間もたたずに首相の立場が脅やかされるかもしれない、との懸念が広がっている。
一方、同氏に批判的な人々は、そうした懸念が出るのは首相官邸(ダウニング街)が「完全な防御態勢にある」ことの表れだとし、「政府が陥っている窮地から抜け出す助けにはならない」としている。
労働党の議員らがスターマー氏の後釜になり得るとしている人物には、ウェス・ストリーティング保健相やシャバナ・マムード内相など、スターマー氏にごく近い閣僚も含まれている。
また、エド・ミリバンド・エネルギー相や、元運輸相のルイーズ・ヘイグ氏が野心をもっているとの臆測も広がっている。
「彼は労働党のために総選挙に勝った生き残り2人のうちの1人だ。その彼に、17カ月後に対抗するのは狂気だ」
来年5月には、スコットランドとウェールズで議会選挙が、そしてイングランド各地で地方選挙が行われる。労働党の議員らはここ数か月、これらの選挙の後に、現政権が重大な局面に直面する可能性が高いと語っている。
一連の選挙で労働党は不振に終わるとの見方が広がるなか、党内の一部では、その時まで党首交代の検討を待てないとの声が強まっている。
首相官邸も、そのような脅威が差し迫っている可能性を認識している。
労働党のベテラン議員の一人はBBCに対し、「地方選まで待てと言うのは簡単だが、それで銃火に送り込まれるのは私の活動家基盤だ。すべての地方議員を失うわけにはいかない」と語った。
別の労働党関係者は、「予算案の発表後に動くべき理由は日ごとに増えている」と述べた。
「もしウェス(・ストリーティング保健相)が勇敢に動けば、クリスマスまでに首相として報われる可能性がある」とも、この関係者は語った。
ストリーティング氏の野心については、スターマー氏に忠実な一部から、特に疑いの目が向けられている。
ストリーティング氏の広報担当はBBCに対し、「そうした主張は完全に事実無根だ」と述べた。
「ウェスの焦点は、15年ぶりに(国民保健サービスNHSの診察)待機リストを削減し、一般開業医2500人を追加雇用し、彼自身の命を救ったNHSを再建することに完全に当てられている」と付け加えた。
ストリーティング氏は12日午前に、イングランドのNHS改革計画に焦点を絞った取材を受ける受ける予定だ。
政府関係者の一人は、首相官邸が「完全な防御態勢に入り、最も忠実な閣僚に全く理由なく矛先を向けている」と述べた。
「残念ながら、キア(・スターマー首相)のチームが自分の仲間に対して情報を流すというパターンがある。アンジェラ(レイナー前副党首)、リサ(・ナンディー文化相)、ルーシー(パウエル副党首)に対してやったし、今度はウェスの番だ」と、その関係者は付け加えた。
「円形の銃撃隊では、政府が陥っている窮地から抜け出す助けにはならない」
首相の支持者らは、労働党の議員らに対し、何を望むかに慎重になるべきだと伝えている。
支持者らは、党首選は党を混乱に陥れると主張。その混乱は、昨年終わった保守党政権の最終期に見られたものと同じだとし、国民の信任を得ていない指導者を据えることになると警告している。
一方で、一部閣僚を含む他の関係者は、政府が絶望的な状況に置かれていると見て、不安を抱いている。
閣僚の一人は、「ひどい状況だ。彼(スターマー氏)は外で嫌われている。コービン(前労働党党首、現在は無所属)の時よりも悪い。5月までこれが持つとは思えない」と語った。
スターマー氏の支持率は非常に低く、現代の世論調査の歴史上、最も人気のないイギリス首相である可能性さえあると示唆されている。
世論調査では、労働党がここ数カ月で有権者の5分の1以上の支持を得ていないことも示されている。
スターマー氏を支持する閣僚の一人は、同僚の間での雰囲気を、次のようにまとめた。
「これは現政権と完璧のどちらかを選ぶ問題だと考えている人々がいる。そういう人たちは、自分たちが完璧だと思う政策に政権を近づけるほど満足する」
「だが実際の選択肢は、政権と完璧の間ではなく、政権とリフォームUKの間にある」
スターマー政権の関係者らはここ数カ月、ポピュリスト政党・リフォームUKの台頭に関心を集中させている。
スターマー首相は、労働党とリフォームUKのナイジェル・ファラージ党首との戦いを「世代を定義するもの」と見ている。そのうえで、労働党が総選挙でリフォームUKに敗れるという見通しは、保守党に敗れる場合よりもはるかに悪いと考えている。
スターマー氏は、自分にはファラージ氏に挑み、そして打ち負かす精力と手段があると信じている。
しかし党内には、このことに疑問を抱く者が増えている。
昨年初当選した労働党議員の一人は、「私たちは保守党とは違う。1期の議会で指導者を複数回交代させることはない」と語った。