KDDI、通信品質で再び首位に ドコモとソフトバンクが不満「あの評価基準はおかしい」
Opensignal社によるネットワーク品質評価で、KDDIが再び首位に立った。この状況にソフトバンクの宮川潤一社長とドコモの関係者は不満を見せている。 【もっと写真を見る】
ネットワーク品質を分析するOpensignal社は10月28日、2025年10月における日本市場の「モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート」を発表。KDDIが全18部門のうち11部門で1位を獲得し、3連覇(3期連続で最多受賞)を達成したとプレスリリースを出した。 28日は偶然にもKDDIの法人イベント「KDDI SUMMIT 2025」が開催された日でもある。基調講演の冒頭、松田浩路社長が「ちょうど今朝、うれしいニュースが入ってきた。Opensignalで3連覇達成できた。これも皆様のご支援のおかげ」と挨拶したのだった。 それを見た他キャリア関係者は「あれは偶然なんですかねぇ。水面下で基調講演と同じ日にOpensignalが発表するような調整があったんですかねぇ」と不審がった。 ちなみにKDDIはOpensignalが10月6日に発表した「5Gグローバル・モバイル・ネットワーク・エクスペリエンス・アワード2025」においても6部門のうち3部門で世界1位を受賞している。 ただ、この状況に不満を露わにするのがソフトバンクの宮川潤一社長だ。 ソフトバンク社長「現場は“あの評価基準はおかしい”と」 11月5日の決算会見で、結果に対してどんな感想を抱いているのかを質問したところ「KDDIに一歩遅れているような結果を出されるようだが、そんなに見劣りしているとは正直思っていない。現場からするとあの評価基準はおかしいと言う。だが負けているのは事実であり、一番になるまで(ネットワーク部門からの)言い訳は聞かない」とした。 宮川社長から「現場はあの評価基準はおかしいと指摘している」と言われると、さらに突っ込みたくなってくる。ソフトバンクのネットワーク部門はOpensignalの評価基準に対して、どこに不満を感じているのか。 宮川社長は「Opensignalが点数を高くつけているところは、そもそも顧客体験に関係がないところというのが我々の見立て。ユーザーにとって、体感が良くなるとか、そういったものに寄与しないところに点数が割り振られているようだ。しかし、これは取るに足らない議論であり、まず顧客体験を良くしろと現場に指示している」という。 実は、Opensingnalの調査結果に対してはNTTドコモも不満を抱いている。 ドコモ関係者「うちにはマイナスに作用」 NTTドコモ関係者は「Opensignalの調査は、実はキャリア単位ではなくブランド別になっている。それがKDDIにとってはプラスに働き、うちにはマイナスに作用している」とささやく。 たとえば、KDDIの場合、au、UQモバイル、povoの3つの「ブランド」となっている。KDDIが評価されているのは「au」ブランドでのネットワーク品質であり、中低容量がメインのUQモバイルやトッピングがメインのpovoは含まれていない。 ソフトバンクも同様で、調査対象はメインブランドのみが対象で、サブブランドのワイモバイルやオンライン専用ブランドのLINEMOは除かれている。 つまり、auやソフトバンクは、どちらかと言えばハイエンドのスマホを持ち、データ使い放題のユーザーが多く、5G SAにも対応しているスマホが多いブランドだからこそ、調査の結果が良くなるのではないかとNTTドコモ関係者は指摘するのだ。 一方、NTTドコモの場合、調査対象はドコモMAXなどの使い放題ユーザーに加え、「料金プラン」である「ahamo」の30GBが前提のユーザーも含まれる。もちろん、すでに無くなってしまった「irumo」といった低容量のユーザーも対象となっている。 そもそも、いまのNTTドコモのネットワーク品質はauやソフトバンクに対抗できるものではないのだが、「調査対象がおかしい」とドコモ関係者は口を尖らせるのだ。 実際のところ、Opensignalではスマートフォンのアンテナピクト表示でブランドを見ている。そのため、KDDIやソフトバンクはサブブランドやオンラインブランドが外され、NTTドコモはすべての料金プランが一緒のブランドとして調査対象となってしまうようだ。 ただ、このOpensignalを巡る各キャリアの攻防を仕掛けたのはソフトバンクであることを忘れてはいけない。 ソフトバンクは“顧客満足度指数”を重視 実際、2024年、ソフトバンクはOpensignalの調査結果が良かったため、「大阪府でいちばん快適につながるSoftbank」という広告を展開している。 当時、NTTドコモが「どういった調査での根拠をもとに大阪府でいちばんつながると言っているのか。もし主張するなら、携帯電話会社全社が実施している総務省のガイドラインに沿った方がいいのではないか。優良誤認に当たるのではないか心配している」と懸念を示したこともあった。 そもそも、Opensignalの調査結果を広告に使ってアピールしてきたのはソフトバンクであり、それをいまさら「あの評価基準はおかしい」と言い出すのは筋が通らない。 そんなソフトバンクがOpensignalの結果だけではなく、いま最も重視しているのはNPS(ネット・プロモーター・スコア)、顧客満足度指数なのだという。 宮川社長は「まだまだ我が社はすべてにおいて誇れる部分があるとは思っていない。顧客満足度でナンバーワンを目指すという、その思いには一歩たりとも引かないという話で現場とはやりとりしている」と語った。 世間には様々な調査があり、その結果が企業のマーケティング活動に活用されている。果たして、スマホ業界で、最もユーザーに響く「調査結果」は何なのだろうか。 筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ) スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。 文● 石川温