【解説】エア・インディア機墜落、米ボーイングに与える影響は
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737MAXの事故はソフトウェアの不具合が原因とされ、同機種は世界的に18カ月間運航停止となった。
一方、今回のインドでの事故については、現時点でボーイング側の過失を示す情報は確認されていない。事故原因の全容は、飛行データなどを記録するブラックボックスの回収後に明らかになる見通しだ。
墜落原因についてはさまざまな仮説が出ているが、私が取材したあるパイロットは、近年では、製造上の欠陥が致命的な事故を引き起こすことはまれだと指摘している。
そのパイロットによると、「737MAX」のような例外を除けば、大半の事故は操縦室内での人的ミスによるものだという。
忘れてはいけないのは、商業航空で使用される機体のほとんどがボーイングまたは欧州エアバス製で、航空機製造業界は事実上の2社寡占状態にあることだ。
そうした中で、ボーイングの名が再び、悲劇的な航空事故と結び付けられることとなった。
同社は声明で、「乗客、乗員、初動対応にあたった関係者、そしてすべての被害者に心を寄せている」と述べ、エア・インディアと連携して事故に関する情報収集を進めていると明らかにした。
ケリー・オートバーグ最高経営責任者(CEO)も、「乗客および乗員のご遺族に心より哀悼の意を表する」と話し、インド航空事故調査局(AAIB)が主導する事故調査に全面的に協力する姿勢を示した。
一方、12日のニューヨーク株式市場の取引終了時点で、ボーイングの株価は前日比約5%下落した。
同社は昨年、安全性をめぐる危機や品質管理の問題、さらに7週間に及ぶ労働者のストライキに直面し、月あたり約10億ドル(約1430億円)の損失を計上している。今回の事故は、そうしたボーイングにとって新たな打撃となった。
昨年はほかにも、アラスカ航空で運航中の機体のドアが空中で脱落する事故が発生し、ボーイングは1億6000万ドルの補償金を支払っている。
それ以前にも同社は、「737MAX」長期運航停止による経済的損失をめぐり、サウスウエスト航空と4億2800万ドルの和解に達している。
こうした深刻な財務上の負担に加え、同社の安全管理体制についても厳しい視線が注がれている。ボーイングは今年4月、「安全性と品質への継続的な取り組みにより、運航パフォーマンスが改善している」との見解を示していた。
2019年にはボーイングの元従業員がBBCに対し、過度なプレッシャーの中で作業員がわざと基準に満たない部品を機体に取り付けていたと証言していた。
こう証言したのは、30年以上にわたり品質管理責任者として勤務していたジョン・バーネット氏で、同氏は昨年3月に自ら命を絶った。ボーイングはバーネット氏の主張を否定している。
別の内部告発者で、同社の技師だったサム・サレプール氏も、ボーイング機の安全性に懸念を示した後、嫌がらせや脅迫を受けたとアメリカ連邦議会上院の公聴会で証言した。
これに対してボーイングは、報復行為は「厳しく禁じられている」とした上で、今年1月以降、社員からの報告件数が「500%以上増加した」と説明。これは、「報復を恐れずに報告できる、健全な企業文化への前進を示すものだ」と述べた。
ボーイングはまた、インドネシアおよびエチオピアで発生した墜落事故に関連する一連の訴訟にも巻き込まれている。同社は先月、米司法省との合意により、刑事訴追をかろうじて回避した。
遺族の間に失望が広がる中で司法省は、ボーイングが米連邦航空局(FAA)の調査を「妨害・阻害する共謀行為」を認め、11億ドル超の罰金を支払うことで合意したと発表していた。
そして予想通り、ここ数年でボーイングの経営陣は大きく入れ替わった。
現CEOのオートバーグ氏は、1年前に引退から復帰し、経営再建に乗り出した。
オートバーグ氏は、安全文化の改善を約束しており、最近では「ボーイングはまもなく黒字転換できると確信している」との見解を示していた。
しかし同氏は今、新しい深刻な事態への対応を迫られることになった。