トランプ大統領が韓国の“原子力潜水艦”保有にOKも…専門家は「韓国に原潜はオーバースペック」と断言 「コスパが最悪」と呼べる2つの要素とは

 まずは韓国から原潜建造に関する経緯を確認しておこう。発端は10月29日に行われた米韓首脳会談だった。  会談で李在明(イ・ジェミョン)大統領はトランプ大統領に「韓国で原潜を建造する。アメリカには核燃料の供給をお願いしたい」と要請した──はずだった。担当記者が言う。 「原潜はアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、インド、中国の6カ国しか保有していません。原潜建造には多額のコストと国家の技術蓄積が必要であり、中国やインドでも当初はロシアの技術支援を得たほどです。一方、韓国は自国の技術だけで原潜を開発・建造する方針を明らかにしています。ところが米韓原子力協定は原子力発電という“平和利用”のみを想定しているため、軍事利用には様々な制限を課しています。この協定が原因で原潜の核燃料を確保できないと判断した李大統領は、米韓首脳会談でトランプ大統領に“直訴”を行いました」  翌30日、トランプ大統領は「韓国の原潜建造を承認した」と発表した。これに韓国は沸き立った。「アメリカは韓国が原潜用の核燃料を確保することを認めてくれた。これで原潜の建造を開始できる」と判断したからだ。  ところが、である。トランプ大統領は続けて「韓国は原潜をフィラデルフィアの造船所で建造するだろう」との考えを明らかにしたのだ。

「これで韓国は大混乱に陥りました。昨年6月、韓国の大手財閥ハンファグループが傘下の大手造船会社ハンファオーシャンなどを通じてアメリカのフィリー造船所を約1億ドル(約160億円)で買収したのは事実です。フィリー造船所はフィラデルフィア海軍造船所を前身とし、戦艦など軍艦を建造してきたノウハウを民間造船に転用していました。トランプ大統領が言及した“フィラデルフィア造船所”は、この“ハンファ・フィリー造船所”のことを指すと考えられます。ところが、このトランプ大統領の意向は韓国にとっては文字通りの青天の霹靂であり、しかも非常に迷惑な話なのです」  韓国のメディアが今も詳報を続けているが、そもそもハンファ・フィリー造船所に原潜の建造が可能なドッグは存在しないという。  韓国海軍で潜水艦のエキスパートとして知られていた文根植(ムン・グンシク)漢陽大学特任教授は朝鮮日報の取材に対し「造船所のインフラ構築だけでも3年から5年はかかるだろう」と答えている。(註1)  韓国では「民間企業になったフィリー造船所には原潜を建造できる許可が下りていない」、「アメリカ議会が賛成するとは考えられない」、「アメリカで建造するとコストが跳ね上がる」、「韓国の国家予算でアメリカの原潜を造らされるのではないか」──などなど、困惑の声や悲鳴が飛び交っている状態だ。


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 韓国政府は今のところアメリカと密接な協議を続けながら、韓国国内で原潜を建造することを理解させる方針のようだ。  最悪の場合、米韓原子力協定が2035年に期限切れとなることも想定しているとの報道もある。原潜を建造しながら協定の期限切れを待ち、切れた後は核燃料の自国製造を強行することも可能というわけだ。(註2)  軍事ジャーナリストは「韓国政府は自国に原潜が必要な理由として、中国と北朝鮮の脅威を理由に挙げています」と言う。 「脅威が存在するのは事実でしょう。韓国にとって原潜の保有は国家的悲願でしたが、アメリカは認めてきませんでした。それがトランプ政権になって態度を一変させたのは、中国の軍事威嚇が露骨になってきたことも大きいと思います。しかし韓国は領海も排他的経済水域も狭く、黄海や日本海は浸水が浅いという特徴があります。原潜が持つ最大の長所は『無補給で長期の航海が可能』という点です。ところが黄海や日本海で原潜を稼働させても、いわゆる“オーバースペック”になってしまうのです」  原潜には長所もあれば短所もある。短所として真っ先に挙げられるのが「建造費と運用コストが非常に高い」ことだろう。アメリカ海軍のように太平洋と大西洋の広大な海域をカバーする場合なら、原潜のメリットはデメリットを上回る。

「しかし韓国海軍が原潜を自国で開発し、建造したとしても、コストパフォーマンスは最悪でしょう。そもそも軍備計画とは国家予算を圧迫しないよう配慮しながら、陸・海・空のバランスを取る必要があります。韓国が原潜という“金食い虫”に注力し、他の軍備計画に悪影響を与えては元も子もないはずです」(同・軍事ジャーナリスト)  だが多額の予算をつぎ込んで韓国が原潜の建造を進めたとしても、そこには大きなハードルがいくつも立ち塞がる。  第2回【韓国の「原潜」建造は“過剰軍備”か…専門家は「原潜は作ったら終わりではない」と指摘 運用する際にぶち当たる「最大の問題」】では、原潜を開発するための技術的ハードルと、運用するための人的ハードルが決して容易な障害物ではないことをお伝えする──。 註1:李在明大統領は「韓国内で独自設計・建造」原潜用の濃縮ウランを要求、トランプ大統領は「米国内で建造」承認(朝鮮日報・日本語電子版:11月4日) 註2:原潜建造巡り韓国政府は「韓米原子力協定の改訂不要」「米国内で建造の条件なし」と認識【独自】(同前:11月7日)

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