欠陥だらけのテスラの自動運転を放置し続けている「法の抜け穴」(Forbes JAPAN)

テスラが「完全自動運転(FSD。フルセルフドライビング[監督付き])」と銘打つソフトウェア。その実態は、運転者が常に監視する義務を負う「レベル2」の運転支援システムにすぎない。米国では、こうしたシステムの性能を直接縛る連邦法が未整備なままだ。その間隙を突いたように、イーロン・マスクCEOは1兆ドル(約148兆円。1ドル=148円換算)規模の報酬を目指し普及を急いでいる。しかし、走行テストでは標識を無視し、点滅するスクールバスの一時停止サインも見逃し、「ティミー」と呼ばれる子どものマネキンをはね飛ばした。本稿では、FSDの実像を明かし、その合法性に疑問を投げかける。 ■イーロン・マスクが推進するテスラのFSD、その背景に約148兆円の報酬 マスクは、FSDシステムを基盤とするテスラの車両が、ロボタクシーのみならず個人向けの用途においても、自動運転分野の主要なプレイヤーだと執拗にアピールしている。彼の驚異的な1兆ドル(約148兆円)規模の報酬パッケージには、10年以内に100万台のロボタクシーを走らせ、1000万人のFSD利用者を獲得するという目標が盛り込まれており、その達成はマスク自身の懐に直結する。 ■フォーブスが走行テストで暴露、最新版FSDの実態 しかし、その目標の実現性はさておき、フォーブスが最新版のFSDを検証した結果は散々だった。ロサンゼルスの住宅地とフリーウェイで行った90分間の走行テストで、テスラの2024年型モデルY(ハードウェア4、FSDバージョン13.2.9搭載)は、制限速度や標識を無視し、歩行者が渡ろうとしている横断歩道で減速せず、意味のない車線変更を繰り返し、混雑したフリーウェイの出口では信号が赤なのに加速した。 さらに、2年前から問題視されていた「子どもたちが乗り降りしようとしているスクールバスの背後で停車しない」という不具合も放置されたままだった。 テスラは最近、この機能の呼び名を「フルセルフドライビング(監督付き)」(Full-Self Driving (Supervised))に変えたが、実際には数多くの不具合が簡単に見つかる。ではなぜ、8000ドル(約118万円)のオプションや月額99ドル(約1万円)のサブスクリプションとして提供されるこの機能が、この状態で合法なのか。 ●「レベル2」を規制する法律がなく、野放し状態の運転支援システム 答えは単純だ。「運転支援システムは規制の対象外であるため、テスラが違法性を問われる心配はない」と語るのは、ジョージ・メイソン大学教授でAI専門家として米道路交通安全局(NHTSA)の顧問を務めた経験を持つミッシー・カミングスだ。「NHTSAには介入する権限があるが、これまでのところ不十分なドライバーモニタリングのみを問題視している」。 2016年5月、ジョシュア・ブラウンという名前のドライバーが、米国で初めてのテスラのオートパイロットを使用中の死亡事故で亡くなった。それから9年が経った今も、米規制当局はFSDが属するカテゴリーの「レベル2」と呼ばれる運転支援テクノロジーについて、「車内の監視によって人間のドライバーが道路状況に注意を払っていること」を確認させる以上の明確なルールを定めていない。 この抜け穴を利用し、マスクは2020年に初めて提供を始めたFSDを「人間の介入を最小限に抑え、事実上の自動運転を実現する機能」として車載ディスプレイ上でも売り込むことができている。そして、将来の報酬パッケージの評価指標として、FSDの普及はマスクに莫大な利益をもたらすことになる。 NHTSAは先月、テスラがFSDやオートパイロットに関連する事故を適切なタイミングで報告していなかったとされる件で調査を開始した。同局は「新たなテクノロジーや車載システムを事前承認することはない」と説明しており、代わりに安全基準を満たしているかどうかの確認はメーカー自身に委ねられている。もし調査で危険と判断されれば、「当局は道路安全を守るために必要なあらゆる措置を講じる」とNHTSAの広報担当者は述べた。 マスクは、FSDの機能について、「テスラの自動運転は、クルマの中で何千時間も過ごす人々の暮らしの質と安全性を飛躍的に高める」と豪語している。テスラもまた、長距離走行を完璧にこなすかのように見えるビデオを使ってシステムを宣伝している。だがNHTSAに対しては、より慎重な説明をしている。 「テスラは、自社のシステムを監督つきFSDを含めて『レベル2の部分的な自動化』に位置づけ、ドライバーが常に運転に集中していることが必要だと説明している」と同局は述べている。

Forbes JAPAN
*******
****************************************************************************
*******
****************************************************************************

関連記事: